
【アルメニアの万能スター】ヘンリク・ムヒタリアンのプレースタイルを徹底解剖!
21-22シーズンが終了し、メルカート関連のニュースが盛り上がりを見せてきた。
そんな中にあって、今回のオフシーズンに成立しそうな最初のビッグディールがヘンリク・ムヒタリアンのインテル移籍だ。
アルメニア出身のムヒタリアンは、母国のピュニク・エレバンで17歳の時にトップチームデビュー、10代にして主力として活躍しアルメニアリーグ3連覇に貢献した。
2009年にはウクライナのメタルルフ・ドネツクに加入、2年目にはクラブ史上最年少でキャプテンに就任したものの翌月にリーグ屈指の強豪シャフタールに移籍し、11-12シーズンにはウクライナリーグ得点王に輝くなど活躍した。
この活躍を受けてムヒタリアンはブンデスリーガ屈指の強豪ボルシア・ドルトムントに移籍し3シーズン活躍。その後マンチェスター・ユナイテッド、アーセナルとプレミアリーグの強豪でプレーし、19-20シーズンにセリエAのASローマに加入した。
以来パウロ・フォンセカ、ジョゼ・モウリーニョ両監督から信頼されて主力としてプレーしたムヒタリアンは3シーズンでリーグ戦通算87試合27ゴール21アシストと活躍。今季のUEFAカンファレンスリーグ優勝にも主力として関わり、クラブ史上初となるヨーロッパのタイトル獲得に貢献したのだった。
そんなムヒタリアンは今月でローマとの契約が満了。これを更新するかどうか注目されていた。もちろんローマは契約延長をオファーしていたが、そこに割って入ってきたのが今季2冠を達成したインテル・ミラノだった。
ローマとインテルの間で揺れたムヒタリアンはしかし、チャンピオンズリーグでの経験を求めてインテルと契約する意思を固めたと報じられている。
そんな彼は一体どんなプレーヤーなのか、徹底的に掘り下げていきたい。
ムヒタリアンのプレースタイル
得点に関与するプレー
ムヒタリアンは元々アタッカーとしてデビューした攻撃的なプレーヤー。本来はトップ下や左サイドでプレーすることが多いが、2列目ならどこでもこなせるユーティリティーだ。
そんな彼の魅力が非常に高い得点関与率だ。
シーズン40試合以上に出場したシーズンの成績を見てみると、
- 13-14:41試合11ゴール9アシスト(ドルトムント)
- 14-15:42試合5ゴール5アシスト(ドルトムント)
- 15-16:48試合18ゴール22アシスト(ドルトムント)
- 20-21:46試合15ゴール11アシスト(ローマ)
- 12-13:37試合27ゴール8アシスト(シャフタール※)
とほぼすべてのシーズンで20~30のゴールに関与している。
これらの数字を残せる要因の一つとなっているのが基礎技術の高さだ。
- 右足:左足=79%:21%
と、右利きながら左足も比較的多く用いるムヒタリアン。左右両足に高いテクニックを備えている彼は、常に足元にボールを置きながら相手の動きを観察し、絶妙なタイミングでスルーパスを通してアシストするプレーを得意としている。
だが、そうしたアシスト以上に魅力的なのが高い得点能力だ。過去の成績を見てみても、ほとんどのシーズンで得点数がアシスト数を上回っているムヒタリアン。MFとしての得点力は非上位に高いといえるだろう。

understat.comより、ムヒタリアンのゴールに関してシュートを打った位置をピッチ以上にプロットしたもの。円の大きさはゴール期待値の大きさを表している。
ムヒタリアンのゴールに関する上のデータを見てみると、PKスポットよりも前、ゴールに近い位置からのシュートが非常に多いことが特徴的である。全体的にゴール期待値も大きく、まるでストライカーのようなデータだ。
↓ ムヒタリアンのローマにおけるゴール集。
上のゴール集を見ても、前線に飛び出しエリア内でボールを引き出す形から多くの得点を決めていることがわかる。クロスボールに合わせたゴールも多い。
つまり、ムヒタリアンの得点数の多さの秘訣は、ゴール前に飛び出すランニングの質と、その絶対数の多さだといえるだろう。
2列目から前線に飛び出し選択肢を与えられる点において、ムヒタリアンは非常に優れているのだ。
推進力
このランニングを支えているのが、ムヒタリアンの非凡な走力だ。
- 平均走行距離:10.788km(セリエA15位)
と、今季のムヒタリアンはリーグトップクラスの走行距離を記録している。この走力こそムヒタリアンのプレーの根底にあるといえる。
走力と技術を兼備するムヒタリアンは、オフザボールのランニングだけでなく、ドリブルによる長距離の持ち運びでも輝きを見せる。
- キャリーによるファイナルサード侵入:56(チーム内2位)
と、彼の運ぶドリブルは堅守速攻スタイルのローマにおいて欠かせない武器となっていたのだ。
↓ ムヒタリアンの運ぶドリブルとそこからのアシスト。
ボールを持っていようがいなかろうが、オープンスペースを手にしたムヒタリアンは得点に直結するプレーを連発できる。カウンターをメインの攻撃手段としていたモウローマとムヒタリアンは抜群の相性を誇っていたわけだ。
彼を失うことになれば、ローマにとっては大きな痛手だろう。
献身的な守備参加
さらに、ムヒタリアンは守備に対しても非常に献身的だ。
- プレッシャー数:564(セリエA10位)
- ミドルサードでのプレッシャー数:302(チーム内2位)
- ミドルサードでのタックル数:25(チーム内2位)
- ボールブロック数:47(チーム内トップ)
と、ミドルサードにおける守備アクション数ではチーム屈指の多さとなっている。
広範囲をカバーする走力と献身的な守備をモウリーニョに評価された今季のムヒタリアンは3センターのインサイドハーフや2ボランチの一角など、今までよりも1列下がった位置で起用される試合も多かった。32歳にしてさらにプレーの幅を広げる1年になっている。

今季のムヒタリアンのヒートマップ。左サイド起点ながら中盤の全域にヒートマップが分布しており、まさにセントラルMFのそれだ。
新天地になるであろうインテルでも5-3-2の3センターで起用されることが予想されるムヒタリアン。ポジション的な適正はもちろんのこと、インテルの戦術との適正も抜群だろう。
インテルはピッチに大きく円を描くように布陣し、その中と外をMF3枚が出入りしながら試合を組み立てていくビルドアップを志向している(詳しくはインテルの戦術徹底詳解を参照)。そのため、ブロゾビッチが1試合平均走行距離セリエAトップ、バレッラが同8位と中盤に対して非常に走力が求められる。
この条件をムヒタリアンは満たしているといえ、攻守に走り回ってくれるはずだ。
ポジション的にはチャルハノールのところに入るだろうが、低い位置での組み立てよりも前線への飛び出しで輝くムヒタリアンに近いのはむしろバレッラだろう。ムヒタリアン起用時にはバレッラをブロゾビッチのサポート役にするのではないだろうか。
いずれにしても、今季は中盤の層の薄さに苦しんだインテルにとってムヒタリアンは待望の補強となるはず。チャルハノール、バレッラ、ブロゾビッチよりはカウンター向きで、スタメン組とは違った特徴を持つ彼は新たなオプションとしても機能するはずだ。今から来季のプレーぶりが楽しみである。
まとめると、
- 両足の高度なテクニックでアシストを量産し、
- ゴール前に飛び出す質の高いランニングを連発して得点を量産し、
- 推進力あふれるドリブルで長距離を持ち運べ、
- ピッチ維全域をカバーしながら積極的に守備アクションを仕掛け、
- 中盤ならすべてのポジションをこなせるユーティリティーでもある
大きな穴のない万能なMFとして大成したムヒタリアン。プレミアリーグではなかなか輝けなかったが、イタリアへやってきてからは第2の春を謳歌している。
その輝きをインテルでも放てるか注目だ。
ムヒタリアンの伸びしろ
それでは、ムヒタリアンの伸びしろはどこにあるのか。
インテルでプレーすることを考えた時、注目したいのは引いた相手に対してどのようなプレーができるかだ。
前述のとおり、ムヒタリアンはオープンスペースがある状態で最も持ち味を発揮するタイプのプレーヤー。一方、インテルは
- 1試合平均ボール支配率:56.6%(セリエA3位)
と今季のセリエAで3番目にボール支配率が高かったチーム。引いた相手を崩しにかかる場面は多くなるはずだ。
個人的には、ムヒタリアンのゴール前に飛び込むセンスが発揮されればインテルにとって新たな武器になると考えている。というのも、今季のインテルは
- クロス数:568(セリエAトップ)
とサイドアタックを攻撃の主軸に据えていたのだ。ここに中盤から飛び出すムヒタリアンが加われば、新たな得点源になってもおかしくはないだろう。
と、インサイドハーフ2人の得点関与率の高さがリーグトップの得点力を支えた今季のインテル。ムヒタリアンも彼らと同等の数字を残すポテンシャルは秘めているはずだ。来季のプレーぶりに期待したい。
あとがき
すでにインテル加入が確実視されているムヒタリアン。ローマにとっては今季のベストプレーヤーのひとりを失うことになり、大きな痛手になるだろう。
ただ、ローマもマンチェスター・ユナイテッドを退団してフリーとなるネマニャ・マティッチの獲得が濃厚となっており、さらにイスコとも接触するなど穴埋めに向けた動きはすでに始まっている。
ともに来期にはスクデット候補になってくるだろうインテルとローマ。彼らがどのようにオフシーズンを終え、来季の陣容を整えてくるのか。メルカートはまだ始まったばかりだ。
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