
【ウディネのターミネーター】ベトのプレースタイルを徹底解剖!
ウディネーゼは選手育成に定評があるクラブだ。外国から無名の逸材選手を引っ張ってきて育て上げ売却するというサイクルが回っており、かつて所属した選手の名前にはブルーノ・フェルナンデス、アレクシス・サンチェス、クアドラード、デパウル、ジエリンスキ、ムリエル、ドゥバン・サパタとそうそうたる名前が並んでいる。
特に攻撃的なポジションの選手を多く輩出しているウディネーゼだが、その「最新作」として名を連ねそうなのが今シーズンから加入しブレイクしている大型FWベトだ。
ギニアビサウ系ポルトガル人として生まれたベトはリスボンの地域リーグに所属するURDタイアというクラブからキャリアをスタートした苦労人である。
そこからポルトガル3部に所属するオリンピコ・モンティージョに移籍し、34試合21ゴールで得点ランクの2位に輝く。これを評価され、ついにポルトガル1部のポルティモネンセとの契約にこぎつけた。
初年度は11試合すべて途中出場で得点もなしと苦しんだものの、翌20-21シーズンにはエースとして君臨し30試合11ゴール2アシストを記録。これを受けてポルトガルの3強(ベンフィカ、ポルト、スポルティング)がこぞって関心を示すなど注目を集めた。
しかし、ベトが新天地に選んだのはセリエAのウディネーゼだった。2021年夏の移籍市場最終日に土壇場で加入を決めたこともあってシーズン序盤は途中出場が続いたものの、フィオレンティーナ戦からは前線の柱に定着。ここまで11ゴールを挙げる活躍で期待に応え、ブレイクを果たしたのだった。
アマチュアクラブでデビューしながら、今やビッグクラブからの注目を集めるまでにのしあがったベト。彼は一体どんなプレーヤーなのか掘り下げていきたい。
ベトのプレースタイル
カウンターで最も輝く
ベトの最大の武器は恵まれたフィジカルだ。
ベトは194cmの大男。スリムな体と小さな顔から、さらに大きく見える。
それでいて88kgと重量も十分で、見かけ以上にコンタクトにも強い。
そして、それ以上に目を引くのが驚異的なスピードだ。そこまで足の回転は速く見えないものの、尋常ではないストライドでぐんぐん加速し相手を置き去りにする。
高さ、強さ、速さのフィジカル三拍子が揃ったベトが一度突進をはじめたら、なかなか止められない。
- ドリブル突破でかわした人数:46(セリエA9位)
と、ストライカーながらドリブルによる局面打開を得意としているのも、彼の恵まれたフィジカルがあってこそだ。
彼のこうした特性が最大限発揮されるのがカウンター時。スペースがある状態で走り合いになれば、ベトを止められるDFはそうない。
↓ 例えば、この場面。ベトの強さと速さが存分に発揮されたシーンだ。
↓ この場面では驚異的なスピードで抜け出しゴールを決めている。ベトが置き去りにした相手は快速として知られるラッザリ。普段からセリエAを見ている人には、ベトがいかに速いかわかるんじゃないだろうか。
ウディネーゼは自陣にしっかりとブロックを構えてボールを奪い、そこからのロングカウンターを繰り出す戦術を採用している。この戦術は実にベトとマッチしているし、またウディネーゼにとってもベトは欠かせない飛び道具となっている。
ポストプレーが日に日に向上
カウンターで最も輝くベトだが、相手に引かれたときや自分たちがポゼッションする場面ではポストプレーで貢献している。
セリエAにやってきてから加速度的に成長しているのはこの部分で、体の使い方やボールの置き所が抜群によくなった。シーズン当初は大きな体を持て余していた印象だったが、今ではそれをうまく活用できるようになってきている。
↓ 巧みなポストとそこからの突破
↓ ダイレクトの落としで起点に
さらに、ボールを相手から隠しながらターンして突破を仕掛けるようなプレーも見せるようになり、判断面も向上してきているように見える。
相手からすれば、この強引な突破は厄介きわまりないだろう。
↓ 巧みなターンで前を向いて突進。セリエA屈指のCBブレーメルを手玉に取って見せた。
- パスレシーブ成功率:45.8%(セリエA最下位)
と成功率で見れば非常に低い数字になっているものの、これにはボールを奪ったら多少雑でもベトにボールを預けようとするウディネーゼの戦術的な原則が存在すること、カウンターをメインに据える攻撃ゆえに周囲からのサポートが少ないことも少なからず影響しているはず。少なくとも、日に日にパスレシーブが向上していることは間違いない。
最前線のターゲットとして、ウディネーゼにもたらしているものは大きい。
空中戦の強さでターゲットに
さらに、ベトはハイボールのターゲットとしても機能している。
- 空中戦勝利数:73(セリエAでプレーするFWの中で6位)
と空中戦勝利数はセリエAでプレーするFWの中でもトップクラスだ。今季ここまでの11ゴールのうち4つは頭で挙げており、ヘディングは主な得点パターンだといえる。
長身に加えて驚異的な跳躍力を誇り、最高到達点が非常に高い。ぴったりと頭に合えば相手からすればなす術がないだろう。
↓ ベトの高さがよくわかる場面
ただ、これも成功率でみると
- 空中戦勝率:35.4%
と非常に低い数字にとどまっている。
2トップの相棒が司令塔タイプのデウロフェウであるためベトにロングボールが集中し、結果相手に狙いを絞られやすいなどの影響もあるとはいえ、それらを差し引いても物足りない数字だと思う。
落下地点への入り方や相手との駆け引き等、まだまだ改善できる部分は多くみられる。持っている資質は怪物級なので、あとは細かいテクニックを習得していけばさらに攻撃の起点、クロスボールのターゲットとしての能力は向上するだろう。
まだ24歳であり、トップリーグでの経験も少ないベトは大きな伸びしろを残している。今後さらに成長していく存在として注目すべきだろう。
守備意識も高い
さらに、ベトは守備意識も高いストライカーだ。
前線からのプレッシングにトランジション時のプレスバックと、非保持時のアクションも献身的にこなして堅守速スタイルのウディネーゼの戦術に問題なく適応している。

FBref.comより、ベトの守備アクションに関して5大リーグ内で比較しパーセンタイル表示したもの。インターセプト以外のすべての項目で優れた数字を残していることがわかる。
ベトが守備アクションをサボる場面はほとんど見られない。ここから、彼の安定したメンタル状況が読み取れる。
まだ試合による波がないとは言い切れないベトだが、それでもどの試合にも全力で取り組んでいることはきちんと伝わってくる。この謙虚さがアマチュアから5大リーグまでステップアップしてこれた要因になっているんだと思う。
トッププレイヤーになるために欠かせないメンタルの安定を持っているベト。ますます今後が楽しみだ。
まとめると、
- 速さ、強さ、高さを全て兼ね備える驚異的な身体能力が最大の武器で、
- ひとりでカウンターを完結させられるほどの突破力を持ち、
- ポストプレーが日に日に向上中で、
- 空中戦からの得点も多く、
- 献身的に守備にも参加する。
前方にスペースがある状態、つまりカウンターで最も輝き、チームの守備組織の一員としても十分に機能できるベト。堅守速攻スタイルのチームにとってはまさに理想的なストライカーで、たとえビッグクラブであっても主軸を張れるだけの存在だと見ている。
たとえばモウリーニョのローマでなら、十分に即戦力として機能できるはずだ。
ただ、それ以外のスタイルでもと考えるなら、さらにプレーの幅を広げる必要があるだろう。そこにベトの伸びしろがあるはずだ。
ベトの伸びしろ
それでは、彼の伸びしろとはどこにあるのか。
ここで、ベトの得点に関するデータを見てもらおう。

understat.comより、ベトのシュートに関して打った位置をピッチ上にプロットし、それぞれの期待値の大きさを円で表したもの。緑色の縁が得点につながったシュートで、それ以外の色は得点以外の結果(セーブされた、枠から外れた、ポストに当たった、ブロックされた)になったもの。
注目したいのは得点につながったシュートがゴールの近くから打ったかつ期待値が大きいのに対し、決まらなかったシュートは期待値が小さく、得点につながったシュートよりも明らかに距離が離れていることだ。こういう傾向が出てくるのは自然なことなのだが、ここまではっきりと2分科されるのは珍しい。
つまり、ベトはGKとの1対1やフリーでクロスに合わせる場面など、ビッグチャンスを確実に仕留めているのに対し、相手と競り合いながらや相手が前に立っている状態などからの得点が全くないということになる。得点パターンの幅がまだ狭いといえると思う。
DFが前に立っている状態からのコントロールショットなど、さらにいくつかのパターンを持つことができればさらにゴール数が伸び、カウンタースタイル以外のチームでの活躍も見込めるようになるはずだ。
ただ、そのためにはボールタッチにさらに磨きをかける必要があるだろう。
オシメンなんかもそうなのだが、ストライドの大きさにボールがついてこず、足元にボールが入りすぎてシュートを打つ時に窮屈になりすぎる場面が多くみられる。規格外のフィジカルに対してボールタッチを適合させられていないように見える。
シュートを打つ前のボールタッチが極めて重要なのは言うまでもない。ここが向上してくれば、引いては得点増加につながっていくはずだ。
あとがき
今日行われたウディネーゼvsカリアリの一戦でハットトリックを記録したベト。それまで9試合得点がなかったが、トンネルを抜け出すには最高のパフォーマンスとなった。
これで勢いづけば、終盤戦に怒涛のゴールラッシュを見せる可能性もある。そうなれば、シーズン終了後の移籍市場でもホットな名前として扱われるはずだ。
今季終了後にどこまでゴール数を伸ばすのか。ウディネのターミネーターに注目だ。