【エンポリの司令塔】ネディム・バイラミのプレースタイル

【エンポリの司令塔】ネディム・バイラミのプレースタイル

2022年4月1日 0 投稿者: マツシタ
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エンポリは育成クラブとして知られている。現在、セリエA7強にあたる「セブン・シスターズ」でプレーする元エンポリ所属選手は10人を数える。彼らに肉薄しているフィオレンティーナを含めれば上位8チームで13人がエンポリ出身となり、強豪クラブにとって有力な供給先になっている。

そんなエンポリにおいて、次なるステップアップ候補の最右翼として注目すべきタレントがネディム・バイラミである。

 

マケドニアで生まれたバイラミは、その後移住したスイスで育った。10歳のころには地元の名門グラスホッパーに入団し、そのままユースを経て17歳の時にトップチームデビューを飾っている。クラブ期待の生え抜きとしてプレーしたバイラミは、3シーズンで69試合6ゴール4アシストの数字を重ね、スイス期待の若手として名を馳せていった(ユース年代はスイス代表としてプレーしたが、A代表はアルバニア代表を選択)。

そんな彼に目を付けたのが若手育成に定評のあるエンポリだった。当時セリエBにいたエンポリは2019年にバイラミをレンタルで獲得すると、19-20の28試合5ゴール4アシストの活躍を受けて買取オプションを行使した。翌年には36試合5ゴール8アシストの活躍でクラブのセリエA復帰に大きく貢献すると、今季は5大リーグ初挑戦ながらここまでセリエA28試合6ゴール3アシストと確かな数字を残している。ゴール数に至ってはキャリアハイだ。

ここまで順調にステップアップを果たし、セリエAの舞台でも躍動しているバイラミ。すでに高い完成度を誇りながらまだ23歳の若手であり将来性も残している。すでに複数のセリエA強豪クラブが熱視線を送っているのも納得だろう。

今回は、そんな注目株ネディム・バイラミについて徹底的に掘り下げていこうと思う。




バイラミのプレースタイル

 

高精度のパスで攻撃を仕上げる

バイラミの最大の武器は高度なテクニックだ。ボールコントロール、ドリブル、パス、すべてのクオリティーが高い。

独特なのはボールの持ち方だ。少し相手にさらすようにボールを持ち、相手にアクションを起こさせてから逆をとるようなプレーを好む。これを駆使しながらドリブルで相手をかわしたり、ボールをずらしてからパスを配給したりする。対峙する相手からしたらなかなかに厄介だろう。

エンポリではトップ下を定位置とするバイラミは、独特の間合いとテクニックを駆使して攻撃のタクトを振るっている。

  • キーパス数:49(セリエA7位
  • シュートクリエイトアクション:83(セリエA10位

とパスによるチャンス創出はもちろんのこと、

  • ドリブル突破試行数:54(チーム内2位
  • ドリブルによるペナルティエリア内への侵入数:22(チーム内トップ

とドリブルによる局面打開も得意としていることがデータからも読み取れる。

運べてかわせて配れる。現代では少なくなってきた、ザ・トップ下的なプレーを見せるひとりだ。

 

↓ ロングレンジのパスで決定機を演出した場面




プレーエリアの広さも魅力

バイラミは古典的なにおいを感じさせる選手ながら、しっかり現代フットボールに適合した選手でもある。それは、彼のプレーエリアの広さを見ればわかる。

SofaScoreより、バイラミの今シーズンのプレーエリア。中央よりもむしろサイドにヒートマップが分布している。

足元のテクニックに自信がある選手はあまり広範囲を動かずに足元にボールを要求してしまいがちだが、バイラミは違う。オフ・ザ・ボールの駆け引きを怠らず、状況に応じて多彩な動きで変化を加えられるのだ。

特に多いのがサイドにボールがある時にダイアゴナルランで縦の選択肢を提供して深い位置を取る形。タッチライン際でボールを受けて前を向き、得意のドリブルやクロスに持っていく。

エンポリはセリエAで2番目のクロスボール数を誇る通り、サイドからのクロスを崩しの手段とするチームなのだが、その中でも

  • バイラミのクロス数:56(チーム内トップ

とバイラミは主な供給源になっている。

 

彼のスペースを突くセンスは裏への飛び出しにも転用される。縦に速いダイナミックな展開を得意とするエンポリにおいて、バイラミの裏への飛び出しが起点になる場面は少なくない。

相手を押し込んだ状況でもライン間で足元にボールを要求することに固執せず、タイミングよく裏に飛び出してボールを引き出せるのは好印象。スペースを見つける目とそこに入ってくるセンスが素晴らしい。

 

かと思えば、中盤のスペースに引いて足元にパスを引き出すプレーも彼の得意とするところ。相手最終ラインとMFラインとのいわゆるライン間にくさびを引き出してさばき、攻撃の起点として機能することもできれば、エンポリがサリーダ・ラボルピアーナによって3バック化したときにはアンカーが空けた最終ラインの手前にまで下りていって前線部隊との中継役となる。

プレーの選択肢が実に多彩なのがバイラミの魅力だといえる。

 

↓ ライン間でボールを受けたバイラミがビルドアップの出口となったところから生まれた得点。

 

このように、プレーエリアと選択肢が幅広く、相手につかまりにくいところがバイラミの最大の魅力だ。

スペースを見つけて入っていくセンスを様々な場面に応用できる優れた戦術眼と、それを実行するための機動力を持った現代的なプレーヤーだと言えそうだ。




高度なシュートテクニック

さらにバイラミが特別なのは、自ら得点を奪う能力も非常に高いことだ。

昨シーズンを除き、基本的にバイラミはゴール数がアシスト数を上回っている。チャンスメイクをこなしながら、要所では自ら仕留める。得点力が高いトップ下だと言えよう。

特に今シーズンはセリエAで6ゴール、コッパイタリアで3ゴール。すでにキャリアハイのゴール数に到達している。

彼のゴールを見ていると、難易度が高いミドルシュートやボレーシュートをいくつも決めている。シュートテクニックが非常に高いことがうかがえる。

また、バイラミは信頼できるPKキッカーでもある。今シーズン蹴った3本はすべて成功させており、チームにとっては心強い限りだ。

 

↓ バイラミのミドルシュートによる得点。いずれも今シーズン決めたものだ。




守備意識も高い

さらにバイラミは守備意識も高く、ボール非保持時の貢献度も高い。ここら辺も現代サッカーにしっかり適応している様子をうかがわせる。

特にトランジション時のプレスバック意識が高く、彼のプレスバックによってエンポリがピンチを免れる場面は多くみられている。

  • ミドルサードでのタックル数:14(セリエAでプレーする攻撃的MFの中では5位

と、データにも彼の守備貢献は表れている。プレッシャーに関する指標も同じような傾向にあり、非保持時の貢献度は高い選手だといえるだろう。

 

かつて、トップ下はピッチの中央エリアで攻撃を司る花形のポジションだった。しかし、守備組織の整備によって陣形がコンパクトになり、最も得意なエリアを消されて輝きを失っていった。加えて、彼らのようなタイプが守備に積極的に参加したがらなかったことも「迫害」に影響した。

バイラミは古典的なトップ下のようなプレーを得意としながらも、それをプレッシャーがないエリアを適切に見つけるセンスと掛け合わせることで相手につぶされることなくプレーしている。守備意識も高い。現代版トップ下の理想的なプレーヤーと言えるのではないか。

 

まとめると、

  • 高度なテクニックを駆使してパスやドリブルから攻撃を組み立て、
  • 自ら得点を奪う能力も高く、
  • スペースを見つけて侵入するセンスとプレーエリアの広さを持っており、
  • 守備時の貢献度も高い

エンポリの先達ジエリンスキと比較する声もあるがバイラミ。筆者もバイラミとジエリンスキはかなり似たタイプの選手なのではないかと思う。

ともに現代的なトップ下タイプで、他ではなかなか見ないようなスタイルのプレーヤーだ。両者が20代前半をエンポリで過ごしていることは、偶然ではなさそうだ。




バイラミの伸びしろ

それでは、バイラミに伸びしろがあるとしたらそれはどこなのだろうか。

バイラミが今後ステップアップしたとき、トップ下というポジションがない状況に直面する可能性があると思う。4-3-3や3-5-2、4-4-2など、トップ下というポジションが存在しないフォーメーションを採用するビッグクラブは多く存在している。そうなった時に異なるポジションに適応し、クオリティを発揮できるかどうかはカギになるだろう。

また、エンポリでは王様然として自由にふるまうことを許されたとしても、同じようなタレントが多くいるビッグクラブでは、様々な戦術的な制約がかかってくるだろう。

比較的自由にふるまうことを許されている現在のエンポリにおいて、広範囲を動き回りながらプレーすることで輝いているバイラミ。異なるポジションや制約がある環境の中でも変わらず数字を残していけるかが今後に向けた注目点になるのではないだろうか。




あとがき

と少し懐疑的な書き方をしてしまったが、個人的にはあまり心配していない。戦術眼と機動力に優れ守備意識も高いバイラミは、ウイングはもちろんインサイドハーフの一角としても十分にやっていけるのではないかと思っている。

いずれにしても、エンポリレベルのクラブでなら主役になれることは十分証明したと思う。よりレベルが高い環境へ次のステップを踏みだす準備は十分整っているんじゃないか、というのが個人的な見立てだ。

セリエAの主要クラブが興味を示しているとされるバイラミ。来シーズンには強豪クラブにステップアップしていても不思議はないだろう。

シーズンをどのような形で終え、オフシーズンにどのような選択をするのか。ピッチ内外で注目すべきタレントである。

 

 

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