【モウリーニョ初年度】ASローマの戦術を6局面分析で徹底詳解!

【モウリーニョ初年度】ASローマの戦術を6局面分析で徹底詳解!

2022年3月20日 0 投稿者: マツシタ
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ASローマ。セリエA3回、コッパ・イタリア9回の優勝を誇るセリエA屈指の名門クラブである。

しかしながら、07-08にコッパ・イタリアを制覇したのを最後に14年間タイトルから遠ざかっている。ここ3シーズンはスクデットはおろかCL出場権すら得られず、チームは過渡期にあるといえる。

これを受け、経営陣はチームの再建をジョゼ・モウリーニョに託した。

 

インテルでイタリア史上初の3冠を達成するなど抜群の実績を誇る名将だが、近年は結果を残せずにいる印象もあるモウリーニョ。「ゴール前にバスを停める」という明確なスタイルは全盛期から変わっておらず、それゆえ時代に取り残されているともささやかれている。

今回は、そんな59歳のポルトガル人監督の挑戦の現在地を探ってみようと思う。




フォーメーション




守る局面

まずはモウリーニョが最も重視する守る局面について見てみよう。

彼がチームに求める原則は最も危険なスペースを空けないこと。この危険なスペースとはつまり、自陣ゴール前のことだ。

この原則故、基本的に最終ラインはペナルティエリア幅に圧縮し、中央を徹底して固めてそこから動くことはしない。最終ラインの周辺のスペース、サイドだったりライン前のエリアだったりをカバーするのはMFたちの役割となる。そのため、中盤の選手たちには非常に広範囲を守ることが求められる

 

〈1試合平均走行距離〉

※セリエA公式サイトより

 

と、現在の主力MF3名の運動量はそろってリーグトップクラスになっている。1桁順位に2人ランクインしているのはローマだけだ。

ローマの守る局面において、キーになるのはMFなのである。

 

シーズン開幕当初、モウリーニョは4-2-3-1を採用していた。守る局面では4-4-2もしくは4-4-1-1になる。

主に2ボランチを組んでいたクリスタンテとヴェレトゥは基本的に最終ラインがさらされないようその前に陣取っているのだが、それ以上に優先される原則はゴール前のスペースを空けないことである。

そのため、サイドバックが出ていったりセンターバックが釣り出されたりしたら、それによってできたスペースを埋め合わせることが求められる。

問題は、彼ら2人が後方の穴埋めに奔走することによって、最終ライン前のスペースが空白になってしまうことだ。

4バックを採用していたヴェローナ戦、クリスタンテとヴェレトゥの2人がともに最終ラインに吸収されたことでスペースが空いている。

ここを使われ、見事なミドルシュートを決められた。

 

これを受けて、モウリーニョはシステムを3-5-2に変更。守る局面では最終ラインに5枚を割き、MFが埋めきれないスペースにディフェンスラインから選手を飛び出させることで最終ライン手前のスペースに対するケアの意識を高めた

さらに、相手に押し込まれたら2トップの片方もMFラインに加勢し、サイドのスペースを埋め合わせることを求めている。

3バックを採用した試合での一場面。エイブラハムがプレスバックしてサイドのスペースを埋めていること、マンチーニが飛び出して最終ライン前の相手をケアしていることがわかる。

ところが、これによって守備の安定度が高まったかと言われるとそうでもない。

〈平均失点〉

  • 4バック:1.23
  • 3バック:1.19

と、ほぼ失点数に変わりはない。

最終ライン手前のスペースからやられなくなったのはいいのだが、最終ラインから選手が飛び出すためにモウリーニョが最も空けることを嫌うゴール前のスペースが発生しやすくなってしまってたのだ。

加えて、インサイドハーフにペッレグリーニ&ムヒタリアンという本来は攻撃的なポジションの選手を起用するために、最終ラインの穴を埋める機能は低下してしまっているのだ。

3バックを採用した場面、スモーリングが相手アタッカーについて行くことで最終ラインに穴が開いている。クリスタンテもサイドの守備に加勢しているため、埋め合わせる選手がいない。

結果、このスペースを使われて失点を喫してしまった。

 

このように、最終ラインの穴埋めを意識したらその手前に穴が開き、最終ライン前のスペースを気にすればその背後に穴が開く。

誰かが動けばそこにスペースができるのはサッカーの原理原則であり、このスペースの埋め合わせを90分間完ぺきにこなすのはいくら欧州トッププロと言えども難しいのだ。

だからこそ、ボールを握ることで守備の機会自体を少なくすることを狙うのが現代サッカーの流れになっている。ボール保持は攻撃はもちろん、失点数を減らすという意味でも重要なのである。現代サッカーと逆行するモウリーニョスタイルの苦しさは、セリエAでも見られているといえるのではないか。

とはいえ、

  • クリーンシート数:11(セリエAで3番目に多い

と、クリーンシート数でいえば十分説得的な数値を残しているのも事実だ。

ただし、失点数自体を見ると

  • 失点数:35(セリエAで7番目に少ない

とクリーンシート数に比べて多くなっている。つまり、一度失点したら複数失点を喫しやすくなっているということだ。

これはメンタル面との関連から考えられるような気がする。失点しないことを前提にしているサッカーでは、失点したときに揺らぎが出てしまう。先制されたときには特にそうだ。

何より、サッカー選手たるものボールを触りたいもの。それを我慢していることですでに精神的には負荷がかかっているに違いない。

だからこそ、堅守速攻スタイルの監督にはモチベーターが多い。アッレグリも、シメオネもそうだ。

最終的には、このスタイルの成否を握るのはモウリーニョと選手たちの信頼関係、そこからくるメンタル的な充実度なのではないだろうか。




奪う局面

さて、守る局面を重要視しているモウリーニョだが、高い位置からのプレッシングを完全に捨てているわけではない。対戦相手に応じて、高い位置から制限をかけたほうが効果的と考えればプレッシングを行っている

 

〈エリアごとに見たプレッシャー数〉

 

と、データで確認してみてもアタッキングサードでのプレッシング数が他のゾーンでのそれと比較して大きく落ち込んでいるわけではないのだ。

そして、この完成度が結構高い。個人的にはもっと前から追わせていいんじゃないかと思ってしまうくらいだ。

 

↓ ナポリ戦の前半でモウリーニョはミドルプレスを採用。比較的高い位置からプレスをかけ、カウンターからチャンスを作っていた。0-0で終了したこの試合は、ナポリの開幕8連勝を止めていることになった。

 

モウリーニョは試合ごとに対戦相手を分析し、どうボールを誘導するのかを細かく準備する

これを読み解く上でポイントになるのは2トップの追い込み方。2枚で中央を封鎖してサイドに追い出すのか、特定の選手にマンマークして試合から消すのか、はたまたセンターバック⇔サイドバック間のパスコースを消して中央に誘導するのか。

それらの狙いは、プレスのスタート地点となる2トップのふるまいを見ることで見えてくる。ぜひ注目してみてほしい。




守→攻の局面

さて、ボール非保持の局面を経てボールを奪ったら、守→攻の局面に移行する。

ここでのローマのふるまいはカウンター最優先だ。奪った位置が高い時はもちろんのこと、低い位置で奪ったときにも素早く縦にボールを持ち運び、一気に相手ゴールに迫る。

もっとも単純なのは2トップにロングボールを放り込んでしまうこと。ザニオーロとエイブラハムは2人だけでカウンターを完結させてしまうだけの個人技を有する。

特に、ザニオーロは相手を背負ってキープするフィジカル的な強さと、そこからラストパスを供給したり強引に前を向いてドリブル突破したりといったテクニカルな能力とを兼ね備える、カウンターの申し子のような選手だ。

ザニオーロが最も輝く中央で起用可能なことは、3-5-2を採用する最大のメリットと言ってもいいだろう。

 

↓ ザニオーロへのロングフィードから、エイブラハムとの連携でシンプルに崩してしまった場面。2人の連携は破壊力抜群だ。

 

さらに、この2トップに絡む第3の矢がムヒタリアンだ。

推進力に優れる彼は、2トップにボールが入ったタイミングで素早くサポートに入り、カウンターを補助する。ボールを受ければ持ち前の推進力を活かして長距離を持ち運んでラストパスを供給し決定機を演出している。

特にエイブラハムにボールが入った時にはムヒタリアンのサポートが重要だ。ザニオーロのように単独での打開力に秀でているわけではないため、周囲が素早くサポートしてやる必要がある。これを担っているのがムヒタリアンだ。

 

↓ エイブラハムの落としを受けたムヒタリアンのドリブルでの持ち運びから生まれた得点。

 

手数をかけないシンプルな攻撃だが、強力なタレントの即興性を活かしてかなりの破壊力を持つローマのカウンター。

  • ゴール期待値:50.0(セリエA2位

と、実は期待値上はインテルに次いでセリエAで2番目に質が高いチャンスを積み上げているのはローマなのだ。

  • シュート数:462(セリエA2位
  • シュート平均距離:15.9ヤード(セリエAで2番目に短い

というデータからも、相手が陣形を整える前に素早く攻めることがいかに有効かが見えてくる。

ボールを奪った瞬間が最もチャンスである。サッカーの得点の多くはカウンターから生まれる。

サッカー界に伝わるこれらの格言を今のローマはよく体現していると思う。

このように、モウリーニョの「バスを停める」戦術は守備面よりもむしろカウンターの鋭さを引き出すという意味でよく機能しているといえるんじゃないだろうか。

 

一方で

  • ゴール数:46(セリエA9位
  • ゴール-ゴール期待値:-4.0(セリエAで2番目に低い
  • 枠内シュート率:28.6%(セリエAで下から3番目

とつくり出したチャンスに対して実際の得点数がついてきておらず、決定力には課題を残す。これがきっちり決まってくれば、さらに得点数は伸びていくはずだ。




運ぶ局面

一方、自分たちがボールを持たされた時には苦しい戦いになってしまうのもまたモウリーニョスタイルの苦しいところだ。

ローマのビルドアップ時の陣形は3-1-5-1のような形になる。

3バックの前に入る選手がレジスタで、彼を中心に攻撃を組み立てる…ようなプレーはあまり見られない。むしろ前線へのパス供給は3バックの両脇が担う

イバニェスとマンチーニはともにロングフィードが高精度で、ここから一気に前線へボールを送ってしまおうという場面は多くみられる。

手数をかけずに素早くボールを運ぶのがモウリーニョ流だ。

〈パスの長さ別分類〉

  • ロング :2968(セリエA4位
  • ミドル :6182(セリエA7位
  • ショート:4814(セリエA11位

と、相対的に見てパスの長さが伸びるほど順位が上がっていることからも、ローマのロングパス志向は明確に読み取れる。

 

相手ががっちり引いているなどこれがダメならWBにシンプルに預ける。基本的にボールはサイド経由で前へ運んでいこうとするのが今のローマスタイルだ。

ただ、問題はWBにボールが入った時にとたんにボールが停滞してしまうことだ。

課題はいたって単純、内の選択肢がないことである。誰が幅をとって誰がインサイドに立つか、といった決まりごとが設定されていないように見え、ゆえにインサイドハーフの選手がどんどん縦に出ていってしまうために中に選択肢がなく、相手サイドバックに前に立たれたら途端にパスコースが無くなってしまう。だから、WBはバックパスを戻すか、遠くの選手にロングボールを送るしかなくなってしまう。

カルスドルプのミスが多いのではないかと指摘されているのをよく見るが、これも根本的な原因はチーム構造に不備にあるのだ。

サイド経由でボールを運ぶのに、WBにボールが入ったら停滞してしまう。この問題は結構深刻だと思う。

WBにボールが入った時、2トップやインサイドハーフの選手がサイドに流れてしまうことで内や斜めにパスコースが無くなってしまうことが現在のローマのビルドアップにおける課題だ。

 

しかし、4バック採用時には現在ほどビルドアップが詰まっていなかった。理由はトップ下のペッレグリーニ。彼が縦横無尽に動き回って最終ラインからくさびを引き出し、サイドにボールが入った時には内や斜めのパスコースを作り出していた。

個人的に、

  • 3-5-2はザニオーロのシステムで堅守速攻向き
  • 4-2-3-1はペッレグリーニのシステムでポゼッション向き

だと思っている。ザニオーロとペッレグリーニのどちらかが割を食ってしまうのが苦しいところだ。

共存できるシステムを模索しきれないのなら、2つのシステムを試合に応じて使い分ける柔軟性を持っても面白いと思うのだが、どうだろうか。




崩す局面

続いて崩す局面。相手が中央を固めてくるので、サイドから崩していくことになる。

ここで主役になるのがカルスドルプだ。右サイド高い位置に張ってボールを受けたら、そこからシンプルにクロスボールを供給してチャンスメイクしている。

〈カルスドルプに関するデータ〉

  • ペナルティエリア内へ届けたパス数:47(チーム内トップ
  • ペナルティエリア内へ届けたクロス数:17(チーム内トップ。同数値2位のビーニャはおよそ3分の1の6にとどまる)

このように、アウトサイドからのチャンスメイクにおいて、カルスドルプの高精度のキックはメインウェポンになっている。

4バック採用時にはビーニャにムヒタリアンとヴェレトゥが絡んで人数をかけた連携が見られていたが、3バック採用によってサイドの枚数が減ったことで左からの火力が減少し、右サイドに偏りが見られている。

 

ここまで見てきたように、モウリーニョはグループとして相手を効果的に崩す戦術を落とし込むことはやっていない(苦手としている?)。組織としてダメならどうするのかと言えば、個人で打開できるタレントを引っ張ってくるのだ。

パスワークがスムーズにいかないならペッレグリーニを。カウンターに火力が足りないならザニオーロを、というように。

自身の限界がわかっているからこそ、モウリーニョはフロントに対して自身が望むタレントの獲得を強く要求するのだろう。

そういう性質からして、現在の左サイド停滞問題も、もしスピナッツォーラがいれば…と考えてしまう。枚数が減って停滞感が出ている今だからこそ、単独で相手守備網を切り裂いてしまえるスピナッツォーラという飛び道具の不在をモウリーニョも嘆いているのではないだろうか。

ここは、彼の同情できるポイントだ。来季スピナッツォーラが復帰したとき、モウローマはまた新たな側面を迎えているのではないだろうか。




攻→守の局面

最後にボールを奪われた後の攻→守の局面にも軽く触れよう。

ローマの選手たちはボールを失ったら素早く帰陣することを求められている。ボールに圧力をかけるのは近くにいる選手だけで、攻撃を遅らせている間にほかの選手が地は自分のポジションに戻る。

ここにもモウリーニョの危険なスペースを空けたくないという思惑が透けて見える。

ただ、アトレティコ・マドリードなど欧州トップレベルのクラブと比較すると、まだプレスバックのスピードをあげられるように見える。実際、被カウンターの局面はあまり多くないローマなのだが、ここから失点する場面はちょくちょくみられる。

これはセリエA全体に言えることだが、トランジションの鋭さはまだまだ改善していけるのではないだろうか




あとがき ~モウリーニョの3年周期~

モウリーニョのチーム作りは3年周期になっているといわれる。

初年度を経て、モウリーニョは補強すべきポジションを洗い出し、そこに自らが望むタレントを引っ張ってきた2年目に結果を出し、相手に対策を講じられる3年目に失速して退任する。これが「3年目のジンクス」である。

2年目で3冠をもたらしレアル・マドリードに去ったインテル時代を除いて、チェルシーでの2度の政権でも、レアル・マドリードでも、マンチェスター・ユナイテッドでもこの3年サイクルは当てはまっている。

実は全盛期の頃から、モウリーニョの攻撃面を個人技に依存しがちな部分と、それがハマった時に発揮される破壊力は見えていたのかもしれない。いい意味でも悪い意味でも、モウリーニョは変わっていないのではないか。

となると、来年が勝負の年か。誰を補強してくるかは非常に重要だ。幸いにも、スピナッツォーラは実質的な補強になる。彼はいかにもモウリーニョ好みなタレントだし、期待して…なんて言わせないでほしい!

現在、ローマは7位。しかしながら、ELストレートインの5位とはわずか勝ち点差1だ。まだECLにも残っていて、クラブに18年ぶりのタイトルをもたらすチャンスだって残っている。

本文中でも触れたように、モウリーニョのチームにとって死活的に重要なのがメンタル的な充実度だ。それを手に入れるために格好の戦いが、この後行われるローマダービーだ。対戦相手のラツィオは現在ELストレートインの5位にいる。勝ち点差はわずかに1だ。

同じ町のライバルであり、EL出場権をかけたライバルでもあるこのチームを相手に勝利すれば、一気にメンタル面の充実を手にできるはずだ。

このダービーとそれ以降の出来次第では、まだまだ今季の印象を変えられる。モウリーニョの逆襲に期待したい。

 

 

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