【2ユニットの分担プレス】SSCラツィオの戦術を6局面分析で徹底詳解!(前編)

【2ユニットの分担プレス】SSCラツィオの戦術を6局面分析で徹底詳解!(前編)

2022年3月18日 0 投稿者: マツシタ
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今回はSSCラツィオの戦術解説をお届けしようと思う。

5年続いたシモーネ・インザーギ体制が終了したラツィオに後任としてやってきたのはナポリで一時代を築いた戦術家マウリツィオ・サッリだ。

ナポリ時代に完成させたショートパスによる流麗なポゼッションサッカーは「ヨーロッパで最も美しい」と称された。「サッリボール」として知られるこのスタイルは、ラツィオでも着実に根を張っている。

だが、前編となる今回はボール保持の局面ではなく、ボール非保持の局面に注目してみたい。

ポゼッション面に目を奪われがちだが、サッリはボール非保持時にも特徴的な戦術を採用しており、オタク心をくすぐられるのだ。

そして何より、セブンシスターズで最も多い失点を喫している守備面の改善こそが、サッリ・ラツィオの今後に向けた課題であり伸びしろであるのだ。

というわけで、前編はサッリラツィオの特殊な守備戦術を分析し、何が問題なのかを解き明かしていこうと思う。




フォーメーション




奪う局面

 

明確な狙いを持つプレッシング

まずはプレッシングについて説明していこう。

ラツィオのボール非保持時の基本陣形は4-1-4-1。ここから、プレッシングを行うときには4-4-2を経由して3-5-2に可変する。この可変の仕方や各選手のプレスの掛け方まで細かく設定されており、それらを丁寧に見ていけばどこにボールを追い込んでどこでボールを奪いたいのかが明確に見えてくる。

基本的な流れはこうだ。まずは1トップのインモービレが相手の2CBのいずれか(基本的には左CBである)に対してプレスをかけ、もう片方のCBにボールを出させる。

このとき、アンカーを消すことが原則。インサイドハーフと協力しながら、インモービレが背中で消すのかインサイドハーフに任せるのかを判断している。

中の選択肢を排除することで、外回りにボールを動かすことを強要するのだ。

 

そうしてもうひとりのCBにボールを出させたら、ここにインサイドハーフが出ていく。この時に縦を切ることが原則だ。インモービレがCB間のパスコースを切っているため、この2つの動作を丁寧にやれば相手はサイドバックにボールを横流しする以外に選択肢がない。

さらに、ここで注目したいのがアンカーの動き。インサイドハーフが出ていったスペースに斜めに出ていって埋め合わせる。これで4-4-2への可変が完成し、中盤にスペースが空かないわけだ。

 

こうしてサイドバックにボールを出させたら、ウイングが出ていって迎撃する。このとき、斜めを切りながらプレスすることが原則。アンカーのスライドが間に合わない可能性も考慮し、中盤にボールを入れさせないことを優先させる。

 

こうなると、相手サイドバックにとっては縦のコース以外に空いている場所がない。ここにサイドバックが出ていって対応する。このとき、縦を切りながら圧をかけることが原則だ。

ボールサイドのサイドバック以外の3枚のDFはスライドし、3バックのようになる。この時、全体を見れば3-5-2のような陣形になるわけだ。

 

これらを忠実に実行すれば、相手サイドアタッカーにボールが入った時には縦(サイドバック)、横(アンカー)、後(ウイング)の3方向を切ることができていることになる。相手からすれば選択肢がない状態で、高確率でビルドアップが詰まる。論理的で合理的なプレッシング構造である。

これをベースにして、WGに外切りプレスをさせたり、相手のサイドアタッカーが強力な場合にはSBへのサポートに重点を置かせるなど相手に応じてWGの守備方法に変化を加えているサッリ。これら試合ごとの細かい設定からもプレッシングからメッセージが伝わってくるから面白い。

サッリ流プレスのベースを知っていれば、試合ごとの狙いも読み取りやすくなると思う。

 

FBref.comより守備アクション関連のデータも確認してみると、

〈タックルが行われたエリア〉

相対的に見てミドルサードで行われる守備アクション数の多さが読み取れる。これは、相手最終ラインに対しては奪うというよりもボールを誘導することに力点を置いており、入ってきた中盤のエリアでボールを奪っていることが読み取れる。

  • プレス成功率:26.6%(セリエAで下から3番目

と低くなっているのも、プレスをボールを奪うアクションではなくのではなくボールを誘導するアクションと定義していることの表れとして読み取れるんじゃないだろうか。

 

実際の画像でも確認してみよう。インサイドハーフが相手CBにアタックし、ボールを受けた相手SBにウイングがアタックしている場面。連動してアンカーがインサイドハーフがいなくなったスペースを埋め合わせ、ラツィオのSBも次のパスコースを狙っている。

続く場面、ラツィオは3人で縦、横、後の3方向を切って囲い込むことに成功している。

あわてた相手の雑なパスをカットしたところから得点につながった。

↓ 当該場面の動画

 

昨季まで続いていたインザーギ体制ではあまり高い位置からのプレスを行わず、低い位置で構えて守ることが多かったラツィオ。ゆえにシーズン序盤にはハイプレスへの移行に苦労していた印象があったものの、時間を重ねることで徐々に完成度が高まってきていると思う。このプレッシングの完成度こそが、ラツィオの生命線となるだろう。




弱点も明確だ

一方で、ラツィオのプレッシングには明確な弱点もある。それが、最終ラインの振る舞い方だ。

ラツィオは奪う局面において、10人を2つのユニットに分けている

1つがプレッシングユニット。3トップと3MFにボールサイドのサイドバックを合わせた7人がこれにあたる。

もう1つが最終ラインユニット。ボールサイドのサイドバックを除いた3枚のディフェンダーだ。

サッリは最終ラインユニットに対しては完全なるゾーンディフェンスを適用している。つまり、人を捕まえるのではなく、危険なスペースを埋めることを最優先としているのだ。最優先というより、そこにのみ集中させているといっていいかもしれない。

この原則からいくと、相手のアタッカーが前を向きロングフィードを送り込める状態となった時、最も危険なスペース=ゴール前のスペースを埋めるためにラインを下げることになる。これが何を意味するか。

 

ここまでの説明で、ビルドアップユニットはベクトルを前に出していることがわかると思う。インサイドハーフが飛び出し、その穴をアンカーが埋め、サイドバックが相手のビルドアップを受け止める。これらはすべて後ろから前へ人を送り込む動きだ。

対して、最終ラインの3枚は後ろへベクトルを伸ばすことはあっても前へ出ていくことはない。スペースは自陣ゴールに近いほど危険度が増すという原理と、危険なスペースを優先して埋めるというゾーンディフェンスの原則から、最終ラインの選手が前へ出ていくことはありえないからだ。

プレッシングユニットは前へ、最終ラインユニットは後ろへ。この2つのユニットの間で向けられているベクトルは正反対であり、結果として両ユニットが分離され、間に広大なスペースができることになる。

 

このスペースにボールを落とされ、前を向かれたとき、ラツィオはなすすべなく相手に前進されることをになる。この2ユニット間にできるギャップこそがサッリラツィオの弱点であり、失点数が多い原因になっているのだ。

実際の映像でも見てみよう。原則通り、インサイドハーフのバシッチが出ていき、連動してアンカーのカタルディも前へスライド。このことによってユニット間にギャップができている。ここに降りた相手に対し、一番近いパトリックがとった行動は…

後退。これがゾーンディフェンスの、いやサッリ流プレスの原則だからだ。だから、ユニット間で前を向いた選手に制限がかからない。このあと、前を向いた相手FWサンチェスのスルーパスから失点(オフサイド判定で取り消し)しており、サッリラツィオの典型的な失点パターンとなった。

↓ 当該場面の動画

 

これは誰が悪いとかではない。そういう構造になっているから仕方がないのだ。

ゆえに、これを改善するためには構造自体を変えるしかない…

というわけで、サッリが動いた。最終ラインユニットに対してビルドアップユニットとの距離を縮め、間のスペースを消してから後退するように要求したのだ。

コッパイタリア準々決勝ミラン戦において、最終ラインがかなり高くまで押し上げてプレッシングユニットとの距離を近く保っていることがわかる。

たったこれだけなのだが、この修正が施されて以降ラツィオの失点数は劇的に改善。前半戦19試合のうちクリーンシートはわずかに2試合だったが、後半戦に入って10試合のうち6試合でクリーンシートを達成。直近8試合に限ってみれば失点数はわずかに3と見違える安定感を手にしたのだ。

単純にプレスの練度が上がってライン間までボールを運ばれなくなってきたこと、ユニット間のスペースの圧縮。この2つが欠け合わさり、サッリラツィオは安定感を手にしている。

安定飛行を続ければ5位フィニッシュはおろか、4位チームの失速具合ではまだCL圏内フィニッシュも夢ではないラツィオ。その命運を握るのは、現状の安定感をいかに持続させられるかだ。




守る局面

さて、守る局面についても見ておこう。

先述のように、プレッシングユニットを打開され相手に前向きでボールを持たれたときは即時撤退。最終ラインユニットの3枚が中央に圧縮しながら自陣ペナルティエリアまで下がる。下手に前に出てかわされ相手に大きなスペースを与えるよりも、最も危険なゴール前のスペースを埋めた上で跳ね返せばいいという発想だろう。

プレスを打開され、相手アタッカーに前を向かれた場面。最終ラインユニットの3枚は中央に圧縮しながら後退する。

このとき1本のきれいなラインを作り、オフサイドを取りやすくするのがポイントだ。非常に緻密な連携を求められるため、完成までにある程度の時間を要するのは仕方がないだろう。

↓ 撤退の様子がわかりやすい場面

 

この原則は理解できなくはないし、ある程度合理的なんじゃないかと個人的には思っているただし、成立させるためにはエリア内で無類の強さを誇るCBがいなければならないだろう。

自陣ゴール前で勝負するのなら絶対にミスは許されない。加えて、下がりきってから対応することになるため跳ね返すためには単純なマンパワーが求められる。

ナポリ時代にはクリバリが、ユベントス時代にはキエッリーニやデリフトがいた。今のラツィオCB陣が彼らに匹敵するレベルにあるかといわれると…。失礼かもしれないが、ワンランク落ちるというのが正直なところだろう。

これが如実に表れるのがクロスボール対応。ラツィオはクロスボールからやられる場面が非常に多いのだ。

最終ラインの3枚でゴール前を分担して守るため、ひとりひとりに広範囲を守ることが求められる。このルールの下で強豪相手にも対抗するためには、さらに跳ね返す力があるCBを連れてこないと厳しいような気がしてしまう。

そもそもクロス対応なんて完璧に点で合わせられたら守備側にできることなんてないのだが、あまりにもその割合が高いんじゃないかと個人的には思う。

また、まだ練度が足りていないために埋めるべきスペースが埋まり切っていない場面も多く、フリーで合わされる場面が散見される。

ゆえにというか、そもそもサッリさん自身の考え方からもそこまでボールを運ばせないこと、奪う局面で奪いきってしまうことがサッリ流プレッシングの肝になるのは間違いない。ここの練度をさらに上げつつ、CBに誰を連れてくるかはフロントの強力も必要になるのではないだろうか。




守→攻の局面

さて、非保持の局面でボールを奪うことに成功したら、守→攻の局面に移行する。

こうなったらラツィオは素早くボールを縦に運び、相手ゴールを目指す。高い位置で奪った時はもちろん、自陣低い位置で奪った時も可能ならカウンターからのフィニッシュを狙っていく。

このロングカウンターはシモーネラツィオのメインウェポンであった。昨季から主力に大きな変化はないため、この武器は依然として引き継がれている。爆発的なダッシュ力を誇るエースFWインモービレに両ウイングやルイス・アルベルトが絡む速攻は切れ味抜群。個人的には、カウンターの鋭さではミランに次ぐレベルにあると思っている。

ここまでのところ、ポゼッションからの崩しよりもむしろ守→攻の局面で繰り出す速攻から多く点を奪っているラツィオ。ここら辺はシモーネ時代の遺産もうまく取り込んでいる印象だ。

 

↓ 速攻の鋭さがわかるゴールシーンを3つほど。

 

これがダメだった時にはボール保持に切り替え、いよいよサッリボールらしいポゼッションが始まるわけだ。

というわけで、後編では「サッリボール」として名高い、ボール保持の局面について掘り下げていきたい。

 

↓後編はこちら

【ラツィオ版サッリボール】SSCラツィオの戦術を6局面分析で徹底詳解!(後編)

 

 

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