【サンシーロ男】オリビエ・ジルーのプレースタイルを徹底解剖!

【サンシーロ男】オリビエ・ジルーのプレースタイルを徹底解剖!

2022年3月5日 1 投稿者: マツシタ
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「ミラノの王」イブラヒモビッチの帰還以来、ACミランについて語るときにはイブラの存在がほぼセットになっている印象がある。たしかに、彼はいまだ絶大な存在感を誇っているし、いぶし銀のプレーぶりでチームに貢献していることは間違いない。

だが、もう40歳を迎えることもあって細かい負傷離脱が非常に多くなっており、シーズン通して計算しづらくなっていることもまた確かだろう。

そんな状況を受け、ミランのフロントが頼れる控えとして獲得してきたのがオリビエ・ジルーである。

 

ジルーは母国フランスのクラブ、グルノーブルのユースで育成を受けて21歳でプロ契約を締結しフランス2部でプロデビュー。比較的遅咲きであり、2部から這い上がった苦労人である。

3年後に同じくフランス2部のトゥールに移籍し09-10シーズンに21ゴールを挙げてリーグ・ドゥ得点王を受賞。この活躍が評価されて1部で戦うモンペリエに引き抜かれた。

フランス1部で2年間を戦ったジルーは、リーグ戦73試合33ゴールと活躍。特に2年目となる11-12シーズンには21ゴールを挙げて得点王となり、クラブ史上初のフランス制覇にエースとして貢献したのである。

この実績を引っ提げて移籍したアーセナルでの活躍は広く知られている通り。6シーズンで公式戦通算100ゴールを挙げるなどベンゲル体制終盤の最前線の軸として活躍した。

その後、同じロンドンを本拠地とするチェルシーに活躍の場を移したジルーは4シーズンで39ゴールを挙げており、特に昨季はチームで2番目に多い得点数を記録した。しかし、チェルシーにおいてジルーは主力だったとはいいがたい。途中出場がメインであり、出場時間で見ると下から数えたほうがはやい状態が続いていたのだ。

そんなジルーに目を付けたのがイブラヒモビッチの控えを探していたACミランだった。クラブの見込み通り、ここまでジルーの出番は多い。イブラヒモビッチとレビッチの負傷離脱に伴ってFW陣の中では最長の出場時間を記録しているジルーは、ここまで公式戦通算10ゴールを記録。これはチームで2番目のゴール数だ。しかも、そのすべてをサンシーロで決めているのだからすごい。

イブラの控えから新たなエースになりつつあるジルー。ミランの今後を担うキーパーソンであることは間違いない。

今回は、そんな35歳のフランス人ストライカーについて徹底的に掘り下げていこうと思う。




ジルーのプレースタイル

 

高い得点能力

ジルーの最大の魅力は高い得点能力だ。

10-11シーズンにモンペリエに加入して以降、12季連続で公式戦通算2桁得点を記録してきているジルー。フランス、イングランド、イタリアと、異なるリーグで常に結果を残してきたことが彼の得点能力を裏付けている。

それでは、ジルーはどのような形からゴールを量産しているのか。

understat.comより、ジルーのゴールに関してシュートを打った位置をピッチ上にプロットしたもの。円の大きさはゴール期待値の大きさを表している。

この図を見ると、ジルーのゴールはほとんどPKスポットよりもさらに近い位置から打ったものがほとんどになっている。それよりも後ろから打ったシュートは少なく、ペナルティエリア外からのものに関してはほとんど見られない。ザ・ストライカーなゴール期待値になっている。

このデータが表す通り、ジルーは古典的なストライカータイプ。最低限のポストプレーをこなしつつ基本的にはゴール前に居座り、サイドからのクロスボールをゴールに叩き込む。あるいは、味方のシュートのこぼれ球をプッシュして押し込む。これが彼の典型的なゴールパターンだ。

そんなジルーにおいて他の選手と異なる特徴はと言えば、中途半端な高さのボールをゴールに収めてしまう能力だ。

これはもう映像を見てもらったほうが早いだろう。

 

↓ アーセナル時代に決めたスコーピオンキックによる得点。

 

↓ チェルシー時代、オーバーヘッドによって決めた得点。

 

↓ ミラン移籍後のプレシーズンマッチにて、背後から来たボールをボレーで決めた得点。簡単そうにやっているが、非常に高い技術が要求されるプレーだ。

 

このように、ジルーはピッタリ自分の足元や頭にあわないボールでもゴールに変えてしまう。多少後ろにボールがいったとしても、オーバーヘッドで強引に枠に収めてしまう。ボレーを含めたアクロバティックなシュートの技術が極めて高く、シュートを打てると判断するエリアが非常に広いのがジルーの特徴だ。

もちろん、こうしたスーパーゴール以外にも、冷静に流し込む形も得意。ジルーは基本的にはあまり激しく動き回らず、味方がサイドを抜け出した瞬間に空いているスペースに直線的に走り込む。もし相手が並走してくれば、一度だけ方向を変えて相手のマークを外す。こうしたシンプルな動きでもフリーになれるあたりは、ストライカーの嗅覚という言葉を使いたくなる。

また、相手を押し込んで後方にスペースがない場面では、相手と競り合いながらの空中戦で強引にねじ込むプレーもできる。相手とそこまで駆け引きをしなくても、相手を抑え込んで自分の空間をつくり、頭で合わせる。193cm91kgという恵まれた体格を活かしたパワフルなプレーである。

このように、ジルーは味方が提供してくれたチャンスをゴールに結びつける能力が非常に高いストライカーだといえる。ミランはファイナルサードでは内側まで侵入して崩すような形を構築できておらず、アウトサイドからシンプルなクロスボールを放り込むことが多い。ジルーはこうしたミランのスタイルにマッチしたストライカーだと言えそうだ。

 

さらに、ジルーはPKキッカーとしても優秀で、これまでのキャリアで通算16ゴールをPKで挙げている。ミランに来てからもすでに2本のPKを決めており、ケシエが退団する来季は正式なPKキッカーになるかもしれない。

 

↓ カリアリ戦のPKによる得点。




ワンタッチプレーで攻撃の起点に

それでは、シュートを打つひとつ前の局面、ポストプレーにおけるジルーの働きはどうだろうか。

ここで、ジルーの1試合におけるタッチ集を見てもらいたい。

 

どうだろうか。ジルーのポストプレーのほとんどがワンタッチであることに気づくのではないだろうか。

非常に体格に恵まれているジルーだが、見かけによらず相手との接触を避けるように少ないタッチでプレーすることを好む。その過程でヒールによるフリックを多用することもジルーの特徴だ。通るかどうかきわどいプレーにも積極的にトライするメンタルを持っており、一か八かのパスを選択する傾向にある。

そのため、

〈パスレシーブ成功率〉

  1. イブラヒモビッチ:70.7%
  2. レビッチ    :69.4%
  3. ジルー     :54.7%

〈90分あたり縦パスレシーブ成功数〉

  1. イブラヒモビッチ:10.89
  2. レビッチ    :9.58
  3. ジルー     :5.40

〈90分あたりボールロスト数〉

  1. ジルー     :2.66
  2. レビッチ    :2.53
  3. イブラヒモビッチ:1.88

と、ライバルたちと比較するとボールをロストする確率は高くなっている。これはネガティブなものとしてよりも、ジルーの積極性を表したデータと解釈するのがいいんじゃないかと思う。

 

逆に、相手を背負って抑え込みながら時間を作るようなプレーは得意ではないため、ジルーにくさびが入ったタイミングで味方がいかに素早くサポートできるかどうかが重要になってくるだろう。




守備時の献身性も兼ね備える

ライバルたちと比較すると攻撃の起点としてはボールロストが多くなっているジルーだが、そのぶん守備での貢献度の高さで埋め合わせている。

自らボールを失えばすぐさまプレッシングを敢行、何度も追い回して相手の攻撃の芽を摘む。この攻守のトランジション意識の高さはイブラヒモビッチにはない持ち味だ。

さらに、奪う局面においてもジルーの貢献度は非常に高い。相手CBがボールを持った時、ジルーは必ずスプリントして相手CBに圧力をかける。さらに、CBがバックパスを選択すれば、リターンパスのコースを消しながらGKにまで猛然とプレスをかける。この2度追いによってジルーのプレス数はライバルたちを大きく上回っている。

  • アタッキングサードのプレス数:122(チーム内トップ、90分あたりに換算するとセリエAのFWの中で2位

〈プレッシング総数〉

  1. ジルー     :220
  2. レビッチ    :148
  3. イブラヒモビッチ:90

〈タックル総数〉

  1. ジルー     :10
  2. レビッチ    :8
  3. イブラヒモビッチ:0

 

↓ ローマ戦の2点目はジルーがボールを奪ったところから生まれた。

 

さらに、ジルーはそれだけにあらず、相手最終ラインを追い回した後はプレスバックも見せる。ジルーのプレスをスイッチに、ミランはどんどん選手が前に出ていって高い位置で圧力をかける。そのため、後方に細かいほころびが出てくる場面が散見される。このほころびをタイミングよく埋めてくれるのがジルーのプレスバックである。

彼の戻りがなければプレスを打開されていたような場面は何度もある。プレスのスイッチを入れ、それによって生じた穴を自ら埋める。彼の非保持時の貢献度は計り知れない。

 

↓ インテル戦の1点目の場面、きっかけはジルーのプレスバックでボールを奪ったところからだった。

 

前線からのプレッシングが生命線となっているピオーリミランにおいて、ジルーの非保持時の貢献度の高さはもはや不可欠となりつつある。この部分において、ジルーはイブラヒモビッチに対して明確に優位にある。イブラヒモビッチが復帰した後もジルーが最前線を張る可能性は高いのではないだろうか。

攻撃よりもむしろ守備において違いを生んでいるのが現在のジルーということになるだろう。




リーダーシップも兼ね備えている

さらに、ジルーについて語る上で外せないのがリーダーシップだ。

若手選手が多いミランにおいて、自分がチームを引っ張るのだという姿勢が感じられる。味方がミスをすれば叱り、自分がフリーなのにボールが出てこなければ激しい声でボールを要求する。そうしたストライカーらしいエゴイズムを持ちながらも、守備時には献身的に走って自らお手本となる。エゴと献身性をバランスよく備えた、ストライカーとして理想的なリーダーシップだと思う。

結果を残すプレーヤーにとってメンタル面が重要であることは何度も書いてきた。それを彼も備えているわけだ。

若くしてフランスリーグを制覇し、イングランドを代表する強豪でエースを張り、レ・ブルーの一員としてワールドカップを制覇して世界一に輝き、そして今、イタリアの地でスクデット争いを繰り広げるチームでも不可欠な選手になりつつある。

悪く言えば古典的で、特別テクニカルでもなければスピードがあるわけでもないジルー。そんな彼がどこに行っても結果を残して必要とされてきたのは、充実したメンタルあってこそなのではないだろうか。

 

まとめると、

  • 地空ともにクロスボールに合わせる技術が非常に高く、
  • PKキッカーとしても優秀で、
  • ポストプレーではワンタッチプレーを好み、
  • プレスのスイッチ役になったかと思えばプレスバックによって穴埋めも欠かさず、
  • 若手選手を引っ張るリーダーシップも備えている

ミランの最前線で存在感を放っているジルー。イブラヒモビッチとはまた違った形でミランに違いを生み出している。




ジルーの伸びしろ

それでは、ジルーの今後に向けた伸びしろはどこにあるのか。

それは、より安定して得点を重ねていくことにあるのではないだろうか。

ミラン加入後の得点をすべてサン・シーロで挙げてきたジルー。裏を返せば、アウェイでの得点数はゼロである。

さらに、10ゴールのうち6ゴールは3回のドッピエッタで挙げたもの。固め取りも多いのだ。

今後はより安定して継続的に得点を重ねられるかどうかが焦点になるだろう。

ただし、そこにはミランの崩しの局面に見られる問題点も関与していることは触れておかなければならない。

現状、ミランのボール保持はラファエウ・レオンという傑出したドリブラーにボールを集める構造になっており、悪く言えば個人技頼みな状態。チームとして引いた相手を崩すすべを持っておらず、攻撃が手詰まりになる試合も見受けられる。

FBref.comより、セリエAにおけるシュート平均距離。ミランは全体で2番目に遠いところからのシュートとなっている。相手のゴール前で崩しきれていない印象と合致する。

ジルーは味方が作り出したチャンスをゴールに結びつけるプロフェッショナルである一方、単独で相手守備陣を切り崩すようなプレーヤーではない。彼の得点数増加のためには、ミランがチーム全体として再現性の高い崩しの形を構築できるかどうかにかかっているのではないだろうか。




あとがき

ここにきてインテルが失速し、スクデットレースは大混戦となっている。27節終了時点でミランは2位につけるが、首位ナポリと勝ち点は同じ。その下に、1試合未消化のインテルが勝ち点2差で追う。さらに、ここにきてユベントスも猛追。リーグ戦13試合無敗で、インテルから勝ち点5差のところに迫っている。現在の調子を維持するようなら、スクデットレースに加わってくるだろう。

昨季までのように飛び抜けた存在がいない今季は、各クラブにとってスクデットのチャンスであると同時に、ひとつ踏み外せばCL圏外に転落してしまう危険性も秘めている。

そんなシーズンにあって、ACミランは最終的にどんな結末を迎えるか。新エース、ジルーの両肩にのしかかる期待感は非常に大きくなっている。

 

 

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