
【青黒の壁】ミラン・シュクリニアルのプレースタイルを徹底解剖!
昨シーズンセリエAを制覇したインテル。安定した戦いぶりを支えたのがリーグ最少失点の堅守だったことは間違いない。
そして、監督がコンテからシモーネ・インザーギにかわった今季もインテルはここまでリーグで2番目に失点数が少ない安定した守備を披露している。その堅守を支えているのがミラン・シュクリニアルである。
スロバキア出身のシュクリニアルは、母国リーグで2番目に多い7回の優勝を誇る強豪MSKジリナに12歳のころに加入。そのままトップチームデビューを果たしている。
2016年1月にはセリエAのサンプドリアへ移籍。最初の半年間は出場機会をほとんど得られなかったものの、翌年に新監督に就任したマルコ・ジャンパオロによってその才能を見出されると、最終ラインの柱としてシーズン35試合に出場。一気に成果を高めた。
翌年には同リーグの強豪インテル・ミラノが2000万€+カプラーリの譲渡という、スロバキア人史上最高額の移籍金でシュクリニアルを獲得した。大きな期待に応えて加入初年度から主力に定着したシュクリニアルは、以後4シーズンすべてでリーグ戦30試合以上に出場。今季もここまで22試合に出場しており、インテルにとって欠かせない最終ラインの柱となっている。
そんなシュクリニアルは一体どんなプレーヤーなのか、徹底的に掘り下げていきたい。
目次
シュクリニアルのプレースタイル
恵まれたフィジカルを活かした対人守備
シュクリニアルを一目見ればその屈強な肉体に目を奪われるはずだ。188cm・80kgと理想的な体格である。
この恵まれたフィジカルがシュクリニアルのプレーを根底から支えている。
少しあいまいな指標にはなるが、SofaScore.comによると、
〈地上デュエル勝率〉
- 60%(セリエA)
- 63%(チャンピオンズリーグ)
となっており対人の強さがうかがえる。実際に試合を見ていても、相手にコンタクトされてシュクリニアルがバランスを崩す場面は皆無に等しい。CLでもその数値が落ちないところを見る限り、コンタクトプレーの強さはワールドクラスと言っていいだろう。
シュクリニアルが特別なのは、大柄ながら水準以上のアジリティを備えていることだ。
横の揺さぶりに弱いというのは体が大きいDFにありがちな話だ。しかし、シュクリニアルは違う。相手の揺さぶりにもついていき、簡単には突破されない。
おまけに、1歩1歩から出力されるパワーが半端ないため、相手の縦への持ち出しについて行くことも容易だ。爆発的な初速ですぐさま追いついて見せる。シュクリニアルほど大柄な選手の中で、彼ほどの爆発的なミクロスプリントを備えている選手は記憶にないかもしれない。

ベンゼマのキックフェイントに引っかかってしまったシュクリニアル。縦に持ち出され、完全に抜き去られてしまった。普通はこれでジ・エンドだが…

持ち前の爆発的なミクロスプリントで追いつき、最終的にはクロスをブロックしてしまっている。一度かわされても修正するのが驚異的に速い。これがシュクリニアルの対人守備の強さを支えている。
↓ 該当の場面の動画
インテリジェンスが最大の武器だ
このように、恵まれたフィジカル能力を備えているシュクリニアル。しかし、彼はそれだけに頼った守備者ではない。というか、フィジカル能力よりもむしろ卓越したインテリジェンスが彼を特別なDFたらしめている。
読み、判断力、ポジショニング。体よりも頭脳においてシュクリニアルは最高峰だ。
だから、相手と対峙したときもフィジカル勝負に持ち込み、体をぶつけてねじ伏せるようなプレーはしない。相手の出方を見ながら、ここぞのタイミングで足を出してボールをつつき、奪い去る。相手のキックのタイミングを探ってここぞのタイミングで体を投げ出しブロックする。無理して奪いに行かず、攻撃を遅らせながら味方のサポートを待つ。このひとつひとつの判断の正確さこそ、彼が壁たるゆえんだ。

世界最高峰の若手アタッカーとなったヴィニシウスと対峙した場面。

足元にボールが入って窮屈になった瞬間、一気に襲いかかる。

ノーファウルでクリーンにボールを奪い去ることに成功した。
- ドリブラーに対するタックル勝率:68.4%(セリエA2位)
というデータは彼の守備対応のすばらしさをよく表したデータだ。シュクリニアルは相手についていきながらタイミングを見計らい、ここぞのタイミングで勝負を仕掛ける。このタイミングの感覚と読みが素晴らしい。だから簡単に突破されないしタックルもミスしない。
相手が自分のタイミングに引き込まれるまで待てる。これがシュクリニアルの守備対応のカギだ。

エイブラハムの縦への持ち出しに対応するシュクリニアル。

相手のモーションを見て足を出すものの、エイブラハムの動きはキックフェイントだった。もう一度縦に持ち出す。

シュクリニアルはこれにもしっかりついていって、本当にクロスを上げるタイミングで体を投げ出しブロックすることに成功した。判断をキャンセルする能力、バランスを崩しながらもついて行けるフィジカルバランスの良さがよく出たシーンだ。
↓ ヴィニシウスのドリブル方向を制限しつつブロゾビッチのプレスバックを待って2人で封殺したシーン。彼のインテリジェンスがよくわかる場面だ。こうした冷静な判断ができることがシュクリニアルの最大の武器だ。
Para ilustrar a grande partida de Skriniar separei um lance dele abordando uma situação de 1×1 contra o Vinícius Jr:
✅ Temporiza para a chegada de Brozovic;
✅ Perfilamento corporal e colocação dos apoios direcionando para fora;
✅ Timming no desarme.pic.twitter.com/JgTS7Ezzgd— Calcio in Materia (@calcioinmateria) September 15, 2021
また、読み取出足の鋭さを活かしてインターセプトを決めるのもシュクリニアルの得意技。
- インターセプト数:27(チーム内3位)
こではCB陣の中ではトップの多い数字である。シュクリニアルは相手に持たせて冷静に対応するのか、前に出てカットしてしまうのか、その判断が絶妙で的確だ。
さらに、その優れた読みはゴール前での守備にも転用される。シュクリニアルは危険なスペース、危険なコースに先回りする能力が総じて高い。ゆえに、危険な場面でのゴールラインクリアやシュートブロックが非常に多い。
- シュートブロック数:17(チーム内トップ)
- クリア数:63(チーム内トップ)
とデータも彼の跳ね返す力を裏付けている。ちなみに、シュートブロックに関して2位はバストーニの10であり、シュクリニアルがこのデータで突出している状況だ。
Best defender in Serie A
Milan Skriniar has been incredible the past two seasons
Credit to Antonio Conte who helped him take his game to another level
— Jerry Mancini (@jmancini8) February 9, 2022
危険な場面で、「常にそこにいる」。彼が1人いるだけで、ゴール前での守備がぐっと引き締まる。それは、彼の的確なポジショニングゆえだ。
得点力の高さも魅力
さらに、シュクリニアルは攻撃面での貢献度も非常に高い。
特に相手にとって脅威になるのはセットプレーの時。持ち前の空中戦の強さを活かし、ターゲットになる。
跳躍力とパワーに優れるシュクリニアルに走り込まれると止めるのは至難の業。空中でのコンタクトにもびくともしない彼にいいボールが合えばそれでジ・エンドだろう。
↓ インテルの今シーズン初ゴールを決めたシュクリニアル。
今季ここまでセリエAで3点、CLで1点の計4ゴールを記録しているシュクリニアル。FBref.comのパーセンタイル表示を見ても、彼がかなり得点能力が高いCBであることは間違いない。

FBref.comより、シュクリニアルのゴール/アシストに関する数値を5大リーグのCBと比較したときのパーセンタイル表示。特に得点に関して優れた数値を記録していることがわかる。
実力が詰まった試合ではセットプレーで勝負が決まることが往々にしてある。ここにおいても頼りになるのがシュクリニアルだ。
ビルドアップでの貢献度も非常に高い
さらに、崩す局面だけでなく運ぶ局面においてもシュクリニアルの貢献度は絶大だ。
3バックの右に入るシュクリニアルはビルドアップ時に4バックの右に入ることが多く、実質的にはサイドバックの位置から組み立てに絡む。このとき、彼の武器となっているのが柔軟なポジショニングだ。WBやMFたちの立ち位置を見ながら常に自分のポジショニングを調整し、味方にパスコースを提供できる。
- パスターゲット:1121(チーム内2位)
とパスの受け手として機能しているのも、彼のポジショニングの良さゆえだろう。

この場面では、相手アタッカーがシュクリニアルへのパスコースを切るようにしてプレスをかけている。

これを受け、シュクリニアルはひとつ前へ出てフリーとなり、パスを受ける。相手のプレッシングを打開することに成功した。何でもないプレーに見えるが、こうした動きをサボらないことによってチームにもたらす効果は絶大だ。
そして、シュクリニアルはポジショニングだけでなくドリブルでも相手のプレスを破壊できる。相手が寄せてくれば、その勢いを逆手にとって持ち出し、完全にかわしてしまうプレーもシュクリニアルの十八番だ。
- キャリー総数:1057(チーム内2位)
- ドリブル突破成功率:100%
ドリブルで持ち運んだあとのパス供給も見事。スピードを上げるとプレー精度が落ちがちになるものだが、シュクリニアルはその限りではない。
また、シュクリニアルは3バックの右だけでなく、中央もそん色なくこなす。こうなるとドリブルや大胆なポジション移動は制限されざるを得ないが、それでもシュクリニアルのビルドアップ能力は落ちない。

シュクリニアルが3バック中央で起用されたスペツィア戦での一場面。切り返しで寄せてきた相手ストライカーの逆を取ったシュクリニアルは、落ち着いて状況を観察する。

中央にくさびのコースを見出したシュクリニアルは、相手のFWライン、MFラインを一気に打開してみせた。
さらに、これらのプレーひとつひとつの精度が非常に高いことがシュクリニアルの素晴らしいところだ。
- パス成功率:93.0%(セリエA4位)
- ドリブル成功率:100%

ちなみに、パス成功率では17-18以降毎シーズントップ10入りしている。FBref.comより。
パス、ドリブル含めてミスなくこなす。しかも、ただ安全なプレーを選択しているわけではないことがポイント。シュクリニアルは相手ゴールに迫るために効果的ながらリスクも伴うプレーも機を見てこなす。にもかかわらずミスが少ない。これは特筆すべきことだ。
相手の決定機につながるミスを犯さないという信頼があるからこそ、彼にボールが多く集まるのではないだろうか。
こうしたシュクリニアルらしさが詰まった場面を紹介しよう。

相手のプレッシャーを受けたシュクリニアルは、右脇にポジションしていたブロゾビッチにパスを出す。

その後前に出てワンツーを受けるところがシュクリニアルらしい。細かいポジショニングの修正とアグレッシブさだ。

そのままドリブルで持ち上がり、右サイドを裏へ抜け出したドゥムフリースにスルーパスを供給して決定機を演出した。相手のプレス回避からチャンスメイクまで一人でこなしてしまった、素晴らしいプレーだ。
試合によっては3バックの左をこなすこともあったシュクリニアル。どのポジションでもビルドアップに貢献していることは変わりなかったため、おそらく4バックを採用するクラブに行っても問題なくやれるだろう。それもこれも、安定したテクニック以上にインテリジェンスがあってのことなのだろう。攻守においてかしこいことが、彼が現代CBとして最高峰たらしめているのだ。
まとめると、
- 恵まれたフィジカルでコンタクトプレーに絶対の自信を誇り、
- 恵まれたアジリティと優れた読みで1対1でほとんど突破されず、
- 危機察知能力を活かしてシュートブロックを連発し、
- 空中戦の強さを活かしてセットプレーからゴールを奪い、
- ポジショニング、パス、ドリブルすべてが高水準でビルドアップでの貢献度が高く、
- 右から左まで3バックいずれもこなすほかボランチでもプレー可能なマルチで、
- 代表でキャプテンを務めるなどリーダーシップも備える
見かけは脳筋デストロイヤーだが、その実はいたってインテリジェント。頭脳派という言葉が似合うプレーヤーだと思う。
心技体すべてをハイレベルで兼ね備えるシュクリニアルはセリエAトップクラスのCBと言って間違いなく、今後もインテルにとってキーマンであり続けるはずだ。
シュクリニアルの伸びしろ
そんな彼に伸びしろはあるのだろうか。
ひとつだけ指摘するとしたら、相手が前を向いて正対したときに足が横並びになる場面がちょこちょこみられる点か。相手に対しては斜めに構えるのが碇石だが、シュクリニアルは足が横並びになってしまう場面がある。これだと、相手に持ち出されたときにターンして対応しなければならないため対応が遅れ、簡単に突破されてしまう。この記事で紹介したベンゼマとの対面のシーンはその典型だ。
だが、そこから挽回してしまっているように、シュクリニアルの圧倒的な対人スキルによってもはやそれが弱点になっていない。仮にこの問題が改善されなくても、大きな穴にはならないようにさえ思える。
何が言いたいのかと言えば、シュクリニアルが完全無欠なCBだということだ。おそらくどこのリーグに行っても、どのチームに行っても主力を張れるはずだ。スロバキアの歴史に残るプレーヤーのひとりと言っていいだろう。
願わくば、そのような選手をできるだけ長くセリエAで見たいものだ。
あとがき
こちらは先日行われたチャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦1stレグにおけるシュクリニアルのスタッツだ。プレミアリーグを代表するアタッカー、サディオ・マネを完封して見せたことがよくわかる。
この一戦でインテルは善戦したものの、最終的にはセットプレーから失点を食らって0-2で敗戦した。2ndレグでは敵地アンフィールドに乗り込んで逆転を狙うことになる。
困難だが、不可能なミッションではないはず。ただし、そのためにはこれ以上失点しないことが最低条件だろう。守備陣には引き続き奮闘が求められる。
世界クラスのアタッカーを再び沈黙させることができるか。シュクリニアルのプレーがカギを握っている。
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