【無為自然】ドリース・メルテンスのプレースタイルを徹底解剖!

【無為自然】ドリース・メルテンスのプレースタイルを徹底解剖!

2022年2月12日 4 投稿者: マツシタ
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1月8日、ナポリのカピターノ、ロレンツォ・インシーニェのトロントFC加入が発表された。

レンタルはあれど、所属元はナポリ一筋だった30歳のイタリア代表アタッカーは、来年夏からMLSに活躍の場を移すことになる。ピッチ内外においてナポリになくてはならない存在だったバンディエラの退団は、ナポリはもちろんのことイタリア全体にとって大きな事件だといえるだろう。

そのインシーニェが去ったあと、クラブ最古参となるのがナポリ在籍9年目のドリース・メルテンスである。

ベルギー出身のメルテンスは、母国の名門ヘンクのユースからトップチームに昇格した。しかしながら、トップチームでの出場はかなわず、レンタル先のエンドラハト・アールスト(ベルギー3部)でプロデビュー。翌年にはオランダ2部のAGOVVに移籍し、下部カテゴリーからプロ生活をスタートした苦労人である。

2部で活躍したメルテンスはユトレヒトに個人昇格を果たし2シーズンを過ごした後、オランダ屈指の名門PSVへとステップアップ。2シーズンで62試合37ゴールの大活躍でブレイクすると、イタリアの名門SSCナポリへ移籍することになった。

2013年にナポリにやってきたメルテンスはしかし、最初の3シーズンは主力に定着できずにいた。転機となったのは16-17シーズン。前シーズンまでのエースだったイグアインが退団し、その代役として見込まれたミリクが長期欠場するという事態に陥ったマウリツィオ・サッリ監督が、当時はウインガーだったメルテンスを1トップに抜擢。すると、彼の持ち前の得点能力が完全開花したのだ。最終的に得点ランキングで2位となる28ゴールを挙げたのだった。

その後も前線中央で起用されるようになったメルテンスは得点を量産し、ナポリの歴代最多得点記録保持者となっている。

控え選手からクラブ史に名を残すアタッカーへと脱皮したメルテンス。よほど最前線が肌に合ったのだろう。

彼は一体どんなスタイルで活躍しているのか、徹底的に掘り下げていきたい。




メルテンスのプレースタイル

 

高い得点力

まず触れなければならないのは非常に高い得点能力だ。

本来ウイングの選手だったメルテンスだが、その得点感覚はさながら天性のストライカーだ。

  • 16-17:28ゴール
  • 17-18:18ゴール
  • 18-19:16ゴール

とサッリ政権下で1トップに起用されてからはゴールを量産してきた。

今シーズンも

  • 得点頻度:111分に1ゴール(セリエA4位

と時間単位で見ればセリエA屈指の得点率を誇っている。彼がセリエAを代表する点取り屋であることに疑いの余地はないだろう。

 

特に大きな武器になっているのがミドルシュートだ。多少遠い位置からでも正確にゴールの四隅を射抜くコントロールは見事で、右足インフロントでファーサイドに鋭く巻き込むシュートは十八番になっている。

 

↓ ラツィオ戦で決めた美しい放物線のゴール。

 

↓ インテル戦で決めた見事なミドルシュート。

 

ここまで見てきたゴールに代表されるように、ペナルティエリア外からのゴールが多いことが彼の特徴だ。

メルテンスは身長169cmと小柄だが、下半身に強大なパワーを秘めている。そのため、多少距離が遠かろうが積極的にシュートを狙っていく。そしてそれが高確率で枠に飛ぶのだから素晴らしい。パワフルかつ高精度のシュートでゴールを陥れる。

さらに、このシュートを警戒して飛び込んでくる相手をキックフェイントでかわして流し込むのもメルテンスの得意技。相手がどう動くかを見通しているかのように手玉にとるプレーは見事とした言いようがない。

 

↓ ラツィオ戦の2点目。身体を投げ出してくる相手を冷静にかわして流し込んだ。




スペースアタックの感覚は鋭敏

ここでとあるデータを見てもらおう。

メルテンスのゴールについて、シュートを打った位置をピッチ上にプロットしたもの。円の大きさはゴール期待値の大きさを表す。understat.comより。

この図を見ると、メルテンスのゴールはPKスポットを境に、その前後で性質が異なっていることがわかると思う。

PKスポットよりも遠い場所からのシュートはどれもゴール期待値が小さい、つまり難易度が高い。これは距離の遠さと同時に、相手が目の前に立ちふさがっていることも意味している。相手DFが立っていても、わずかなコースを見出してそこに決めてしまう、メルテンスのミドルシュートのうまさをよく表したデータだ。

一方でPKスポットよりも前のゴールに関しては期待値が大きくなっている。ゴールとの距離が近くなっていくので当たり前なのだが、これは同時にペナルティエリア内で相手のマークを外すことに成功しているとも読める。

170cmにも満たないメルテンスはまともに空中戦を競り合っても当然勝てない。だから、ここぞのタイミングで、だれもいないスペースにフリーで走り込む必要がある。いわゆる点で合わせるというやつだ。

これを成立させるうえで欠かせないのは、スペースをかぎ分け適切なタイミングでアタックする能力。これに関して、メルテンスは極めて優れている。

 

↓ レイオフ後、食いついた相手の裏を取ってゴールを決めたシーン

 

くさびを受けたあと、メルテンスはおそらく内側を走ったディ・ロレンツォにヒールで渡そうとした。しかし、ボールは相手に跳ね返ってサイドに開いていたジエリンスキに渡っている。

このボールの動きは偶然生じたもので、相手DFはボールを目で追って一瞬足を止めている。しかし、メルテンスは違った。相手CBが釣られて裏にスペースができたことを瞬時に察知し、相手の0.2秒くらいだけ早くスタートを切っている。この一瞬の判断が勝負を分けた。メルテンスのスペースをかぎ分け、アタックする能力がわかりやすい形で発揮された場面だ。




戦術的に重要な役割を果たす

ただ、スペースを突く嗅覚を持った選手はメルテンス以外にも多く存在する。そうした並みいる選手たちとメルテンスが決定的に異なるのは、彼がスペースを作ることにも長けているからだ。

メルテンスは自分がボールを受けるためのランニングと味方にスペースを提供するためのランニングを使い分けられる。これによって2列目の選手たちが輝く。インシーニェもジエリンスキも、オシメンが1トップに起用される試合では持ち味が最大限に生かされているとはいいがたい。だが、メルテンスが起用された試合では輝きが増しているように見える。これは偶然ではない。メルテンスは自分だけでなく回りを輝かせる才能にも恵まれているのだ。

インシーニェが前を向いた瞬間、外へ流れるようにランニングするメルテンス。

この動きで相手の左CBを釣ってインシーニェがカットインするためのスペースを提供することに成功している。

この場面のように、メルテンスは自分がスペースを突くのか、味方にスペースを作り出すのかを瞬時に選択する。後者であれば、どの方向に走ればより味方が使いたいスペースを空けられるかまで合理的に判断する。だから、味方が輝くのだ。

彼はスペースをコントロールすることで攻撃の最終局面をデザインできる唯一無二のプレーヤーなわけだ。彼ほど「かしこいストライカー」という表現がしっくりくる選手はそういない。

 

彼の戦術的な機能はこれだけにとどまらない。メルテンスが持つ優れた戦術眼とウイング経験者らしい機動力は、前線中央に置かれることで多岐にわたって活用されている。

メルテンスが最前線で起用されたときには偽9番とよく言われるが、プレースタイル的には偽9番と通常のCFの中間的な役割だといえ、個人的には9.5番だと思っている。これは9番と10番を足して2で割る、というイメージよりは、9番と10番とを往復し、状況に応じて使い分けているようなイメージだ。

中盤まで引いていくことは少なく、DFとMFのライン間を幅広く動いて最終ラインの面々に縦パスのコースを提供する。これは10番の仕事だ。

さらに注目すべきはボールを受けた後のプレー選択。ほとんどがワンタッチで前向きの味方を使うのだ。いわゆるレイオフである。この何でもないプレーにメルテンスの凄みが凝縮されている。

当然すくないタッチでプレーするためには判断を素早く、また正確にしなければならないわけだが、プロの試合でこれをこなすのはそう簡単なことではない。だが、メルテンスは何事も内容にこなしている。その秘訣は、体の向きに対して自然なプレーを選択し続けることにあると思うのだ。

小柄なメルテンスは、縦パスを受けて無理に前を向こうとしても潰されてしまう。だから、ハナからその選択肢を捨てて、後ろ向きの状態で選べる選択肢に集中する。

24種類置いてあるジャム売り場より、6種類だけ置いてあったジャム売り場のジャムの方が売れるという有名な行動経済学の実験が示す通り、選択肢を絞ることで判断スピードが上がるという原則を地で行くメルテンス。この能力がなければ、169cmのメルテンスは屈強なDFにつぶされてしまい、最前線でプレーすることはできなかったはずだ。

合理的な判断をこなし続けるということでいえば、話はレイオフだけにとどまらない。裏に飛び出すのか、手前のスペースに引くのか、はたまたわざとつっかけて相手を釣るのか。相手が飛び込んできたらシュートをやめてかわすし、飛び込んでこなければミドルシュートを突き刺す。試合の流れを読み、その流れが指し示す方向に流されるように自然な選択をし続ける。彼からは無為自然の精神を感じる。それは、彼が体の向きに対して自然なプレーを選択し、決して無理なプレーをしないからだろう。

 

さらに付け加えると、レイオフを受けた味方は常に前向きでボールを持つことになる。ジエリンスキやインシーニェ、ファビアンなど、ボールプレーヤーが多いナポリ。彼らは前向きの状態でボールを持つことでこそ持ち味を発揮する。これもまたメルテンスと併用された選手が輝く要因だろう。

ボールがあるときにはレイオフで、ボールがなければデコイランで。メルテンスは味方を輝かせる能力も極めて高い

 

そうしたプレーをこなしながら、最終的にはゴールを奪える場所に飛び出して自分が攻撃を仕上げてしまう。これは9番の仕事だ。メルテンスの9.5番たるゆえんがおわかりいただけただろうか。

 

ここまで説明した「スペースを操る」「体の向きに無理がない範囲内でプレーする」という2つの原則によってメルテンスはひとりで戦術になってしまっている。

彼のプレーを見るときは、この2つのポイントに注目してみてほしい。彼の動きを見ているだけで、こちら側も戦術眼が鍛えられる。




守備に対しても献身的

さらに、メルテンスは守備に対しても献身的だ。味方が空けたスペースにメルテンスがプレスバックしてくる場面はナポリの試合ではおなじみの光景だ。

500分以上出場したナポリの選手について90分当たりに換算したプレッシャー数をランキング化してみると、

90分あたりプレッシャー数

  1. アンギサ :19.39
  2. メルテンス:17.53
  3. ロサーノ :17.32
  4. ロボツカ :16.42
  5. ポリターノ:16.40

となり、メルテンスは堂々の2位だ。

ちなみに、以前「プレッシング兵器」と紹介したことがあるオシメンの数値は14.95。彼と比較するとメルテンスはよりプレッシングの連続性と攻→守の切り替えの速さに優れている印象があり、何度も追いかけまわすが故のこの数値だと思う。

再びFBref.comより、メルテンスの守備に関するスタッツの5大リーグ内でのパーセンタイル表示。プレッシャー、タックル、インターセプトに関して優れたデータを残していることがわかる。

ボール保持時だけでなく非保持時にも非常に貢献度が高いのがメルテンスというプレーヤーだ。

 

↓ メルテンスのプレスバックから生まれた得点

 

まとめると、

  • パワーと精度を兼ね備えておりシュートレンジが広く、
  • 空いているスペースにここぞのタイミングで飛び出すことで相手DFを出し抜き、
  • ライン間を動きながら縦パスを引き出し、
  • レイオフを駆使しながらいい状態で味方にボールを持たせることができ、
  • 味方を活かすためのランニングも惜しまず、
  • 守備時の献身的なプレスバックも武器とする

彼ほどポゼッションスタイルに適合したストライカーもそうそういないだろう。縦パスを引き出してビルドアップの出口となり、知的なランニングで味方を活かし、多彩なフィニッシュで攻撃を仕上げる。ボールを失えば、プレッシングの急先鋒として先陣を切る。もともとウイングだったとは思えないくらい最前線でのプレーに適合している。

味方を輝かせながら自らも輝く、彼ほど完璧な9.5番は今後数年は現れないんじゃないか。そう本気で思っている。




メルテンスの伸びしろ

攻守ともに文句の付け所がないメルテンス。彼に伸びしろは残されているのか。

個人的には、メルテンスには伸びしろは残されていないと思う。これは悪い意味でもなんでもなくて、現在のフィジカル的な要素に由来するプレーの幅を考えた時、メルテンスは到達できる最高値までカンストしていると思う。

身長が低いことから空中戦に弱かったり(今季のリーグ戦における空中戦勝率は13.3%)、加齢からスタミナが目減りしてきていたり(スタメン出場した試合の平均出場時間は67.9分)といったフィジカル的な限界は確かにあるものの、急に身長が伸びたりすることはないのでこれに関しては仕方がない。

一方でテクニック、戦術両面でこれ以上ないほどの能力を持っていることは説明してきた通りだ。彼は持っている能力を最大限まで発揮できているといってよく、そうしたプレーヤーはプロの世界でも希少だ。

スペースを操る」「体の向きに無理がない範囲内でプレーする」身体的に恵まれているわけではない日本人プレーヤーが手本にすべき選手のひとりだと言っていいだろう。




あとがき

インシーニェなきあとのナポリにおいて新たな象徴になることが望まれているメルテンス。しかし、彼も今年の5月で35歳となるベテランだ。さらに、今季末で切れる契約を更新しないのではないかとの声も漏れ聞こえてくる。いずれにしても、メルテンスをセリエAで見られる時間は、そう長くはない可能性がある。

稀代のストライカー、ドリース・メルテンスのラストダンスを目に焼きつけたい。

 

 

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