【逸材マルチバック】ピエール・カルルのプレースタイルを徹底解剖!

【逸材マルチバック】ピエール・カルルのプレースタイルを徹底解剖!

2022年2月5日 0 投稿者: マツシタ
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近年のACミランはけが人の多さに悩まされている。昨シーズンは前線にけが人が続出し、カスティジェホを1トップで使うような試合まであった。

そして、今シーズンは最終ラインが怪我にたたられている。シーズン序盤には右SBのカラブリアが約2か月離脱し、現在は柱であるケアーが今シーズン絶望の負傷を負い、トモリも1か月離脱とレギュラーCBが不在になっている。

そんな状況にあって、複数のポジションをハイレベルにこなしながら穴埋め以上の存在となっているのがU-21フランス代表の若手DF、ピエール・カルルである。

 

名門として知られるリヨンユースで8年間プレーしたカルルは、フランス4部のリヨンBでプロデビュー。結局Aチームに昇格することなく退団することになる。新天地はイタリアの名門ACミランである。

いったいどうやってスカウティングしたのかという感じだが、ミランの強化部には確信めいたものがあったのだろう。当時はバイエルンなども獲得を狙っていたものの、マルディーニが直接口説き落とした。2020年の夏のことである。

そして迎えた20-21シーズン、カルルは第12節からの3試合連続先発を含めた13試合に出場し、期待に応えるパフォーマンスを見せた。当時から非常に高いポテンシャルを見せつけていたことは間違いない。

その後シーズン終盤に向かうにつれて出番が減少したものの、シーズンオフをはさんだ今シーズンはけが人が続出したこともあってすでに昨季を上回る15試合に出場中。最終ラインのすべてのポジションをこなしながら、けが人復帰後も先発起用が十分視野に入るほどのハイパフォーマンスを継続している。

無名の存在から一気にブレイクしたカルル。彼は一体どのようなプレーヤーなのか、徹底的に解剖していこうと思う。




カルルのプレースタイル

 

アグレッシブな守備

カルルの最大の魅力、それはアグレッシブな守備対応だ。

ここら辺はデータによく表れているので、FBref.comより各種スタッツを確認していくことにしたい。

 

まずはタックルに関するスタッツからだ。

  • タックル総数:30(チーム内3位
  • 90分あたり換算:3.125(800分以上出場した選手の中ではトップ

このように、カルルはチームでも屈指のタックラーである。90分当たりに換算してみると、800分以上出場した選手の中では最多のタックル数となっている。ちなみに、このランキングのトップ5はこんな感じだ。

  1. カルル   :3.125
  2. ケアー   :2.697
  3. カラブリア :2.549
  4. トモリ   :2.439
  5. フロレンツィ:2.200

3の大台に乗っているのはカルルだけ。いかにタックル数が多いかわかる。

さらに、タックルエリアをディフェンシブサードに絞ると、

  • ディフェンシブサードでのタックル総数:19(チーム内2位
  • 90分あたり換算:1.98(全選手中トップ

と時間当たりのタックル数はチーム内でトップとなっている。

 

カルルの守備対応は予測力の高さとそこからくる出足の鋭さに特徴付けられる。とにかく相手との距離を縮めるのが速い

そのため、相手がボールを持った時にはすでにカルルが目の前まで迫ってきているわけだ。相手アタッカーが背中を向けていれば、カルルはすぐさま距離をゼロにする。つまり、相手に完全に密着するのである。相手が感じる圧力は相当なものに違いない。

プレッシャー数に関してミランのDF陣の数値をランキング化してみると、

〈90分あたりプレッシャー数〉

  1. バロ=トゥーレ:18.6
  2. カルル    :16.5
  3. フロレンツィ :14.9
  4. カラブリア  :14.7
  5. ケアー    :13.6
  6. トモリ    :12.9
  7. テオ     :11.1
  8. ロマニョーリ :9.7
  9. ガッビア   :9.0

とカルルは2位にランクインしている。サイドバックが上位にくる傾向にある中、CBでも多くプレーするカルルがランクインしているのは特徴的だ。

また例によってディフェンシブサードに限定してみると、

  • ディフェンシブサードでのプレッシャー総数:77(チーム内2位
  • 90分あたり換算:8.02(チーム内トップ

とやはりトップクラスの数値だ。素早く相手との距離を詰めて自由を奪うプレースタイルと合致しており、個人的に納得のいくスタッツである。

 

さらに、相手との距離を詰めてからのタックルも非常にうまい。足が長いカルルは、相手に密着しながらボールタッチが乱れた瞬間にボールを正確につついて奪う

この時に相手のタッチが乱れるまで待てるのが肝。あせって足を出し、不要なファウルを与えることが本当に少ないのだ。

距離を思い切って詰められること、相手の出方を待てることを裏支えしているのは彼の恵まれた身体能力だろう。スピード、アジリティともに恵まれたカルルは、最初のタックルをかわされても数歩で挽回し追いついてしまえる。裏にボールを落とされても相手に先んじて回収できる。多少のエラーは挽回できる自信があるからこそ、思い切って相手との距離を詰められるのだ。ここに自信がなければ、裏を取られるのが怖くて前に出ていけるものではない。

これらはデータにもしっかり現れている。「ドリブラーに対するタックル」という項目を見てみると、

  • ドリブラーに対するタックル勝利数:9(チーム内で2番目に多い
  • ドリブラーに対するタックル勝率:81.8%(チーム内トップ
  • ドリブル突破された回数:2(フィールドプレーヤーでは最少

と圧倒的なスタッツを残している。注目すべきはその勝率。80%超えは特別に高いといえる。まさに鉄壁だ。

身体能力と予測力を備えるカルルは相手にかわされることがほとんどない。対人の強さはチーム最強格と言ってさしつかえないのではないだろうか。

 

その他、

〈ブロック数〉

  • 総数:23(チーム内3位タイ
  • 90分あたり換算:2.4(チーム内トップ

〈インターセプト数〉

  • 総数:26(チーム内3位
  • 90分あたり換算:2.7(チーム内トップ

と各種スタッツでチーム屈指の数字を記録している。特にインターセプト数の多さは注目。出足の鋭さからインターセプトを決めるシーンは多く、そのままドリブルで持ち上がって攻撃につなげるプレーは非常に効果的だ。




カルルを助けるチーム構造

さて、ここまで多くのスタッツを見てきたが、90分あたり換算したものをまとめて抽出してみよう。

  • タックル総数:1.98(チーム内2位
  • ディフェンシブサードでのタックル数:1.98(トップ
  • ディフェンシブサードでのプレッシャー数:8.02(トップ
  • ブロック総数:2.4(トップ
  • インターセプト数:2.7(トップ

ほぼすべてトップである。カルルがミランのディフェンダー陣の中でも特に人への意識が強く、積極的に守備アクションを仕掛けていることが明白なスタッツだ。

この後詳しく触れるが、カルルは守備組織の中でのポジショニングはまだ甘い部分がある。それに、相手が飛び込んでくるのを跳ね返すようなスタンディングでの強さ・高さという面ではウィークが出てしまう。そうではなく、前へ出ていくことで相手にどんどん圧をかけていくプレーにこそカルルの強みがあるのだ。

ピオーリ監督はそれをしっかり把握しているのだろう。カルルが目の前のFWとの対人に集中できる環境を整えている。

カルルが降りていく相手FWのマークを離さずに中盤まで出ていってプレッシャーをかけている場面。彼が空けたスペースには、ボランチのトナーリが降りて穴埋めしている。

この場面のように、カルルが出ていったときにはボランチが最終ラインに落ちて穴埋めするという約束事がチームに落とし込まれているのだ。カルル以外のCBも相手FWに対してマンツーマン気味にプレーする傾向があるものの、カルルに関してはその傾向が特に強いように見える。余計な判断をそぎ落とし、目の前のFWにだけ意識を向けるように指示が出ているのではないかと推測する。実際にプレーを見ていても、普通は中盤に受け渡すような場面でもカルルが出ていってマークする場面が多く見受けられる。

カルルは人に集中し、できた穴はほかの選手が埋める。この約束事がカルルの長所を引き出すことにつながっていて、それがデータにも明白に表れていると読める。個性と戦術が噛み合った例といえるのではないだろうか。




攻撃での貢献度も低くない

次は攻撃面を見てみよう。

カルルは足元のテクニックも平均以上のものを備えており、ビルドアップでの貢献度も高い。特にタッチライン際からの組み立てはハイレベルだ。

サーレマーケルスのランニングで相手DFがラインを下げ、ブラヒム・ディアスが空いたシーン。

これをしっかり把握し、斜めのくさびで相手の中盤ラインを割って見せた。効果的なプレーだ。

ここで肝になるのはカルルが縦パスを出しそうな体の向きを作ったこと。サーレマーケルスのランニングだけでなく、そこにパスを出す雰囲気を作ったカルルのプレーも相手の最終ラインを下げさせることにつながったのだ。

この、縦の体の向きを作って内に刺すプレーがカルルの得意技である。これは現代サイドバックにとって必須となってきているスキル。実際の試合中にぜひ注目してみてほしいプレーだ。

 

また、味方からのサポートがない場面であわてないことも好印象だ。あせって蹴り出してしまうのではなく、冷静にキープして時間を作ったり、ひとつ内に持ち出して角度を変えたりといったプレーがとてもうまい。

こうした冷静さはカルルのプレーの随所にみられる。守備対応でも、組み立て時でも、常に冷静にプレーする。あせってラフなプレーをすることはないが、必要なポイントで強度を出せる。「頭は冷静に、プレーは熱く」を実践している素晴らしいプレーヤーだ。これが欧州トップカテゴリー2年目だとは思えないほどのたたずまいに、ワールドクラスのポテンシャルを感じるものだ。

 

まとめると、

  • 対人守備に絶対の自信を持ち、
  • 相手との距離を素早く詰めて相手に圧力をかけ、
  • チャンスを見逃さずに長い足でクリーンにボールを奪い、
  • 組み立てでの貢献度も高く、
  • 最終ラインならどこでもこなせる

個人的には、3バックの右が適正ポジションなのではないかと思う。CBの枚数が増えることで積極的に前に出ていって自らの持ち味であるアグレッシブな守備を発揮できるし、空中戦の競り合いという不安要素が露呈することも少なくなるだろう。攻撃時にも、タッチライン際に広がることで持ち前の組み立て能力を発揮できる。ナポリのディ・ロレンツォのようなプレーヤーとして成長できるのではないだろうか。




カルルの伸びしろ

それでは、カルルの伸びしろはどこにあるのか。

守備面ではポジショニングが挙げられる。特にクロスボールが上がってくるときに戻る場所が効果的でない場合が多い。また自分のマークを背中に置いてしまい、見失っている場面も散見される。

 

↓ スペツィア戦の失点シーン。

 

この場面を別の角度からの画像で見てみよう。

このように見てみると、ボールホルダーに近い場所にミランのDFが2人おり、マイナスへの折り返しのコースはほとんどないことがわかる。したがって、カルルはもっとニアに寄った場所に下がり、GKとの間のクロスボールに対するケアを行ったほうがよかったのではないだろうか。カルルのスピードをもってすれば、間に合っていた可能性はあると思う。自分のマークを離してスペースをケアする判断を下しているのなら、このコースに戻ってほしかったところだ。

今後もCBでプレーしていくのなら、こうした細かいポジショニングの粗さを詰めていく必要があるだろう。

 

また、空中戦も要改善。

  • 空中戦勝率:33.3%(チーム内で3番目に低い

というデータはディフェンダーとしてはあまりに心もとなく、CB陣と比較しても

  • ロマニョーリ:63.2%
  • ガッビア  :61.5%
  • トモリ   :57.7%
  • ケアー   :45.2%

とカルルの数値の低さは際立っている。179cmとCBとしては身長が低いものの、身体能力に恵まれるカルルは技術面に磨きをかければもっとエアバトルで勝てるようになるはずだ。ここも今後に向けた課題だろう。

 

攻撃面ではキックの種類を増やすことだろうか。グラウンダーのパスについてはハイレベルなカルルだが、浮き球のボールについては要改善。特にクロスボールだ。

  • 20-21シーズンのクロス総数/成功数:28/3(成功率10.7%

ただし、ここについては日進月歩で成長中だ。特に継続的に右サイドバックで起用されていた時期には日に日にいいボールが上がるようになっていた。データ上でも

  • 21-22シーズンのクロス総数/成功数:20/6(成功率30.0%
  • ペナルティエリア内へのクロスボール成功数:5(チーム内6位

と昨季から大きな成長の跡がみられる。

まだ若いカルルはこれからさらに成長していくはずで、これらの課題はむしろ伸びしろと考えていいのではないだろうか。

 

↓ スペツィア戦でマルディーニのゴールをアシストした場面。




あとがき

カルルは空中戦とポジショニングに課題があるプレーヤーだ。普通に考えれば、こうした選手はCBに置いておくには危なっかしい。

しかし、ミランは高い位置からアグレッシブにプレッシングを行い、自陣でブロックを形成して待ち構える時間は少ないチームだ。その過程でCBも勇気をもって高い位置に出ていき、相手アタッカーに自由を与えず攻撃を食い止めることが求められる。前線、中盤の選手が高い位置へ出ていくため、背後に広がる広大なスペースを管理することも重要なタスクだ。

これらのタスクはカルルが最も得意とするところだ。むしろ「ミランのCB」としてカルルは理想的な人材とさえ言えるのではないだろうか。

同じポジションでも課されるタスクが多様化し、そのタスクにプレースタイルが合致していれば一見適正とは思えないポジションでも活躍できる。現代サッカーのそうした潮流を象徴するプレーヤーのひとりといえそうだ。

個人的には、今後も成長を継続していけばレギュラー陣が戻ってきても十分スタメンを争い、また奪えるポテンシャルの持ち主だと考えている。ミランにおいてなら右SBよりもCBの方が適役だろう。ケアーが戻ってくるまでに強固な立ち位置を築いていれば、ポジションを守ることは十分可能なはずだ。

夏にはCBの補強を画策しており、オランダ代表スフェン・ボトマン獲得に前進しているともささやかれているミラン。そうした新加入選手とともに、カルルの動向にも要注目だ。

 

 

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