
【エレガントファイター】ロドリゴ・ベンタンクールのプレースタイルを徹底解剖!
ウルグアイは第1回W杯で優勝した古豪である。同じ南米にブラジルとアルゼンチンという強力なライバルがいたため、生存戦略として守備に磨きをかけ、中盤にはファイターがそろっているといわれている。たしかに、現代表の面々を見ても戦える選手が多くいるなという印象である。
現在ユベントスでプレーする24歳のMF、ロベルト・ベンタンクールもそのひとりである。
ベンタンクールはアルゼンチンの名門ボカ・ジュニアーズのユースで育ち、17歳にしてトップチームデビュー。10代にして50試合以上に出場し、ロシアワールドカップではウルグアイのA代表でレギュラーとして活躍した早熟だ。
南米ではよく知られる選手になっていたベンタンクールが欧州に上陸したのは2017年のこと。ボカにテベスを売却した代価の一部として優先交渉権を得ていたユベントスがウルグアイの至宝を射止めた。
加入初年度こそ適応に苦しんだものの、2シーズン目からは毎年リーグ戦30試合以上に出場してきたベンタンクール。ユベントスではリーグ戦通算133試合2ゴール14アシストを記録している。
そして現在、ベンタンクールは5シーズン過ごしたイタリアに別れを告げ、プレミアリーグのトッテナムへ移籍することが確実視されている。
いままさにキャリアの転換点を迎えようとしているベンタンクール。彼は一体どんなプレースタイルを持っているのか、徹底的に掘り下げていきたい。
ベンタンクールのプレースタイル
最大の武器は守備での貢献度の高さ
序文でも触れた通り、ベンタンクールの最大の武器は中盤で激しくファイトできることにある。187cm75kgと長身で細身、顔は小さく端麗。モデルのようなエレガントな見た目とは裏腹に、相手の攻撃の芽を摘む技術は一級品だ。ユベントスでも、特に今シーズンは守備面でも貢献度の高さを買われていた。

ベンタンクールの守備スタッツを5大リーグのMFで比較しパーセンタイルで表示したもの。FBref.comより。
パーセンタイルとは、各データを小さいものから順に並べたときに当該データがどこに位置するのかを表したもの。小難しいので簡単に言うと、数値が大きければ大きいほど上位に、小さければ小さいほど下位に位置づけられるということ。ベンタンクールの例でいえば、5大リーグ全体で見ても守備関連のスタッツで非常に優れた数値を記録しているということである。
彼が特別なのは起用されるポジションによって求められるタスクを忠実にこなせるポリバレント性である。
たとえば、トップ下やインサイドハーフなど高めのポジションで起用されればプレッシングの急先鋒として機能する。
データサイトFBref.comよりデータを引用すると(本記事内に示すデータはすべてFBref.comより引用)、
- プレッシャー数:286(チーム内トップ)
- プレッシャー成功数:96(チーム内トップ)
とプレッシャーに関する数値は今季のユーべでトップである。
彼のプレッシャーの鋭さの源泉は予測力からくる出足の良さである。試合画像で確認してみよう。

相手がパスを出した瞬間、すでにスタートを切っているベンタンクール。

相手の元にボールが届くころにはすでに距離を詰めており、ボールが離れたのを見てスライディングタックルを決めている。
↓ 当該場面の動画
加えて、プレスに出ていったときの2度追いもまた彼の得意技だ。自身のプレスでパスコースを誘導した後、そのパスを追いかけるようにして2人目にもプレスに行き、相手の自由を制限するのだ。こちらも画像で見てみよう。

またしてもパスが出てきた瞬間にスタートを切っているベンタンクール。内側から寄せ、ボールを外に追い出す。

外側に出されたパスに対しても2度追いを敢行。タックルを食らわせ、マイボールにすることに成功している。
↓ 当該場面の動画
この予測力は中盤低い位置で起用されたときにも活用される。相手のパスやドリブルのコースを読んで先回りし、最終ライン前のフィルターとして機能するのだ。
これは
- インターセプト数:38(チーム内トップ)
というデータによくあらわれている。
さらに、触れないわけにはいかないのがタックル技術の高さである。
- タックル数:35(チーム内2位)
- タックル勝利数:27(チーム内トップ)
- タックル勝率:77%
注目したいのはタックル勝率の高さ。ほぼ8割近い数値だ。特に先ほど画像でも紹介したスライディングタックルの技術力はセリエAでも1、2を争うんじゃないかと思う。スライディングは下手をすれば危険なファウルとみなされかねない守備アクションだが、ベンタンクールは正確にボールを捉えられる。
スライディングだけでなく、相手とボールの間に体を入れて完全にマイボールにしてしまう技術も高い。ひととおりの守備アクションはすべて完成度高くやれてしまうのだ。
そして、それらを状況に応じて適切に使い分けられることにこそベンタンクールの強みがあると思う。インターセプトに出るのか、相手のワンタッチ目を観察して体を入れるのか、スライディングでつつくのか。ひとつひとつの判断ミスが非常に少ない。
このことがチーム屈指のタックル数を誇りながらもここまで受けたイエローカードがわずか1枚という事実につながっているのだろう。
このように、多士済々なユベントスMF陣の中でも中盤のフィルター能力ではトップだと断言していい。
タックル数に関してミドルサードに限定してみてみると
- ミドルサードでのタックル数:19(チーム内トップ)
となっている。注目したいのは同2位のロカテッリとクアドラードの数値が11であること。ベンタンクールは倍近い数値をたたき出しているのだ。ミドルゾーンを引き締めるボールハンターとして彼以上の選手はいないだろう。
去れに言及しておきたいのは、強度が高いプレーをこなしながらもケガが少ないことだ。

Transfermarkt.comより、ベンタンクールの負傷履歴。
ユベントスに在籍した4シーズン半で欠場した試合はわずかに6。しかも、半分はコロナウイルスに感染したことによるものであり、怪我によって欠場した試合は3試合だけである。
常に戦力として計算できるという点でも頼れる存在である。
足元のテクニックも十二分
次にベンタンクールの攻撃面についてもみてみよう。
彼は足元のテクニックにも恵まれた選手である。昨季のピルロ政権下では展開力の高さが評価され、アンカーの位置でレジスタとして起用されている。
- パス成功数:1651(昨季のチーム内2位)

ベンタンクールのパスに関するスタッツについて5大リーグのMFで比較しパーセンタイル表示したもの。まずまず優れたデータであるといえる。FBref.comより。
ベンタンクールの特徴を探るために、今季ベンタンクールにかわってレジスタの役割を担っているロカテッリと比較してみよう。
以下はパスを長さ別に分類したとき、それぞれが占める割合を示したものである。
〈ベンタンクール(昨季のデータ)〉
- ショートパス:36.1%
- ミドルパス :45.4%
- ロングパス :16.1%
〈ロカテッリ(今季のデータ)〉
- ショートパス:35.1%
- ミドルパス :43.9%
- ロングパス :19.3%
特に差が大きいのがロングパス。ロカテッリの方がロングレンジのパスを多く用いていることが読み取れる。
ちなみに、公平性を期すためにベンタンクールに関しては昨季のスタッツを上げている。今季のそれだとロングパスの割合は13%にまで低下する。ロカテッリと比較すると、ベンタンクールはショートパスを多く用いるスタイルであるといえる。
再び昨季のベンタンクールと今季のロカテッリについて、スイングパス(ピッチの横方向に40ヤード以上移動したパス。いわゆる1発のサイドチェンジのこと)の90分平均を比較してみると、
〈90分あたりスイングパス〉
- ベンタンクール:2.05
- ロカテッリ :2.86
とやはりロカテッリの方が多くなっている。
このように、ショート/ミドルレンジのパスを多用しながらボールを循環させるベンタンクールだが、ロングパスの精度が低いわけでは決してない。というか、むしろ質が高い。正確なのはもちろんのこと、スピードがあって鋭いボールが蹴れる。
↓ 中盤の底から繰り出したロングスルーパスでアシストした場面
↓ 鋭いフィードでチャンスを演出した場面
さらに、ドリブルもベンタンクールの持ち味だ。プレスに来る相手をいなすドリブル、長い距離を持ち運ぶ推進力あふれるドリブル。いずれも頻度は高くないが、やるときは正確にやり切る。
- ドリブル成功率:71.4%(試行数5回以上に限定すればチーム内2位)
と精度の高さはデータも裏付けている。
加えて、ベンタンクールは利き足ではない左足でも正確にボールを操る。
〈使用率〉
- 右足:81%
- 左足:19%
と5回に1回は左足も用いている。これはプロ選手全体で見ても頻度が高い部類に入る。彼が抵抗なく左足を用いていることをデータが裏付けているわけだ。
足元のテクニックに優れ、パスにドリブルいずれもそつなくこなすベンタンクール。守備同様、万能性が高いプレーヤーだと言えそうだ。
↓ プレスに来る相手をいなしたあと、左足でサイドチェンジを送った場面。彼のプレス回避がチャンスにつながった。
まとめると、
- 中盤ならどこでもこなせるポリバレント性を持ち、
- プレッシングのスイッチ役として2度追いも辞さず、
- スライディングをはじめタックル技術が非常に高く、
- 予測力を活かした出足の良さでボールを刈りまくり、
- ショートパスを主体にした組み立てで潤滑油となり、
- テクニックレベルの高さを生かしたドリブルでアクセントをつける
中盤の選手に最低限求められる要素はハイレベルにこなせる、万能なプレーヤーとまとめられるのではないだろうか。近年は守備面が注目を集めているが、そもそものテクニックレベルが高いことも忘れてはならない。
ベンタンクールの伸びしろ
しかしながら、そのテクニックを最大限に活かしきれていないこともまた事実である。彼が才能を完全開花させるために伸ばすべき部分はどこなのか。
ひとつはプレスを受けたときの認知力だ。ベンタンクールはフリーでボールをを受けたときの展開力には長けているものの、強いプレッシャーにさらされると途端にミスが増えてしまう。これはテクニックの問題ではなく、状況把握能力の方に問題があるということだ。

たとえばこの場面。ベンタンクールの斜め前ではベルナルデスキが裏に走り出している。

しかし、プレッシャーにさらされたベンタンクールは近くの味方へのパスを選択、カットされてしまった。
先ほどベンタンクールは短いパスを多用する傾向にあると紹介したが、その一因にプレッシャー下で遠くまで状況が把握できていないことがあると思う。ベンタンクールはボールがない時に首を振っている回数が少なく、また体の向きもあまりよくない場面が散見される。そのため、認知が甘くなっているのだろう。
特に背後からプレスをかけられたときには極端に視野が狭くなり、判断が悪くなってしまう傾向にある。
↓ 背後からのプレスを受けたベンタンクールのパスミスから失点した場面
この場面のように、360度からのプレッシャーを受けやすいアンカーで起用された昨シーズンには不用意なボールロストが散見され、レジスタを担うには力不足なところを露呈してしまった。それが今夏のロカテッリ獲得につながっている。
資質は十二分にあるだけに、プレッシャーを受けてもあわてずにボールをさばくための準備力、相手が寄せてくる前にボールを動かすための状況認知をこまめに行うことでプレス耐性を上げていく必要があるだろう。ここが改善されれば、よりその展開力が活かされるはずだ。
2つ目がファイナルサードで攻撃の最終局面に関与する意識の希薄さだ。

ベンタンクールのゴール及びアシストに関するスタッツについて5大リーグのMFで比較しパーセンタイル表示したもの。いずれも非常に低い数値にとどまっているといえる。FBref.comより。
シュート数ひとつとっても、
〈シュート数〉
とベンタンクールは同ポジションのライバルたちの半分以下の数値になっている。
また、
- 枠内シュート率:12.5%
とシュート精度にも改善の余地がある。MFとしては意識・精度両面でミドルシュートにさらに磨きをかけたいところだ。
また、そもそもファイナルサードへ進出する回数が少ないことも課題だろう。
- キーパス数:8(チーム内11位)
- ペナルティエリア内へ届けたパス数:5(チーム内12位)
と、今季は特にファイナルサードで効果的に攻撃に絡むプレーが見られなくなっている。チームとして求められている役割の関係もあるとはいえ、カウンターの時に裏に飛び出してほしいところでボールホルダーの斜め下について足元に要求するような場面が多くみられるなど、積極性を欠いているといっていいと思う。
ちなみに、より攻撃的なインサイドハーフとして起用されていた19-20シーズンには7アシストを記録しており、そもそも攻撃センスが全くないわけではない。守備時のプレスの鋭さを見ても、前線へ飛び出すダイナミズムが不足しているわけでもないはずだ。
問題がテクニックでもフィジカルでもないとなれば、もうメンタルの問題ではないだろうか。
ここがコンテの元で改善されれば、ベンタンクールはさらにもう一皮むけることができるかもしれない。
あとがき
中盤すべてをこなせ、フィジカルにもテクニックにも恵まれている。守備は強度、技術ともに抜群。何でもそつなくこなせるのだが、すべてが少しずつ足りないような印象を受けるベンタンクール。いわゆる器用貧乏と言ったところだろうか。
停滞感を突き破り、もう一皮むけるためには環境を変えることが必要だったのかもしれない。
個人的には、彼の「いいヤツ」なパーソナリティーが成長のための障害になってしまっている印象を受ける。ドリブルでの持ち運びや前線への飛び出し、ミドルシュートと言ったファイナルサードでの貢献度が低いのは、自分が勝負を決めるんだというメンタリティーの欠如からきているのではないか。
いきなりアバウトな話になってしまったが、世界的に大成する選手はみないい意味でのエゴを持っているものであり、けっこうバカにできない要素である。バレッラを思い出してほしい。キエーザでもいい。彼ら突き抜けた選手には「ポジティブなエゴ」があるものだ。
ベンタンクールもそうしたメンタリティーを持てれば世界が変わるはず。そういう意味で、「鬼軍曹」コンテのもとでしごかれることが何かのきっかけになり得るかもしれない。
このまま強豪では主軸になり切れないまま終わってしまうか、それとも真のワールドクラスとして覚醒するのか。身体的にも技術的にも必要な資質はそろっているだけに、あとは本人次第だ。
新天地での奮闘に期待したい。
あわせて読みたい 関連記事
セリエA目次ページはこちらから
ユベントス関連の記事一覧はこちらから