【モロッコ産偽SB】ヌサイル・マズラウィのプレースタイルを徹底解剖!

【モロッコ産偽SB】ヌサイル・マズラウィのプレースタイルを徹底解剖!

2022年1月15日 2 投稿者: マツシタ
Pocket

現代サッカーにおいてサイドバックは最も多様化が進んでいるポジションといえる。従来のタッチライン際を上下動するタイプだけでなく、最終ラインに残って組み立てに参加したり、内に絞ってMF化するようなプレースタイルを持つ選手も出現しており、チームに応じてそのタスクは非常に多彩なものとなっている。

そんな現代のサイドバック事情を象徴するような選手がアヤックスにいる。24歳のモロッコ代表右SB、ヌサイル・マズラウィである。

 

マズラウィは当時まだ10歳にもなっていなかった2006年に加入して以来アヤックス一筋。2016年8月12日にヨング・アヤックスでプロデビューし、2018年2月5日のNACブレダ戦でトップチームデビューを果たしている。当時20歳であった。

その後正式にトップ昇格した18-19シーズンから28試合に出場するなどチームの中で地位を築いてきたマズラウィ。今季はエールディビジ18節のうち14試合に先発出場し4ゴール2アシストを決めるなど、主力として活躍している。

しかしながら、2022年6月で切れる契約を更新しておらず、このままいくとフリーでアヤックスを退団する運びとなる。当然各クラブはこぞって動向を注視。レアル&バルサのスペイン勢、ユベントスミランローマ、ナポリのイタリア勢をはじめ、アーセナルやバイエルンなど欧州中から獲得に関心を持たれている。

そんな、今注目の最先端サイドバック、ヌサイル・マズラウィはいかにしてアヤックスの不動の右サイドバックとなっているのか。今回は、そのプレースタイルを徹底的に掘り下げていきたい。




マズラウィのプレースタイル

 

ポジショニングセンスの高さが最大の持ち味

かつてサイドバックといえば、タッチライン際を上下動する走り屋だった。しかし、マズラウィはいわゆる古典的なサイドバックからは一線を画した人材だ。それは、彼のヒートマップを見ればよくわかる。

SofaScore.comより、マズラウィの今シーズンのヒートマップ。タッチライン際だけでなく、インサイドのゾーン(いわゆるハーフスペース)でのプレー頻度もとても高くなっている。

そう、マズラウィは状況に応じて内外、高低とポジションを使い分けられる極めてモダンなサイドバックなのである。

中でも特筆すべきなのが斜め前方に移動してインサイドにポジションする動き。この外→内の動きによってフリーとなり、相手のギャップに顔を出して縦パスを引き出すことでビルドアップの出口となるのだ。

相手アタッカーの背後からインサイドに侵入していくマズラウィ。

フリーなスペースに顔を出し、CBに対してパスコースを提供することに成功した。

パスを引き出し、ワンタッチで前を向いてスムーズにボールを中継。これがマズラウィの得意とするプレーだ。

↓ 当該場面の動画

 

データサイトFBref.comから興味深いデータを引用してみよう。

  • 縦パスレシーブ 37(21-22CL DFの中でトップ

そう、マズラウィは今季のCLで最も縦パスの受け手となったディフェンダーなのだ。ちなみに2位はマルコス・アロンソで縦パスレシーブ数は24。マズラウィはこれに1.5倍の差をつけての圧倒的トップである。彼がいかに高い位置をとっているか、そしていかに効果的なパスコースを提供できているかがよくわかる。

また、ただパスレシーブ数が多いだけでなく成功率も高いのが彼のいいところ。

  • パスレシーブ成功率 93.6%

という数値は、CLにおけるDFの縦パスレシーブ数という前述の指標においてトップ15に入っている選手の中で比較すると2番目に高い成功率になる。ただパスを受けられるだけでなく、そこからボールを失うことなく前線につないでいることがわかるだろう。




ウインガーとの連携も抜群

このインサイドに絞る立ち位置は、マズラウィ自身がパスの受け手となる効果以外にもウインガーをフリーにする効果もある。

マズラウィがインサイドに絞る動きに相手のウインガーが釣られれば、CBからアヤックスのウイングへの直接のパスコースが開通する。

このパスがウイングに通ったタイミングでインサイドを走り抜けるランニングもマズラウィの得意技。相手SBがウイングに釣られたことで広がったCBとのギャップを突く。ここまでがセットでパターン化されている。

実際の試合画像でも見てみよう。マズラウィがインサイドに絞る動きに相手のアタッカーが釣られた。これを見たウイングのアントニーはバックステップを踏んでパスコースを作り出し、パスを受けた。

このタイミングでマズラウィは縦へランニング。ウイングに釣られた相手SBとCBとの間に広がったスペースを突き、シュートにつなげている。

このように、自らがボールを受けるだけでなくウインガーを引き立てる能力にも長けたマズラウィ。偽SBとしての動きを習得し、ビルドアップの局面でキーマンとなっている。




高いテクニックでチャンスメイク

さらに、マズラウィは敵陣に侵入してからのプレーでも違いを生み出す。

彼の凄みはデータによく表れているので再びFBref.comからスタッツをピックアップしてみよう。

まずチェックしておきたいのはボールタッチに関するスタッツだ。

  • アタッキングサードでのボールタッチ数 156(CL全体の15位、DFでは3位
  • 敵陣ペナルティエリア内でのボールタッチ数 20(CL DF2位タイ

このように、アタッキングサードや敵陣ペナルティエリアでのボールタッチ数が非常に多くなっている。彼の高いポジション取りの成果ともいえるが、それ以上に常にボールを支配し相手を押し込んで戦うアヤックスのチームとしての色が濃く出ているスタッツだと読み取るべきだろう。

こうしたアヤックスの戦術的完成度の高さが、マズラウィの持ち味を最大限発揮するのを助けているという視点は持っておかなければならないだろう。

 

それを前提に置いたうえでさらにスタッツを見て見よう。

  • ドリブル突破総数 13(CL DF7位タイ
  • ドリブル突破成功数 8(CL DF7位タイ
  • ドリブルによるファイナルサード侵入 13(CL DF4位

このように、マズラウィはドリブルを得意としている稀有なディフェンダーだ。ウイングにパスを出すと見せかけてスッと持ち出し、相手をかわしてしまう。派手なフェイントを使うわけではないが、ぬるぬると相手を突破してしまう。

SofaScore.comよりリーグ戦に関するデータを引用してみると、

  • 1試合平均ドリブル成功数 1.6(チーム内2位タイ

とチーム屈指のドリブル成功数を誇る。彼のドリブルがアヤックスのパスサッカーにおいてアクセントになっていることは間違いない。

また、

  • 縦方向の運ぶドリブル 38(CL DF7位

と敵陣での突破するドリブルだけでなく、自陣から縦に持ち上がってボールを前進させるドリブルも効果的に用いていることは注目に値するだろう。ビルドアップと崩しの両局面で彼のドリブルはアヤックスの武器となっている。

 

さらに、相手を突破してからのパスにも余念がない。

  • 流れの中からのパスによるシュートクリエイト 10(CL DF5位
  • 1試合当たりキーパス数 1.6(CL チーム内3位

とチーム内でもトップクラスのキーパス数を記録しており、DFとしてはCL全体で見てもかなり多くのチャンスを作り出していることがわかる。グラウンダーと浮き球を使い分けるクロスボールに、裏に走り込む味方への冷静なラストパスなど多彩なパターンからチャンスを作り出している。

 

↓ マズラウィのテクニックレベルの高さがわかるシーン。ドリブルで対面の相手を剥がして突破した後、ルーレットで相手をかわしている。さらに、そこから得意のインナーラップを見せている。動きの連続性も素晴らしいポイントだ。




得点能力も高い

チームメイトに多くのチャンスを提供するマズラウィだが、自らの得点能力が非常に高いことも特筆すべき長所だ。しかも、その得点パターンは多岐にわたる

最も多いのはクロスボールに飛び込む形だ。

例のごとくインサイドに絞ってきているマズラウィ。この動きがゴールとの距離を近くし、得点に絡むプレーの源泉となっている。

タディッチが切り返した瞬間にファーサイドが空いていることを認知し走り込むマズラウィ。まんまとフリーでクロスに合わせた。このスペースを見つける戦術眼とオフ・ザ・ボールの走り込みのタイミングの感覚こそがマズラウィの得点力の秘訣だ。

↓ 当該場面の動画

 

↓ この場面のようなCBが前を向いたタイミングでの裏への飛び出しもマズラウィの得意技。足元がうまい選手がオフ・ザ・ボールの動きをサボらないというアヤックスの強みはマズラウィにも当てはまる。

 

↓ ミドルシュートによる得点も決めている。ただ、数試合追ったところシュート精度には改善の余地があるように見える。




対人守備でも持ち味を発揮

ここまではマズラウィの攻撃面を紹介してきたが、彼は守備時にもチームに貢献している。

例によってFBref.comよりデータを引用すると、

  • タックル勝利数 23(リーグ戦 チーム内2位
  • タックル勝利数 12(CL 全体の10位タイ、DFでは5位

リーグ戦でもCLでも非常に多くのタックル勝利数を記録していることがよくわかる。

特に背中を向けた相手に対する守備は非常にうまい印象。すぐさま距離を詰め、相手とボールが離れた一瞬の隙をついて長い足を伸ばしボールをからめとる。タックル数のわりにファウルが少ないことも彼のタックル技術の高さを物語っている。

さらに、ここで注目したいのはタックルが行われているエリアだ。

  • ミドルサードでのタックル数 10(CL3位タイ、DFトップタイ

彼の守備アクションは自陣ではなく、主にミドルサードで行われているのだ。

彼のタックル勝利数の多さの秘訣は攻撃時の高めかつ絞り気味の立ち位置にある。ここにポジションすることで陣形を圧縮することができるのだ。もっとも外側に立っている相手選手に対してプレスをかけるマズラウィの役割は重要。ここで外されてしまうと密集から脱出されてしまうからだ。

常にボールを握って戦うというアヤックスの戦術において、マズラウィの仕事は非常に重要である。彼がファーストディフェンダーとしてボールを奪いきれるこそ、アヤックスの戦術が実現しているのだ。

 

まとめると、

  • インサイドに絞るポジショニングによって縦パスの受け手として機能し、
  • ウインガーを引き立てるポジショニングやランニングを得意とし、
  • ドリブルやラストパスで攻撃の最終局面にも関与でき、
  • 得点能力も高く、
  • 背中を向けた相手からボールを奪う技術が高く、
  • ネガティブトランジション時の即時奪回で重要な役割を担う

彼個人の能力値の高さもあるが、それ以上にアヤックスの戦術上で欠かせない選手という印象が強いマズラウィ。やっていることはほとんどウインガーのそれであり、超攻撃的サイドバックだといえるだろう。




マズラウィの伸びしろ

それでは、マズラウィの伸びしろはどこにあるのか。

さきほど背中を向けた相手に対する守備を長所として挙げたが、相手に前を向かれたときの守備対応には不安が残る。距離の詰め方、タックルに入るタイミングなどはまだまだ発展途上という印象。逆にペナルティエリア内ではあわててしまって丁寧さを欠いており、CLではグループステージの6試合で2つのPKを献上してしまっている。

また、守備では戦術面でもかなり未熟だ。組織の一員として機能するための判断やポジショニング、準備等においてまだまだ改善点がみられる。

ここからは画像を使って説明しよう。

この場面で、マズラウィは対面のウインガーをマークしている。

これを見た相手選手がCBとのギャップに侵入してきた。セオリー通りに行けば、マズラウィは自分のマークを捨ててより危険なインサイドのスペースをケアするべきだが、彼はマークを捨てずにそのまま外側に立っている。

最終的に侵入してきた相手MFにボールが渡ってしまい、決定機を献上した。この状態になってもマズラウィは棒立ち状態である。

 

同じ試合の別の場面、サイドで味方が突破されようとしているにもかかわらず、マズラウィはジョギングしている。マズラウィよりもひとつ遠い位置にいるDF(赤い楕円で示した)が危険を察知してカバーリングに向かっているにも関わらず、それとは対照的だ。

結果、味方が完全にかわされてからあわてて対応したものの、間に合わずにシュートを打たれている。

このように、自陣でのディフェンスでは全面的に改善点だらけである。攻撃的サイドバックにありがちな現象ではあるが、今後別のクラブに移籍するのであれば要改善だろう。

 

また、怪我の多さも気になるところだ。

transfermarkt.comより、マズラウィの負傷歴。現在も太もものケガで離脱中で、モロッコ代表としてのアフリカネイションズカップ参加を逃している。

183cm63kgとサッカー選手としてはかなり細身なマズラウィ。ストレングスについては全体的に不足しているように見える。フィジカル面でもまだまだ伸びしろがあるのではないだろうか。




あとがき

常にボールを握って敵陣で試合を進め、ボールを失えばすぐに奪い返し、自陣で守ることはしない。そんなアヤックスという特殊な環境に、いい意味でも悪い意味でも最適化されているのがマズラウィである。

ゆえに、他クラブに移籍する場合、最初は適応のための時間を要することは十分に考えられる。

本記事の序盤でも紹介したように、このままだと来夏フリーでアヤックスを退団することになるマズラウィ。オランダを飛び出し、異なる舞台での挑戦に挑むことは既定路線である。ここで新たな環境に適応できるかどうかは彼のキャリアを左右する分岐点となるだろう。

個人的には、ぜひ守備面も改善して世界に名を馳せるサイドバックになってほしい。彼ほどの攻撃性能を誇るディフェンダーは世界広しといえどそうはいない。ダニ・アウベスのようなプレーヤーとして大成してくれることを期待してこの記事の結びとしたい。

 

 

あわせて読みたい 関連記事

【円熟の超万能アタッカー】ドゥシャン・タディッチのプレースタイルを徹底解剖!