【円熟の超万能アタッカー】ドゥシャン・タディッチのプレースタイルを徹底解剖!

【円熟の超万能アタッカー】ドゥシャン・タディッチのプレースタイルを徹底解剖!

2022年1月8日 1 投稿者: マツシタ
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18-19シーズンにCLベスト4まで勝ち上がったことが記憶に新しいアヤックス。当時のメンバーは欧州中に散り散りとなり、各地で戦っている。今季のアヤックスはその18-19をも上回る完成度ともささやかれているが、当時とはほとんど別のチームになっている。

そんなアヤックスにあって、18-19から主力としてチームを支え続けている選手がいる。32歳のセルビア代表アタッカー、ドゥシャン・タディッチだ。

 

タディッチは母国セルビアのクラブ、FKヴォイヴォディナでプロデビュー。4シーズンでリーグ戦107試合29ゴールと当時20歳にして驚異的な数字を記録した。

その後オランダのフローニンヘンへ移籍、リーグ戦68試合で14ゴール24アシストを記録。特に加入初年度だった10-11シーズンには欧州全体で3番目に多いアシスト数を記録(1位はエジル、2位はメッシだった)するなど一気に注目を集める存在となった。

その後トゥベンテを経てプレミアリーグのサウサンプトンにステップアップしたタディッチはイングランドでも4シーズンでリーグ戦134試合21ゴール28アシストと主力として活躍し続けた。

そして2018年夏、30歳を目前に控えたタディッチはアヤックス移籍を決断した。キャリアの晩年に向けて、勝手知ったるオランダの地にキャリアの幕を引きに帰ってきた。そう見れなくもない移籍だった。しかし、彼の全盛期はここから始まるのだった。

加入初年度からクラブをCLベスト4&5シーズンぶりのリーグ優勝に導くと、以降も主力として活躍し続けリーグ戦とヨーロッパカップ戦の通算72ゴール69アシストと異次元の数字を記録しているのだ。

 

デリフト退団後はキャプテンマークを巻くなど精神的支柱としてもクラブになくてはならない存在となっているタディッチ。彼は一体どんなプレーヤーなのか、徹底的に掘り下げていきたい。




タディッチのプレースタイル

 

高精度の左足

キャリア紹介のところでしつこく触れたとおり、タディッチは得点に絡む能力が極めて高いプレーヤーだ。ゴールもアシストも両方ハイレベルである。

アヤックスにやってきてからの数字をもう一度見てみよう(リーグ戦+ヨーロッパカップ戦の通算)。

  • 18-19:34ゴール17アシスト
  • 19-20:11ゴール17アシスト
  • 20-21:19ゴール23アシスト

とんでもない数字である。ゴールとアシストの合計数は、加入後3シーズン連続でエールディビジトップを独占し続けている(ちなみに今季もここまで同スタッツでトップ)。

5大リーグ外とはいえ、ここまでの数字をコンスタントに出し続けられる選手はそう多くはいないはずだ。ワールドクラスのアタッカーだと言い切っていいはずだ。

 

彼の結果に直結するプレーを支えているのは、なんといっても正確無比な左足だ。彼のキックは精度が高いだけでなく非常にバリエーションが豊富である。ふわっと裏のスペースに落とすパスから鋭いクロスボールにミドルシュート、ライナー性のサイドチェンジまで使いこなす。

さらに、視野の広さもハイレベル。フリーでいる味方やストライカーの動き出しを見逃さず、そこへ正確にラストパスを届ける。

 

様々なデータサイトを見ると、彼が今季のCLでのベスト・チャンスメーカーであることが示されている。これも、彼の正確な左足&視野の広さからくるチャンスメイキング能力の高さを裏付けているといえる。

  • 90分当たりキーパス数(SofaScore.comより):4.0(21-22 CLトップ
  • SCA(シュートクリエイティングアクションの略、FBref.comより):34(21-22 CL2位
  • 流れの中のパスからのSCA(FBref.comより):28(21-22 CLトップ

 

↓ CLグループリーグ第2節ベシクタシュ戦、タディッチは左サイドからドリブルで切り込んでペナルティエリア内に侵入すると、冷静にラストパスを通してベルフハイスの先制ゴールをアシストして見せた。

 

↓ エールディビジ第10節PSV戦、タディッチは左サイドを抜け出すと走り込んだベルフハイスの足元に鋭く正確なボールを届けてアシストして見せた。これはタディッチの得意技だ。

 

↓ エールディビジ第9節ヘーレンフェーン戦、タディッチは左サイドからのふわっとしたクロスボールでアシストして見せた。このように、フリーの味方を見逃さない視野の広さがタディッチの武器である。




得点能力も高い

今季は左サイドで起用されることが多いためチャンスメーカーとしての色合いを濃くしているタディッチだが、本来は得点能力も極めて高いプレーヤーである。

特筆すべきは得点パターンの豊富さだ。最も得意なのが強烈な左足を活かしたミドルシュート。相手を抜ききらずに少しボールをずらしてシュートコースを作り出し、四隅を射抜く。彼の特性を最も生かしたシュートだ。

 

↓ 18-19のCLレアル・マドリード戦で決めた見事なミドル。

 

相手GKと1対1になれば冷静にループで決めるのが十八番。パワーシュートだけでなく繊細なタッチも兼ね備えるタディッチならではのプレーだ。

 

↓ 相手GKとの1対1をループで制して決めた得点シーン。

 

さらに、タディッチは左足だけでなく右足もそん色なく使える。FBref.comによると、左足使用率は79%。5回に1回は右足を使っていると考えると、彼が左足だけに固執するプレーヤーでないことがわかるはずだ。実際、右足による得点を数多く決めている。

 

↓ 右足で決めた見事なミドルシュート。

 

また、タディッチはセットプレーのキッカーとしても優秀だ。特にPKは名人級で、アヤックスに移籍してきてからすでにPKだけで27点も挙げている。直接フリーキック、コーナーキックを含めて、彼のキック精度はセットプレーでも活かされているのだ。

 

このように、得点・アシストいずれも多彩な形からゴールに絡めるタディッチ。そのプレーの幅広さから、様々なポジションに対応できる点も魅力だ。今季は左ウイングで起用されているが、18-19シーズンでは最前線で起用されていた。他にもトップ下や右サイドにも対応可能で、前線ならどこでもプレーできるポリバレントなタレントだ。

優れたテクニックとインテリジェンスはもちろんのこと、恵まれたフィジカル能力もタディッチのポリバレント性を支えている。181cm76kgと理想的な体格をしており、相手を背負ってのボールキープを得意としている。しっかり相手を抑え込んで前に入らせず、最前線で起点になれる。ウイングタイプの選手を最前線で使うと偽9番のようになりがちだが、タディッチはいわゆるストライカーらしい仕事にも問題なく対応できる。それは、必要なフィジカル的要素を備えていればこそだ。

さらに、タディッチは相手を背負いながら背後を認知する能力にも優れ、相手ゴールに背中を向けていても決定的な仕事ができる稀有な選手だ。振り向きざまのスルーパスやシュート、後ろを向いたままのヒールパスなどを駆使して0から1を生み出す。ここらへんはテクニックと恵まれたフィジカルが融合したタディッチならではのプレーだといえるだろう。

 

↓ 相手を背負った状態から相手の逆を突いてターンし右足で得点を奪ったシーン。




オフ・ザ・ボールの駆け引きが最大の持ち味だ

このように、ボールスキルに優れ、多彩なプレーオプションを持つタディッチ。こうした技巧派な選手は、えてしてオフ・ザ・ボールの駆け引きを苦手にしていることが多い。

しかし、タディッチはこの限りではない。彼はボールを受けるための駆け引きを常に繰り返せる、インテリジェンスを兼ね備えた技巧派なのだ。

相手の前に入って背負い、足元にボールを要求したかと思えば、ここぞのタイミングで裏に飛び出してラインブレイクする。タディッチは特別足が速い選手ではないため、タイミングをうまく合わせないと裏を取ることはできない。この感覚が研ぎ澄まされている。

逆サイドからクロスボールが上がってくるときには、素早くスペースを読み取ってフリーで合わせる。これがタディッチのお得意の得点パターンのひとつになっている。

さらに、そうした動きを得点を奪うためだけでなく、味方を活かすために行えるのもタディッチの強み。ひとつひとつの動きを組織の連動性の文脈に置けるインテリジェンスがタディッチを特別な選手たらしめているといえる。

CL GL第5節ベシクタシュ戦、タディッチはボールの横移動に合わせてインサイドからアウトサイドへと開く。この動きに相手のサイドバックが釣られ、CBとの間にギャップが生まれる。

このギャップにサイドバックが侵入、CBもこれを見逃さずスルーパスを通して得点につながる決定機を迎えた。

この場面のように、自分がボールを受けるための動きだけでなく味方にボールを受けさせるための動きを使いこなせるのがタディッチの強み。非常にクレバーな選手である。

 

このように、足元のテクニックに絶対の自信を備えているにもかかわらず、ボールを引き出すための駆け引きも欠かさない。これがタディッチの得点関与率の高さにつながっている。

これはタディッチに限った話ではない。足元がめちゃくちゃうまい選手が、オフ・ザ・ボールの動きをサボらない。これがアヤックスの強さの根本にあるというのが個人的な見解だ。

 

まとめると、

  • 左足のキックは精密かつバリエーションが豊富で、
  • 得点、アシストともにひとつの型に縛られない柔軟性を持ち、
  • 前線ならどのポジション・役割にも対応するポリバレント性を持ち、
  • 右足も問題なく使いこなし、
  • オフ・ザ・ボールの駆け引きを駆使して組織の中で機能するクレバーさも持ち合わせる

攻撃面でこれといった弱点が見当たらない万能アタッカーである。欧州5大リーグでCL常連クラスのメガクラブでプレーしなかったのが不思議なほどのタレントだと思う。ライバルに先んじで彼を引き抜いてきたアヤックスのスカウトをほめるべきなのかもしれない。




タディッチの伸びしろ

そんなタディッチに伸びしろは残されているのだろうか。

個人的には、今のタディッチは持っている能力をフルマックスで発揮している状態だと思う。それは、彼自身の能力もそうだし、アヤックスのスタイルとの相性の良さもそうだ。

タディッチの弱点は2つある。ひとつめは身長のわりに空中戦に弱いことだ。データサイトFBref.comによると、

 

〈空中戦勝率〉

  • エールディビジ   :26.3%
  • チャンピオンズリーグ:25.0%

 

と180cm台のアタッカーとしてはかなり低い水準になっている。ただ、そんな彼の弱点もショートかつグラウンダーのパスを主体とする今のアヤックスのスタイルでは大きな問題にはならない。

もうひとつが先ほども触れたトップスプリントの遅さ。ただ、これも自分たちが試合を支配して戦い、ロングカウンターのような長距離のスプリント能力を求められる場面を想定していないアヤックスのスタイルでは大きな問題にはならないはずだ。

 

このように、アヤックスにとってタディッチが不可欠なのと同様に、タディッチにとってもアヤックスは自らの長所を引き出しつつ弱みをうまく隠してくれる、理想的な環境なのだ。

テクニックとインテリジェンスを兼ね備えるタディッチは、多少フィジカルが衰えても十分やっていけるだろう。このままアヤックスにとどまり続けるのならば、晩年までゴールとアシストを量産していくのではないだろうか。




あとがき

チャンピオンズリーグではダークホースとしての呼び声も高いアヤックス。彼らは今季どこまで行くのだろうか。上位進出のためには、攻撃の中心であり先進的支柱でもあるタディッチの存在が欠かせないだろう。

2021年11月、タディッチはセルビア代表の一員としてカタールワールドカップ出場を決めた。最終戦でライバルのポルトガルに対してアウェーで逆転勝利を収めての劇的な終幕だった。

この試合で、タディッチは1ゴール1アシストと全ゴールに関与。文字通りチームをW杯出場に導いた立役者である。アヤックス同様セルビア代表でもキャプテンマークを巻くタディッチは、チームの絶対的支柱だ。

セルビア代表には今話題のストライカー、ドゥシャン・ヴィラホヴィッチや個人的にセリエAのベストMFだと思っているセルゲイ・ミリンコビッチ=サビッチ、ブンデスのアシストマシン、フィリップ・コスティッチなど注目のタレントを擁するダークホース候補である。

セルビア代表を、そしてヤングアヤックスをどこまで導けるのか。2022年はタディッチの動向から目が離せない。

 

 

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