【新たな挑戦は道半ば】ACミランの攻撃戦術を徹底詳解!

【新たな挑戦は道半ば】ACミランの攻撃戦術を徹底詳解!

2021年12月19日 2 投稿者: マツシタ
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セリエAも前半戦が終わろうとしている。ACミランは現在首位インテルを勝ち点4差で追う2位。冬の王者に輝いた昨季同様、今季もスクデットを十分狙える位置につけている。

しかし、直近6試合で3勝1分け2敗と停滞気味であることも確か。序盤にナポリとともに独走していたころからは陰りが見られている。特に、この6試合で失点が9と急増しているのは気がかりだ。

その大きな要因になっているのが不安定なビルドアップである。イタリア紙『La Gazzetta dello Sport』によると、欧州の中で11月から最もミスによる失点を献上したクラブであるというミラン。彼らの課題はどこにあるのか。

今回はACミランの攻撃戦術について、ビルドアップを中心に掘り下げていこうと思う。




フォーメーション

 

 

ビルドアップ

 

ポジショナルへ舵を切った

直近6試合で調子を落としていると紹介したが、これには理由がある。11節ローマ戦とそれ以前では戦術に変化があったのだ。

最近のミランはビルドアップ時3-1-5-1、もしくは1トップも2列目に組み込まれた3-1-6の陣形を採用している。

 

きっかけは重心を落として守ってくるローマへの対抗策としてポジショナルな配置で戦うことを選択したことだと思う。見事に勝利したピオーリはこのやり方に手応えを感じたのだろう。以降の試合でもこのやり方を踏襲、ポジショナルなスタイルへ舵を切ろうとしているように見える。

 

ビルドアップの中心となるのは3-1の後方ユニットCBとボランチの4人がこの形を作る

このとき、誰がどこに立ってもいいという原則になっているのがピオーリらしい。高い位置からアグレッシブにプレスに出るミランゆえ、攻守が切り替わった時にも形が崩れていることが多い。ここから攻撃陣形への移行をスムーズにする上で、縛りをゆるめているのは合理的だし、ピオーリらしいところだ。




配置はポジショナルだが前進は属人的

問題はここからだ。

この後方ユニットと前線6枚とがかなり分断されてしまっているのである。

セリエA公式サイトより、ジェノア戦とウディネーゼ戦におけるミランの選手たちのボール保持時の平均ポジション。前線の6枚がほぼ横並びとなり、前後が分断されてしまっていることがわかると思う。特にCBとSBとの距離が大きく開いてしまっていることに注目だ。

サッスオーロ戦の失点シーン。バカヨコの縦パスをカットされてカウンターを食らったわけだが、画面内に2枚しかサポートがない上、距離も遠いことがわかると思う。ミスしているのはバカヨコなのだが、サポート側にも問題はある。つまり、チーム全体でみた配置構造の設計の甘さに根本的な原因があるということだ。

それでも、最初のうちはこの問題をうまく誤魔化しながらやっていた。一体どうしていたのか。

ひとつはロングフィードである。前後が分断されて中継役がいないなら、その2つを直接つないでしまえばいいという発想だ。

実際、縦への速さはピオーリミランの一貫した特徴だ。

  • オフサイド総数 39(セリエA2位
  • スルーボール 20(セリエAトップ)※ディフェンスライン背後のオープンスペースへ出され、通ったパス

と裏のスペースへどんどんボールを送り込み、攻撃を加速させる。

 

ここにおいて重要な役割を担っていた2人がアンテ・レビッチとシモン・ケアーである。

レビッチは広範囲に動けるダイナミックなFWで、中央を締められてもサイド裏に流れて起点になれる。縦パスを引き出すことに関して一流のストライカーだ。

ただ、彼の穴はイブラヒモビッチの復帰によって多少なりとも埋め合わせられている。レビッチほど広範囲に動くことはないが、

  • パスレシーブ成功率:69.8%

という数字はセンターフォワードタイプとしてはリーグトップ。ロングボールを収める能力において異次元の存在である。イブラがいるいないで攻撃の起点のでき方が違うという巷の意見は間違いではないだろう。

 

レビッチよりも痛いのはケアーの離脱だ。

  • 90分あたりロングボール成功数:3.0(チーム内2位
  • スルーボール:3(セリエA7位

鋭く正確なロングフィードは彼の唯一無二の武器。注目すべきはスルーボールの多さ。この数字はセリエAのCBとしてトップである。

ケアーのフィードは最終ラインから一気に決定機を作り出してしまう飛び道具であるということ。これによって前後分断問題はは包み隠されたばかりか、むしろ強みでさえあった。

9節ボローニャ戦においてケアーがボールを持っている場面。ここでも前後分断が発生していることがわかる。効果的なパスコースを作り出せておらず、普通ならひとつ横にしか選択肢がないのだが…

ケアーは前線で走り出した選手へのロングボールを選択。

飛び出したアタッカーが後ろから倒され、相手DFにレッドカード。チームの粗を個人技でひっくり返してしまったスーパープレーである。

 

相手が引いて守ってくるためにロングボールが効果的でない場合はどうするのか。2列目のアタッカーのドリブルである。

  • ドリブル総数:326(セリエAトップ
  • ドリブル成功数:191(セリエAトップ
  • ドリブルによってかわした人数:210(セリエAトップ

ミランはドリブルに関するデータでセリエAのトップを独占している。特に、ドリブルでかわした人数に関しては2位ウディネーゼの179に大差をつけてのダントツトップである。ドリブルが重要なチャンスメイクの手段になっていることがわかる。

特に別格なのがラファエウ・レオン

  • ドリブル突破成功数:36(セリエA2位
  • ドリブルによってかわした選手数:39(セリエAトップ
  • 縦方向のキャリー:112(セリエA5位
  • キャリーによるペナルティエリアへの侵入:26(セリエA2位

ドリブルに関するスタッツは軒並みリーグで5位以内に入っているドリブルモンスターだ。昨季まではオープンスペースでのスピードに乗ったドリブルで猛威を振るう印象が強かったが、今季は狭いスペースでも簡単に2人、3人かわしてしまう。彼に預けてしまえば何とかしてくれるわけだ。彼の個人能力への依存度はかなり高まっていたといえる。

その彼が抜けたことでチームとしての構造の粗さが露見してしまったわけだ。

先ほど紹介したように、ミランはビルドアップ時に3バックの両サイドとウイング化するSBとの距離がとても遠くなる。この間のスペースに2列目の選手が斜めに下りてきてボールを受け、ドリブルで運んでもらうというのがひとつのパターンになっている。

ただ、こうなるとインサイドに選択肢が無くなってしまうという問題がある。中央はきっちり守られているため、たいていの場合ワイドに張っているSBに素直にパスを出す。ただ、その先に選択肢がなく、結局バックパスで攻撃をやり直し…このパターンがめちゃくちゃ多い。この構造の粗をごまかしていたのはサポートなしでも打開してしまうレオンの存在だった。

 

つまりはこういうことだ。ポジショナルな配置をとるミランがだが、チームとして組織的にパスを回して相手のプレスを打開する、みたいな場面は実はそんなに多くはない。むしろ前進の手段は最終ラインからのロングボール、もしくは2列目の選手たちのドリブルによる局面打開である。つまり、個人個人の能力値の高さが求められるということ。

その中で異彩を放っていた右のケアーに左のレオン、彼らが負傷離脱してしまったことで個人への依存度の高さが露見した。これがミランの現状だと思う。

負傷離脱による影響が大きいと言っては元も子もないのだが、選手が離脱してもぶれないだけのベースを組織としてつくりこめていなかったことに問題があるのではないか。




パスの受け方が悪くなってしまう問題も

また、前線にが手を張りすぎることによって起こっている問題がもう一つある。それは、後ろ向きにボールを受ける場面が頻発してしまうことである。

ジェノア戦でプレスにはめられてしまっている場面。ミランの選手がみんな後ろ向きになってしまっていることがわかると思う。

昨日投稿したエラス・ヴェローナの戦術分析において、後方から追い越すランニングの重要性を解説した。しかし、ミランではそうした場面が見られなくなってしまっている。前線に人数を多くさき、足りない分をここから降ろす設計になっているからだ。後ろ向きに下がっていくから体の向きが悪くなる。相手も当然勢いをもって寄せられる。

この問題も、相手の勢いを逆手にとってかわしてしまうことで誤魔化せている場面も少なくない

先ほどのジェノア戦の場面の続き。後ろ向きでボールを受け、強い圧力にさらされたクルニッチはしかし、ヒールパスによって後ろにボールを流し、プレスを打開してしまった。これを拾ったテオの持ち上がりからミランの3点目が生まれている。

この場面も同様。ヴェネツィア戦、後ろ向きに引いてくるサーレマーケルスに相手が狙いを定めているが…

その勢いを逆利用し、かわしてしまった。ここからミランの2点目が生まれている。このように、アタッカーたちのスーパープレーによって誤魔化せている場面が少なくないものの、よく見ればボールの受け方がよくない場面がとても多いのだ。

ここまではチームの構造上の観点から説明してきたけれど、もっとシンプルに各選手のポジション取りに対する意識の低さがそもそもの問題だといってもいいかもしれない。ポジションが高すぎてパスコースが消されてしまっていたり、あと数歩ステップすれば余裕を持って次のプレーを選択できるところをサボってしまっていたり…。こうした細かい動きについての意識がチーム全体で低いのだ。

フィオレンティーナ戦で4失点目につながった場面。テオは最終ラインで後ろ向きにボールを受けてしまい、寄せられてボールを奪われた。

パスを受ける前に数歩ステップを踏んで相手から距離をとるだけで、前向きにボールを受けられるはず。こうした細かい動きをサボってしまうのはテオの今後に向けた大きな課題である。

こうした細かい動きを徹底できていないのは、ピオーリミランに共通してみられる課題。ここら辺は少し声掛けをして意識が変わりさえすれば解決する些細な(だが大きな)問題だけに、もったいないなぁと感じるところだ。

3節ラツィオ戦でも同様にボールの受け方の悪さから迎えたピンチシーンが。ローマ戦での戦術変更以前からずっと見られていた問題なのだ。今はそれが見えやすくなっているに過ぎない。




活用しきれていない資源はまだある

もったいないと言えばもうひとつ。メニャンという欧州屈指のテクニックを誇るGKを活用しきれていないことが本当にもったいないと思う。

先ほどのフィオレンティーナ戦の失点シーンの続き。奥でGK(ここではタタルサヌ)が手を広げているものの、テオは無理をして前を向こうとし、奪われる。このような「GKにバックパスすればよくない⁉」と言いたくなる場面がこれまためちゃくちゃ多いのがミランである。

メニャンは左右両足に高いテクニックを備える上、キックのレンジも広い。ロングボールを相手最終ラインの裏に一気に送り込んで決定機を作ってしまう場面だってある(開幕節サンプドリア戦のゴールはそうして生まれた)。ふわっとしたパスからライナーの鋭いフィード、グラウンダーのパスまで球種も豊富だ。

大げさに言ってしまえば、トモリやロマニョーリにフィードさせるよりメニャンにフィードさせた方がいいボールが供給できるのではないかと思ってしまうくらいだ。

彼ほど足元に恵まれたGKは、世界広しと言えども10人もいないのではないか。世界屈指のタレントを活かさない手はないだけに、もったいないと感じてしまう。

彼をビルドアップに組み込むだけでも安定感が変わるように見えるが、果たしてどう出るか、ピオーリ。




崩し

ビルドアップ問題に切り込んだところで、軽くフィニッシュの局面についても見てみよう。

  • ゴール期待値 28.3(セリエA4位

とリーグでも屈指のチャンスクリエイトを誇るミラン。その攻撃力は非常に高いといえる。

特に素晴らしいのは得点パターンの豊富さだ。

  • ペナルティエリア外からのクロスボール:53(セリエA2位
  • クロス総数:205(セリエA6位
  • 守備アクションからのシュート:15(セリエAトップタイ
  • SCAドリブル:27(セリエA2位)※SCA(Shot Create Action)はシュートを生み出したアクションのこと。

引いた相手をクロスによって強引にこじ開けることもできれば、高い位置でボールを奪ってのカウンターにも迫力がある。ドリブルや中央での連携などアタッカーの即興的な個人技からも点が取れる。セットプレーからも多くゴールを奪っていて、直接フリーキックにコーナーキックまで得点パターンは多種多彩である。

また、得点者の多さもミランの特徴。イブラヒモビッチがここまで7ゴールでチームトップだが、リーグ全体で見れば9位に過ぎない。トップのヴラホビッチの半分以下である。その代わりここまで14人がゴールを挙げており、これはインテルに次いで2番目の多さ。どこからでも点が取れることはミランの強みだ。

これだけまんべんなく多くのパターンから、多くの選手が得点が奪えているチームはミランだけだと思う。インテルと並んでここまでのリーグ戦で一度も無得点に終わった試合がないのも納得だ。

それぞれのパターンについて細かく掘り下げると記事の長さがすごくなってしまうし、個人的に時間もないので別の機会に譲りたい。各選手の紹介記事にて、少しずつ書いて行くつもりだ。




あとがき ~率直なピオーリ評~

あとがきにかえて、私の率直なピオーリ評をお話ししようと思う。

ここまで見てきた通り、ピオーリはチームとしての完成度を高め、選手の能力値の合計に組織としての連動性をプラスするという要素は低いと思う。この記事で見てきたように、細かい立ち位置やボールの受け方について突き詰めてつくり込んでいるような印象は薄い。

彼の持ち味はそこにはなくて、組織としての縛りを緩めた上で選手に自由を与え、各選手の能力を最大限に引き出せるように個性を足し算し、整える。この調整力こそピオーリの魅力だと思う。

組織として詰めすぎないことでエラーも多く発生してしまうのだが、そこは選手個々の力で埋め合わせることを要求する。

選手の能力を引き出す能力の高さ、多少のエラーを許容しそこを個人で埋めることを求めるスタイル。選手が成長するサッカーをする監督だといえると思う。

これは先日ウディネーゼを退任したゴッティ監督にも感じたことで、チームとしての完成度を高めすぎないことでそれを埋めるために選手たちの個人能力が急成長することがある。これもまたサッカーの奥深いところだ。

ただ、これは選手の能力に依存することと表裏一体。特に能力が高い選手への依存度はどんどん高くなる。今季のミランでいえばそれはイブラでありレオン、トナーリ、そしてケアーにトモリなどがそうだろう。ウディネーゼでいえばデパウルがそうだった。彼らが抜ければ当然被害は甚大なわけだ。そして、ミランはけが人が特に多いクラブ。それによって個人技という隠れ蓑が外れた結果、組織の粗が露見する。そうして停滞する時期が表れてくるわけだ。個人能力に頼るサッカーの弊害と言えるだろう。

ただ、ピオーリの素晴らしいところは戦術的な引き出しがとても多いことだ。ひとつのやり方で停滞したら、細かいところにメスを入れて突き詰めるのではなくすぐさま次の手を打つ。昨季も前線の4枚のアタッカーが極めて流動的にポジションを入れ替える「4シャドー」システムを導入し、終盤に一気に盛り返してCL出場権獲得に導いている。この柔軟性と幅の広さもピオーリの持ち味だと思う。

ただし、もしミランがCLで上位を争うレベルにまでチームを持っていきたいのであれば、個人能力が欧州トップクラスの選手を11人そろえる、もしくはピオーリがよりチームとして細かいところまで整えられる監督に成長する、のどちらかが必要になる気がする。まあ監督に限らず経営方針自体、どこかでビッグクラブ路線に舵を切るタイミングが来るのではないだろうか。

ただ、それは今ではないだろう。若手を獲得してきて成長させるという明確なプランを打ち出す現在のミランにおいて、ピオーリはそのプランに合致する監督だといえる。彼の冒険はまだ続いて行くはずだ。

という意味において、細かいところまで突き詰めなければ機能しないポジショナルプレーはピオーリの最大の魅力とは相反する。ピオーリはいずれポジショナルプレーを切り上げて新機軸を打ち出し、再びチームを軌道に乗せるのではないか。それが今夜のナポリ戦になるのかどうか。ミランがどう出るかという点でも注目の一戦だ。




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