【殴り合い上等!】エラス・ヴェローナの戦術を徹底詳解!

【殴り合い上等!】エラス・ヴェローナの戦術を徹底詳解!

2021年12月18日 3 投稿者: マツシタ
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毎シーズン、監督交代を機に一気に上昇気流に乗って順位を上げてくるクラブが現れる。今季でいえば、エラス・ヴェローナだ。

15-16に最下位でセリエBに降格して以降、1年ごとに昇降格を繰り返していたヴェローナ。19-20シーズンも昇格組としてセリエAの舞台に乗り込んできた。しかしながら、いきなり9位と1桁フィニッシュを達成すると、翌シーズンも10位。セリエAの中位グループの一角としての地位を確立しつつあった。

そんな中、最大の功労者であるイバン・ユリッチ監督がシーズン終了後にトリノに引き抜かれた。ここからさらに上位陣に肉薄していくようなクラブになるのか、それともまたセリエAでは下位を争うようなクラブに逆戻りしてしまうのか。そんな分岐点に立ちながら今季を迎えた。

注目のシーズン立ち上がりは3連敗で幕を開ける最悪のスタート。結局ユリッチの魔力だったのか…。そんな考えが頭をよぎった。

しかし、開幕3試合で早々にエウゼビオ・ディ・フランチェスコを解任したフロントの素早い決断と、後任のイゴール・トゥドールの素晴らしい修正力でヴェローナはV字回復。以後6勝5分け、負けはわずかに3だ。

それも、いわゆる7強との6試合を3勝1分2敗で乗り切っているのだから強さは本物。ここから着実に勝ち点を積んでいければ、最終的には欧州カップ戦の出場権争いに食い込んでくる可能性すらあるかもしれない。

いま最もアツいプロビンチャであるエラス・ヴェローナ。一体どんなスタイルで旋風を巻き起こしているのか。徹底的に掘り下げていきたい。

 

 

主要メンバー

シーズン開幕当初はパンドゥルが先発していたGKにはモンティポが定着している。

CBはチェッケリーニ、ギュンター、ダビドビチ、マニャーニの4枚で回すのが基本。両WBはラゾビッチ&ファラオーニが主力で、両サイドをこなせるカサーレが入ってローテーションしている。シュタロは途中投入が多い。

ボランチは司令塔タイプのヴェローゾ、イリッチ+移動範囲が広く攻守に絡めるタメゼ、ホングラでコンビを組む。

3トップはカプラーリ、バラク、シメオネが鉄板だ。




昨季からの変化

今季と昨季のヴェローナの得点・失点成績をざっと比較してみよう。

  • 昨季 46得点(セリエA15位)、48失点(セリエA6位
  • 今季 33得点(セリエA5位)、30失点(セリエA14位)※第17節終了時点

昨季は得点力は不足気味だったものの、堅い守備でそれを補っていた。対して、今季は失点数が多くなっている(ここまででクリーンシートがわずかに1試合しかない)ものの、それをセリエA屈指の得点力で埋め合わせていることがわかる。

まずは彼らの躍進を支えている攻撃について見てみよう。




攻撃

 

ロングパス戦術から3トップを活かす攻撃の構築へ

今季について見る前に、ユリッチ体制であった昨季のパスに関するデータについて見てみよう。

  • パス成功率 75.3%(セリエAワースト
  • ハイパス数 4225(セリエAトップ

ハイパスとは選手の頭よりも高いパスのことだ。

 

  • パス成功数  13339(セリエA18位
  • 縦パス成功数 1288(セリエA10位

パス成功数自体の少なさを考えれば、縦パスが占める比率の高さがよくわかるだろう。

これだけわかりやすいデータが出てくれれば読み取るのは簡単だ。とにかく高くて長い縦パスを放り込んで押し込んでしまおう!である。最終ラインから3トップめがけて長いボールを送り込み、収めてもらう。これがビルドアップの基本的な狙いであった。

それが、今季ではよりショートパスでの組み立てを重視するようになっている。特に変化が顕著なのはグラウンダーのパス。

 

〈グラウンダーのパス〉

  • 20-21:10736(セリエA19位
  • 21-22:5206(セリエA11位

と大きく順位を上げ、1試合平均値でも今季の方が大きい数字になっている。狙いはテクニックに優れる2シャドーを活かすため、彼らの足元により丁寧にボールを届けることにある。

SofaScore.comより、ヴェローナの1試合当たりキーパス数ランキング。両シャドーが多くのチャンスを作っていることがわかる。彼らまで以下にボールを届けるかがヴェローナのビルドアップに置ける狙いだ。

 

ヴェローナのボール保持時の平均的なポジションはこんな感じ。

ポイントは

  • ミゲウ・ヴェローゾ(もしくはイリッチ)が斜めに下りてビルドアップの起点に。鋭い縦パスで攻撃を前進させる。
  • WBが高い位置をとって相手の最終ラインを押し込んだうえでシャドーが降りる。彼らをライン間でフリーにするための仕組み。
  • 左サイドが攻撃の中心。バラクもピッチ中央あたりまで寄って左サイドにオーバーロードをかける。

SofaScore.comより、ヴェローナのパス数上位3人。ヴェローゾにイリッチと、司令塔タイプのボランチ2人が上位にきていることに注目。彼らがビルドアップ時には左SBの位置に斜め落ちし、的確な配球で攻撃を司る。

一方の前線ユニット。WBのラゾビッチとファラオーニが高い位置を取り、シャドーのカプラーリ&バラクにスペースを提供。彼らが攻撃の主役だ。バラクが左サイドまで移動し厚みを出していることにも注目だ。

 

左サイドに人を集めるのは、カプラーリを活かすためだろう。瞬間的なスピードや移動範囲の広さは持っていないものの、足元のテクニックに優れ、狭いスペースを打開するドリブルや細かい連係による崩しを得意とするカプラーリを活かすためにはとても合理的なやり方だ。

SofaScore.comより、ヴェローナの決定機創出数上位3名。左の2人、カプラーリとラゾビッチがともにトップの5。左サイドのコンビがヴェローナの攻撃の中心である。

SofaScore.comより、1試合当たりドリブル成功数。アタッカーながら69%という数値は極めて高い。また、FBref.comの「ドリブルでかわした人数」はここまで27人でセリエA7位タイリーグ屈指のドリブラーだ。

 

一方の右サイドはファラオーニが大きく張って横幅を確保。いわゆるアイソレーションだ。

セオリー通りなら、ファラオーニへ大きくサイドチェンジのボールを送り、1対1を仕掛けさせるということになる。しかし、ヴェローナの狙いはあくまでも2シャドーにボールを預けること。ファラオーニはサイドチェンジのターゲットになるためではなく、バラクのためのスペースを広げるためにワイドに張っているといえる。

  • スイングパス 173(セリエA17位)

スイングパスとはピッチの横幅を40m以上移動したパスのこと。いわゆる一発のサイドチェンジだ。これがセリエAの中でもかなり少ない部類となっていることからも、ヴェローナの狙いは左から右への大きな展開ではないことがわかる。

 

左から右へとボールが移動している場面。中央へ絞っていたバラクはこの移動を見て、右へとステップを踏んでパスコースを確保する。

ギャップへ移動したバラクはボールホルダーにアタックしに行った相手MFが空けたスペースでボールを受けてターン。決定機を作り出した。

この場面のように、サイドを変える時もショートパスを連続させて丁寧にボールを動かす。その間にバラクが縦横に動いてパスコースを作り出してボールを受け、次の局面へ持っていく。これがヴェローナの特徴である。

左は狭い局面でも打開でき細かい連携にも優れるカプラーリを活かすため選手を集め、右は機動力とポジショニングセンスを兼ね備えるバラクを活かすため広いスペースを作り出す。両シャドーの特徴を加味した緻密な設計である。これがきちんと整備されたことがヴェローナの攻撃力工場の要因になっているのだ。

 

少し話はそれるが、バラクはセリエA屈指のタレントだ。プレーエリアが広くポジショニングセンスに優れる上、ボールを受けてからは運べて味方を使えてミドルも打てる。長身を生かしてクロスボールのターゲットにもなれる。1列下がってボランチの一角をこなせるユーティリティーでもある。いますぐ強豪クラブにステップアップしても問題なく適応できるだろう。ヴェローナを見る上では、彼に特に注目してほしい。

 

話をヴェローナに戻そう。

昨季よりも丁寧にボールをつなぎ、シャドーの足元を目指すようになったヴェローナ。ただ、ロングボールを全く用いなくなったのかと言われればそんなことはない。

  • ハイパス数 1662(セリエA5位

と、昨季に引き続き高いパスも多く用いている。

ここで登場するのが1トップのシメオネ。

  • 縦パスレシーブ成功数 127(セリエA3位

と、今季のセリエの中でも多くのポストプレーを成功させている。昨シーズンは最後まで頼れる1トップが確立せずに苦しんだヴェローナ。彼の加入だけでも火力増加に大きな貢献を果たしている。

ここまでPKなしの得点数12はリーグ最多。攻撃の起点としてもフィニッシャーとしてもチームへの貢献度は非常に高い。エースとしてチームをけん引している。

 

ショートパスによる組み立てを中心に、相手がハイプレスをかけてくればシメオネへのロングパス1本でひっくり返す。相手の出方に応じて柔軟に攻撃方法を選択できること、なおかつそのどちらのクオリティも高いことがヴェローナの攻撃力アップの秘訣である。




シンプルだが効果抜群のミクロ戦術

さて、ここまではチーム全体の構造変化について見てきた。3トップを存分に活かすためのビルドアップの変化と柔軟性。これもヴェローナの攻撃力増加の要因であることは間違いない。

だが、それ以上に敵陣での崩しのフェーズにおいて、「ボールホルダーを横切るランニング」というミクロ戦術が徹底して仕込まれていることが最も大きいのではないかと考えている。

この場面、何となく見ていれば「シメオネ半端ないって!」という場面である。だが、ここにも「ボールホルダーを横切るランニング」が組み込まれていることにお気づきだろうか。

シメオネに対し、内側を追い越すランニングをかけるカサーレ。これにより、シメオネをマークしていた相手DFが裏のスペースを警戒して下がる。

結果、シメオネは完全にフリーになっている。これが「ボールホルダーを横切るランニング」の効能だ。

 

トゥドールの憎いところは、ここにもうひとひねり入れていることだ。

ボールホルダーを横切るランニングに相手がついてこなければ、そのまま縦に出せばいい。深い位置に侵入でき、決定的なチャンスになる

もし相手がついてくれば、内側にパスコースが開通する。そこから中央での連携プレーに持ってくのも狙いのひとつだ。

シンプルだが、フリーランをするだけで相手に2択を突きつけられるというのはサッカーの真理だ。ボールだけでなく人も動くことが重要というのはそういうことだ。

ここでのキモはボールホルダーが向いている方向を横切ること。2つの選択肢が視野に入るようにすることでスムーズな選択をうながすことができる。

この「ボールホルダーを横切るランニング」を徹底して行っているのが今季のヴェローナ。特にワイドにボールが入った時には必ず後ろから追い越しがかかっている。これがヴェローナが面白いように相手を崩せる要因だと思っている。

実際に試合を見ていても、「ボールホルダーを横切るランニング」によって中央へのパスコースが開通する場面は多くみられる。ここに注目してヴェローナの試合を見てみてほしい。




守備

 

昨季からは明確に変化

さて、続いて守備について見てみよう。

〈プレッシャー成功率〉

  • 昨季 30.2%(セリエA5位
  • 今季 30.9%(セリエA4位

今季、昨季ともにリーグ屈指のプレッシャー成功率を誇るヴェローナ。マンツーマンに比重を置き人を捕まえるという基本姿勢は不変だ。ここらへんはユリッチの遺産を受け継ごうとしているのだろう。

ただ、そのディテールを見ると昨季からは変化がみられる。そこに焦点を当てて、なぜ失点がかさんでいるのか見てみたい。

まずは昨季のざっくりとした傾向をつかもう。

 

〈20-21 プレッシングエリア〉

〈20-21 タックルエリア〉

 

さて、読み取りたいことは2つある。

  1. ミドルサードを奪いどころに設定していること。
  2. そこで奪えなければ撤退し、ディフェンシブサードではゾーンで守ること。ゆれに、自陣での守備アクションは極めて少ない

実はアタランタも同じ傾向にある。敵陣及びミドルサードでの守備アクション数はリーグ屈指の多さだが、自陣までくるとその数字はボトムハーフにまで落ちる。そもそもそこまでボールを運ばせていないという側面もあるだろうが、実際に試合を見ていても自陣ではマンツーマンよりもゾーンに重点を置き、危険なスペースを最優先で守っている。

マンツーマンツーと言われているアタランタだが、実際にはゾーンの考え方もうまく取り入れてバランスをとっているのだ。

 

一方、トゥドールのヴェローナは彼らとは違った傾向のデータになっている。

〈21-22 プレッシングエリア〉

〈21-22 タックルエリア〉

タックルに関してもプレッシングに関しても、自陣に行けば行くほど多くなっていることがわかる。

一体なぜなのか。




原理主義かつ慎重なマンツーマン

今季のヴェローナは、昨季よりもさらにマンツーマンに振り切った守り方を採用している。原理主義的と言ったらいいだろうか。

マンツーマンを原理原則通り行うとカバーリングという考えはなくなってしまう。ゆえに、どこかがデュエルに負けてしまうと途端に崩壊してしまう危険性をはらんでいる。

ゆえに、ヴェローナは相手に完全にかわされてしまわないことを最優先としている。

ヴェローナの守備における原則はこんな感じだろう。

  1. 相手が前を向いていれば飛び込まない突破されないよう距離を保ちながら縦を切り、パスコースに制限をかける
  2. 相手が背中を向けていれば一気に距離を詰め、襲いかかる。圧力を強め、自由を与えない。

相手最終ラインは前を向いてビルドアップを開始することが多いため、3トップの仕事は1番のパスコース制限。ドリブルでかわされないよう慎重に寄せるため、強度は高くない。

一方、後方の選手たちには2番のタスクが課される。最終ラインからボールが出てくるとき、その受けては後ろ向きであることが多いい。ここを奪いどころに設定するわけだ。

3トップがコースを制限してくれているため、出てくる場所は予測しやすい。自分のマーク担当にパスが出てきそうなら、思い切り距離を詰めてボールを奪いにかかる。

このように、ボールの奪いどころをうしろに設定するのがヴェローナの特徴。これが、先程の自陣に近づくほど守備アクションが多いデータにつながるわけだ。

カバーリングの要素を組み込むかわりに高い位置からアグレッシブに奪いにいくタランタと、カバーリングがない分慎重さが増すヴェローナ。両者は似て非なるものなのだ。




構造上の危うさ

こうした尖った戦術には危うさが伴うものだ。

カバーリングがないのだから、ひとつズレが生まれたら途端に崩壊してしまう。実際、それがきっかけで失点につながる場面が見られている。

たとえばこの場面。各選手がマークをきっちり捕まえて対応しているのだが…

右CBが相手とのデュエルに負けてしまった!

結果、最終ラインで数的不利を強いられて失点してしまった。このように、ひとつデュエルで負けてしまうとすぐさま瓦解してしまうリスクをはらむのがマンツーマンという守備方法なのだ。

 

もうひとつ気になるのは最終ラインがあまりにもいびつになってしまうこと。マンツーマン原理主義なので、各選手の立ち位置は相手に依存する。ゆえに、3バックの真ん中の選手だけが極端に孤立し、両サイドに広大なスペースができてしまう場面が散見される。

  • ヴェローナの対戦相手のオフサイド数合計 10(セリエA最下位

とオフサイドがほとんどとれていないのは示唆的。アタランタでも2.6倍のオフサイドをとっているので、彼らがいかにマンツーマンの原理原則を守っているかがよくわかる。

たとえばこの場面。オフサイドとれよ!なのか、最終ラインなんで1枚やねん!なのか、どこから突っ込んだらいいかわからないが、マンツーマン原理主義だとこういう状況が発生するということ。

↓ ヴェネツィア戦の失点シーン。サイド裏へのロングボール1本で簡単に決められてしまった。

 

ついでに言うと、クロスボールに対してもろすぎるという弱点もある。流れの中であれセットプレーであれ、あまりにも簡単にやられてしまう印象。ゾーンでの守り方になれていないということなのだろう。

 

このように、多くのデメリットを抱えるヴェローナの守備だが、メリットもある。奪いどころをうしろに設定することで、ボールを奪ったときのカウンターにかなり人数をかけられることだ。前には3トップがいるし、中盤からもボールを奪った勢いそのまま選手たちが飛び出してくる。リスキーな守備が攻撃力アップに寄与している部分もあるわけだ。

高い位置でボールを奪った場面。

最終的には左からのクロスにバラクが頭で合わせたのだが、画面内に6人の選手が入ってきていることに注目。まるで遅攻の場面のようだが、これはショートカウンターから奪った得点である。

 

ここまでクリーンシートが1つしかないヴェローナ

選手たちがあまりにもデュエルに負けすぎているのかと言えば、そんなことはないと思う。

実際、タックル成功率は

  • 66%(セリエA2位

この数字はアタランタをも上回る好数値である。つまり、慎重ながら狙いを絞った守備はかなり狙い通りに実現できていると読み取れる。

それでも失点がかさんでしまうのは、もう構造上の欠陥と言ってしまっていいような気がする。どうがんばってもタックル成功率100%の試合なんてないし、それをカバーする仕組みになっていないのだから仕方がない。

それよりも、攻撃面でのメリットをとる。ある程度失点することを織り込んだ上で、より多く点を取ればいい。そう考えているように見える。

まさに打ち合い上等。カテナチオのかけらもない、異色の攻撃サッカーである。




あとがき

タレントを活かす設計、シンプルだが効果的なグループ戦術、増加しつつあるマンツーマン派閥の中でも特に原理主義的な守備。戦術的に注目すべき存在である。

これらを途中就任から仕込み、チームをV字回復に導いたトゥドール監督は今後ステップアップする可能性もあるだろう。今から見ておいて損はない。

尖った戦術はそれだけ対策が打ちやすいという側面もあり、後半戦に向けていかに対策をかいくぐれるかはポイントになってくるだろう。

またマンツーマンは疲弊が激しいという弱点もある。実際昨シーズンは後半戦の19試合のうち3試合しか勝てない大失速ぶりだった。

トゥドールは最終的にチームをどこに着地させられるか。注目して見ていきたい。

 

 

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