【セルビアの大砲】ドゥシャン・ヴラホヴィッチのプレースタイルを徹底解剖!

【セルビアの大砲】ドゥシャン・ヴラホヴィッチのプレースタイルを徹底解剖!

2021年12月11日 1 投稿者: マツシタ
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サッカー界は、長らくロナウドとメッシという2人の傑出したストライカーにけん引されてきた。いや、今年のバロンドールをメッシが獲得した以上、過去形で表現してはいけないのかもしれない。

この2人のスーパースターを筆頭に、レバンドフスキやベンゼマなど、30代を迎えた円熟のストライカーたちは今でも健在である。

と同時に、新世代も台頭し始めている。ハーランドとエンバペを筆頭に、20代前半のフレッシュなストライカーたちが新時代の旗手の座を巡って火花を散らし始めているのだ。

その世代において、ハーランドとエンバペに追いつき、追い越そうとしている気鋭のストライカーがセリエAにいる。フィオレンティーナのエース、ドゥシャン・ヴラホヴィッチである。

 

セルビアの名門パルチザンからフィオレンティーナにやってきたヴラホヴィッチは徐々に出場機会を伸ばしていき、同時に得点も重ねていく。そして、その才能が開花に至ったのが昨シーズン。途中就任したチェーザレ・プランデッリによって先発に固定されると、12月から量産体制に。第12節からの27試合で20ゴールを量産、得点ランキング4位に輝いた。

今季に入ってその勢いはさらに増しており、直近6戦8発と手が付けられない状態だ。

現在、2021年のリーグ戦通算ゴール数が30に達しているヴラホヴィッチ。この数字は欧州5大リーグにおいてレバンドフスキ、ロナウド、ハーランドという現代を代表するストライカーたちに次いで第4位の数字である。

ヴィオラファンの方には少し失礼な言い方をしてしまうけれど、昨季のフィオレンティーナがストライカーにとって恵まれた環境であったとはいいがたい。少なくとも、ロナウドやレバンドフスキ、ハーランドらが所属するクラブよりはチームとして整備されていなかったといえる。そんな中で彼らと競うほどのゴールを挙げているのは彼の能力値の高さを物語っていると言えるはずだ。

当然多くのメガクラブ垂涎の的となっており、いまセリエAで最も注目を集める存在といっても過言ではない。

それでは、ヴラホヴィッチは一体なぜゴールを量産できるのか。得点以外での貢献度はどうなのか。

今回はドゥシャン・ヴラホヴィッチのプレースタイルについて徹底的に掘り下げていきたい。




ヴラホヴィッチのプレースタイル

 

ゴールパターンは多彩も最も得意なのは…

ヴラホヴィッチの最大の武器は高い得点能力を置いて他にない。それでは、彼はどんな得点パターンを得意とするのか。

色々な媒体を見ていると、ヴラホヴィッチは足元のテクニックがあり前を向いて自ら仕掛けられる、というようなことが書いてある。これは決して間違いではない。たしかにヴラホビッチは相手を背負いながらターンすることもできるし、そこからドリブルで持ち運ぶこともできる。左足のキックには非常にパワーがあるため、シュートレンジも広い。ペナルティエリア外からきわどいシュートを打つことも珍しくはない。

多彩な武器を持つ万能ストライカー。その評判は決して間違ってはいないと思う。

 

↓ 20-21シーズン べネベント戦のゴール。相手を背負いながらワンタッチで抜け出すと、ゴール左上隅へ華麗なミドルシュートを突き刺した。

 

しかし、そうした側面ばかりを強調するのは本質をとらえていない。ヴラホヴィッチの得点はクロスボールに合わせたり、セカンドボールを押し込んだりといった、極めてストライカー的なゴールがほとんどである。

今季・昨季のヴラホヴィッチの得点エリア(円の大きさはゴール期待値の大きさを表す)。ほとんどがペナルティエリア内、それもPKスポットよりも前からの得点であることがわかる。understat.comより。

ヴラホヴィッチは190cmと長身である。というとクロスボールに頭で合わせるのが得意なハンマータイプに思えてしまうが、彼の持ち味はそこにはない。相手CBとの細かい駆け引きの中でフリーになり、冷静に押し込む形こそ彼の真骨頂である。

裏が空いていればそのスペースへ飛び出してボールを受け、GKとの1対1に持っていく。ひとりでカウンターを完結させられるほどのロングスプリント能力は備えていないものの、初速の爆発力は圧巻。一瞬で相手を置き去りにし、フリーでゴールへ流し込む。

裏が空いていなければCBと駆け引きしながらマイナスのパスコースを見つけ、ここぞのタイミングでそこへ入り込む。何度も細かいステップを繰り返して相手CBを翻弄し、フリーになってワンタッチで流し込むのだ。

ヴラホヴィッチが今季と昨季で奪ったゴールのうち、PKとフリーキックを除いたものは22。そのうちワンタッチで決めたものは、実に17にものぼる。パーセンテージで表すと77.3%がダイレクトシュートである。ヴラホヴィッチをひとことで表すとワンタッチゴーラーということになるだろう。

 

↓ トリノ戦の決勝ゴール。一度裏へのランニングでボールを引き出そうとしたヴラホビッチは、サイドにボールが流れると相手の死角からスッと出てきてクロスを引き出し、まんまとフリーで合わせている。この動きの連続性こそヴラホヴィッチの得点量産の秘訣である。

 

↓ スペツィア戦でのゴール。ニアに走ろうとしたヴラホヴィッチは相手CBがボールホルダーにアタックに行ったことを見て急停止し、フリーになっている。こうした細かいステップの繰り返しによって、狭いスペースでもフリーになれる。同じ動画の2:35の場面も見てみてほしい。

 

シュート自体はフリーでクロスに合わせているだけなので簡単に見える。だが、その前のプレーに注目すれば彼が得点を量産できる理由が見えてくる。

 

以前のヴラホヴィッチはいろいろなことができるからこそ得意な形が定まっていない印象があった。それが、ワンタッチゴーラーであることを自覚し、そこに集中するというスタイルに移行したことでゴールという目に見える結果がついてきた、というのが私の見解だ。

以前はサイドに流れて自ら仕掛ける場面も見られたが、いまはそうした場面が減り、周りをシンプルに使ってCBとの駆け引きにパワーを割くようになっている。

驚異的なスピードでひとりでカウンターを完結させられるハーランドとはプレースタイルが異なるということ。

ヴラホヴィッチは優秀なアシストマンがいればいるほど、ゴールに集中できる環境が整えば整うほど結果を残すタイプに見える。




プレースキッカーとしても優秀

さらに、ヴラホヴィッチはプレースキッカーとしても優秀だ。

PKについては特に信頼がおける。フィオレンティーナにやってきてから蹴った12回すべてを成功させているのだ。左右どちらにも蹴り分けられるほか、ユベントス戦ではシュチェスニーをあざ笑うかのようなパネンカも決めた。

さらに、今シーズンに入ってから直接フリーキックのキッカーも担当。カリアリ戦では見事なゴールを決めている。まだまだ精度に改善の余地があるとはいえ、パワーとスピードは一級品。今後の成長次第ではフリーキックの名手になりうるポテンシャルがあると思う。

 

↓ カリアリ戦の直接フリーキック弾

 

流れの中だけでなくセットプレーでも得点源となるヴラホヴィッチ。セリエAを代表するゴールマシンであるといって差し支えないだろう。




ポストプレーでも貢献

得点能力が極めて高いヴラホヴィッチだが、攻撃の起点としてもチームに貢献できる。

フィオレンティーナは相手にハイプレスをかけられたらロングボールをヴラホヴィッチに当てるという原則を採用していて、彼の起点としての能力が攻撃の軸になっている。

  • 縦パスレシーブ 117(セリエA3位

とリーグでもトップクラスの縦パスレシーブ数を見ても、攻撃の起点としての能力を求められているのがよくわかる。

得意なのは大きな体を相手に預けて前に出てこれないようにし、相手を背負いながらボールをキープするプレー。そのスタイルゆえ

  • 被ファウル数 45(セリエAトップ

とリーグで最もファウルを受けている。ちなみに、2位の選手の数字は39であり、ヴラホヴィッチは断トツのトップである。相手といかに前線でバチバチやりあっているかがわかるだろう。

 

また、ボールを収めた後のプレーにも向上の跡がみられる。以前は強引に前を向こうとして奪われる場面も散見されたが、今では冷静に味方を使うことができている。

ボールを収めて味方にはたき、自らはゴールへ突進するという一連の流れはお決まりのパターンになりつつある。

 

↓ ヴラホヴィッチのポストプレーから生まれた得点




彼の活躍を支える源泉は…

と、ここまでヴラホビッチのいい面について触れてきたが、ヴラホヴィッチはまだまだミスも多い

先ほど触れた縦パスレシーブについて他の選手たちと比較してみよう。

〈縦パスレシーブ 成功率〉

インモービレとサパタは縦パスレシーブ数でヴラホビッチを上回っている2人。多くのポストプレーをこなしながら、成功率6割とまずまずの結果を残している。

また、イブラヒモビッチとジェコはともに強さと巧さを兼ね備えるリーグ最高のポストプレーヤーだ。彼らの成功率は他の選手たちとは一線を画しており、やはり攻撃の起点としては別格の存在だ。

対して、ヴラホヴィッチの成功率は53.3%。彼らと比べるとミスが多いというのが素直な評価になるだろう。このボールロストの多さに注目すると、ヴラホヴィッチが過大評価に見えるのだろう。

 

ただ、ミスが多いということはそれだけ多くヴラホヴィッチがボールに触れていることの証左でもある。何度ミスしてもボールを要求し、難しいプレーにもチャレンジしていく。だから彼のミスが目立つのであり、同時にそれが彼の強みでもある。このメンタリティーの強さこそヴラホヴィッチの最大の長所だと思う。

彼が成熟したメンタルの持ち主だということは試合中の振る舞いを見ていてもよくわかる。味方がミスをすれば声を張り上げて要求するが、それでイライラを募らせてプレーをやめることはない。どれだけボールが回ってこなくても駆け引きの連続性を止めることはないし、味方がゴールを決めれば一緒になって感情を爆発させる。

相手にどんなに激しくこられても、それを相手や審判にぶつけて余計なカードをもらうこともない。直近の2シーズンでもらったイエローカードは3枚だけだ。人一倍コンタクトが多いことを考えるとすごいことだろう。先述の通り、彼はリーグで最もファウルを受けている選手にもかかわらず、だ。

ヴラホヴィッチは熱い選手だが、それが空回りすることがない。熱さの向けかた、コントロールの仕方が絶妙である。21歳にしてこの成熟度は本当にすごいと思う。

 

ついでに付け加えると、ヴラホヴィッチは長期離脱することがないという点でもコンスタントだ。

transfermarktより、ヴラホヴィッチの負傷歴。これまでのキャリアで細かい負傷がないことがわかる。

先ほど説明した通り、ヴラホヴィッチは人一倍コンタクトプレーが多いスタイル。被ファウル1位である。そんな中でも怪我が全くないというのはすごいことだろう。

常にチームに居続けて、100%のパフォーマンスを見せてくれる。パフォーマンスが高いレベルで安定しているというコンスタントさこそがヴラホヴィッチのゴール量産を支えているのだ。

 

まとめると、

  • 多彩な武器を持つもののCBとの駆け引きを制してクロスに合わせるワンタッチゴーラーとして成熟しつつあり、
  • プレースキックのキッカーとしても優秀で、
  • ポストプレーも日進月歩で成長中で、
  • 何よりもどんな状況でもコンスタントに結果を残してくれる安定感がある

プレースタイル的にはいたって典型的なセンターフォワードタイプであるヴラホヴィッチ。多彩な武器を持っているものの、ゴールに集中させてこそ持ち味が発揮されるはずだ。

そういう意味で、攻撃の組み立てなどを他の選手がやってくれるようになった今季のフィオレンティーナにおいて得点ペースが加速しているのも納得である。今季終了時にどこまで得点数を伸ばしているか注目だ。




ヴラホヴィッチの伸びしろ

ヴラホヴィッチには、まだ多くの課題がある。

先ほども説明した通り、ポストプレーにはまだまだ改善の余地がある。相手にコンタクトされたときにバランスを崩してしまう場面が見られ、結果としてトラップミスしてしまったり。190cmという身長を考えれば75kgは少し細身な印象で、まだまだストレングスも伸びるだろう。

また、長身な割にヘディングの競り合いはあまり強くない。

  • 空中戦勝率 45.1%

と勝率は半分を割っている。キャリアで初めてのヘディングでのゴールは昨季の最後に奪ったもの。今季はすでに頭で2点決めているが、いずれも駆け引きを制してフリーになったうえで決めたもの。ふわっとしたボールを相手の上から叩き込む、みたいなパワフルなプレーは彼の得意とするところではない。

ボールの落下地点の奪い合いで負けてしまったり、ジャンプのタイミングが悪かったりとまだ改善点が多い印象だ。

 

ただ、ヴラホヴィッチの課題はいずれもテクニカルな側面であり、継続的に取り組んでいけば改善できるはず。何せ生まれつきどうしようもないフィジカルな面においては、非常に恵まれているのだ。

ヘディングひとつとっても、その成功率は22.2%→38.8%→42.3%→45.1%と年々向上してきている。ヴラホヴィッチはまだ才能が開花し始めて2年もたっていない。今はぐんぐん伸びている成長段階であり、これらの課題はむしろ今後への伸びしろとしてとらえるべきではないだろうか。

つまり、現時点で得点を奪うということに関してワールドクラスの能力を持っているにもかかわらず、その他の面で非常に大きな伸びしろを残してもいるといえる。

 

足元のテクニックだけを見れば、バロテッリの方が上だったはずだ。だが、バロテッリにはその能力を安定して発揮したり、課題に取り組んでいくだけのメンタリティーがなかった。ヴラホヴィッチには、それがある。

世界のトップにたどり着くためにはこの安定的かつ強靭なメンタルが非常に重要である。それは、クリスティアーノ・ロナウドを見ていればよくわかる。

ヴラホヴィッチは世界のトップにたどり着くために必要な資質を心技体すべてにおいて備えている。あとは、それをどれだけ磨き上げられるかだ。今後の成長が楽しみである。




あとがき

2023年6月でフィオレンティーナとの契約が切れるヴラホヴィッチ。だが、契約延長交渉はうまくいかなかった。クラブが直々に交渉破談を発表しており、将来的な退団が確実となっている。

当然のように世界中のメガクラブが彼の獲得を狙っている。ユベントス、PSG、マンチェスター・シティ、トッテナム、アーセナル、アトレティコ・マドリード、ドルトムントなど世界中のクラブの名前がとり沙汰されている。

ヴラホヴィッチ本人はアイドルであるイブラヒモビッチとの共演を熱望しているとの情報もあるが…。

彼が新天地にどこを選ぶのか、ピッチ外での決断にも注目だ。