【復活、いや全盛期】エディン・ジェコのプレースタイルを徹底解剖!

【復活、いや全盛期】エディン・ジェコのプレースタイルを徹底解剖!

2021年10月27日 0 投稿者: マツシタ
Pocket

昨季のセリエA王者、インテル・ミラノ。その中心には、ゴール・アシストともにリーグトップの数値を記録しリーグMVPに選ばれた大エース、ロメル・ルカクがいた。

そのルカクがプレシーズンに退団したことを受け甚大な被害は不可避だとする見方が大勢を占める中で迎えた21-22シーズンだったが、大方の予想を覆してここまでのインテルはリーグ戦トップの得点数を記録。9試合24ゴールと攻撃陣は不安を払しょくする結果を残している。

ルカクが抜けた穴を埋めるうえで大きな役割を果たしているのが、今季から新加入した35歳のベテランストライカー、エディン・ジェコだ。彼が今回の主役である。

 

 

ジェコのキャリア

母国ボスニア・ヘルツェゴビナのジェリェズニチャルというクラブでデビューしたジェコは、チェコを経由してブンデスリーガのヴォルフスブルクで138試合85ゴールとブレイク、クラブに初めてのリーグタイトルをもたらした

ドイツで3年半活躍した後に渡ったマンチェスター・シティでも主力のひとりとして活躍し186試合71ゴールを記録。ここでもクラブ史上初めてのプレミアリーグ優勝に貢献している。

そして、昨シーズンまでは6シーズンにわたってASローマで活躍していたジェコ。ここでも199試合85ゴールと圧巻の数字を残し、16-17シーズンにはリーグ得点王に輝いている。

このように、異なる国のクラブに移っては活躍し、多くのタイトルを手にしてきたジェコ。世界で見ても屈指の実力を持っていることは間違いない。

それでも、2021年夏にインテルに加入したときには懐疑的な目が向けられていた。というのも、昨季のローマでは監督との衝突もあってリーグ戦での先発出場が20試合にとどまっていたのだ。ゴール数も5大リーグに活躍の場を移して以後はキャリアワースト。34歳という年齢もあって、もう全盛期を過ぎた選手だと見られていたのだ。

そんな選手に昨季リーグMVPの選手の穴埋めは荷が重いのではないか…。そんな意見が大半だった。

ところが、ふたを開けてみればジェコは新天地で水を得た魚のように躍動。開幕から9試合の現段階ですでにリーグ戦7ゴールを記録し昨シーズンの数字に並んでいる。

全盛期の輝きを取り戻した、いや今が全盛期なんじゃないかとも思える輝きを放っているジェコ。彼は一体どんなプレーヤーなのか、ルカクとの比較も行いながら掘り下げてみよう。




ジェコのプレースタイル

 

多彩な得点パターン

ジェコを語る上で触れないわけにはいかないのが得点力の高さだ。それは、先ほどしつこく紹介した数字の大きさを見ればそれで十分だろう。今季もここまでで7ゴールを挙げて得点ランキング2位なのも驚きではない。ちなみに、ジェコは7得点すべてをPK以外で奪っており、PKを除いた得点数ではリーグトップだ。

さらに、重要な得点が多いことも特筆すべきことだ。CLシェリフ戦のゴール尾も含めると、直近の5ゴールはすべて先制ゴール、同点ゴール、逆転ゴールのいずれかだ。チームが欲しい時に点を取ってくれる、頼れるストライカーだ。

 

それでは、彼はどんなパターンでのゴールが多いのかを掘り下げてみたい。

彼はいわゆるストライカーらしい得点が多い。こぼれ球をプッシュしたりクロスボールに合わせたりといった形だ。

特に空中戦の強さは圧巻で、193cmの長身を活かしてボールをものにする。ローマでの直近4シーズンでは空中戦勝率が一貫して60%を超えており、リーグ屈指のエアバトラーと言える(FBref.comより)。

 

↓ フィオレンティーナ戦のゴール。コーナーキックに得意のヘディングで合わせた。

 

このようにフィジカルに恵まれているジェコだが、彼はそれに頼ったプレーをする選手ではない。大柄な選手としては珍しく、DFとの駆け引きをきちんと行うのだ。

得意なのはファーサイドに膨らむようにして流れていく形。相手から離れるようにして動き、自分の前に空間を作ってそこにボールを呼び込む。こうした面も含めて総合的に見れば、クロスボールに合わせるプレーではルカクよりもジェコの方が優れていると思う。

 

↓ ローマ時代に奪った最も有名なゴール。これもファーサイドに流れる得意な駆け引きから奪ったものだった。

 

さらに、ジェコは足元のテクニックも柔軟だ。フィジカルな長身選手とは思えないほどやわらかいボールタッチを持っていて、そのスキルを左右両足で遜色なくこなす。先ほどのローマ時代に決めたボレーシュートも利き足とは逆の左足で決めたゴールだ。

こうしたテクニックレベルの高さはそのままシュート精度の高さに転化される。

  • シュート総数 21セリエA13位タイ
  • 枠内シュート総数 10セリエA3位

FBref.comから引用したこのデータによると、ジェコはほぼ半分のシュートを枠内に飛ばしている。これはとても高い確率だといえる。左右両足に頭、どこから打っても正確なジェコのシュートは相手にとって脅威だ。

また、技術の高さゆえにスーパーゴールも多く決めているジェコ。それはしっかりデータにも表れていて、

  • ゴール期待値 3.9(セリエA9位

と期待値上ではゴール数は4点に満たないはずなのだ(FBref.comより)。ここまでの7ゴールはその値を大幅に上回る実得点であり、彼が難しい状態からでもゴールをこじ開けていることを裏付けている。

 

↓ ボローニャ戦のゴール。角度がないところからキーパーの肩の上を抜くスーパーゴールだ。

 

こうしたジェコの特徴を凝縮した場面がジェノア戦で決めたインテルでのセリエA初ゴール。難しい高さのくさびをぴたりと収めて散らしたあと、ニアにフェイクを入れてファーサイドに流れることでマークから離れ、空中戦を制して得点につなげている。




広範囲を動きながらの正確なポストプレー

最後にあげた得点シーンに象徴されるように、ジェコはポストプレーにも非常に安定感がある。

  • 縦パスレシーブ総数 70(セリエA4位

と縦パスの受け手としてリーグでトップクラスの数値を記録。早くもインテルのビルドアップにおいてジェコへのくさびは重要な進軍ルートになっている。

  • パスレシーブ成功率 61.6%

という数値はとてもいい数値で、ルカクの昨季のデータ59.5%を上回っている。ライバルクラブのストライカーでいえば、ジルーが58.4%、オシメンが53.8%、エイブラハムが53.5%だ。

ルカクとは異なるタイプながら、ジェコも優秀なポストプレーヤーである。なぜ彼はボールを失わずに味方につなげるのか。

フィジカルの強さももちろんなのだが、それ以上に目を引くのが柔らかいタッチと連携のうまさ、そしてプレーエリアの広さである。

得点関連でも書いてきた通り、ジェコはテクニックレベルが非常に高い。それゆえ、止まって足元にボールを収めるよりも動きながらポストプレーすることを好む。これはルカクにはなかった特徴だ。

くさびを受けたジェコはいったん右に持ち出した後ボディフェイクで逆に切り返して相手をふりきり、逆サイドにフィードした。足元にボールを止めるよりも、相手との駆け引きの中で逆をとって完全にかわしてしまうことを狙うのがジェコの特徴だ。

 

こうして前を向いた後の配球能力の高さもジェコの長所。先ほどの画像でも見たようなサイドチェンジを多用している。攻撃の起点になるだけでなく、そこから前を向いて司令塔的な役割もこなせるジェコ。こうした能力を引き出すうえで、ジェコのターン技術の高さは重要だ。

ここにワンタッチプレーも織り交ぜてくるのがジェコの憎いところで、ターンを警戒した相手が突っ込んでくればワンタッチでいなして味方を活かす。これが絶妙だ。

相手CBが突っ込んできたことを受け、ヒールでのワンタッチパスで味方をスペースへ走らせるジェコ。まるでトップ下の選手のようなプレーだ。的確な判断力と高い技術力がなせる業である。

 

このように、司令塔的な能力を持つジェコ。ゆえに、最前線から引いてきて中盤でボールを引き出すことが多くなっている

特にインテル移籍後は中盤に引いてくる傾向をさらに強め、攻撃の中継地点として絶大な影響力を持っている。

データで見てみよう。

〈直近5シーズンにおけるボールタッチエリアに関するデータ(FBref.comより) ミドルサードアタッキングサード

  • 17-18 521:733
  • 18-19 512:622
  • 19-20 575:652
  • 20-21 360:420
  • 21-22 158125

このように、ローマ時代には一貫してミドルサードよりもアタッキングサードでのボールタッチが多かったのに対し、インテル移籍後の今シーズンはミドルサードでのボールタッチの方が多くなっている。彼のポストプレーヤー兼司令塔としての能力がより引き出されるような構造の中でジェコがプレーしていることがわかるんじゃないだろうか。

 

このように、ジェコは長身ながら広範囲を動きながら足元にボールを引き出し、味方と連携しながら攻撃を構築していけるプレーヤーだ。

爆発的なダッシュ力を武器とするルカクが100m走のランナーだとしたら、ゆっくりと長い距離を動き続けるジェコはマラソンランナーといったところだろうか。前エースとは方向性が違うとはいえ、ジェコもダイナミックで動的なストライカーだといえるだろう。




守備時にも献身性を発揮

さらに注目したいのが守備に関するスタッツ。

このように、ゴール前での守備アクションの多さが目立つデータとなっている(FBref.comより)。中盤に降りてくることが多いジェコは、ビルドアップの段階でボールロストすればそのまま守備に加わることもいとわない。セットプレーでの守備も含めて、本当によく体を張って守っている。

これも彼が心身両面で充実したコンディションにあることを裏付けているとみていいだろう。

 

ここまでの内容をまとめると、

  • 多彩な得点パターンと高い決定力でゴールを量産し、
  • 中盤に降りてきて精度が高いポストプレーで攻撃の起点となり、
  • そこから長短のパス配球や味方との細かい連係で組み立てでも貢献でき、
  • 守備時には体を張ってチームを鼓舞できる

昨季とは見違える活躍を見せるジェコ。いまやルカクに代わる大黒柱としてインテルで最も欠かせない選手のひとりだ。




ジェコの弱点

それでは、ジェコの弱点はどこだろうか。

ここで挙げたいのはスプリント能力だ。ジェコは広範囲を動き回るタイプで機動力はあるのだが、瞬間的なスピードでは特段優れてるとは言えない。というか、むしろ遅い方だろう。

ルカクがオープンスペースでの爆発的なダッシュ力を持っていたのに対して明確な差があるといえる。先ほども触れた通り、ルカクは100m走のランナーでジェコはマラソンランナーなのだ。

これは、2人のプレースタイルの差にもつながってくる要素だ。ルカクは細かいテクニックで連携させるよりも、オープンスペースでの走り合いに持ち込ませた方が強い。フィジカルとダッシュ力を活かしてぶっちぎるプレーは得意中の得意で、この形に持ち込まれたら止められるDFは世界に10人といないはずだ。

 

↓ 昨季(20-21)22節ラツィオ戦の場面。オープンスペースでボールを受けたルカクはスピードとパワーで相手をぶっちぎってアシストした。彼の真骨頂のような場面である。

 

対して、ジェコは裏へのスプリント能力は持たない代わり、中盤に引いてきてボールを引き出すタイミングの感覚と機動力、そして低いエリアでも問題なくプレーできるだけのテクニックや視野の広さを持ち合わせている。

つまり、ルカクが前方にスペースを必要とするのに対し、ジェコは手前にスペースを必要とするのだ。これが今季と昨季のインテルの差にダイレクトにつながっているといえる。

つまり、昨季のインテルは重心を落として低く構え、ボールを奪えばルカクを裏に走らせて彼のオープンスペースでの無類の強さを引き出す。対して、今季のインテルはジェコを活かすために中盤での組み立てを重視し、ボールを握りながら人数をかけた攻撃を行う。

めちゃくちゃ大雑把にまとめてしまうと、これが昨季と今季のインテルの違いだ。ストライカーの特性のちがいからチームの設計の差が生じているのである。

詳しい話は、また近日中に詳しく掘り下げた記事をアップしたいと思うのでそちらを参照してみてほしい。




あとがき

シモーネ・インザーギ新監督にとって、ジェコは外せない選手のはずだ。実際、ジェコ以外にもラウタロ・マルティネス、コレアという能力の高いFWを擁しているにもかかわらずラウタロとコレアを使いまわし、ジェコはピッチに残すことがほとんどだ。

ラウタロ&コレアを先発させたものの1点リードされたまらずジェコを投入、直後にジェコが同点ゴールを叩き込んで逆転への道筋を開いた7節サッスオーロ戦は象徴的だった。相手に奪われた先制点はビルドアップに詰まったところをひっかけられて始まっている。これは偶然ではない。ジェコのポストプレーがインテルにとっていかに重要かを物語っていると見ていいだろう。

いまやインテルの攻撃の中心となったジェコ。彼の活躍が今季のインテルの命運を左右する。

 

 

あわせて読みたい 関連記事

【アルゼンチン次世代のエース】ラウタロ・マルティネスのプレースタイルを徹底解剖!

【イタリア最高のMFへ】ニコロ・バレッラのプレースタイルを徹底解剖!

【走るレジスタ】マルセロ・ブロゾビッチのプレースタイルを徹底解剖!

【スクデットへのラストピース】クリスティアン・エリクセンのプレースタイルを徹底解剖!