【両刀使いが躍進のカギ】SSCナポリの守備戦術を徹底詳解!

【両刀使いが躍進のカギ】SSCナポリの守備戦術を徹底詳解!

2021年10月24日 1 投稿者: マツシタ
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欧州サッカーシーンも開幕から2か月ほどが経過した。すでに多くの試合が戦われてきたわけだが、5大リーグで全勝を継続しているチームはすでに1つだけになっている。SSCナポリだ。

安定飛行を続けるスパレッティ・ナポリ。その要因のひとつにかたい守備がある。

ここまでリーグ戦8試合を終え、半分以上の5試合でクリーンシート(無失点)を達成。さらに、複数失点が1試合もないという安定ぶりだ。

FBref.comから引用したデータを見ても、

  • 失点数 3(セリエA最少) ※2位ミラン(7)の半分以下
  • 被ゴール期待値 4.4(セリエA最少) ※2位ローマ(8.2)のほぼ半分

と彼らの圧倒的な安定感を裏付けている。

それでは、彼らはいかにして堅牢を築いているのだろうか。

今回は、セリエA首位を走るナポリの守備戦術について徹底的に掘り下げていきたい。

なお、攻撃戦術についてはすでに2回に分けて解説した記事をアップロードしているのでこちらも合わせてみてみてほしい。

【スパレッティボール】SSCナポリの攻撃戦術を徹底詳解!(後編)




プレッシング

 

データが裏付ける完成度の高さ

今季のナポリを特徴づけているのが非常に完成度が高いハイプレスだ。

再びFBref.comから第5節終了時点におけるデータを引用してみると、

  • アタッキングサードで行われたプレッシング総数 209(セリエA1位

と敵陣でのプレス数がリーグでトップになっている。プレッシング自体の数はリーグでも下位に入る部類であり、エリア別にみた場合アタッキングサードでのプレスが占める割合は非常に高くなっている。そう、ナポリはリーグ屈指のハイプレス集団なのだ。

 

さらに注目すべきはその成功率の高さ。(ここからはFBref.comより第7節終了時点におけるデータを引用)

  • プレッシャー成功率 29.4%(セリエA5位

とリーグでも上位に入る数値を記録している。

成功率の高さという意味ではタックルも同じ。

  • タックル総数 111(セリエA11位タイ
  • タックル勝利総数 77(セリエA2位

と、その成功率は極めて高くなっている。

 

なぜ彼らの守備アクションは成功率が高いのか。ベタな言い方だが、どこでボールを奪うかの狙いがはっきりしていることが理由だ。

そのナポリのプレッシングにおける狙いについて見てみよう。




プレッシングの原則

【主目的】

  • サイドにボールを追い込み、個々のデュエルで奪いきる。それもできるだけ高い位置で奪って攻撃につなげる。

【手段】

  • プレスの強度を高くし、時間を奪う。認知的な負荷を高めることで正確なプレーを許さない。
  • プレスのスイッチを入れるのは3トップ。彼らがプレスを開始すれば周りも連動して押し上げて密度を保つ。
  • FWが中央(CB)へのパスコースを消してサイドに誘導、人数をかけてボールを奪う。
  • ボールに近い選手を優先してマークにつく。ただし最終ラインは必ず1人余らせる。

 

プレスのスイッチを入れるのは3トップのいずれかだ。誰がスイッチ役になるかは状況によるが、バックパスが入ったタイミングでプレスが発動することが多い。

このときにキーになるのがパスコースをなぞるようなプレスだ。たとえば、SB→CBにバックパスが出たら、そのパスコースのライン上に添ってプレスに出ていく。そうすることでパスの出し手であるSBを背中で消すことができるし、そのままさらにもうひとつ同じ方向へのパスを誘発させることができる。攻撃側にとって相手が向かってくる方向にパスを出すのはかなり勇気がいる行為だからだ。シンプルだが相手の選択肢を高い確率で誘導できる個人戦術である。これを徹底しているのだ。

 

〈アタッキングサードでのプレッシング数〉

上記データの通り、最も多いのはオシメンが先頭を切る形。彼が真ん中から迫力を持ってプレスに出ることでパスを出させたら、パスコースをなぞりながらさらに追い回して一番外へボールを出させる。

このオシメンのプレスが非常に効果的。スピードや迫力もそうなのだけれど、常にカバーシャドウ(パスコース上に立つことで背中側にいる相手を消すこと)を行うことで選択肢を確実に消してくれる。身体能力だけでなく、戦術面から見ても彼はプレス兵器だ。

こうしてサイドに追い込んだらそこが奪いどころ。前回紹介したサイドのトライアングル(WG、SB、インサイドハーフ)の3枚でマークを分担し、自分の担当にボールが入れば厳しく寄せて奪いきる。

 

SB→CBのバックパスが入ればWGがプレスのスイッチを入れる。パスコースをなぞるプレスでGKにパスを出させればそこからは先ほどと同じくオシメンがGKにプレスしてボールを誘導、逆サイドを奪いどころにする。

 

このように、サイドからプレスのスイッチを入れたときはピッチを横断して逆サイドを取りどころに設定するのがナポリのプレスの特徴。ボールの流れを遮るのではなく、流れを途切れさせないで最終的に到達する場所で奪い取るイメージだ。

相手からすればボールと同じ方向から相手が寄せてくるため、自分のところにボールが到達するのを待つ間ずっと相手の姿が視野に入る。画面越しに見ている以上に圧力がかかっているはずだ。

 

いずれの形にしてもサイドが奪いどころになることはかわらない。ここで4-3-3の旨みが出てくる。4-3-3はSB、インサイドハーフ、WGとサイドに3枚を配置するフォーメーションであり、あまり大きく動かなくてもサイドに人を集めやすい。ゆえにフリーの選手を作ることがない。

加えて、オシメンが効果的にボールを追い込んでくれることで、サイドの選手たちは安心して目の前の相手からボールを奪うことに集中できる。

奪いどころであるサイドにかける枚数の多さと、各選手が遂行すべきタスクの明確化。これがナポリの守備アクション成功率の高さの原因になっている。

 

さらにもうひとつ、彼らのプレスの素晴らしいところは必ず複数人で連動することだ。

オシメンはプレスに行くときに周りに指示を出したり、後ろを向いて状況を確認しながらプレスをかけることが多い。後ろのMFやWGたちも、オシメンが出ていけば必ずそれに続く。前後が分断されることがほとんどなくて、常に複数人で襲い掛かることができている。これを徹底していることがナポリのプレスの破壊力を支えているといっていいだろう。

バックパスを追いかけてオシメンがプレスのスイッチを入れた場面。これに続いてジエリンスキとインシーニェもダッシュで連動していることがわかる。スイッチが入ったら連動するという当たり前のことの徹底がナポリのプレスの破壊力の源泉だ。




実例

それでは、ここまで見てきた原則を前提に実際の試合画像でナポリのプレッシングについて確認してみよう(もうわかったよ!という方は飛ばしてください)。

オシメンが中央からサイドへ追い込んだ後、相手に逃げられて逆サイドへの追い込み漁にスイッチした場面だ。

オシメンがGK→CBとプレスをかけて右サイドに追い込んだシーン。各選手は担当のマーク相手と近い距離を保ち、狙いを定めている。オシメンがCBへのパスコースを切る立ち位置をとっていることにも注目だ。

これに対し、相手はSB経由でCBへボールを逃がしてナポリのプレスを回避した。

CBがGKへパスを出したのを引き金に逆サイドへ追い込む守備にスイッチ。オシメンが再びプレス開始。ここでも確実にCBへのパスコースを切りながら寄せている。この間に逆サイドはもともと持っていたマーク(水色の矢印)を捨てて逆サイドにスライド、新しいマーク(黄色い矢印)を捕まえてボール奪取に備える。

最終的にはオシメンがGKからボールを奪ってあわや得点という状況になったが、GKが順当に隣のCBにパスを出していれば逆サイドへの追い込み漁のセオリー通りの場面になっていたはずだ。

同じ場面を縦方向からも見てみよう。右にボールを追い込んだ時、サイドに多くの人数を集めて密度を高めていることがわかる。この密度がボールを奪う上で重要だ。SBのディ・ロレンツォも高い位置をとっていて、あくまでも相手の選択肢をつぶすことが最優先。後方でマノラスが余っていることも原則通りである。

サイドを変えられたタイミングで逆サイドへスライド。この横ずれの速さも特筆すべき項目だ。




組織的守備

さて、リーグでも屈指のプレッシングの完成度を誇るナポリだが、彼らは引いて守っても完成度が高い。

アタッキングサードでのプレス数に関するデータで「5節時点で第1位だった」と紹介したのは、8節終了時点では4位タイに順位を落としているからだ。

ナポリは試合や状況に応じて前に出てプレスするか、引いて守備組織を構築するかを使い分けるのだ。

ナポリのボール保持時の基本陣形は4-5-1。セリエA公式サイトより、ウディネーゼ戦の前半 ボール非保持時の平均ポジションを引用。

上にナポリの守備時の基本陣形を掲載した。ここでポイントになるのは中盤の陣形。ファビアンをアンカーにした「4-1」ではなく、彼もMFラインに含めたフラットな「5」であることがキモだ。

 

ここで少しわき道にそれて、4-4-2が守備時に最もバランスがいいフォーメーションだという話を思い出してみよう。

ピッチの危険なエリアを最もバランスよくカバーできることがその理由だとされる。

特に中盤と最終ラインの「4-4」の安定感が抜群で、引いて守った時になかなかバランスが崩れないのがこのフォーメーションの長所だ。

 

話をナポリに戻そう。ナポリの組織的守備時の原則は、必ず誰かがボールホルダーに対してプレスをかけ、縦のパスコースを消すことだ。

そして、この原則を実行する上で中盤を5枚にすることは非常に効果的だ。

ひとつは前に出ていく選手が誰かどうかが明確になるということ。5レーンでピッチを分割してそのどこにボールがあるかを見れば、だれがプレス役かが一瞬で判断できるからだ。MFライン5枚×5レーン分割によって選手の迷いを消すことに成功している。

さらに、1枚が出ていったあとでも4人がMFラインに残されるため、「4-4」の2ラインがが維持されることも非常に大きい。

先ほど紹介したように、この4-4のラインは非常にバランスよく危険なスペースを消すことができる。1枚出ていった後でもこの形を維持することこそ、中盤をフラットな5枚にする理由だろう。

アウトサイドにボールがあるときはWGが出ていってプレス、残る4人で危険なスペースを埋める。

ハーフスペースにボールがあるときはインサイドハーフが出ていき、サイドハーフが絞って4-4のラインを維持。

センターレーンにボールが入った時はファビアンが出ていってその他の選手で4-4のラインを維持。ファビアンはアンカーではなくあくまでMFラインの一員であり、真ん中にボールが入った時は飛び出して圧力をかける。これが守備時の陣形は4-1-4-1ではなく4-5-1である理由だ。

 

このようにMFラインの5枚でできるだけ相手を食い止め、最終ラインがさらされないようにするのがナポリのブロックディフェンス時の狙いだ。

MFラインの後ろでは最終ラインの4枚がゾーンディフェンス的にゴール前のスペースを埋める。ここらへんはサッリ時代のやり方を踏襲していて、経験者のクリバリとマリオ・ルイは問題なく適応しているし、ラフマニ&ディ・ロレンツォも十分以上に機能している。

  • ボールホルダーに必ず制限がかかっていること
  • 残された4-4の2ラインで危険なスペースをバランスよく消せていること

の2つが合わさってナポリのブロックディフェンスは強固なものになっている。

 

それでも、この組織的守備には弱点がある。ファーサイドへのクロスボールだ。

前述の通り、MFラインの5枚でできるだけボールを食い止め、最終ラインがさらされないようにすることがナポリの目的であった。それゆえ、MFラインの選手は高めのポジションをキープする傾向があり、クロスが上がってくるときに逆サイドのWGが戻り切れていない場面が多い。だから最終ラインの4枚でゴール前とクロッサーに対して守備を行う必要があり、クロスが上がってくるときにファーサイドでフリーの選手が生まれている場面が見受けられるのだ。

ジェノア戦の失点も、ELレスター戦の1失点目も左からのクロスにディ・ロレンツォの背後で合わされている。

↓ ジェノア戦の失点

 

ただ、ここら辺はある程度仕方のないものとして妥協してもいいのかもしれない。実際MFライン5枚の制限は効いているし、クリバリ、マノラス、ディ・ロレンツの3枚でゴール前を固めれば大抵のボールは跳ね返せてしまう。サッカーにおいてすべての場面で最強である戦術など存在しないので、このような場面をできるだけ作られないようにしていく現在のアプローチをさらに突き詰めていけばいいんじゃないかと個人的に思っている。




カウンター対応

最後にカウンター対応に関しても簡単に触れておきたい。

ナポリ解説の前編で触れた通り、ナポリはビルドアップ時に後方にかける人数が多い。これは、被カウンター時に数的不利に陥るという危険な場面を回避することに効果的に作用している。

これが特によく表れていたのはユベントス戦。特に前半のナポリは後方に人数をかけすぎて相手を崩せないという展開が続いていたのだが、その代わりに相手のカウンターはとことん潰せていた。引いて守ってカウンターに出ようとするユベントスに対し、ナポリが複数人で囲い込んで起点をつぶす場面は幾度となくあった。

また、最終ラインの選手たちの能力の高さも見逃せない。

クリバリの個人能力の高さは相変わらずだ。説明不要の対人セリエA最強DFが最終ラインにいることで何とかなってしまう場面はやっぱり多い。彼が攻撃的なマリオ・ルイの背後をカバーしている。

相棒のラフマニも読みを活かしたカバーリングに優れ、無駄なファウルをしないクレバーなDF。CBもこなせるほどの守備力を誇るSBディ・ロレンツォと二人で組む右サイドもかたい。彼ら最終ラインの選手個人個人の能力の高さもまたカウンター対応で効いている。




あとがき

プレスに出ても引いて守っても完成度が高いナポリ。だからこそ状況に応じてふたつを使い分けられる。

ビルドアップに関してもそうだが、今のナポリは完成度が高い選択肢を複数持っているからこそ相手が嫌がる方を選択できる。だから、なかなか止まらないんだと思う。

サッカーにおいて最強の戦術がないことは先ほども触れた通りだが、その時々で適切な戦術は存在する。それを常に選び続けられればそれはサッカーにおける最強に近いのではないか。

今季のセリエAでこれに最も近いのはナポリだと思う。主力の大量離脱がない限りナポリが大崩れするとは考えられないが…。

そういう意味で、アフリカ・ネイションズリーグで主力が抜ける1月が勝負だろう。それも、エースにしてプレッシングのキーマン・オシメンビルドアップのキーマン・アンギサ、最終ラインの要クリバリとチームの背骨をごっそり抜かれることになる。特にオシメンほどのプレス兵器が抜けるとなると、プレッシングに関してはもう一工夫する必要があるだろう。

ココをうまく切り抜けられれば、悲願のスクデットも見えてくるはずだ。

新生ナポリがシーズンを終えたときに順位表のどこにいるか、今から楽しみだ。

 

 

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