【スパレッティボール】SSCナポリの攻撃戦術を徹底詳解!(後編)

【スパレッティボール】SSCナポリの攻撃戦術を徹底詳解!(後編)

2021年10月17日 3 投稿者: マツシタ
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今回はナポリの攻撃戦術徹底詳解の後編としてフィニッシュの局面について見ていきたい。

前回はビルドアップについて掘り下げているのでこちらもぜひ読んでみてほしい。

【スパレッティボール】SSCナポリの攻撃戦術を徹底詳解!(前編)




フィニッシュ

  • ゴール総数 18(セリエA2位
  • ゴール期待値 13.6(セリエA3位
  • アシスト期待値 7.3(セリエA6位タイ

これは、ここまでにナポリが記録しているゴールに関するデータだ。いずれもリーグでトップクラスの高数値である。

リーグ屈指の攻撃力を誇るナポリ、彼らがフィニッシュにつながる形を作るための主な目的、それを実現するための原則をまとめるとこんな感じだと思う。

 

【目的】

  • フィニッシュを急がず、できるだけいい状態でシュートを打てる状況を作る

【原則】

  • サイドでトライアングルを作り、常に多くの選択肢を提供しながら前進する
  • 相手を押し込んだ後はニアゾーンもしくはライン間のスペースへの侵入を狙う
  • サイド深い位置にボールを運んだあとも安易にクロスを上げず、ペナルティエリアへボールを運ぶ
  • ライン間が空いていればそこにボールを入れてミドルシュートや細かい連係に持ち込む
  • いい形ができるまで何度も攻撃をやり直す

 

以下、これらを詳しくみてみよう。




左右のトライアングルで前進・崩しへ

敵陣までボールを運んだあとはいよいよゴールを目指していく。ここで中心となるのがSB、インサイドハーフ、WGからなるサイドのトライアングルだ。この3枚の間でボールと人を連動させて動かし、相手のブロックを突き崩しにかかる。

同じトライアングルでも左右でその機能性は変わってくる。各サイドについてより詳しくみてみよう。

右サイドの3枚は流動的にポジションを入れ替えるのが特徴的だ。WGに入るポリターノやロサーノがアウトサイドとハーフスペースの両方でプレーできるのはもちろん、アンギサは高めの位置で仕掛けることもできれば低い位置から組み立てることもできる(前編も参照)。さらに、ディ・ロレンツォはトライアングルの3つの頂点すべてに入ることができる万能っぷりだ。

3人とも複数のポジションでハイレベルにプレーできるゆえ、立ち位置を頻繁に入れ替えながら相手のマークを混乱させ、そのずれを突きながらボールを前進させていく。

それぞれの基本ポジション通りにトライアングルを組むとこのような形になる。アウトサイドのポリターノ、インサイドのアンギサをディ・ロレンツォが後ろから支える。ディ・ロレンツォの配球能力の高さは以前紹介した通りだ。

こちらはディ・ロレンツォがハーフスペースをランニングした形。これをおとりに、アウトサイドからカットインするポリターノ。アンギサが引いてバランスをとっていることにも注目だ。

前編でも紹介した、アンギサが引いてゲームメイクする形。ディ・ロレンツォがアウトサイドへ押し出され、さらにポリターノがハーフスペースへ押し出される。

 

このように多彩な立ち位置の組み換えを行う右サイドだが、いずれの形をとるにしてもトライアングルという関係性は崩していないことに注目だ。これはおそらく、スパレッティが仕込んでいる要素だと思う。

サッカーにおいて三角形を作ることの重要性は昔から言及されているが、それは現代でも変わらない。ボールホルダーに対して常に2つの選択肢を与えることができるから、ボールが回りやすくなるのだ。このサッカーの原理に忠実であることが、ナポリが敵陣でもよどみなくボールを動かせる要因になっていると思う。

 

一方、左サイドはより選手の立ち位置が固定的だ。アウトサイドにインシーニェ、ハーフスペースにジエリンスキ(エルマス)がいて、それをマリオ・ルイが後ろから支える形である。

右とは対照的に立ち位置の入れ替えが多くはない左。それでもチャンスが作れてしまうのは、インシーニェやマリオ・ルイの個人能力の高さゆえだ。

昨季のナポリやイタリア代表ではハーフスペースに絞ってプレーすることが多かったインシーニェだが、今季はよりアウトサイドレーンで足元にボールを引き出し、そこから仕掛けていく場面が多くなった印象だ。お得意のカットインとそこから繰り出すシュートやラストパスは相変わらず猛威を振るっている。

〈インシーニェに関するデータ〉

  • シュート総数 23(セリエA2位
  • 枠内シュート総数 9(セリエA2位
  • キーパス総数 13(セリエA2位
  • スルーパス総数 6(セリエAトップ

 

そんなインシーニェにボールを届けるのがマリオ・ルイ。彼が左のキーマンだ。

ひとつ前にいるインシーニェの動きを見ながら足元と裏を使い分け、後方から操る。このゲームメイクのセンスが抜群なのだ。

前編でも紹介した通り、昨季はWG化することが多かったマリオ・ルイ。ゆえに、これまではクロッサーという印象が強かった。

それが、今季からひとつ下がった位置でボールを持つことが多くなったことで持ち前のキック精度に加えてレジスタとしての才能を見せ始めている。今の役割の方が、マリオ・ルイの特性と合致しているように思える。覚醒に導いたスパレッティは見事だ。

↓ マリオ・ルイの後方からのスルーパスが起点となって生まれた得点。このひとつ前の場面もマリオ・ルイのスルーパスからチャンスになっている。見てみてほしい。

 

両サイドのトライアングルをつなぐ役割を担うファビアンも重要だ。サイドで攻撃が詰まれば適宜サポートに入ってボールを引き出し、空いているスペースに配球する。攻撃を方向付ける指揮者として、彼の存在も欠かせない。

〈ファビアンに関するデータ〉

  • サイドチェンジ総数 21(チーム内トップ




ニアゾーンへの侵入を狙う

トライアングルの関係性を使ってサイドから前進することが多い今季のナポリ。そこからどうフィニッシュにつなげるのか。サイドからの前進が多いということは、やはり大外からのクロスボールなのだろうか。

ここで昨季と今季のクロスボールに関するデータを比較してみよう。

〈昨季のデータ〉

  • ペナルティエリア内へのクロス成功総数 78(セリエA11位
  • クロス総数 480(セリエA6位

〈今季のデータ〉

  • ペナルティエリアへのクロス成功総数 8(セリエA18位
  • クロス総数 60(セリエ最少タイ

 

このように、クロスに関するデータでは軒並みセリエAで最も少ない部類となっている。

と敵陣でのボールタッチがトップクラスに多いこと見るともっとクロスボールが多くなってもよさそうなものだが、そうはなっていない。

そう、今季のナポリは安易にクロスボールを上げない。これはチームとして意識していると思う。サイドまでボールを運んだあと、そこからもうひと崩し入れるのが今季のナポリの特徴だ。

彼らが徹底して狙うのがニアゾーンへの侵入。ワイドからもうひとつ内へ、つまりペナルティエリア内へと侵入することが狙いだ。

  • PK獲得数 4(セリエA最多タイ

というデータを見ても、彼らがペナルティエリアの中にボールを運べていることがよくわかる。

 

ペナルティエリア内にいい形で侵入できるまではじっくり攻撃をやり直すことが多い。ペナルティエリア内へのクロスが少ない一方で敵陣でのボールタッチが多くなっているのはこれが理由だ。

  • 縦パス成功総数 258(セリエA3位

と縦パスが多くなっているのも、縦に速い攻撃を志向していることが原因ではない。いったん深い位置をとってもバックパスでやり直し、また縦に入れては戻してサイドチェンジ、チャンスを探る。この繰り返しの結果が縦パスの多さに反映されていると思う。

図に示したのがニアゾーン。ここへ侵入してからクロス、もしくはマイナスへの折り返しでフィニッシュにつなげる。だから、先ほど紹介したようにペナルティエリアの外→中のクロスは少ないけれど、ペナルティエリア内からのクロスでいくつもの得点を生み出している。ニアゾーンに入れればクロスの距離が近くなるためより危険な場面を作りやすく、また各選手の足元にボールを届けやすい。

ナポリは空中戦に強いアタッカーが少ない反面、足元のテクニックに優れた選手たちは多い。大外からのクロスを用いず、パスワークでペナルティエリアまで侵入できるまで攻撃をやり直すというこのアイデアは、こうしたナポリのアタッカー陣の特性ともマッチした戦法だといえるだろう。

↓ ペナルティエリア内からのクロスで3ゴールを奪ったサンプドリア戦




ミドルシュートが武器のひとつに

相手を押し込んだ後じっくり攻撃することが多いナポリ。それゆえ、押し込まれた相手のDFラインの前にはスペースができやすくなる。このスペースを使ったミドルシュートが多くなっているのも特徴のひとつだ。

  • シュート平均距離 18.3m(セリエA5位

このように、シュートの平均距離が長くなっている。18.3mは、ペナルティエリアの縦幅よりも遠い距離だ。

 

ミドルシューターとして重要な役割を担っているのがファビアン・ルイス。低い位置に構えるファビアンはタイミングよく顔を出してマイナスのパスを引き出し、高精度のミドルシュートを連発している。

↓ ジェノア戦のファビアンのゴール

 

ファビアンに限らず、ここまでのナポリはシュート精度の高さが際立っている。

  • 枠内シュート総数 44(セリエA1位
  • 枠内シュート率 39.6%(セリエA3位

これも、いい形でシュートを打てていることの証拠だろう。先ほど紹介した主目的が達成されていることが見えてくる。




中央のひし形による連携

相手を押し込んでできたライン間のスペースでアタッカーを連携させるのも形のひとつだ。

前編でナポリのボール保持時の基本陣形が4-1-2-3であることを紹介した。この「1」と「2」を1トップのオシメンに近づけてひし形を形成、彼らがワンタッチ・ツータッチで細かく連携することで即興的に相手を崩すのだ。

各選手の距離を近づけ、細かいパス交換で連携。

 

↓ レスター戦で見せた連携からのゴール

 

この形もそうだが、スパレッティはナポリのアタッカーたちの特性をもとに攻撃を組み立てている気がする。つまり、フィジカルがそこまで強くない反面、テクニックレベルは総じて高い。だから、選手間の距離を近くして細かい連係を重視する。遠距離からのクロスを用いず、もう一つ中に侵入させる。

持っているタレントと戦術的な狙いが噛み合っていることが、ナポリの攻撃に破壊力を出している印象だ。




セットプレーも大きな武器に

さらにもうひとつ、セットプレーが重要な得点源になっていることにも触れないわけにはいかない。

  • フリーキックからのシュート総数 9(セリエA最多
  • シュートにつながった被ファウル総数 17(セリエA最多

このように、セットプレーから生まれたシュートチャンスの数はセリエAの中でもダントツでトップだ。

実際、2節(vsジェノア)、3節(vsユベントス)、7節(vsフィオレンティーナ)の3試合はいずれも1点差で勝利した試合だが、決勝点はすべてセットプレーから奪っている。開幕7試合にしてすでにセットプレーから勝ち点6を拾っている計算だ。

特に好感が持てるのが彼らのセットプレーがしっかりデザインされていること。トリックプレーも多く、しっかり準備してきていることがよくわかるのだ。

↓ フィオレンティーナ戦の決勝点はトリックフリーキックから生まれた。

 

僅差の試合ほど最後はセットプレーで勝負が決まるというのはサッカーのあるある。これを理解したうえで、序盤戦の段階からセットプレーを作り込んでいるのは素晴らしいことだと思う。

細かいところまで徹底的に。ディテールの詰め方が勝負を分けるというジム・ロジャーズの言葉がスパレッティを連想させたのは、彼のチームがどの局面においてもデザインされたサッカーを展開しているからだ。多くの武器を持つナポリ。彼らを止めるチームが現れるのかは、今季のセリエAの焦点になってくるかもしれない。

 

 

さて、最後にもうひとつフィニッシュに関して重要なデータを紹介しておきたい。

  • シュートにつながった守備アクション総数 7(セリエAトップタイ

そう、いい守備からいい形でボールを奪えていることもナポリの攻撃力を支えているのだ。

次回は彼らの守備戦術について掘り下げていきたい。

【両刀使いが躍進のカギ】SSCナポリの守備戦術を徹底詳解!




 

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