
【モンスターストライカー】ヴィクター・オシメンのプレースタイルを徹底解剖!
アフリカ人ストライカーといわれると誰を思い浮かべるだろうか。最近サッカーを見始めた世代ならサラーやマネ、オーバメヤンということになるんだろう。もう少しさかのぼればサミュエル・エトー、オールドファンならジョージ・ウェアなんかが思い浮かぶかもしれない。
ぼくはそのどれでもなくて、ディディエ・ドログバが思い浮かぶ。規格外のフィジカルに、天性の決定力。まさに理不尽の塊だった。11-12シーズンのCL決勝、完全アウェーのアリアンツスタジアムでバイエルン相手に決めた同点ゴールのあとの「ドログバァァァァァァァ」という実況の絶叫は今でも鮮明に頭の中で再生できる。
彼が引退したとき、こんな理不尽なストライカーはしばらく現れないんだろうなと思っていたけれど、思ったよりも早く出現してしまった。そのFWの名はヴィクター・オシメン。オシメーンともオシムヘンともいわれている。SSCナポリの背番号9を背負う22歳だ。
オシメンの名が欧州中に知れ渡ったのは2015年、U-17ワールドカップがきっかけだった。ナイジェリア代表の一員としてこの大会に参加したオシメンは、7試合10ゴールという驚異的な成績で大会得点王を獲得、チームの優勝にエースとして貢献したのだ。当然欧州中で争奪戦になり、18歳になってすぐに上陸する運びとなった。
初の移籍先となったヴォルフスブルクでは適応に苦しんだものの、レンタルに出されたベルギー・シャルルロワで公式戦通算36試合20ゴールとブレイク。翌年にはリーグアンのLOSCリールへ移籍、フランスでも公式戦38試合18ゴール5アシストを記録した。
そして、2019年夏にはイタリアの強豪ナポリがオシメンを獲得。フランス紙が報じたところによると、この時の移籍金はナポリが支払った最高額である8100万€(約101億円)。これは同時にアフリカ出身選手における史上最高額でもある。21歳にしてこの金額、潜在能力の高さを物語るのに十分だろう。
しかしながら、加入初年度となった昨シーズンは負傷離脱もあって移籍金に見合った活躍を見せられたとはいいがたい。それでも終盤に8戦7発を記録するなど爆発の予兆は見せていた。そして迎えた今シーズン、ここまでオシメンは7試合7ゴール。ついに本格開花の兆しを見せているのだ。
それでは、そんなオシメンが一体どんなプレーヤーなのか徹底的に掘り下げていきたい。
オシメンのプレースタイル
驚異的な身体能力
オシメンのすべての能力の根底にあるのは驚異的な身体能力だ。とにかくすべてにおいて規格外感にあふれている。
その中でも最も目を引くのはスプリント能力だ。とにかく速い。足の回転が速いわけではないが、足が異様に長いので一歩一歩の進む距離が図抜けている。オープンスペースの走りあいでオシメンが負けた場面はちょっと記憶にない。
映像を見てもらったほうが早いと思うので、下にオシメンのスピードがよくわかる動画を引用してみたい。
画面に出てきた時点でオシメンは吉田の3mは後方にいる。ボールが出た瞬間はまだ距離があっただろう。ところが、5歩もしないうちに吉田を追い越したオシメンはそのまま爆走、1対1の場面を迎えている。この裏抜けしてスピード勝負を制してからの1対1がオシメンの必勝パターンである。昨季の10ゴールのうち6ゴールは裏抜けから決めている。
動画で紹介した場面ではGKに防がれてしまっているが、決定率は高い方だ。脇を射抜くだけでなくループシュートもよく使っていて、駆け引きにも長けている。
さらに、跳躍力も驚異的だ。これも動画で見てもらおう。
助走なしで相手CBから頭一つ、いや胸上くらい飛んでいる。直後のスパレッティ監督のジャンプと比べてみてほしい、オシメンのすごさがよくわかる。
- 19-20リーグアン 空中戦勝利総数 94(5位)
というデータも納得だ(上記のもの含め、以下に示すデータはすべてFBref.comより)。
さらには長いストライドを活かしたボールキープも理不尽の極みだ。多少タッチが乱れても体を入れている相手より先にボールに触って自分のものにしてしまう。
下の動画はその典型的なシーンだ。
このように、アフリカンらしい身体能力の高さがオシメンを特別なプレイヤーたらしめているといえる。彼ほどスケールの大きさを感じさせてくれるFWはいまのセリエAにはいない。これでまだ22歳、末恐ろしい。
ゴールパターン増加中
驚異的な身体能力を持ち、それを存分に活かすプレイヤーだという印象が強かったオシメン。だが、今シーズンはプレーの幅を広げて来つつあるように見える。
というのも、監督交代によってナポリの攻撃に若干の変化が生じたのだ。昨季のナポリはボール保持を基本としながら、チャンスがあれば一気にライン裏にロングボールを落としてオシメン含むアタッカーを走らせるような攻撃をしていた。今季にそうした選択肢がまったくなくなったわけではないが、昨季と比べてより丁寧にボールを前進させていく印象だ。
〈1試合平均ロングパス数〉
- 20-21 100.65本(セリエA5位)
- 21-22 92本(セリエA12位)
とデータもそれを裏付けている。
ゆえに、とにかく裏抜けスターな印象が強かったオシメンも昨季とは異なったパターンで得点を重ねている。
ナポリがボールを支配するということは相手が引いてくるということ。これを崩す手段の最右翼はクロスボールだ。今季のオシメンはクロスに飛び込む形で得点を多く決めている。
先ほどは驚異的なジャンプ力があることを紹介したが、頭よりもむしろ足元に来たボールをプッシュすることが多い。プレー集を見ているとリール時代はクロスボールに飛び込む形がメインになっていたようだが、やっぱり足で合わせることが多かった。
基本的にはファーで待っているか、空いたスペースを見つけて一気に走り込む。動画の場面のように、あまり駆け引きはしない。無駄な駆け引きをしなくても身体能力でねじ伏せられるからだろう。足が長いから相手の前でボールを触って決めてしまう場面も多い。
ついでに言うと、クロスが上がってくる前にワンタッチでボールをはたいていることにも注目だ。オシメンはこういうワンタッチの落としが結構うまい。足元のテクニックレベルも低い方ではなく、味方を使うのもうまいのだ。
シュートに話を戻すと、オシメンはそもそもシュートの数自体が多い選手だ。遠い距離からでも積極的に狙っていく。
- シュート総数 17(セリエA6位)
- 90分あたりシュート数 4.41(セリエA3位)
ただ、昨季はその精度があまりよくない印象だった。これが改善されてきているのが今シーズンだ。
- 枠内シュート総数 8(セリエA3位)
- 90分当たり枠内シュート総数 2.07(セリエA2位)
- ゴール期待値 3.2(PK抜きではセリエA2位)
枠内シュート率を見ても、昨季の40.6%から今季は47.1%に上昇。ほぼ半分のシュートを枠に飛ばしている計算だ。ゴール期待値を見ても、昨季は11.0で実際のゴール数10を上回っている(=決定的なチャンスを外している)のに対して、今季はゴール期待値3.9に対して実際のゴール数は6。シュートの精度、決定力にかなりの改善がみられることは明らかだろう。
もともとパワーはあるだけに中距離のシュートでも十分得点が量産できるはず。引かれた相手に対しては、その前から決めてしまうのが最も簡単だ。実際、プレシーズンのバイエルン戦では見事なミドルシュートを決めている。
このように、裏抜けに加えてクロスへの飛び込み、ミドルシュートと得点パターンが豊富になってきつつあるオシメン。本格的なストライカーとして開花の雰囲気が漂っている。
守備力でもチームに貢献
さて、オシメンの最大の特徴として身体能力の高さ、それもスプリント能力の高さを挙げた。これは攻撃時だけでなく守備時にも存分に活かされている。
ナポリの守備時の陣形は4-5-1。オシメンはその最前線に入っている。ふつう前線が1トップだとその脇から前進されてしまうので、プレッシングを行うならWGが外切りで出ていくかインサイドハーフが前に飛び出すかで補助するのだが、ナポリの場合はオシメンが複数人を引き受けてしまうため4-5のラインを大きく崩さずともプレスがかかる。
- アタッキングサードでのプレッシャー総数 32(チーム内2位)
オシメンはとにかく速いので、ただプレッシャーを掛けるだけでなく自らボールを奪うこともできてしまう。相手がいつもの感覚でプレーしていると、いつの間にかオシメンに追いつかれて餌食になってしまう。
- ブロック総数 6(チーム内4位タイ)
このブロック数はFWの選手に限ればセリエAで上から3番目の数字だ。ただプレスをかけるだけでなく、ボールにチャレンジするところまで行けている証拠だ。
この場面のように、オシメンは自慢の快足を飛ばしてプレスをかける。ここで注目すべきは2度追いだ。ボールの動きに合わせて何回も追いかけることでボールに制限をかけていく。そして、追いかけるときのコースの切り方がいいのがグッド。必ずパスを出した選手を切りながらプレスをかけるので、ボールを外に外に追い込める。
これを外すにはリターンパスが有効なのだが、猛然と向かってくるオシメンの方向にパスを出すのはなかなか勇気がいるだろう。

バックパスに反応してプレスを開始するオシメン。

GKへ戻されたパスに呼応してさらに追いかける。この時、確実に外を切っているのがポイントだ。この後、相手GKはキックミスしナポリボールのスローインになっている。
今季のナポリはリーグ内でも屈指のプレッシングの多さになっている(アタッキングサードでのプレッシング総数が4節終了時点でトップ、現在は4位)。注目すべきはその成功率で、
- プレッシャー成功率 30.6%(セリエA3位)
- シュートにつながった守備アクション総数 7(セリエA1位)
とかなり高い数字だ。それを可能にしているのは一人で複数人を相手にできるオシメンの走力と確実な追い込み術だ。彼がコースを限定してくれるおかげで次の選手が狙いを定められる。オシメンはファーストディフェンダーとしても戦術兵器なのだ。
このように、
- 爆発的なスプリント力を活かした裏抜けを得意とし、
- 驚異的な跳躍力で空中戦を制し、
- 長い四肢を活かしてキープ・突破でき、
- クロスボールへの飛び込みやミドルシュートなど多彩なパターンを持ち、
- スピードと戦術理解度の高さでプレッシングのスイッチ役を担う
攻守にわたって多くの役割をこなせるオシメン。その存在感は絶大だ。
オシメンの伸びしろ
このように特筆すべきストロングポイントを多く持つオシメンだが、まだまだ改善点も多く存在している。
ひとつが精神面の成熟。開幕節のヴェネツィア戦ではマークについてきた相手を殴って退場になる場面があった。昨季はジャンルカ・マンチーニと激しい口論を繰り広げて警告をもらう場面があった。こうしたプレー外のことが原因で継続性を損なうのはもったいないと思う。
ふたつめが駆け引きの習得だ。クロスボールのところで紹介したように、オシメンはあまりDFとの駆け引きをせずにどっしりと待ち構える、もしくは自分が決めたコースに愚直に走り込む。これでも点を取れているけれど、果たして相手のレベルが上がってきたらどうか。
また、足を止めていることが多いためセカンドボールをプッシュする、いわゆるごっつぁんゴールが少ない。ああいうゴールは一見簡単に見えるが、常にボールがこぼれてくる場所を予測しかつDFよりも先んじてポジションを取っておかなければならないため偶然とは言い切れない部分も大きい。今のオシメンは自分の前にボールがこぼれてくる可能性が低い状態だといえる。
たとえばクリスティアーノ・ロナウドは超人的な身体能力を持ちながらオフ・ザ・ボールの駆け引きが抜群にうまい。さらに、動きを止めないからセカンドボールのプッシュも多い。比較対象が世界のトップなので悪く見えるのは当然なのだが、オシメンはそのレベルに到達できる資質が十分にあると思う。ロナウドのようなミクロな駆け引きや予測力を習得できれば、より得点を量産できるに違いない。
最後に挙げたいのがポストプレーの精度だ。ここが一番の課題であり、最も大きなのびしろだと思う。
オシメンは非常に線が細い。フィジカルが弱いわけではないが相手を押さえ込んで時間を作るほどの強さは感じられない。特に相手に密着されるとトラップの精度が落ちる傾向があり、ポストプレーの成功率は必ずしも高いわけではない。
- 縦パスレシーブ成功率 53.7%
これをライバルクラブのFWと比較してみると、
と差をつけられていることがわかる。
これを改善するためには、もう少し体に厚みをつける必要があるだろう。相手からのコンタクトを受けても体の軸がぶれないくらいの強さが身についてくれば、オシメンはより攻撃の起点としての能力を高めることができるはずだ。
あとがき
天性の才能があり、すでに得点を量産しているオシメン。だが、まだまだ課題もあって最大限の力は出しきっていないんじゃないかと思ってしまう。逆に言えばそれだけ伸びしろも大きく残しているということで、その理不尽さはさらに増大していきそうだ。底知れない可能性を感じさせる22歳である。
精神面に課題があると紹介したが、彼は慈善活動にも積極的だ。守備時の献身性や味方を使うプレーのうまさも含めて、ただの未熟な若者では決してない。どん欲にいろいろなものを吸収し、やがてはアフリカを代表するストライカーになっていくはずだ。
現在、オシメンはナポリのエースストライカーにしてプレスの先導役と攻守に重要な役割を任されている。スパレッティはオシメンの存在を前提にしてチームを組み立てているように見える(詳しくは後日分析記事を投稿予定)だけに、彼の成否はチームの成績を大きく左右するだろう。
ルカクやロナウドといった面々が去った今、オシメンは得点王候補の筆頭グループにいるといっていい。このまま数年間ナポリでプレーを続けるのならリーグの新しい顔になっても不思議ではない。その才能を完全開花させ、チームを勝たせる選手になれるか。2年目のオシメンから目が離せない。
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