【リーグ屈指のアグレッシブプレス】サンプドリアの守備戦術を徹底詳解!

【リーグ屈指のアグレッシブプレス】サンプドリアの守備戦術を徹底詳解!

2021年9月26日 2 投稿者: マツシタ
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前編中編と続いてきたサンプドリアシリーズも後編を迎えた。今回はサンプドリアの守備戦術について徹底的に掘り下げていきたい。

前編では戦術の概要について、中編では攻撃戦術についてそれぞれまとめている。こちらも合わせて読んでみてほしい。

↓ 前回(中編)

【右上隅をめざす縦アタック】サンプドリアの攻撃戦術を徹底詳解!




プレッシング

 

数的同数承知のマンツーマン

サンプドリアの守備において非常に重視されているのが即時奪回だ。あえてボールを狭い方に持っていくことで閉じ込め、敵陣で試合を進めるのがサンプドリアの基本的なコンセプトだからだ。

しかし、ここに関しては前編でしっかり説明したと思う。そこで、後編ではあまり触れてこなかったプレッシングと組織的守備(自陣での守備)について掘り下げていきたい。

まずはプレッシングからだ。その主目的及び手段について確認してみよう。

【主目的】

  • ボールを自陣まで運ばせない。

【手段】

  • マンツーマン基準で厳しくプレス、可能ならボールを奪いきる。
  • ボールに近い場所の選択肢をすべて消すことが最優先。最終ラインで数的同数になるリスクも辞さない。
  • ボールを奪えないならクリーンな形でボールを前進させない。ロングボールを蹴らせて回収する。

前編で紹介した通り、サンプドリアの基本的なコンセプトは敵陣で試合を進めること。ゆえに、相手が後方でビルドアップしているときは積極的にプレスに出てボールを敵陣で止めてしまうことが理想となる。そのために、マンツーマンで相手の選択肢を制限しながらデュエルを挑み、可能ならボールを奪ってしまう。それが無理でも相手から自由を奪うことによってロングボールを蹴らせ、対人に長ける吉田&コリーに回収させるのが基本的な原則だった。

それでは、実際の試合映像を交えながらより詳しくサンプドリアのマンツーマンディフェンスについて見てみよう。

キーマンになってくるのがトルスビーだ。

こちらはミラン戦のワンシーン。相手のビルドアップに対してプレスをかけるサンプドリアは、2トップのクアリアレッラとガッビアディーニがそれぞれ相手のCBであるケアーとトモリにマンツーマンでついている。ここで問題になってくるのは引いていく中盤の選手だ。

ふつうは守備側のFWの選手が降りたMFのマークを引き受け、サイドに流れた選手にはサイドハーフをアタックさせる。しかし、サンプドリアは受け渡さない。この受け渡しをほとんどやらないことがサンプドリアのマンツーマンディフェンスの最大の特徴。つまり、純粋なマンツーマンにかなり近いタイプの守備方法だといえる。

このシンプルなルールが選手たちから迷いを消し、担当の選手にボールが出てきたときの迫力あるプレスを引き出す要因になっていると思う。

思えば攻撃もそう、とにかく縦へ、とにかく右へ。チームとして狙いを明確にすることで11人が狙いを共有でき、組織として完成度が高いサッカーが実現できている。意思統一からくる迷いのなさがサンプのアグレッシブなサッカーの根幹をなしているといえそうだ。

そして、そのシンプルな原則の中で例外的なケースが発生することがある。この例外的なケースに対してはトルスビーを動かすことで対処することが多いのだ。相手がブロックを敷いてきたときの右斜め落ちもその一例。そして、相手のMFの中で深い位置に降りていく選手を捕まえるのもまたトルスビーの役割。画像の場面のように、2トップに並ぶくらいまで高い位置に出ていってプレスをかけることも少なくない。

 

続く場面。トルスビーはトナーリのバックパスに反応してそのままGKにまでプレスをかけている。

ここまでの5試合を見ていると、引いて行くMFはおろかGKへのプレスもトルスビーに任されているように見える。この場面はその典型的な場面というわけだ。

 

さらに続く場面。メニャンにロングボールを蹴らせた後、トルスビーは素早く帰陣してスペースを埋めている。これを90分間繰り返せる選手は多くない。しかしながら、トルスビーはリーグでも屈指のダイナモ。彼ならば自陣と敵陣の往復を繰り返せることは以前説明した通りだ(詳しくはモルテン・トルスビーのプレースタイルまとめを参照)。

 

こちらはサッスオーロ戦のワンシーン。原則通りトルスビーが引いて行く相手のボランチ、マキシム・ロペズをマークしている。

ここで注目したいのはCBの吉田も高い位置まで出ていって相手を捕まえていることだ。受け渡しを極力しないのは最終ラインも同じ。引いたFWは最終ラインの選手が思いっきり飛び出してつかまえる。背後にスペースが空くリスクを冒してでもフリーのパスコースを作らないことが最優先だ。

 

吉田が飛び出していなくなったスペースにロングボールを入れられる場面は多くなるけど、そうなったらコリーが対人能力でねじ伏せる。あるいは粘っている間に全員で帰陣する。最も長い距離を走ることになるトルスビーも、すでに守備ブロックの一員になっていることがわかる。

このように、リスク承知でボールの近くの選択肢を消し、高い位置から相手の自由を奪おうとする。リーグでも屈指のアグレッシブなプレスがサンプドリアの武器になっているのだ。




ナポリのサンプドリア攻略法

さて、そんなサンプドリアのプレッシングを見事に空転させるチームが現れた。第5節に対戦したナポリだ。ここでは、智将スパレッティがいかにサンプのプレスを機能不全に陥らせたのか振り返ってみたい。

まず最初にナポリがやったこと、それはとにかくオシメンにロングボールを放り込むことだ。

サンプドリアは最終ラインで数的同数になるリスクを冒してでも前線の選択肢を消すことを優先するのだった。ゆえに、前線ではオシメンと吉田が1対1の状態になっている。そこで、スピードとフィジカルに優れたオシメンの個を押し付け、前線での質的優位を強調したのだ。

動画冒頭の決定機はまさに狙い通りの形だったはずだ。それに続くナポリの先制点の場面も、オシメンへのシンプルなロングボールの競り合いを拾ったところから生まれている。この2つのシーンは、相手のCBに恐怖を植え付けるのに十分だったはずだ。

そして、スパレッティは次なる策もチームに授けていた。それが、中盤の左右非対称化である。

この試合、ナポリは4-3-3システムを採用、ファビアンアンギサ、ジエリンスキで3センターを構成していた。このうち、ファビアンとアンギサで2ボランチ化する場面が多くみられた。サンプドリアの原則はボールに近い選択肢を消すことだから、2ボランチが両方とも前へ出てファビアン&アンギサを消しに行く。上の画像がそれをよく表している。

 

そこでカギになってくるのがジエリンスキ。MFラインでもなければFWラインでもない、中途半端な立ち位置をとってサンプドリアの最終ラインを幻惑させていた。

写真に示したような中盤L字型の陣形を組んで底の2枚でサンプドリアのボランチを引き付け、ジエリンスキをフリーに。ここへオスピナからロングフィードを送ることで何度もサンプドリアのプレスを打開していた。

前半39分に決まった2点目もオスピナからジエリンスキへのフィードが起点になって生まれている。試合を見返してみてほしい。

 

こちらも同様の場面。ボールに近い選択肢を消すという原則に従い、ファビアンとアンギサをマークするサンプドリアの両ボランチ。

 

その背後でフリーになっていたジエリンスキにくさびが入り、サンプドリアは一気に置き去りにされている。

 

先ほど紹介した原則で行くと、最終ラインの選手が飛び出してジエリンスキを捕まえなければならないはずだ。しかし、オシメンが植え付けた恐怖により最終ラインは十分に押し上げられず、サンプドリアのライン間は終始広がったままだった。

オシメンの質的優位を示して最終ラインを押し下げ、ライン間が広がったらフリーのジエリンスキへ。これがスパレッティが提示したサンプドリアのプレッシング攻略法だ。

しかしながら、オシメンほどのタレントは世界中を見てもそういるものではない。彼の存在がなければ、もっとジエリンスキに対しても厳しく制限をかけられたはずだ。だから、個人的にはこの試合を理由にサンプの守備を大きく変える必要があるとは思わない。むしろ、これを想定したうえでそれでもメリットが多いからこそアグレッシブなプレッシング戦術を採用しているはずだ。

むしろ気になるのはトルスビーがFWラインまで飛び出さずMFラインにとどまった時、相手のGKに対してかなり自由を与えてしまうことだ。前述のように、サンプドリアはGKへのプレッシングをトルスビーに任せているような印象を受ける。逆に言えば、2トップの選手はあまり相手のGKに対してプレスをかけない。

こうなってくると、相手GKにハイレベルなフィード能力があるときに困難に陥ることになる。事実、ナポリ戦でもオスピナからのフィードに苦しめられていたし、ミラン戦ではメニャンのロングフィードが起点となって決勝点を奪われている。

↓ ミラン戦の決勝点の場面

やはり気になるのは、メニャンがフィードをする前に10秒以上もフリーでボールを持たれ、10m近くドリブルで前進されていること。これほど自由を与えてしまうと、メニャンレベルのGKにとってはアシストだって可能なのだ。

極端なことを言ってしまえば、オシメンのような質的優位性を持つアタッカーがいたとしても、そこにボールを出させなければいい。彼らのスタイルを考えれば、この発想は決して絵に描いた餅で片付けるべきではないように思うが…。

マンツーマンかつ受け渡しが少ないゆえにGKにプレスがかからないという問題。これをどう解決していくかは今後に向けた課題だといえるだろう。




組織的守備

ここからは組織的守備についても見てみよう。組織的守備とは自陣での守備のことだと思ってほしい。

ここでサンプドリアのサッカーのコンセプトが「敵陣で試合を進める」であることを思い出してみよう。ここから考えたとき、自陣でブロックを組んで守ることは自分たちのコンセプトが達成されていない状態だといえる。理想からは遠い状態だ。

だから、サンプドリアの守備の大半の時間はプレッシングである。ゆえに、組織的守備に関してはあまりトレーニングできていないように見える。ここまでの5試合を見ている限り、完成度はあまり高いとは言えない

問題点は大きく2つあると思う。ひとつめは、ブロックを構築したときに待ち構える意識が強すぎ、相手に自由を与えてしまう場面が多いことだ。

下の動画を見てみてほしい。

サンプドリアは組織的守備時に4-4-2の陣形で守る。ここで気になるのはボランチの2人以外みな足を止めてしまっているところだ。特に最終ラインの選手たちが棒立ちで、前に出ていくMFラインとの距離が空きライン間でフリーのブラヒムにボールが渡っている。またボールが入った時も前に出て圧力をかける選手がおらず、結果的にプレスバックしたボランチがもう一度守備をしている。

一度止まった足が動かなくなってしまうのは身体の特性上仕方がない側面もある。しかしながら、組織的守備時の受動的すぎる振る舞いは個人的に引っかかる部分だ。

ふたつ目は左右で守備強度に違いがあるところだ。

この場面ではトップ下のジュリチッチに左から侵入されている。受動的なふるまいが目立つ組織的守備の中でも、とりわけ左からボールを持ち運ばれる場面が多い。右サイドには守備強度が高いダムスゴーがいるためあまりピンチを作られないが、左のカンドレーバは守備時の強度が低い

これが如実に表れていたのがエンポリ戦。エンポリはボールを持ったらまず前線へロングボールを送るという、サンプドリアと似たコンセプトのサッカーを展開してきた。ゆえにいったん押し込まれることが多くなったサンプドリアは組織的守備を構築する時間帯が普段よりも長くなっていた。

このとき、2トップの脇とカンドレーバの間から相手のCBルペルトに何度もドリブルで持ち上がられ、トルスビーが引っ張り出されて中盤にスペースができていた。幸いここを有効活用されなかったものの、今後弱点となりうると思う。

このように、組織的守備に関しては課題が多く見えるサンプドリア。ここに関してもトレーニングを施すのか、それともプレッシングで組織的守備の時間帯を作らせずにねじ伏せていくのか。今後の動向にも注目だ。




あとがき

ここまで3回にわたってサンプドリアを特集してきた。縦に速い攻撃と密集を活かしたトランジションの連続、マンツーマンを原則としたアグレッシブな守備攻守において強度が高いサッカーを特徴とする、見ていて気持ちがいいクラブだ。その根底にあるのは、チームとしての迷いの少なさ、それを引き出すシンプルな原則だ。意思が統一されているからこそ、11人全員が迫力を持って相手に襲い掛かれる。イタリアにあってドイツ的な、ストーミング系統のサッカーだといえるだろう。

現時点での完成度の高さはセリエAの中でも上位に入ってくるはずだ。歯車がかみ合えば、上位戦線に波乱を巻き起こしてもおかしくないと見ている。

サンプドリアがダークホースとしてリーグを盛り上げられるか注目だ。

 

 

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