【右上隅をめざす縦アタック】サンプドリアの攻撃戦術を徹底詳解!

【右上隅をめざす縦アタック】サンプドリアの攻撃戦術を徹底詳解!

2021年9月25日 5 投稿者: マツシタ
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今回はサンプドリアの戦術詳解中編として、攻撃について深く掘り下げていきたい。

前編でサンプドリアの戦術について概要を解説しているのでこちらもぜひ読んでみてほしい。

【ダベルサ流ストーミング】サンプドリアの戦術を徹底詳解!(前編)




ビルドアップ

 

フィードの供給源としてのアウデーロ

まずはサンプの攻撃について前編で紹介した原則的なプレーを復習しつつさらに深く掘り下げながら、実際の試合で機能した場面を紹介しようと思う。

自陣ゴールに近い場所から見ていこう。GKも含めたビルドアップからだ。

まずは復習として、サンプのビルドアップの目的とその手段についてまとめておく。

【主目的】

  • ピッチ右奥の深い位置を目指す。そのためにカンドレーバにボールを届ける。

【手段】

  • トルスビーを高い位置へ押し出してターゲットに。
  • トルスビーの周辺に選手を集めて密度を高め、セカンドボール回収に備える。

これが基本的な考え方。ゆえに、前編で紹介した「トルスビー+五角形」をGKがボールを持っている段階から構築する。GK周りのサポートはCB2枚+アンカー役のアドリエン・シウバ。通常ビルドアップにはGKをのぞくと最低4枚、普通は5枚をかけるけれど、サンプはGKのぞいて3枚のみだ。最初は低い位置にとどまる左SBのアウジェッロも、コリーにボールが出たときの避難先以外の役割を任されているわけではない。

このことからも、サンプドリアが無理をしてまで後方から丁寧にボールを前進させる意思がないことがわかる。おそらく、GKの周りに配置される3人も相手をひきつけて中盤のスペースを広げる、かつカウンターに対する守備要員としての意味合いが強い。相手にマークにつかれてもポジションを取りなおさず、むしろそのまま引き付けておこうとしているようにさえ感じる。

それは、ロングフィードの供給源であるアウデーロをフリーにするためだ。

〈4節終了時点、FBref.comより〉

  • GKからの40ヤード以上のパス成功総数 38(セリエA1位

このように、アウデーロはセリエAの中で最もフィードを成功させているGKになっている。彼がトルスビーへのボールの供給源になっているのだ。

というわけで、ビルドアップ時の陣形はこんな感じだ。

CBは低めの位置に大きく開く。アウデーロとの距離をとるのは彼をフリーにするため。前方ではトルスビーを押し上げ、彼を中心に五角形を形成。左から大きく絞ってくるダムスゴーがキーマン。

この形からチャンスになったのがインテル戦のワンシーン。GKからのビルドアップよりも場所は少し高いのだけど、トルスビー+密集でセカンドボールを回収、そこから縦に素早く持ち運んでフィニッシュというサンプドリアの狙いが実現した場面として取り上げておきたい。

競り合うトルスビー。彼を囲うように選手が集まり、密度が高い状態を維持。一人少ないのは縦に放り込むタイミングが早かったことに加えて、システムが2トップじゃなくなっているという事情もあり。

こぼれだまをトルスビーの後ろにいたアスキルドセンが回収、もういちどトルスビーがせったボールを「左の門番」ダムスゴーが回収。セカンドボール回収の連続からカプートにボールがわたり、決定機につながった。まさに狙い通りの攻撃だ。

↓ 該当シーンの動画




 

相手が引けば柔軟に

ここでもう一つ掘り下げてみよう。もし相手が前線からのプレスを放棄し、サンプドリアの最終ラインに自由が与えられている場合はどうするのだろうか。それでも放り込むのだろうか。

いや、こうなったときはアウデーロからのロングフィードにはこだわらない。一方で、トルスビーがキーマンであることと最終的に右サイドを目指すことは変わらない。

アウデーロは両CBがフリーになった時、優先的に吉田にボールを渡す。このタイミングで、前線に上がっていたトルスビーが斜め落ち。吉田の脇でボールを受け、同じく低い位置に降りてくるカンドレーバに中継する。この3本のパスで目的達成だ。

実際にはそんなにうまくいく場面は少ないけれど、最終ラインを経由するときも中盤にはあまりボールを入れずにシンプルにボールを持ちだそうという考え方は不変である。




崩し

 

右の同一レーンアタック

さて、無事にボールを敵陣まで届けることができたら、次はいかに相手ゴールにボールを入れるかを考えなければならない。つまり、崩しのフェーズだ。

ここでも主目的とそのための手段を確認しておきたい。

【主目的】

  • 右サイドの奥を取り、最後にゴール前へボールを送る。

【手段】

  • カンドレーバとベレシンスキの連携で右サイドを深くえぐる。そこからクロスボール、もしくはさらに内に侵入する。
  • ゴール前には多くの選手を送り込み、密度を高めてクロスボールに飛び込む。

先ほども触れたように、カンドレーバは右サイド低い位置に引いてきて足元にボールを要求することが多い。そして、彼にボールが入ったタイミングでアウジェッロが追い越す。ゆえに、カンドレーバとアウジェッロは立ち位置が入れ替わることが多い。

この時に特徴的なのは、ふたりともアウトサイドレーンにポジションする場合が多いこと。アウジェッロは内外を使い分けてカンドレーバを追い越すけれど、最終的にはアウトサイドレーンでボールを受けることが多くなっている。

またアーリークロスを送ることも少なくて、とにかくいったん右の深さをとることを優先する。それが達成されてから内側に侵入していくイメージだ。とにかく右の奥。これが徹底されている印象を受ける。

 

これを達成する上で欠かせないのが、右のふたりの絶妙な連携だ。まずアウジェッロのランニングのタイミングがものすごくいい。ここぞのタイミングで追い越し、カンドレーバのサポートに走る。内外を走り分けながら効果的に縦の選択肢を提供できていることは前述の通りだ。

とはいえ、普通は攻撃方向に対して平行なパスを通すことは至難の業だ。斜めのパスを連続させながらの前進がセオリーである。ところが、カンドレーバの技術をもってすれば同一レーン上でもすぱすぱパスを通せる。タイミングのずらし方、浮き球の使い方、針の穴を通すようなパス。特別な感覚を持った彼にしかできないプレーだ。

カンドレーバがそのままドリブルで侵入して右奥でボールを持った時はシンプルにクロスボールを送ることが多い。アウトサイドレーンからのクロスなので決定機につながる確率はあまり高くないが、とにかく放り込む。相手にブロックされてコーナーキックを取れれば、それでもOKくらいに思っているんだと思う。

むしろチャンスになっているのはベレシンスキがボールを持った時。カンドレーバの縦方向のパスを受けたベレシンスキは、ワンタッチ目で一気に角度を変え、勢いを持ってゴール前に侵入していくプレーを得意としている。ぼくは勝手に「90度ターン」と呼んでいるんだが、これが相手にとってかなり脅威になっている。

【手段】の2つ目で触れた通り、サンプドリアは右サイドでボールが展開している間にゴール前にかなり人数をかける。よって相手もゴール前に人数をかけざるを得ず、サイドのカバーが甘くなる。ゆえにベレシンスキの急速なカットインに後手で対応せざるを得なくなる。これによって相手が慌てるシーンがかなり多い印象だ。

 

左のキーマン、アウジェッロ

さて、サンプドリアが徹底した右攻めを行うことは前編でも紹介した通り。ここまでその詳細について掘り下げてきたわけだが、実は今まで隠していたことがある(原則を強調するためにあえてここまで触れませんでした、すいません!)。それは、サンプドリアは適宜サイドチェンジも使っていることだ。

〈ここにおけるサンドチェンジとは、40ヤード以上横方向に移動したパスのこと。第4節終了時点、FBref.comより〉

  • サイドチェンジ総数 65(セリエA4位タイ

40ヤードはメートル換算すると36m。おおよそピッチの半分なので、この数値の中には右アウトサイドレーンからのクロスボールも多くカウントされていると思う。しかしながら、右に密集することで左サイドにはスペースができる。そこで、いったん右にボールを運んだあと、左に揺さぶるパスを送るプレーが攻撃手段の一つになっているのもまた事実だ。

ここでカギを握るのが左SBのトンマーゾ・アウジェッロだ。ここでもういちどビルドアップ時の選手の立ち位置を思い出してみてほしい。アウジェッロは最初は低めのポジションにとどまり、リスク管理兼緊急時の逃げ道になっていたと思う。

そこからここぞのタイミングでスタートを切り、勢いを持って前方のスペースをアタック。サイドチェンジのボールを受け、そのまま左サイドをえぐるが十八番だ。またサイドチェンジの受け手にとどまらず、右から流れてきたクロスボールの回収、ときにはゴール前に入っていってターゲットにもなっている。

ダムスゴーが中央にポジションする分、左の広大なスペースをひとりで切り盛りすることを任されているアウジェッロ。彼のバランス感覚と判断能力は、サンプドリアにとって間違いなく欠かせない。

 

さて、ここまで説明してきたことが凝縮されたインテル戦の2点目の場面を紹介して原則的なプレーについての説明を締めたい。

引いてボールを受けるカンドレーバと追い越すベレシンスキ。カンドレーバは右奥を取りに走ったカプートへロングボールを入れる。ここで直接ゴールにつながるようなクロスを送らずに、いったんピッチの深みをとって起点を作るところがサンプドリアらしい判断。左端で低めのポジションにとどまっているアウジェッロにも注目。

深みをとったカプートのパスを受けたベレシンスキ、お得意の「90度ターン」でチャルハノールをかわして一気に侵入。

お決まりクロスボール。あわせたのは画面外から現れるアウジェッロ。素晴らしいタイミングだ。ペナルティエリア内に6人、画面内に8人。人数をかけた迫力ある攻撃である。この密度の高さが即時奪回にもつながる

↓ 該当シーンの動画




試合別解析

 

エンポリ戦で見せた新機軸

さて、ここまではサンプドリアの「自分たちのサッカー」を紹介してきた。これを貫いて格上と渡り合ったのがインテル戦までの開幕3試合だった。それ以降、4節エンポリ戦と5節インテル戦では、相手のサッカーとのかみ合わせに合わせて変化を加えるサンプドリアが見られたのでこれについても紹介しておきたい。

まずはエンポリ戦。相手は4-3-1-2を使用し、システムそのまま守るという特徴的なサッカーを展開してきた。しかも、サンプドリアの右攻めに対応するため中盤3枚が極端にスライドしてきたため、逆サイドには広大なスペースが広がっていた。これを活用しない手はない。

というわけで、流れの中からカンドレーバが右から左へピッチを横断、左サイドでアイソレーション(孤立)してより自由を享受しようとしていた。

これがダベルサ監督の指示なのか、カンドレーバの独断なのかはわからない。たしかなのは、その形が再現性を持って現れていたことだ。そのままダムスゴーを左に張らせるのではなく、流れの中でカンドレーバを右から左へ動かすのが面白い。やはり彼はサンプドリアの中で絶対的な崩しの核になっているのだろう。

この試合の先制点もカンドレーバが左サイドに流れていたタイミングで、彼のアシストから生まれている。

サッスオーロ戦のカンドレーバ。このように、通常カンドレーバは右からほとんど動かない。

対してエンポリ戦。右と左にヒートマップがばらけていて、平均ポジションもほぼピッチ中央。両サイドに移動しながら柔軟にプレーしたことが表れている。SofaScore.comより。

これに乗っかる形で、ダベルサ監督は68分にダムスゴーを下げてカンドレーバのスタートポジションを左に移し、アイソレーションをより強調する策を打ち出す。すると直後の70分、クアリアレッラのサイドチェンジがカンドレーバに渡り、カンドレーバの見事なコントロールショットが決まる。

ダベルサの柔軟な采配が見事にはまった快勝に、「そんなこともできるんだ!」と思わずにはいられない試合だった。右攻めを基本コンセプトとしながら、今後も展開に応じてカンドレーバの移動というオプションがみられるかもしれない。

↓ カンドレーバが決めた3点目




スパレッティの緻密な対策

相手の弱点を利用して快勝したのがエンポリ戦だとすれば、ナポリ戦は相手の術中にはめられて完敗した試合だった。スパレッティはサンプドリアをリスペクトしたうえでしっかり研究、綿密な策を敷いてきた。攻撃に関しては後編に譲るとして、ここではナポリの守備について見てみたい。

今季のナポリはサンプドリアと並んでセリエA屈指のプレッシングチームになっている。

〈アタッキングサードでのプレッシャー総数 ※第5節終了時点、FBref.comより〉

  • ナポリ 209(セリエA1位
  • サンプドリア 207(セリエA2位

そんなナポリがこの試合ではアタッキングサードでのプレッシングを自重、ミドルゾーンにしっかり構えて守った。この時の守備陣形は4-5-1。前線が1枚になることでプレッシングには出れないけれど、中盤に5枚を並べて密度を高めることで相手の放り込みに対処できる。これで、サンプドリアの最大の前進手段を封じた。

加えて、スパレッティはさらなる策を仕込んでいたと見る。記事前半で紹介した通り、サンプドリアは相手がプレッシングを放棄したときは右経由でボールを前進させようとする。スパレッティはここに対しても対策を練っていた。

吉田にパスが出そうになると、左WGインシーニェがスッと前に出て右の出口(右SBベレシンスキor降りたトルスビー)に早めに張り付き、パスをけん制していた。オシメンの圧力を受けた吉田は、アウデーロへバックパスすることになる。

対して左はどうだったか。逆のWGであるロサーノは、最初から左の出口を封じるのではなく中央へのパスコースを消すことに専念していた。これに連動してオシメンも動くのだが、コリーにはあまり圧力をかけず、CB間のパスコースを消すことに専念していた。吉田には素早くプレスをかけるのとは対照的だ。

そうしてサイドチェンジの選択肢を消したうえでアウジェッロにボールを誘導、ここにボールが出た瞬間にプレスのスイッチを入れていた。つまり、ナポリはサンプドリアの右ビルドアップを許さず、左にボールを誘導する策に出たのだ。

この右肩上がりの守備はしっかりデータにも表れていた。

SofaScore.comより、ナポリの平均ポジション。LWインシーニェ(24番)とRWロサーノ(11番)を比較すると高に差がある。左サイドからの攻撃が多かったという事情もあるが、ロサーノもクロスボールから2アシスト1起点を記録していて攻撃にもしっかり参加していた。守備時の影響も強いとみる。オシメン(9番)が吉田がいる左に寄っているのもポイント。

また、コリーのパスに関するデータを見ても彼がボールを持たされていたことは明らかだ。前編でも紹介した通り、4節終了時点でのコリーの1試合当たり平均パス成功数は30.5。対して、この日の数値は55とほぼ倍増なのだ。

ミドルゾーンに構えて放り込みをけん制したうえで、相手の右ビルドアップも封じる。そこまでするかスパレッティ。

これを受けたサンプドリアはどうしたか。キーマンとなっていたのはダムスゴーだ。チーム2位のボールタッチ62を記録したダムスゴーは、アウジェッロからのパスを受けるとドリブルでディフェンダーを剥がし、単独で相手のプレスを空転させる場面が何度も見られた。SofaScore.comによると、地上デュエルは総数13回中勝利10回という驚異的な数値を記録。彼の個人技もまた今のサンプに欠かせない。

そして、最終的にはやっぱりカンドレーバを目指していたのも興味深い。ボールタッチ数はチーム最多の83回で、やっぱり彼にボールが集まっていた。カンドレーバにボールを預けること。これがやっぱりサンプドリアの攻撃の肝になっているのだと確信する試合でもあった。彼にどうボールを届けるか、その主目的はやはり変わらないのである。

ナポリ戦におけるサンプドリアのプレーエリア。やっぱりファイナルサードへの侵入は右がメイン。青い矢印で示したような流れがよく見えるプレーエリアだ。SofaScore.comより。

しかしながら、サイドチェンジの途中段階で引っ掛けられてカウンターを食らう場面が多かったのも事実。ピッチの幅を広く使うことを強いられたため密度が低下し、普段を比べるとセカンドボール回収率もかなり低かった印象だ。相手が左へボールを誘導してきたときにどうするのか、新しいアイデアが必要かもしれない。

 

さて、ナポリ戦でひとつの攻略法が見つかった感があるサンプドリアのアタック。チームの枠組みを維持しつつも柔軟性を持たせる采配をしている印象がある指揮官ダベルサがどうチームを進化させていくか注目だ。

次回はサンプドリアの守備について深く掘り下げていこうと思う。

【リーグ屈指のアグレッシブプレス】サンプドリアの守備戦術を徹底詳解!

 

 

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