
【サンプの心臓】モルテン・トルスビーのプレースタイルを徹底解剖!
21-22シーズンのセリエAが開幕してから1か月がたとうとしている。今季のセリエは接戦になるとは開幕前から言われていたけれど、想像以上の混戦ぶりだ。それを演出しているのがプロビンチャ勢の充実である。
新シーズンに期待感を持たせる戦いぶりを披露しているプロビンチャのひとつがサンプドリアだ。吉田麻也が在籍していることでもおなじみなこのチームは、今季注目に値するチームのひとつである。
そして、そんなサンプドリアで最も欠かせない選手のひとりが今回の主役モルテン・トルスビーだ。
トルスビーは現在25歳のノルウェー代表MF。母国の2部リーグに所属していたスターベクIFでプロデビューした後、翌年にはエールディビジのヘーレンフェーンへ移籍、オランダで5シーズン研鑽を積んだ。この間、元日本代表の小林祐希と中盤でコンビを組んでいる。
そして2019年、満を持して5大リーグへの挑戦を決意。サンプドリアに加入したのだった。19-20序盤戦はベンチを温める時間が続いたものの、12月に定位置を確保してからは主力に定着。以降ほとんどの試合にスタメン出場を果たしながら現在に至っている。
前節に昨年の王者インテル相手に堂々と渡り合う戦いを見せたサンプドリア。その中核といっていい地位を占めているトルスビー。彼は一体どんな選手なのだろうか。チームでどのような役割を担っているのだろうか。
今回はモルテン・トルスビーのプレースタイルを徹底的に掘り下げていこうと思う。
目次
トルスビーのプレースタイル
非常に豊富な運動量
これから見ていく通りトルスビーは非常に万能な選手なのだけれど、そのすべての根底にあるのはきわめて豊富な運動量だ。
〈1試合平均走行距離〉
- 20-21 11.7km(セリエA2位)
- 21-22 11.6km(セリエA5位)
昨シーズンのセリエAで1試合平均走行距離が2番目に多かったのがこのトルスビーだ。
まだ3試合しか行われていないが、今季もすでに5位にランク。第2節単体で見れば全選手の中で最長の走行距離(12.393km)を記録している。そう、トルスビーはリーグ屈指のダイナモなのだ。
このワールドクラスの運動量がトルスビーのプレーを下支えしている。彼は攻守にわたって重要な役割を任されているわけだが、それら多くの仕事を問題なくこなせるのは運動量の豊富さがあってこそというわけだ。
ここでSofaScoreから引用したトルスビーのヒートマップを見てみたい。

今季はまだ消化試合数が少ない都合上ヒートマップが見にくかったため、より見やすい昨シーズンのものを掲載。今季と大まかな傾向は変わらない。
リーグ屈指の運動量を誇るわりに、プレーエリアは右サイドに偏っていることが読み取れる。ブロゾビッチがピッチ全域を広くカバーしているのと比較すると対照的だ(詳しくはブロゾビッチのプレースタイルまとめを参照)。
横方向の移動が少ないかわりにトルスビーは絶え間ない上下動によってリーグ屈指の運動量を記録しているということになる。ボールの高さと連動してピッチを上下動しながら実に様々なタスクをこなすトルスビー。それらについて以下詳しくみていきたいと思う。
アグレッシブなボールハント
まずは守備についてみていく。
前提として、サンプドリアはリーグの中でも屈指のプレッシングチームであるということに言及しておきたい。
〈FBref.comより、第3節終了時点のサンプドリアのデータ〉
- プレッシャー総数 507(セリエA2位)
- タックル総数 62 (セリエA1位)
相手最終ラインに対してもマンツーマン基準でプレスをかけ、できるだけ早く、できるだけ高い位置でボールを奪い返そうとする。
その中でも、トルスビーは特に出色のデータを残している。
〈FBref.comより、21-22シーズンのデータ〉
- プレッシャー総数 73(セリエA3位)
- タックル総数 8(チーム内2位タイ)
- タックル勝利総数 6(チーム内2位)
- 1試合平均インターセプト数 1.0(チーム内3位タイ)
ちなみに昨シーズンのデータにも目を通してみると、
〈FBref.comより、20-21シーズンのデータ〉
- プレッシャー総数 712(セリエA1位)
- タックル勝利総数 58(セリエA2位)
つまり、トルスビーはリーグ屈指のプレスマシンでありタックラーなのだ。高い位置からプレスをかけるサンプドリアにあって、その急先鋒といえる。
極めて多い守備アクションが彼の高い運動能力に支えられていることはたしかだ。一方で、サンプドリアで与えられるタスクもその両輪として確かに存在している。彼が守備時に与えられているタスクとは何なのか。
サンプドリアの基本フォーメーションは4-4-2。2トップ+サイドハーフで相手最終ラインをにらみ、トルスビー含めたボランチ2枚には相手の中盤をしつこく追い回すことが求められる。サンプの原則はマンツーマンなので、対面の相手が引いて行けばそれについて行くのだ。
特に、最終ラインを補助するために相手MFが深い位置まで引いて行ったとき、これを捕まえる役割はトルスビーに一任されている印象だ。第1節ミラン戦のケースを見てみよう。
この場面、トルスビーが捕まえに行っているのはミランの2ボランチの一角トナーリだ。ふつうはここまで引いて行けばはFWに受け渡す。ところが、サンプドリアはマンツーマン基準の守備なので受け渡しが発生することはほとんどない。2トップのクアリアレッラとガッビアディーニはワイドに開いたCBを離さずについて行っている。かわってトナーリのマークを受け持っているのはトルスビーだ。結果として、彼は3トップの中央のような位置にまで進出している。
続いて別の場面。

この場面、トルスビーが捕まえているのはクルニッチ。引いて行く選手がトナーリだろうがクルニッチだろうが、相手ゴールにより近い位置にいる選手をつかむのはトルスビーなのだ。

さらに、バックパスが入ればそのままGKにまでプレスに行くこともいとわない。

先ほどまでFWを追い越して相手GKにまでプレスをかけていたトルスビーは、自陣にボールが入ってくればすぐさまプレスバック、定位置に帰る。この上下動の繰り返しがリーグ屈指の走行距離につながっている。こんなタスクを担える選手はなかなかいないだろう。
一方、インテル戦でのトルスビーは違った側面を見せた。この日のサンプドリアは2トップのクアリアレッラとカプートを縦関係にして、デフライとブロゾビッチをおさえ、ボランチのトルスビーとアドリエン・シウバはインサイドハーフのふたりのマークを受け持った。
ゆえに、これまでの2試合(第2節サッスオーロ戦でも引いて行くマキシム・ロペズをマークし、さかんにFWを追い越してプレスに参加していた)と比較するとトルスビーは低めの位置でプレーした。
こうなるとより強調されるのはトルスビーの判断力だ。
インテルは右ワイドに開いたシュクリニアルを起点に縦にボールを運ぼうとしていたのだが、ここにボールが出た瞬間にトルスビーは自分のマークを捨てて逆サイドまで猛ダッシュ。DFラインの選手とともにジェコやバレッラを挟み込んで何度も相手の進軍を止めていた。ボールの横方向への動きについて行ける走力と、どこに戻るべきかの判断力。ここが突出しているトルスビーだからこそできる芸当だった。
このように、トルスビーはMFながら非常に高いエリアで守備を行う。それはデータにも表れている。
〈FBref.comより、21-22シーズンのデータ〉
- アタッキングサードでのタックル数 2(チーム内1位)
- ミドルサードでのタックル数 6(チーム内1位)
- ディフェンシブサードでのタックル数 0
MFであるトルスビーの守備エリアの高さはそのままサンプドリアのアグレッシブなプレッシングを象徴しているといえる。
的確な立ち位置とトランジション
このように、プレッシングの局面で重要な役割を任されているトルスビー。しかし、彼の守備アクション数の多さはそれだけが原因ではない。トランジション時の即時奪回でも重責を任されているのだ。
サンプドリアは攻撃時に右サイドを中心にしている。サイドハーフのカンドレーバをSBのベレシンスキが献身的にサポートするため、右は基本的に前傾姿勢。それゆえ、その背後にはスペースが空くことになり、カウンター時に相手に使われる可能性がある。ここを管理するのがトルスビーの役割だ。
トルスビーが素晴らしいのは後方をカバーしつつパスの逃げどころとしても機能できるところ。両CBの右脇に降りることでCBとカンドレーバを中継し、カンドレーバが相手のプレスに困っていれば後方でパスの逃げどころになる。
- 自陣でのパス成功率 96%
というデータを見ても、トルスビーが堅実な潤滑油として機能していることがよくわかる。
さらに、背後のスペースをカバーしつつも勇気を持って前に出ていけるのもトルスビーの強み。ボールがこぼれて来そうな地点を予測し、前へ出てセカンドボールを回収する。この予測力がまた素晴らしく、相手に先んじてポジションを取れることがセカンドボール回収につながる場面は多い。
先ほどのエリア別タックル数におけるミドルサード比率の高さは即時奪回におけるデュエルも反映されているといえるだろう。
サンプドリアは右からの攻撃に対して中央に厚みをつける。2トップに加えて逆サイドのサイドアタッカーや時にはSBまでもが中に入ってくる。一方で、両CBと相方のボランチは後方でリスク管理に徹する。ゆえに、トルスビーには非常に広範囲の管理が任される。
ここまで担当エリアが広いといくらトルスビーでも先回りしきれず五分五分の対応になる場面も出てくるのだが、突破されると危険だと判断したときには迷わずファウルで止められるのも彼の強み。
〈FBref.comより、21-22シーズンのデータ〉
- ファウル総数 10(セリエA1位)
と今季最多のファウル数を記録しているトルスビーだが、危険なタックルが多いという印象はない。賢くファウルを使っているといったイメージ。だから早い時間帯で1枚目のカードをもらっても強度を緩めないし、それでいて退場になることもない。昨季10枚のイエローカードを頂戴したトルスビーだが、レッドカードはゼロだ。
広範囲をひとりで管理できるトルスビーが後方に控えているからこそ、サンプドリアはゴール前に人数をかけて攻撃できるのだ。
空中戦の強さで攻撃でも貢献
ここまでは主に守備のタスクについて紹介してきたが、トルスビーにはもう一つ重要な役割がある。それがハイボールのターゲットとしての役割だ。189cmと長身のトルスビーは、空中戦の強さでもチームに貢献する。
〈FBref.comより、21-22シーズンのデータ〉
- 空中戦勝利総数 14(セリエA2位)
- ヘディングパス総数 11(チーム内1位)
とリーグ内でも屈指のヘッダーであることがわかる。ちなみに、昨シーズンの空中戦勝利総数はセリエA全選手の中でトップの数字だ。
彼がターゲットになる場面は2つある。
ひとつがGKからのフィード。このとき、トルスビーは右サイドに流れる。SBは空中戦に強くない選手が多いため、ここと競り合うことでより確実にボールを味方につないでいるのだ。
ふたつめがクロスボールのターゲット。サンプドリアの攻撃はサイドからのクロスボールを主な攻撃手段としているが、トルスビーは機を見てゴール前に入りフィニッシャーとしても機能するのだ。
FBref.comから21-22シーズンのデータを引用すると、
- シュート総数 5(チーム内3位)
- ゴール期待値 0.8(チーム内1位)
- 敵陣ペナルティエリア内でのボールタッチ総数 10(チーム内1位)
と、トルスビーがフィニッシュに絡んでいることを示すものは豊富だ。特にFWを差し置いてゴール期待値がチーム内トップというのはすごい。ここまでリーグ戦では得点がないものの、コッパイタリアのアレッサンドリア戦では頭で決勝点を奪っている。リーグ戦でも得点量産に期待したい。

インテル戦のトルスビーの空中戦マップにはこれらの特徴がよく表れている。右サイドでロングボールのターゲットになり、ゴール前に入っていってフィニッシャーにもなる。守備だけでもなく攻撃でも上下動を繰り返していることがよくわかる。WhoScored.comより。
このように、
- リーグ屈指の運動量を誇り、
- 敵陣深くでプレッシングに参加するだけでなくプレスバックも怠らず、
- セカンドボール回収に備えながら潤滑油にもなれ、
- 予測力と賢いファウルで的確に相手の攻撃の芽を摘み、
- 空中線の強さを活かしてビルドアップの逃げどころとしてもフィニッシャーとしても機能する
ボールの高さに合わせてビルドアップからフィニッシュ、リスク管理からプレッシングまでありとあらゆるタスクをこなすトルスビー。彼の存在がサンプドリアにとっていかに大きいか、よくわかってもらえたんじゃないかと思う。
ここまでプレー強度が高いスタイルながら、サンプドリア加入後いまだ長期離脱がないことも特筆すべきポイント。いつでも計算できる頼れるタフガイだ。
トルスビーの伸びしろ
万能MFとして大成しつつあるトルスビーだが、彼の伸びしろはどこにあるのか。
ひとつはヘディングシュートの精度を上げることだ。前述の通り、トルスビーはリーグ戦においてチームトップのゴール期待値を記録しているにもかかわらずここまで得点がない。ここまで3戦2発と貧打気味のサンプドリアだが、トルスビーが得点に絡みだせば解消の糸口になるはずだ。
もうひとつ指摘したいのが被プレッシャー下でのプレー精度。トルスビーは相手に圧力をかけるのは得意な反面、自分がプレッシャーを受けると途端にあわててしまうという特徴がある。自陣では96%という非常に高い数値を記録しているパス成功率も、敵陣では71%まで低下してしまうのだ。
セカンドボールを回収した後、落ち着いて相手をかわしてくさびやラストパスを供給するようなプレーができれば、より選手としての幅が広がるはず。せっかく天性の運動量があって敵陣に何度も顔を出せるので、よりゴール前での決定的な仕事を期待したいところだ。
あとがき
今シーズン、トルスビーは背番号を昨シーズンまでの18から2に変更した。これは2015年に採択されたパリ協定の「産業革命後の気温上昇を2℃以下に抑える」という目標をアピールするためだという。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんに影響を受け、自らも「We Play Green」という団体を立ち上げて環境保護活動に精力的に取り組んでいるトルスビー。その活動範囲の広さと積極性は、さながらピッチ上での姿を見ているようだ。
そんなナイスガイにはこの夏にプレミアリーグのクラブやアタランタからオファーがあったようだ。彼の守備能力が各所で高く評価されている証拠だろう。
しかし、サンプドリアは彼を手放さなかった。それもそのはず、守ってはプレッシングからリスク管理まで、攻めてはビルドアップからフィニッシュまでほぼ全局面においてサンプドリアはトルスビーの存在を前提に成り立っているといっても過言ではない。その存在感じゃ絶大だ。
今季のダークホース候補と名高いサンプドリア。彼らの命運はトルスビーが握っている。
あわせて読みたい 関連記事
サンプドリア関連の記事一覧はこちらから
[…] 実は、2トップよりも空中戦を戦っている選手がいる。それがボランチのモルテン・トルスビーだ。 […]
[…] たのがインテル戦のワンシーン。GKからのビルドアップよりも場所は少し高いのだけど、トルスビー+密集でセカンドボールを回収、そこから縦に素早く持ち運んでフィニッシュというサ […]
[…] キーマンになってくるのがトルスビーだ。 […]
[…] 【サンプの心臓】モルテン・トルスビーのプレースタイルを徹底解剖! […]