
【最悪の船出】W杯最終予選 日本vsオマーン マッチレポ
2021年9月2日、カタールワールドカップ出場を目指す日本代表は最終予選の初戦を迎えた。非常に重要な一戦であることは言うまでもない。是が非でも勝利で飾りたいところだ。
結果はどうだったのか。負けた。最悪のスタートだ。
しかも不運にもシュートが枠に嫌われて、相手GKがスーパーセーブを連発して…というような類の負けではない。内容でも相手に上回られた完敗だった。試合後、主将の吉田麻也が開口一番に言った「負けるべくして負けた」という言葉にこの一戦がどんな試合だったかが凝縮されていた。
一体なぜ日本はうまくいかなかったのか。どうするべきだったのか。ふり返ってみたい。
スタメン
守備の問題点
この日のオマーンの攻撃は縦への意識の強さによって特徴づけられていた。ボールを持ったらとにかく前線の2トップに放り込む。そこを起点にしてサイドに展開し、ドリブルで深くまでえぐってクロスボール。特に難しいことはしていないけれど、意思が統一されていたことで迷いがなく、チームとして怖さがある攻撃を繰り出してきた。
それに対し、日本はミドルサードに4-4-1-1のブロックを形成して待ち構えていた。低い位置でボールを持った相手に対してほとんどプレッシャーを掛けなかったのだ。それゆえ自由にロングボールを蹴らせてしまうことになった。「もっと前からプレスをかけ方がいい」と地上波の解説を務めた内田篤人さんも指摘していたが、まさにその通りだ。オマーンの放り込みに対して、日本はその出所からつぶすべきだった。あまりにも自由にさせすぎていたと思う。
まあボールが入ってくる先で問題なく跳ね返せるのなら、あえて蹴らせて最終ラインを奪いどころにしてもいいと思う。ところが、この日の日本はオマーンのアタッカー陣とのデュエルでことごとく負けていた。簡単に起点を作られ、ボールをキープされてしまっていたのだ。
それはデータにもはっきりと表れている。相手のアタッカー3人についてSofaScoreから引用したデータを見てみると、
〈地上戦デュエル 総数/勝利数〉
- FW アル・アラウィ 3/2(勝率67%)
- FW アル・ハジリ 3/2(勝率67%)
- LM ファワズ 9/8(勝率89%)
と全員が勝利数の方が上回っている。というか、全員1回しかデュエルに負けていない。
対して日本の最終ラインの面々は
〈地上戦デュエル 総数/勝利数〉
- RB 酒井宏樹 6/1(勝率17%)
- CB 植田直通 3/1(勝率33%)
- CB 吉田麻也 0/0
- LB 長友佑都 3/2(勝率67%)
となっている。特にオマーンの攻撃の中心である左サイドと対峙した酒井、植田はそれぞれ1度しかデュエルに勝利していない。このことからも、日本が1vs1のデュエルで相手に大きく後れを取ったことがよくわかるだろう。
日本のコンディションが悪くふがいない戦いに終始したことは間違いない。ただ同時に、オマーンが素晴らしいパフォーマンスを見せていたことも忘れてはならない。

オマーンの攻撃は左からがメイン。ここと対峙した酒井と植田はデュエルで後れを取った。
最終ラインが苦しんでいるのなら、前からプレスをかけていい形でボールが入ってこないよう制限をかけたほうがよさそうなものだが、日本がチームとして相手の攻撃を止めるための変更を加えることはなかった。個人でも組織でも日本はオマーンに負けていた。
この試合の守備面にとどまらず、試合中の修正力の低さは森保ジャパンが一貫して露呈している弱点である。攻撃面でも同じことが見えたので覚えておいてほしい。
攻撃停滞の理由
チームとして統一された意識、個々のパフォーマンスの高さ。その両面で素晴らしかったオマーンだが、それは守備に関しても同じ。明確な狙いを持ち、日本を封じ込めることに成功していた。
この日のオマーンは4-3-1-2でとにかく中央を固める守備ブロックを形成。全員がペナルティエリア幅に収まるくらい極端に中央に圧縮し、ボールをサイドに追い出すことに集中していた。
日本の攻撃の基準点は大迫と鎌田だ。このふたりにボールを入れさせない、入れられても自由にさせないことで怖さが半減することを彼らはしっかりと分析してきた。
特に素晴らしかったのはCB+アンカーの3枚。大迫と鎌田の足元に入ってくるボールに対してはCBが厳しく寄せて前を向かせない。そうしたうえで、アンカーのアル・サーディが挟み込み、2対1を作ってボールを奪う。
再びSofaScoreからデュエルに関するデータを見てみると、
〈地上戦デュエル 総数/勝利数 オマーン〉
- CDM アル・サーディ 7/4(勝率57%)
- CB アル・カミシ 3/2(勝率67%)
- CB アル・ハブシ 2/2(勝率100%)
〈地上戦デュエル 総数/勝利数 日本〉
- CAM 鎌田大地 4/1(勝率25%)
- FW 大迫勇也 7/1(勝率14%)
とオマーン守備陣がいずれも半分以上のデュエルに勝利している一方で、鎌田・大迫ともに1回しかデュエルを制せていないことがわかる。オマーンは守備陣もまた卓越したパフォーマンスを見せたのだ。
オマーンが狙い通りの戦いを展開できていたことは、SofaScoreのプレーエリアを見ることでも明らかだ。

この日の日本のプレーエリア。両サイドの矢印が長く伸びている一方、ピッチ中央の矢印は非常に短く、ファイナルサード中央エリアは最も色が薄くなっている。日本がオマーンの狙い通りサイドに追い出されたことが明確に表れている。
かくしてサイドに追い出された日本はクロスボール爆撃に活路を見出すことになる。ところが、可能性を感じさせる場面を一向につくることができない。
前半の日本はそもそもクロスボールが入ってこようとしているのにゴール前にかける人数が圧倒的に不足していた。ターゲットが大迫しかいなかったのだ。中央でつぶされることを嫌ったか鎌田がさかんにサイドに流れ、逆サイドからの飛び込みも少なく、オマーンにとっては対応しやすかっただろう。
後半になるとさすがに修正が施され、中央にかける人数が多くなる。大迫に加えて逆サイドのサイドハーフやサイドバックまでがゴール前に飛び込み、厚みを出すことに成功していた。長友のヘディングシュートの場面などは象徴的だった。しかし、最初から最後まで工夫のないクロスボール戦術が繰り返されたことに変わりはなかった。
森保監督は試合後、「相手が中央を固めてくることは分かっていた」と語っている。それに対する準備がクロスボールを放り込むだけだったとしたら、あまりにもさみしいのではないか。そもそも、日本代表にとってクロスボールをどんどん放り込むことが最適な手段なのだろうか。
クロスボールも手段のひとつとして持っておくことはいいと思う。だが、この日の日本にはクロスボール以外に攻撃のアイデアを持っていないように見えた。それ以外に準備してきたものがないのだとしたら、あまりにもお粗末だといわざるを得ない。
そもそも、それに適したメンバー選考自体ができていないのではないだろうか。トップ下に鎌田、サイドに原口と伊東を起用している時点でクロスボール戦術とメンバーとが噛み合っていない。
森保監督は以前「日本人の特性に合った、身体的特徴を生かしたサッカーをしたい」と語っている。クロスボール戦術はその答えなのか。
結果として日本はチャンスらしいチャンスを作れなかったばかりか、そのクロスボールからオマーンに決勝点を奪われている。何とも皮肉で、示唆的だ。
日本人の強みは俊敏性と足元のテクニックにある。フィジカルの強さが世界で戦っていくための武器ではない。それならば、その強みを生かして相手のブロックの中に割って入っていくことを考えてもいいんじゃないだろうか。
改善案
それでは、どうすればブロックの中に入っていけるのか。カギを握るのは相手のブロックを揺さぶれるかどうかだ。
手段のひとつとして重要なのがサイドチェンジだ。これはこれまでの日本代表活動レポートでも再三触れていることだが、日本はサイドを変えるときに各駅停車でパスを回す。だからボールが移動するスピードが落ち、簡単にスライドされてしまう。相手の守備ブロックを大きく揺さぶるためには、相手を片方のサイドに寄せておいて一気に逆サイドにボールを送らなければならない。そうした局面を変える長いパスが日本には足りていないと思う。特に、今日のオマーンは極端にボールサイドに密集していたのだから、ロングパスを効果的に用いることができれば空いた逆サイドのスペースからえぐっていくことができたはずだ。
とはいえ、この試合でも何度か逆サイドでフリーになっている選手にいい形でボールが渡る場面は見られた。ところが、そこでとたんに攻撃が停滞してしまっていた。
理由は簡単、オフ・ザ・ボールのランニングがないからだ。
下の場面を見てほしい。サイドでフリーになっている古橋にボールが渡った時、長友も久保もみな足元でボールを受けようと止まってしまっている。追い越した久保にボールが入った時も、長友・古橋は追い越すランニングを見せない。
これは彼らに限った話ではない。日本のアタッカーは足元のテクニックに優れるゆえに止まって足元でボールを受けようとする選手が多すぎる。これでは相手も待ち構えているだけでよく、整った陣形は乱れない。
たとえば、サイドアタッカーにボールが入った瞬間にサイドバックが内側を追い越すとしよう。もし相手がついてこなければ、そのままサイドバックの選手に流してやればいい。ポケット(ハーフスペース深い位置)に侵入できる。よりゴールに近い位置からクロスをあげられれば、危険な場面も作り出しやすいだろう。この形はJ1王者・川崎フロンターレが多用している。
もしサイドバックに相手の中盤の選手がついてくれば、今度は相手のライン間にスペースができる。ここにトップ下の選手が入ってくれば、危険なスペースで前を向ける。そこにも選手がついてくれば、相手の最終ライン前は手薄になる。クロスでフリーになりやすいし、ボランチを経由すればくさびがバシッと入って大迫のポストプレーも活きるだろう。
ひとつのランニングが入るだけで、これほどまでに相手を動かし、有効なスペースを生むことができる。自分たちがアクションを起こせば相手に二択を突き付けられ、必ずどこかが空くのだ。
ところが、日本人選手は連携で崩すことを足元のパスワークの連続で崩すことだと勘違いしているようだ。相手がしっかり守備ブロックを作っているのに、細かい連係などそう簡単にはさせてもらえない。それならば、相手の守備ブロックを動かし、スペースを作り出すしかない。
こうしたランニングをオマーンは徹底していた。長友がPKを取られかけた場面(再生ボタンを押すと流れます)も、権田のヘディングセーブの場面(4:33~)も、サイドにボールが入った瞬間に内側を別の選手が走って日本のサイドアタッカーを引き付けている。
この試合、酒井は何度もサイドを突破されたわけだが、それはオマーンの的確なフリーランニングによってサポートと分断されたこと、つねにコンディションが万全でない中で(試合後に代表からの途中離脱が発表された)1人で対応しなければならない場面にさらされ続けたことにも一因がある。決して偶然ではなく、オマーンにしてやられたのだ。
対して、日本は相手に守備を固められたときに全員が足を止めてしまう悪癖が発動してしまった。みんな足元でボールを欲しがり、相手を揺さぶれない。
相手に中央を消されたから自由に使えるサイドからクロス!という安易なプレーに逃げるのではなく、相手のブロックをいかに動かし、内側から突き崩して侵入していくかを考えることも必要なのではないだろうか。そのための手段をチームに授ける誰かがいてほしいものだ。
あとがき
思えば前回のW杯予選も初戦に、ホームで、中東勢に負けている。それでもふたを開ければ日本は首位で予選を通過、W杯でベスト16に進出してもいる。今回もまだしょせん、まだ9試合残っているのだからここから建て直せば問題ない…。果たして本当にそうだろうか?
4年前のUAE戦では、浅野のシュートがゴールラインを割っていたにもかかわらず得点が認められないという不運もあった。スタッツを見れば相手の倍の枠内シュートを放ち、5倍以上のコーナーキックを奪っていた。内容で見れば、違った結果になっていてもおかしくなかったのだ。
ところが、オマーン戦の日本は疑惑のシーンが生まれるような場面などほとんど作ることができなかった。シュート数自体も、枠内シュート数も、コーナーキックの数も相手に上回られた。1vs1のデュエルでも、チームとしての機能性でも相手に上回られたことはここまで見てきた通り。負けるべくして負けた、完敗なのだ。
いまや日本はアジアの中で大きなアドバンテージを持っているわけではなくなってしまった。日本サッカーはここまで落ちてしまった。このままでは、本気でW杯に出られない可能性が高い。そのことを一度認めた上で、どうしていくべきなのか考えるタイミングなのではないだろうか。
あわせて読みたい 関連記事
- 日本代表活動レポート一覧はこちらから
↓ 前回の日本代表活動レポート
↓ 次回の日本代表活動レポート
[…] 【最悪の船出】W杯最終予選 日本vsオマーン マッチレポ […]
[…] 前回のオマーン戦のマッチレポで […]
[…] 日本代表活動レポート 2021年9月編 0-1● vsオマーン […]