
【幻影を消し去るメニャンの自己紹介】セリエA21-22第1節 サンプドリアvsミラン ミニレポート
21-22シーズンのセリエAがいよいよ開幕した。新たな1年の幕開けとなった第1節の中から、今回はサンプドリアvsミランに注目したい。
攻守の主軸だったドンナルンマとチャルハノールをフリーで手放すという決断を下したミラン。当初は心配の声が多く聞かれたが、GKに関してはしっかりと穴を埋める補強に成功した。昨季リールの5大リーグ最少失点に大きく貢献した25歳のフランス代表、マイク・メニャンだ。
先ほど紹介した実績から、メニャンがゴールを守ることに関して疑いようのない能力を持っていることは明白だ。実際、今日の試合だけでも3つのセーブと1つのエリア外への飛び出しを見せてクリーンシートに大きく貢献。ゴールにカギをかける能力を示してくれた。
しかし、それ以上に前任者と比較してプラスアルファをもたらしてくれそうなのがビルドアップ能力だ。
下はLega Serie Aが発表したサンプドリアvsミランの『MATCH REPORT』から引用したミランのチームヒートマップだ。自陣ゴール前の色が特に濃くなっていることがわかる。メニャンがビルドアップの中心として多くのボールタッチを記録した証拠だ。
そう、この日のメニャンはミランの組み立ての中心としてふるまった。その様はもはやレジスタだった。
なぜメニャンがビルドアップの中心となったのか、そしてメニャンはいかにしてサンプドリアのプレッシングを無効化したのか。今回はメニャンのレジスタとしての能力に重点を置きながら、サンプドリアのプレッシングvsミランのビルドアップという攻防について振り返ってみたい。
メニャンがビルドアップの中心になった理由
まずはサンプドリアがいかにしてプレスをかけてきたのか整理する。
簡単に言ってしまうと、サンプドリアはマンツーマンに近い形でプレスをかけた。特にその傾向が強かったのはピッチ中央の4枚。守備時4-4-2の陣形をとるサンプドリアは、2トップのクアリアレッラとガッビアディーニをミランの2CBに、ボランチのトルスビーとエクダルをミランのダブルボランチにそれぞれ当て、厳しくマークさせた。
たとえばミランのボランチが低い位置に引いても、トルスビーが離さずついて行った。CBが開いて真ん中にボランチが降りても、受け渡すのではなく自分のマークについて行く。かなり徹底したマンマークだった。
逆に言えば、この4枚の人への意識が強いぶん、メニャンは比較的自由にボールを持つことができていた。正確に言えば序盤はメニャンまでプレッシャーを掛けてくる場面も多かったが、時間がたつにつれてその回数は減っていった。
こうしてフリーになったメニャンがミランで唯一時間を与えられたプレーヤーになった。彼がビルドアップの中心となったはサンプドリアの守備方法に原因があったのである。
的確なプレー選択でサンプドリアのプレスを破壊
余裕をもってプレーを選択させてもらえる環境下にあったメニャン。彼は適切にフリーの選手をみつけ、配球していく。
特に効果的だったのが引いてきたブラヒム・ディアスへのくさびだった。サンプドリアは徹底したマンマーク戦術を敷いていたため、
- ボランチの片方(多くの場合クルニッチだった)が引いて行くと、マークにつくトルスビーがついてくる。そして、その背後にはスペースが広がることになる。
- ここに引いてくることで、ブラヒム・ディアスはフリーでボールを受けることに成功していた。そこから前を向き、何度もドリブルで長い距離を持ち運んだブラヒム。決勝点を決めたことを含め、前任者チャルハノールの幻影を少なからず消し去る活躍を見せてくれた。
- ブラヒムをフリーにするための仕掛けもしっかり用意されていた。左WGのレオンがジルーとともに2トップのようになり、テオ、サーレマーケルスとともに相手の4バックを釘付けにし、相手のDFラインがブラヒムにアタックすることをけん制していたのだ。
こうして、メニャンとブラヒムという二人のフリーな選手間のホットラインでサンプドリアのプレッシングを破壊していった。
サンプドリアもやられっぱなしでいたわけではない。ブラヒムに自由にボールを受けられるのを嫌い、左MFのダムスゴーを絞らせるこさせることで中盤の数的不利を解消しようとしていた。
しかし、こうなるとダムスゴーが本来マークを担当すべきカラブリアがフリーになってしまう。メニャンはこれを見逃さなかった。ダムスゴーが中盤の守備に参加してきた場面では、カラブリアへのふわっとしたボールを配給してボールを前進させたのだ。
カラブリアもこれをわかっていたので、あえて中途半端な位置にポジションを取っていることが多かった。テオがはっきりと高い位置をとることが多かったのとは対照的だ。
かくしてサンプドリアのプレッシングは空振りに終わってしまったのだ。
アシストさえできる飛び道具
フリーの選手を見極め、そこに正確なフィードを送ることで相手のプレスを無効化させたメニャン。視野の広さにキックの精度。彼のレジスタとしての能力は十二分に発揮された。
だが、彼はそれだけにとどまらず、持ち前のパワーも見せてくれた。彼のキックは非常に飛距離が出る。一発で相手DFラインの裏にボールを落とし、フィニッシュに直接つながるようなフィードをも見せてくれた。その様はエデルソンを思い起こさせた。
相手がマンツーマンでプレスに来るということは、相手の最終ラインとミランのアタッカーも1対1になっているということ。ここで質的に上回ることができれば一発でゴールチャンスだ。メニャンはこれを理解し、また見逃さなかった。
メニャンが特にターゲットにしていたのがレオン。スピードとドリブルに長ける彼に裏のスペースでボールを渡せば、ほぼ確実にチャンスになる。この形は今後もミランの崩しのパターンとして活用されていくのではないだろうか。
ターゲットはメニャンではなかったが、この日両チーム通じて生まれた唯一の得点もメニャンのロングフィードが起点となって生まれている。
Amen pic.twitter.com/cn2XjhcHmU
— Mr Emanuele Bottoni (@EmanueleBottoni) August 23, 2021
自陣ゴール前から一気に敵陣ペナルティエリアまでボールを届けてしまうキックのパワーは驚異的だ。並の選手にできる芸当ではない。身体的に恵まれたメニャンだからこその特殊技能だろう。
さらに、相手最終ラインの状況まで把握する視野の広さも見逃せない。近くだけでなく遠くまで、ピッチのあらゆるエリアの状況を俯瞰して把握することはフィールドプレーヤーであっても簡単なことではない。これらを兼ね備えるメニャンは最後尾のレジスタとしてミランに大きなプラスアルファをもたらそうとしている。
あとがき
攻守両面で躍動し、自己紹介としては申し分のないパフォーマンスを披露したマイク・メニャン。セービング面で前任者のドンナルンマを超えられるかどうかは、もう少し試合を重ねて観察していく必要がある。しかし、ビルドアップ面に関しては明らかに前任者を上回っている。一気に相手最終ライン裏にボールを落としてひっくり返すプレーは昨季までは見られなかったプレー。ミランの新たな武器になるだろう。
試合展開も影響する(しかもこの試合はとりわけメニャンにボールが集まりやすい状況が整っていた)1試合のデータとシーズンの平均値を比較するのは少し強引だが、ドンナルンマとメニャンをデータで比較してみよう。
〈ボールタッチ数〉
- ドンナルンマ 37.9
- メニャン 52
〈パス成功数〉
- ドンナルンマ 22.5
- メニャン 25
〈ロングパス成功数〉
- ドンナルンマ 5.5
- メニャン 9
〈キーパス数〉
- ドンナルンマ 0.0
- メニャン 1
※ドンナルンマは20-21シーズンの平均値、メニャンはサンプドリア戦の数値、いずれもSofaScoreより。
まだ1試合に過ぎないが、すべてのデータでメニャンが上回ったのは示唆的だと思う。特に、キーパスに関してはドンナルンマがシーズン通して0だったのに対し、メニャンはこの試合で早くも1つを記録。決勝点の起点になったフィードが記録に残っていないことを考えれば、その差は有為なものだととらえていいだろう。
バンディエラ候補の流出にショックを受けたファンも多かっただろうが、メニャンはその穴を埋めるばかりか、さらなるプラスアルファをもたらしてくれるかもしれない。この守護神交代劇が吉と出るかどうか、今後も注目していきたいところだ。
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