【鳥栖の司令塔】樋口雄太のプレースタイルを徹底解剖!

【鳥栖の司令塔】樋口雄太のプレースタイルを徹底解剖!

2021年8月18日 1 投稿者: マツシタ
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今年の夏の移籍市場はいつになく活発だ。多くの選手が海外に渡った関係でその穴埋めに動くクラブもあれば、例年よりも多い4チームが降格することもあって残留に向けた戦力増強に動いたクラブもあった。

そんな中でも最も話題になった移籍のひとつが松岡大起の清水エスパルス加入だろう。ユースから過ごした鳥栖で中心選手に成長し、チームもACLを狙える位置につけていただけに残留争い中のエスパルスへの移籍には多くのサッカーファンが驚いたはずだ。

中盤の核を失った鳥栖は、その代役を補強しないまま再開初戦のFC東京戦に臨んだ。この試合で松岡に代わってアンカーに起用されたのが樋口雄太だった。

 

小、中、高と鳥栖のユースで育った生粋の鳥栖っ子である樋口はしかし、U-18からのトップ昇格はならず、鹿屋体育大に進学。ここで成長し、ユース時代を過ごした鳥栖への加入を勝ち取った。

初年度こそ公式戦8試合出場にとどまったものの、続く2020年シーズンに右サイドハーフの主力としてブレイク。それまでの中盤低めの位置ではなく、少し高い位置で攻撃のタクトをふるうことで持ち味を発揮し始めた。

右サイドハーフと中盤センターのちょうど中間にあたる3センターの右に移った今シーズンはさらに活躍しここまで4ゴール6アシスト。ゴールとアシストの合計数ではチームトップと、完全に攻撃の核となっているのだ。

アンタッチャブルだった松岡の代役に迷いなく抜擢されたことからも、躍進するチームの中核にいることがよくわかる樋口。彼は一体どのようなプレーヤーなのか。

今回は樋口雄太のプレースタイルを徹底的に掘り下げていこうと思う。




樋口雄太のプレースタイル

 

正確なキックを両足に備える

樋口の最大の武器、それは正確なキックだ。しかも利き足でない左足も問題なく使いこなせる。両足から繰り出す正確なキックから多くのチャンスを作り出すのだ。

  • 1試合平均キーパス数 1.5(チーム内トップ)
  • 決定機創出数 4(チーム内トップ)

というデータを見ても、樋口が多くのチャンスを作り出していることがわかる。サガン鳥栖にとって樋口は最大のチャンスメーカーなのだ。

特に多くみられるのがサイドに開いてからのクロスボールだ。データを見ると

  • クロス総数 84(チーム内トップ)

と、チームでもトップのクロス数を記録している。彼が多くのクロスボールを送り込みチャンスを作り出せるのにも、両足を問題なく使えることが関係している。右サイドでそのまま縦に持ち上がって右足でクロスを送ることも、切り替えして左足でクロスを送ることもできる。そのどちらからでも高精度のボールが飛んでくるので、対戦相手からしたら厄介なことこの上ないだろう。

たとえば、浦和戦ではセカンドボールに素早く反応した樋口は右足から放ったクロスボールで山下のゴールをアシストしている。

 

一方、名古屋戦ではふわっとした浮き球のスルーパスを送り、酒井のゴールをアシストしている。これを一度右足に持ち直していたら、相手がスペースを消していただろう。ここで迷いなく左足でクロスボールを送れるのは両利きに近い樋口ならではのプレーだといえる。

 

このプレーが象徴するように、樋口は視野が広い。セカンドボールがこぼれてきた瞬間に前方を把握し、酒井の動き出しを認知している。さらに、空間把握能力も高い樋口は相手の頭上を超すパスの精度が非常に高い。周囲の状況把握、空間を使ううまさ。これらが高精度のキックと合わさることで樋口はチャンスを量産できるのだ。

また、樋口はプレースキッカーとしても優秀だ。昨シーズンまではリーグ屈指のキッカーである原川が所属していたためその陰に隠れていたが、その原川に代わってキッカーを任された今シーズンはセットプレーからチャンスを量産している。

今シーズンのサガン鳥栖はここまでセットプレーから4つのゴールを挙げている。樋口のアシストとして記録されたものはないが、彼のキックが混戦を巻き起こした結果生まれたゴールは少なくない。こうしたプレーも含めれば、実質的なアシスト数は6以上だ。今季のJリーグでも指折りのチャンスメーカーと言っていいのではないだろうか。




積極的なシュートへの意識

チーム屈指のチャンスメーカーである樋口だが、彼は味方にチャンスを供給するだけのプレーヤーではない。自らゴールを奪えるのも樋口の魅力だ。

特に今シーズンは得点が急増。昨シーズンまではプロ入り後2シーズンでわずか1得点だったところ、今季はすでに4ゴールを挙げているのだ。

彼が得点を量産できる理由はシュートへの積極性だ。身長168cmと決して大柄ではない樋口だが、コンパクトな振りから強烈なシュートを放つことができる。そのためシュートレンジが広く、多少離れた位置からでも積極的にミドルシュートを狙っていく

結果として

  • シュート総数 40(チーム内トップ)
  • 1試合平均シュート数 1.7(チーム内トップタイ)

と、チームで最もシュートを打っているのだ。

セレッソ戦でのゴールは樋口の積極性をよく表している。ハーフウェイラインよりも自陣側でボールを受けた樋口は、そのままボールを持ち運ぶと迷いなくペナルティエリアの外から右足を振りぬいている。普通ならもっとボールを運んでゴールに近づこうとしたり、より確実な味方を探したりするものだが、樋口はシュートを打つことに躊躇なかったのだ。

 

また、今シーズンのポジション変更も大きいだろう。昨シーズンは右サイドを主戦場にしていた樋口だが、今季はより中央寄りのポジションでプレーしているためシュートエリアに侵入する頻度がそもそも多くなっている。より得点を奪いやすいポジションで起用され始めたことも樋口の得点量産の秘訣だといえそうだ。




狭いスペースでのプレーが極めてうまい

オフ・ザ・ボールと聞くと、FWがDFのマークを外してフリーになる動きを想像するのではないだろうか。だが、オフ・ザ・ボールの重要性は何もFWだけに限った話ではない。中盤の選手にとってもフリーでボールを受けるための動きは非常に重要だ。そして、樋口はその動きが非常にうまい選手なのだ。

樋口は相手のDFラインとMFラインの間を浮遊していることが多い。相手の背中に隠れている時間も多いのだが、樋口は味方が前を向いてパスを出せる状態になった瞬間、数歩のステップを踏んでパスコースに顔を出す。このタイミングと位置取りが絶妙なのだ。

たった数歩のステップだが、これでフリーとなった樋口はライン間でボールを引き出すことができる。相手の守備陣形の隙間に潜り込み、こじ開ける能力において樋口はJリーグの中でもトップレベルだ。

ライン間の極小スペースでボールを受けられるだけでも優れた能力なのだが、樋口が素晴らしいのは縦パスを受けた際にほとんど必ずターンして前を向き、攻撃を加速させられることにある。

普通の選手なら相手に囲まれた狭いスペースでボールを受けても、ボールをキープして後ろへ戻すのがやっとだ。しかし、樋口はこの狭いスペースでも前を向くことができるのだ。これができる選手はなかなかいない。

下の動画に示したシーンはその象徴的な場面だ。ボールが出るまで樋口は後ろを向いているが、ボールの移動中に半身になってボールを止め、そのまま素早く前を向く。常に前向きにボールを受けられないかうかがっていることがよくわかる。




守備量も平均値以上

ここまでは樋口の攻撃性能の高さについて言及してきた。しかし、彼が優れているのは攻撃面だけではない。守備力についても水準以上のものを持っている。

樋口はアグレッシブな守備を持ち味にしていて、自分が担当するマッチアップ相手にボールが入れば一瞬で距離を詰め、重心を低くした強烈なタックルを見舞う。ボールロストした瞬間の切り替えの早さも特筆もので、すぐさまボールホルダーに襲い掛かって奪いきることができる。

樋口のアグレッシブな姿勢はデータにもしっかり現れている。

  • タックル勝利総数 27(チーム内トップ)
  • 1試合平均タックル数 1.9(チーム内トップ)

と、チームで最も多いタックル数を記録しているのだ。樋口が球際でよくファイトしていることがわかる。

それでいてここまでイエローカードを1枚ももらっていないのも素晴らしい。激しくもクリーンな守備を行っていることがわかるだろう。優れた攻撃性能を持つだけでなく、守備でもアグレッシブに奪いに行ける。新生サガン鳥栖を体現するようなプレーヤーだ。

 

このように、

  • 正確なキックを両足に備え、
  • クロスボールやセットプレーから多くのチャンスを量産し、
  • 強烈なミドルシュートでゴールも奪え、
  • ライン間の極小スペースでも前を向いて攻撃を加速させられ、
  • 守備時にもアグレッシブなデュエルでボールを奪え、
  • 複数のポジションをこなせるポリバレント性も持っている

攻撃でも守備でもチームトップのアクション数を残している項目が多い樋口。彼の根底にあるのはアグレッシブな姿勢だ。リスクを取って積極的なプレーを選択できるからこそ、狭いスペースでも前を向き、積極的にシュートを放ち、味方にチャンスを量産し、何度もデュエルを挑んでボールを奪える。

そうしたメンタルの強さこそ樋口の最大の武器なのかもしれない。




樋口雄太ののびしろ

攻守両面で強みを持っている樋口。それでは、彼の伸びしろはどこにあるのだろうか。

正直、現時点で樋口に大きな弱点は見当たらない。強いて挙げるならシュートの精度をさらに上げることだろうか。

前述のように樋口はチームで最も多くのシュートを打っている選手だ。だが、枠内シュートについてのデータを見てみると

  • 枠内シュート総数 9(チーム内4位タイ)
  • 1試合平均シュート数 0.4(チーム内5位タイ)
  • 枠内シュート率 22.5%(チーム内10位)

とチームの中で特別優れた数字を残しているわけではない。シュートが枠に飛ぶ確率は低くなっているのが現状と言えそうだ。

逆に言えば、枠内にとんだシュートは高確率で得点になっているということ。その頻度が高まればおのずと得点数はさらに伸びるはずだ。

コントロールとパワーを兼備した樋口のシュートはそう簡単には止められない。あとは枠内に飛ばす確率をさらに高め、さらなる得点量産に期待したいところだ。




あとがき

先日行われたJ1第24節、浦和との一戦でまたもや樋口はアンカーで起用された。

この記事で紹介した通り、樋口はアグレッシブなプレーヤー。しかしながら、アンカーではそのアグレッシブさを多少なりとも抑える必要が出てくる。樋口が積極的なボールハントに出ていったり、ミドルシュートを打つために前に出ていくと、中盤はぽっかりと穴が開いてしまう。攻守のバランスを担保するという意味で、これは極力避けたいところだ。前任者の松岡はここのさじ加減が絶妙で、攻守のバランスを保つのに貢献していた。

しかしながら、ピッチ中央でバランスをとることに重点を置いてしまうと樋口の最大の持ち味である積極性が削られてしまう。アンカーでも問題なくプレーはできるものの、それでも樋口の最大出力ではないといった印象だ。

それでも金監督は樋口をアンカーでならしていくのか、それとも別の選手を起用して樋口を右MFに戻すのか。その采配にも注目していきたいところだ。

 

 

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