【アッレグリが解いた「パズル」】PSM アタランタ戦からユベントスのビルドアップの狙いを探る

【アッレグリが解いた「パズル」】PSM アタランタ戦からユベントスのビルドアップの狙いを探る

2021年8月16日 2 投稿者: マツシタ
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サッリ、ピルロと「魅せて勝つ」サッカーを追求した過去2シーズンを否定するような形で「勝利至上主義」のアッレグリを呼び戻し新シーズンを迎えようとしているユベントス。王座奪還に燃える元王者は、昨日21-22シーズン開幕前最後のプレシーズンマッチとなるアタランタ戦に臨んだ。

そこで垣間見えたのは、個々のタレントを最大限引き出すために最適な組み合わせを考えようとするアッレグリの合理的な思考だった。

今回は、ユベントスvsアタランタの一戦におけるユベントスのビルドアップに焦点を絞って新生ユーベが目指す形を探ってみようと思う。

 

 

ディバラにスペースを提供する

この日のユベントスのスタメンは以下のラインナップとなった。

 

ディバラの1トップ、ベルナルデスキのインサイドハーフ…。見慣れないポジションに配置された選手がいる。これはアッレグリが打った奇策なのだろうか。いや、ちがう。すべてはしっかりと計算された合理的な配置だった。

詳しくみていこう。ユベントスのビルドアップの最初の狙い、それは1トップの位置に配置したディバラを中盤におろし、そこにくさびを当ててビルドアップの出口にすることだった。

そのために、ユベントスはディバラが降りてくるためのスペースを準備した。

  1. アンカーのラムジーがピッチ中央よりも右にポジション。
  2. ベンタンクールは低めの位置に引いてきて相手の中盤を引っ張り出す(もし相手がついてこなければビルドアップの第2の出口になる狙いもあったが、アタランタはマンツーマンを基本としていたためベンタンクールが自由にくさびを受けられる場面はなかった)。

こうして空いた右サイドのスペースをディバラがくさびを引き出すためのエリアとして設定した。

 

 

斜めのパスの連続で素早く縦に持ち運ぶ

その後のボールの動きを先に図で示しておこう。ここに説明を加えていく形を取ろうと思う。

 

ディバラへのパス供給役として指名されたのはクアドラード。テクニカルなドリブル突破と高精度のクロスボールに目を奪われがちだが、クアドラードは低い位置から斜めに刺す縦パスの精度も非常に高いことは以前言及した通り(詳しくはクアドラードのプレースタイルを参照)。この能力をアッレグリは見逃さず、有効活用したわけだ。

そしてもうひとつのポイントはディバラは純粋な偽9番ではないということだ。偽9番は最前線から引いてくることで中盤に数的優位を作り出そうとする戦術だが、アッレグリの目的は中盤に数的優位を作り出すことではない。むしろディバラが相手のCBを引き連れて中盤に降りてくることで中盤であえて数的同数を作ることにあった。

CBを中盤に引っ張り出すことで何が起こるか。もともとCBがいた場所、つまりに最終ライン中央にスペースが空くのだ。ディバラを中盤におろすのはビルドアップの出口とするだけにとどまらず、相手の急所に有効なスペースを作り出すこという効果を狙ったものでもあるのだ。だから、ディバラは最初から中盤に加勢するのではなく、相手最終ラインに近い位置をとりながらここぞのタイミングで引いてくる。CBを引き連れながら。その動きは偽9番というよりもセカンドトップのそれだ。

縦パスを受けたディバラはどうするか。徹底してレイオフ(ワンタッチの落とし)を用いていた。もちろん、その受け手もしっかり準備されていた。それがベンタンクールだ。一度低めの位置に引いていたベンタンクールは、ディバラに縦パスが入ると同時にディバラに近づき、レイオフパスの受け手となった。

これら一連のボール移動中に逆サイドからディバラが空けたスペースにアタッカーが飛び込んでくる。ロナウドもしくはベルナルデスキだ。こうして裏に抜け出し、一気に相手ゴール前まで迫っていく。これがアタランタ戦でユベントスが見せたビルドアップの狙いだ。

 

このように、ユベントスはディバラを基準にして各選手が動き、それによってうまれたスペースを突く。と同時にスペースを突いた選手がいた場所にはまた別のスペースができ、そこをさらに突き…という流れを連続させた。そこに少ないタッチでの素早いパス循環を織り交ぜていく。

スペースを作る動きと使う動きの連続・連動と、少ないタッチで斜めのパスを連続させて素早く縦に持ち運ぶビルドアップ。これがアタランタのアグレッシブな姿勢が誘因となったものなのかシーズン通したコンセプトになるのかは新シーズンが始まってみなければわからない。だが、この試合のユベントスが明確な狙いを持って攻撃を組み立てようとしたこと、そのスタイルが現スカッドとの相性が良いことは確かだ。

ここまで説明してきた狙いが最もうまくはまった場面が下の動画だ。実際の映像でも確認してみてほしい。

 

 

不思議な初期配置と合理的な可変

先の動画で紹介した場面から今後に向けた課題も見える。それがロナウドが最初から最後までこの場面に絡んでこなかったことだ。最初に抜け出す場面は距離が遠いのでまだしも、ベルナルデスキからクロスが上がってくるタイミングでもロナウドはまだゴールから遠い場所にいた。これでは仮にいいボールが上がってきてもクロスに合わせることはできないだろう。まだコンディションが仕上がっていないのか、ここに絡んでくるための走力も落ちてしまったのか…。

いずれにしても、アッレグリが最終的なフィニッシャーをロナウドに設定したいことは間違いないはず。なぜならロナウドは今なお世界最強クラスのフィニッシャーだからだ。ディバラを中盤に引かせ、最終ライン中央に穴をあけるのもロナウドが使うためのスペースを提供するためであるはずだ。ところが、この試合ではベンタンクール&ベルナルデスキの両インサイドハーフがこのスペースを使う場面が多かった。最も有効なスペースを最終的に使うべき選手が使えていないということ。ここは今後に向けた課題だ。

もし仮にアッレグリの狙い通りロナウドがピッチ中央のスペースに侵入し、それを見たベルナルデスキがサイドに流れてバランスを取った場合陣形はどうなるだろうか。

 

このように、ディバラがトップ下、ロナウドが1トップ、ベルナルデスキが左サイドアタッカーの4-2-3-1のような陣形になる。それぞれの選手が得意とするポジションに選手が配置されていることがわかるだろう。

スタメン紹介時の初期配置を見ると一見不自然に見えるが、それはあくまでも初期配置。それ以上に大切な可変した先で理想的な配置が組まれるように緻密に設計されていたのである。

このように、アッレグリは選手が最も力を発揮できるよう、それぞれの特徴をパズルのように組み合わせる。それにより、各選手は無理せずそれぞれの個性を発揮できるのだ。中盤を所狭しと走り回っては3トップに次ぐ「第4の矢」として躍動したベンタンクールがその筆頭だ。あれほど躍動感にあふれるダイナミックなベンタンクールを見たのは久しぶりだ。昨シーズンはレジスタという檻に閉じ込められていたのだなと改めて感じる。

あるいはベルナルデスキもそうだ。昨季はサイドプレーヤーとしてアウトサイドレーンを上下動する凡庸なプレーヤーのような振る舞いに終始してしまっていたのに対し、この日のベルナルデスキはロナウドの立ち位置を見ながら内に外にとポジションを変えながらボールに絡んで躍動。本来のハードワークとテクニックを見せながら気持ちよくプレーしたはずだ。鮮烈なミドルシュートによる得点が生まれたのも、決して偶然ではないと感じた。

昨季4位に終わったため忘れがちだが、ユベントスはそもそものタレント力で見ればリーグでトップだ。そのタレントの能力がアッレグリによって十分に引き出されるのなら、弱いはずがない。新シーズンのユベントスは間違いなくスクデット候補筆頭だろう。

引いた相手をどう崩すかなどまだ見えない部分はあるが、いずれにしても新星ユベントスが強力なチームになることは間違いないはず。そう感じさせるのに十分なプレシーズンマッチだった。

 

 

あとがき

昨シーズンにユベントスの指揮を執ったアンドレア・ピルロは、明確な完成図持ち、その完成図を出発点としてチームを考える監督だった。それにふさわしいピースを集めてくれば、おそらくめちゃくちゃ面白くて、それでいて強いサッカーが実現できるのだと思う。だが、残念なことにユベントスにはピルロが求めるピースが不足していた。それを埋めるため、ピルロは理想とは違う型のピースを無理やり自分の型にはめこもうとした。結果として形がゆがんでしまい、本来の魅力を失ってしまうピースが出てきてしまった。そうまでしたものの、ピースがそろっていない以上ピルロが求めた理想の絵が完成することはなかったのだ。

一方、アッレグリは明確な完成図を持たず、与えられたピースから考えを出発させる監督だと思う。手元にあるピースをどう組み合わせれば一番いい絵ができるか、それを考える。だからそれぞれのピースは自然な形のまま配置されるし、それでいて全体としても調和がとれるように設計される。だから、昨季はゆがんでしまっていたピースが水を得た魚のように本来の輝きを取り戻し始めた。ベンタンクール、ベルナルデスキはその筆頭だ。ディバラやラムジーもそれに続くだろう。

基本的な姿勢もこうした考えから出発していると思う。今のユベントスの陣容はじっくりパスをつなぐよりも空いたスペースへ素早くボールを持ち運ぶ縦に速い攻撃でこそ活きるタレントが多いように思う。それを理解したうえで、アッレグリは重心を低くしつつ縦へ速い攻撃を志向したのだろう。勝利に最も近い方法を合理的に考えて採用している印象だ。

稀代の名将とともに絶対王者の称号を取り戻す。ユベントスの逆襲が幕を開けようとしている。