【鳥栖の心臓】松岡大起のプレースタイルを徹底解剖!

【鳥栖の心臓】松岡大起のプレースタイルを徹底解剖!

2021年8月2日 1 投稿者: マツシタ
Pocket

今シーズンのJ1最大のトピックのひとつはサガン鳥栖の躍進だろう。シーズン前の順位予想では降格圏にその名前を書き込む識者も多かった中、ここまで堂々の4位。ACL出場権争いを演じている。

ここまでチームを押し上げたのは間違いなく金明輝監督の功績だ。降格チームなしとなった2020年シーズンに戦術の浸透に着手、ボール保持を基本としながら鳥栖らしい戦う姿勢やアグレッシブさの要素も併せ持った完成度の高いチームを構築し、クラブを躍進に導いている。

その金明輝サッカーの体現者としてチームに欠かせない選手となっていたのが松岡大起だ。

 

熊本出身の松岡は高校進学時にスカウトを受けてサガン鳥栖のユースに加入する。そのスカウトを行った人物こそ、当時鳥栖U-18を率いていた金明輝その人だったのである。

以後の松岡は金監督の薫陶を受けて大きく成長。2018年には当時高校2年生ながら天皇杯でトップチームデビューを飾ると、翌2019年にJ1第2節でJリーグデビュー。6月にはクラブ史上初めて高校生にしてプロ契約を締結し、年間通してリーグ戦23試合に出場するなどクラブの未来を背負う逸材として大きな期待を集めた。

その2019年途中からトップチームの監督に就任したのが恩師の金監督で、以後松岡は主力に定着。2020年にはリーグ戦32試合に出場し、今シーズンはここまでリーグ戦22試合中21試合に先発出場。金監督のサッカーの象徴として絶大な信頼を勝ち取っていたのだ。

若干20歳にしてクラブを躍進に導く存在となった松岡。彼は一体どんなプレーヤーなのか。

今回は松岡大起のプレースタイルを徹底的に掘り下げていこうと思う。




松岡大起のプレースタイル

 

中盤を引き締める「掃除屋」

松岡の最大のストロングポイントがボール奪取力だ。運動量と戦術眼、読みの鋭さを兼ね備えている松岡は、広範囲を動きながら相手の攻撃の芽を摘み、ボールを刈り取りまくる。

  • 1試合平均タックル成功数 1.6(チーム内3位)
  • 1試合平均インターセプト成功数1.5(チーム内2位タイ)

というデータを見ても、松岡がチームでもトップクラスの守備アクションを見せていたことがわかる。

松岡の守備力を支えている要素は4つある。

 

カバー範囲の広さ

ひとつめがカバー範囲の広さ。松岡は非常に運動量豊富なMFで、90分通して運動量が落ちない優れたスタミナを持っている。

下は今シーズンの松岡のヒートマップ。ピッチ中央のすべてのエリアをカバーしていることがよくわかる。

 

さらに、スタミナがあるだけでなく爆発的なショートスプリントも持ち合わせているのが松岡の優れたポイント。一気に相手との距離を詰めてボールに襲い掛かる。長距離、短距離の両方で優れた運動能力を持っているからこそ松岡は何度も相手のボールにチャレンジできるのだ。

それがよくわかるのが下の動画。数メートルの距離を一瞬で詰めていることがよくわかる。ボールのコースが変わったことにも瞬時に反応、問題なくついて行けるアジリティも相当なものだ。彼の運動能力の高さがよくわかる場面だ。

 

カバー範囲の広さとスプリント力。この両方が活かされるのがカウンターを受ける場面。向かってくる相手に対し、松岡は持ち前のスプリントで追いついてボールを刈り取り、ピンチの芽を摘む。彼のプレーで鳥栖が危険を脱する場面は少なくないのだ。

 

タックル技術の高さ

先ほどの動画で注目すべきは寄せの速さだけではない。それが松岡の守備力を支える二つ目の要素、タックル技術の高さだ。170cmと決して大柄ではない松岡だが、それを補うだけのタックル技術を持っている。特にスライディングタックルは得意技で、確実にボールを刈り取ってマイボールにすることができる。

また、相手に体を入れられている場面でも自身の体を密着させて確実に自由を奪う。一度捕まえた相手にはしつこくついて行く。こうした基礎的な守備技術の高さもまた松岡のボール奪取力の源泉と言える。

 

危機察知能力

3つ目が優れた危機察知能力だ。松岡は非常に読みが鋭く、どこにボールが出て来そうかを予測する能力が非常に高い。だからこそセカンドボールを回収できるし、インターセプトも決められるのだ。

さらに、ゴールライン上で相手の決定的なチャンスを阻止する場面もあった。これも松岡の優れた危機察知能力の賜物だ。

 

戦術眼

さらに、松岡は戦術眼にも優れている。チームの守備戦術の中で自分が何を求められているのか、今何をしなければならないのかの判断がとても正確で、守備組織の一員として機能する能力が非常に高い。

それが最もよく表れていたのがサガン鳥栖が前線からプレッシングを行う場面。5-3-2でセットする鳥栖は、

  1. 2トップが中央へのパスコースを切ってサイドにボールを誘導
  2. サイドに出てきたボールに対してインサイドハーフがプレス

という手順でボールを奪いにかかる。こうなったとき、もともとインサイドハーフがいたポジションが空くことになる。図の青いスペースでフリーになっている8番をどうするかが問題になるわけだ。

 

プレッシングの構造上空くこのスペースは松岡がスライドする、もしくは最終ラインから1枚が上がってきて埋めるという2つの手段を適宜使い分けながら埋めていた。このどちらで守るのかを敵味方の状況を把握し判断していたのが松岡なのである。

 

2列目のインサイドハーフの選手が相手最終ラインへのプレッシングに参加するこの守備は、鳥栖のアグレッシブな姿勢を体現しているといっていい。それを実現させるうえで、松岡は欠かせないのだ。松岡という「保険」がいてくれるからこそ、インサイドハーフの選手が安心して前に出ていけるのだから。




司令塔としてもリーグ屈指

松岡が中盤を引き締める守備者として非常に優秀であることは理解してもらえたかと思う。だが、松岡はそれだけの選手ではない。特に今シーズン飛躍的に向上したのが攻撃面でも貢献度だ。

サガン鳥栖は自分たちのボールを大切にし(1試合平均パス数がリーグで6位タイ)、自ら主導権を握って戦うことを志向しているチーム。そんな鳥栖において、3‐5‐2のアンカーに入る松岡はCBのエドゥアルドや島川、インサイドハーフの位置から降りてくる仙頭とともに試合を組み立てる役割を果たしている。結果として

  • 1試合平均パス回数 52.8(チーム内2位)

チームでトップクラスのパス回数を記録しているのだ。

松岡の素晴らしいポイントがほとんどボールを失わないこと。

  • パス成功率 89%(チーム内トップタイ)
  • 1試合平均ボールロスト数 8.0(チーム内11位)

データを見てみても、パスの成功率は島川と並んでチームで最も高い数値。1試合当たりのボールロストの数はフィールドプレーヤーの中でも最少クラスだ。ほとんどの試合でフル出場していることを考えると、これは驚異的な数字だ。

ほとんどボールロストすることなくボールを循環させる松岡。彼が司令塔として優れているポイントはどこにあるのか。

 

少ないタッチでボールを配給

松岡の司令塔としての特徴が1回1回のボールタッチの少なさだ。彼に注目していると、ほとんどのプレーでワンタッチもしくはツータッチでボールを散らしている。だから、松岡のところでボールが停滞することがない。流れをよどませないのだ。

少ないタッチでボールを循環させる松岡の存在は鳥栖のボール回しを円滑にするうえで欠かせない要素になっている。ボールタッチが少ないと一見目立たないが、チームにリズムを生み出すという意味で松岡は鳥栖にとって理想的な司令塔だといえる。

 

認知力の高さ

少ないタッチでボールを回すためには、ボールが来る前に周囲の状況を把握しておかなければならない。松岡はこの認知能力において特筆すべきレベルにある。どこにスペースがあり、どこにフリーの味方がいるか。これを把握する能力が極めて高いのだ。

松岡は、たとえば遠藤保仁や柴崎岳のようなレベルの突出したキック技術を持っているわけではない。それでもほとんどノーミスでプレーできるのは、こうした認知力と判断力の賜物なのだ。テクニックよりも賢さによって司令塔として機能している松岡は、すべての中盤のお手本となる選手だと思う。

 

サイドを変える意識

認知力に優れ、少ないタッチでボールを動かす。これに加えてもうひとつ松岡を特徴づけているのが、サイドを変える意識の高さだ。

松岡のプレーを注目してみていると、ほとんどのプレーでボールが来たのとは逆のサイドにボールを散らしていることがわかると思う。右から来たボールを左サイドに、左から来たボールは右サイドに。こうしてボールをどんどん横に動かし、相手の守備ブロックを揺さぶるのだ。

エドゥアルドを中心に、最終ラインから縦方向の飛ばすパスを多用するサガン鳥栖だが、松岡だけは横方向の飛ばすパスを多用する。鳥栖にあってひとりだけ違う目線を持った選手だといえ、彼にボールが入ることでチームのボールの流れが切り替わるスイッチ役として機能してきたのだ。

 

これら松岡の司令塔としての良さがすべて出たのがFC東京戦で樋口のゴールをアシストした場面。パスを受けた松岡はダイレクトで樋口にボールを渡した。たったこれだけのプレーだが、少ないタッチでボールを循環させる松岡らしさ、左から来たボールを右に流す「サイドを変える意識」、一連のプレーの前に樋口がフリーでいることを把握しておく認知能力と実に多くの要素が詰まっている。

ダイレクトで素早くボールを樋口に渡したからこそ樋口が前を向く時間と空間が生まれ、それがゴールにつながった。シンプルだが効果抜群。まさに松岡らしいプレーだ。




インテリジェンスを武器に複数のポジションで機能

ここまで見てきたように、松岡のプレーを支えている最大の持ち味はサッカーインテリジェンスだ。常に状況を把握できているからこそボールを奪えるし、的確にボールを散らせる。攻守にわたってその「賢さ」がプレーの源泉となっている。

だからこそ、松岡は複数のポジションでプレーできるポリバレント性も持ち合わせている。今シーズンこそアンカーに固定されている松岡だが、昨シーズンには右サイドバックやセンターバックでもプレーした。カレーラス監督時代にはトップ下やサイドハーフなど、攻撃的なポジションも経験している。

ここまで多くのポジションでプレーできるのも、松岡の優れたインテリジェンス、サッカーへの深い理解があればこそだろう。高度な戦術化が進んでいる現代サッカーにおいて、松岡のような戦術眼に優れる選手はどこへ行っても重宝されるはず。特にその傾向が強いヨーロッパを見据えると、これは大きなアドバンテージになりうるだろう。

 

このように、

  • 豊富な運動量と鋭い出足を併せ持ち、
  • 正確なタックルでボールを刈り取り、
  • 危険なスペースを埋める戦術眼にも優れ、
  • 少ないタッチでサイドを変えて攻撃を組み立てる司令塔としても機能し、
  • 複数のポジションで機能するポリバレント性も兼ね備える

金監督のもとで成長を続けてきた松岡は、今やリーグを代表する若手MFに成長を遂げたといっていいだろう。それと同時に、攻めてはボールを動かし、守ってはアグレッシブに球際で戦うという金明輝サッカーを体現したプレーヤーであることもわかってもらえたはずだ。彼が鳥栖の心臓であるという意味も理解してもらえるのではないだろうか。




松岡大起ののびしろ

20歳にして非常に完成度が高いMFとなっている松岡大起。そんな彼にはまだ伸びしろが残っているのだろうか。

あえて挙げるとすれば、それはプレス耐性の強化だろうか。松岡は前線から激しくプレッシャーをかけてくる相手に対してまだあわててしまう場面もある。特に相手のプレスがハマって近くにパスコースがない時に困ってしまう場面はまだ多く見受けられる。

データで見ても

〈ボールロスト数〉

  • 第17節 vsヴィッセル神戸 10回
  • 第19節 vs横浜Fマリノス 10回
  • 第21節 vsサンフレッチェ広島 11回

と、アグレッシブにプレスをかけてくる相手に対しては平均ボールロスト数(8.0)に対して優位にロスト数が多くなっている。

相手にプレスをはめられたときに目の前の相手をドリブルで剥がしたり体を入れてファウルを誘うなど、単独でプレスを破壊できるプレーヤーにまでなれれば超一流だろう。もともと推進力を持っている選手だけに不可能ではないはずだ。

 

また、もうひとつ挙げたいのが得点力の向上だ。

前提として、今季の鳥栖においての松岡はミドルシュートで得点を挙げるという役割を求められていなかったことは紹介しておきたい。

その上で、

  • 1試合平均シュート数 0.4
  • 1試合平均枠内シュート数 0.05

とシュートの数に対して枠内シュートの数がとても少なくなっていることもまた事実。こぼれ球を拾ってミドルシュートを打つ場面もちょくちょくみられるが、枠に収まっていないというのが現状だ。

すでにプロデビューしてから3シーズンを戦ってきた松岡だが、これまでのところゴールが生まれていない。これも何か示唆的だ。

強烈なミドルでときおり相手ゴールを脅かせるような選手になることができれば、さらに相手にとって怖い選手になれるだろう。




あとがき

この記事で見てきたように、松岡は鳥栖にとって絶対に欠かすことのできない心臓だ。今後数年にわたって鳥栖の中盤を支えていく…誰もがそう思っていたに違いない。

ところが、8月2日に衝撃的なニュースが飛び込んできた。松岡大起の清水エスパルス移籍が公式に発表されたのである。シーズン途中に、しかも国内で松岡が移籍するとはだれが思っただろうか。

クラブにとっても、本人にとっても大きな決断だ。今の鳥栖のサッカーにおいて松岡は文字通り心臓。彼抜きでどのように戦っていくのか、今のところは想像がつかない。また松岡本人にとっても、ここまでのキャリアの大半で金監督の指揮を受けながら成長してきた。その恩師がいない環境へ飛び出すということは非常に大きな決断だ。このタイミングでの新たな挑戦は自ら厳しい環境へと身を置くことでもあり、また大きく成長するチャンスであることをも意味している。

松岡の新たな挑戦が成功するかどうか、それはひいては日本サッカーの未来をも左右するだろう。20歳にしてここまで完成度が高い選手もなかなかおらず、当然次のパリ五輪世代の中心として活躍することが期待されている。その先にあるA代表での貢献も期待せずにはいられない。

金監督によって日本屈指の若手MFに成長した松岡。恩師なき環境で独り立ちし、さらなる飛躍を遂げられるか。今後の動向から目が離せない。

 

 

あわせて読みたい 関連記事

【旋風の正体】サガン鳥栖の戦術を徹底解剖!

【鳥栖の司令塔】樋口雄太のプレースタイルを徹底解剖!