【シェフチェンコ流スペース管理】ウクライナ代表の戦術を徹底解剖!

【シェフチェンコ流スペース管理】ウクライナ代表の戦術を徹底解剖!

2021年7月4日 0 投稿者: マツシタ
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1年遅れで開催されているサッカー欧州選手権では、決勝トーナメントの早い段階で優勝候補が多く姿を消す中、中堅国の奮闘が目立っている。その中堅国のひとつとしてウクライナが挙げられる。

3日深夜に行われた準々決勝イングランド戦で0‐4の完敗を喫してすでに姿を消したものの、ベスト8進出は同国史上初の快挙。いままでグループリーグ突破の経験すらなかったが、初の決勝トーナメントでスペインを退けてグループEを首位通過してきたスウェーデンを破るなど躍進した。

 

ジンチェンコやマリノフスキなど国際レベルで活躍する豪華なタレントを擁していたものの、それ以上にウクライナの躍進の立役者となったのがアンドリー・シェフチェンコ監督だ。「シェバ」の愛称で親しまれ、現役時代には同国史上初めてのバロンドールを受賞したレジェンドは監督としても優れた手腕を発揮。若い才能を取り込んだ組織的なサッカーでウクライナに黄金期をもたらそうとしている。

シェフチェンコのサッカーの特徴がスペースの管理法だ。特定のエリアに選手を集める一方であえて空けておくスペースを用意したり、ひとりの選手に複数のスペースを使い分けさせたりするなどかなり独特なサッカーを標榜。これをトレーニングの機会が少ない代表チームで形にしているのだからすごい。

今回のEUROで見てきたチームの中でも屈指の完成を誇ったシェフチェンコのウクライナ。彼らが一体どんなチームだったのか、グループリーグの3試合から徹底的に掘り下げていこうと思う。

 




 

攻撃

ウクライナの攻撃はパスサッカーだといわれる。それは間違っていないのだが、大切な部分を省略してしまっている。大切な部分というか、ウクライナのサッカーの面白さ、魅力をそのまますっぽり抜かしてしまっていると思う。彼らのサッカーを深いところまで理解するには、その陣形とそれによって生まれる「スペース」に注目する必要があるだろう。

 

あえてサイドバックは上がらない

まずはウクライナの攻撃時の配置について見てみよう。最も攻撃時間が長かった北マケドニア戦の平均ポジションを見ると、だいたいこんな感じになっていた。

 

まず特徴的なのが、最終ラインの4バックが大きく崩れないことだ。最近のトレンドではサイドバックの片方もしくは両方を高い位置へ押し上げ、CB+MFで3バックを形成するのが主流になっている。

だが、ウクライナはあえて4バックを崩さず、SBも低い位置にとどまらせる。これによってビルドアップにかける人数を増員。4バック+アンカー+左インサイドハーフの6枚をかけることで、特別足元のテクニックに優れているとは言えないCB陣に対して多くのパスコースを提供。安定したポゼッションを確立している。

それと同時に、後方のビルドアップユニットに人数をかけるということは前線で待ち構える攻撃ユニットの人数を減らすことも意味する。そしてそれは、前戦には空きスペースができることをも意味している。これもまたシェフチェンコの狙いだろう。

この空きスペースを使うキーマンは2人。左SBのミコレンコと右WGのヤルモレンコだ。彼らが2つのエリアを兼務することで、空いたスペースを活用しているのだ。

 




 

ミコレンコのSB・WG兼任

まずは左から見てみよう。左WGに入るマリノフスキはトップ下タイプで、中央でボールに絡みたい。それゆえ、基本的にハーフスペースに絞っている。下はオーストリア戦のマリノフスキのヒートマップ。ほとんどアウトサイドレーンでボールを触っていないことがよくわかる。

 

マリノフスキがまだ最終ラインにボールがある段階から中央へポジションするのに対し、サイドバックのミコレンコはCBを補助するため低い位置にとどまっているため、左アウトサイドレーンの高い位置は空のスペースになっている。

これはおそらく意図的なもので、マリノフスキはミコレンコにボールが入っても外には開かない。外側は空けておく決まりになっているのだろう。

 

マリノフスキへの縦パスのコースがなくても、後方には6枚をかけているのでビルドアップが詰まる場面は少なかった。そうして枚数を掛けたビルドアップでボールを中盤に運ぶと、ミコレンコは一気に前線へと駆けあがって左サイドの幅をとる。あるいは下の図のように、

  1. 左インサイドハーフのシャパレンコが斜めに下りてくることで
  2. ミコレンコを高い位置へ押し上げる

いずれにせよ、左アウトサイドレーンを空にしておいて、勢いを持ってミコレンコに攻めあがらせるのが目的であったはずだ。彼のダイナミックな攻撃参加はウクライナの武器になっていた。

 

下はミコレンコの北マケドニア戦におけるヒートマップ。左アウトサイドレーンを一手に引き受けていることがよくわかるのではないだろうか。

 




 

ヤルモレンコの2レーン兼任

左サイドではミコレンコの縦の運動量によって活用したサイドバックを後方に残すことで空くスペース、これは右サイドにもできている。こちらはヤルモレンコが横の2レーン(右ハーフスペース・右アウトサイドレーン)を兼任することで活用している。

下は北マケドニア戦のヤルモレンコのヒートマップ。色が濃いエリアが横方向に広がるという特徴的なマップとなっていて、彼の2レーン兼任がよくわかる形になっている。

 

ヤルモレンコは状況に応じてハーフスペースに絞って中央の選手たちと連携したり、アウトサイドに張って足元にボールを引き出し、そこからドリブル突破を仕掛けるなど相手に的を絞らせない動きで攻撃のキーマンとなっていた。

後方からサポートする右SBのカラバエフはヤルモレンコの動きに合わせて内外を使い分けるが、基本はアウトサイドレーン担当。ヤルモレンコがサイドに張っていれば攻めあがらずに後方でリスク管理を行っていた。

これは逆のミコレンコも同じだが、サイドバックをあえて低い位置にとどまらせ、ボールがないサイドのSBはそのまま後方に残らせるこのスタイルは大きく陣形のバランスを崩さずに済むという守備面でのメリットももたらしていた。

 




 

流動性のスイッチとしてのスペース

話をヤルモレンコに戻そう。ヤルモレンコの2レーン兼任には、彼の個人能力を引き出すこと以外にも別の目的があった。それが「流動性のスイッチとしてスペースを空けておくことだ。オランダ戦ではヤルモレンコが外から内に絞ってくるのと入れ替わりに、1トップのヤレムチュクが外に流れていって相手のマークを混乱させる場面が多くみられた。

この「流動性のスイッチとしてのスペース」は右サイドだけでなく、中央にも用意されていた。左ハーフスペースにマリノフスキ、右ハーフスペースにジンチェンコを配置することで、センターレーンは空になっていた。ここはあらかじめ人を置かず、みんなが使えるスペースとして設定されていたのだ。

ここを使うのはハーフスペースに入る2人のトップ下(マリノフスキ&ジンチェンコ)、大外から絞ってくるヤルモレンコ、1トップから降りてくるヤレムチュクの4人だ。

 

この4人はみなテクニックとモビリティに優れている。彼らを中央に集めることで連携させることがウクライナの攻撃の肝だったわけだが、ただ4人を集めるだけでなく、その密集の中に空洞を作ることで流動性も生み出していたのがウクライナの面白いところ。

たとえばジンチェンコがセンターレーンを使うと、空いたハーフスペースにヤルモレンコがスライド。そうして空いたアウトサイドにヤレムチュクがダイナミックに動き、つられて空いた最前線にマリノフスキが飛び出すといった具合に。テクニカルな4人が動きをつけながら連携し、崩していく。これがウクライナの崩しの設計になっていた。

そのスタイルでカギになっていたのだヤレムチュク。191cmある大柄なFWだが、行動半径がかなり広く中盤の選手たちと連携できるテクニックも持っている。それでいてポストプレーも上々で、体の使い方のうまさは特に目を引く。テクニック、ダイナミックさ、強さを兼ね備えた彼がミランのターゲットとして浮上したのは納得だ。ミランが来シーズンも4シャドーシステムを採用するのなら、理想的なFWだと思う。

今シーズンのヤレムチュクのヒートマップ。中央にとどまらず、非常に広範囲にヒートマップが分布している。 

ここまでの内容をまとめると、

  • サイドバックを低めの位置にとどめることで①ビルドアップの安定、②リスクマネジメント上のメリット、③前線にスペースを生み出す という3つのメリットを創出。
  • マリノフスキをハーフスペースに絞らせることで左ワイドの高い位置を空きスペースにしておき、勢いを持ってミコレンコに使わせることで怖さを出す。
  • 右サイドでは連携・個人打開力の両方を備えるヤルモレンコに2レーンを任せ、その能力を引き出す。ダイナミックに動き回るFWヤレムチュクや右SBカラバエフが空いたレーンを活用して流動性も持たせる。
  • 中央に技巧派を集めて連携させるとともに、センターレーンをあえて空けておく。そのスペースに入る動きを起点に流動的にポジションチェンジ、相手を混乱させる。

現代サッカーにおいて、最もオーソドックスなボール保持時の陣形は3-2-5になっている。前線に多くの人数をあらかじめ配置しておくと同時に、ビルドアップにはあまり人数を掛けないのが特徴だ。

一方、ウクライナはこの逆だ。ビルドアップ時の陣形は4-2-3-1で、後ろにより多くの人数をかけている。それと同時に前線にスペースを空けておき、そこに遅れて入っていく。攻撃要員を後から投入するのである。そのことによって流動性を生み出すのだ。

こうしたスペースの管理、その活用法はとても特徴的で、また新しい可能性を感じさせた。ウクライナのサッカーの真骨頂がスペースにあるという意味がお分かりいただけただろうか。

 




 

守備

続いて守備についても見てみよう。ウクライナは格上であるオランダ戦と、同格以下と言える北マケドニア戦・オーストリア戦で守備方法を変えていた。後者で用いていたのは最近流行の外切り4-3-3プレッシング。レベルが落ちる北マケドニア相手には機能していたものの、より完成度が高いオーストリアに対しては結構自由にボールを回されてしまっていた。正直、練度は特筆すべきレベルにはなかったと思う。

おもしろかったのはオランダ戦で採用されていた「勢いを吸収する4-5-1リトリート守備」だ。ここについて詳しくみてみよう。

ウクライナが採用した4-5-1において、「5」がアンカー+4になっていない場面が多かったこと、中盤の5枚がフラットに近い状態で構えていたことが特徴的だった。

近年のサッカー界では、5レーン理論による配置に対抗するために5バックを採用するチームが多くなっているが、ウクライナは5を最終列でなく中盤に持ってきたのである。

最終ラインをあらかじめ低めの位置に設定、裏のスペースを消したうえで中盤に5枚を並べて5レーンにあらかじめふたをし、徹底的にボールを自分たちの守備ブロックの「前」に追い出す。そのためには、中盤4枚では足りない。だからこそ、ピッチの横幅をカバーできる5枚をMFラインに並べる必要があったのだ。また、4-5の9枚をたがいちがいに配置することで、相手から見ると9人の選手が一列に並んでいるように見えるだろう。圧力は相当なもののはずだ。

そうしてボールを追い出しながら、相手を引きずり込むように徐々にMFラインを下げていく。そうして、最終ラインとの間のスペースを狭めていくのだ。

 

基本的にリトリート守備を行うチームはサイドにボールを追い出し、そこをボールの奪いどころに設定することが多い。

一方のウクライナは裏のスペースを消して、最終的にはライン間にボールを入れさせることを強制。そこをボールの奪いどころに設定していた。

4-5の2列でトライアングルを形成し、ここに入ってくるボールを逆三角形の底にあたる選手が受け止めた上で残る2人の頂点が収縮。3人で囲い込むというのが一連の流れだ。

 

相手が不利とわかっていても不利な選択をせざるを得ないよう強制する、とてもいやらしい守備だ。この特徴的な守備方法で、ウクライナは前半のオランダを無得点に抑えている。

 

ただ、この守備にも問題点が2つあった。

ひとつめは9人が自陣深くに押し込まれてしまうためにカウンターに出ていけないこと。実際、オランダ戦のウクライナは相手の攻撃をことごとく跳ね返したものの、その後の攻撃がなかなかつながらなかった。1トップのヤレムチュクがつぶされてしまうと起点がなく、また自陣深い位置に敵味方とも密集しているためパスワークで回避するのも難しい状況になっていた。結果としてウクライナは奪ったボールをすぐさま奪い返され、オランダに一方的に押し込まれる時間帯が長くなってしまった。

もうひとつがクロスボールに対する制限がほとんどかからなかったこと、そしてファーサイドへのクロスボールに弱かったことだ。ボールを守備ブロックの前に置けていれば目的は達成されているので、それ以上のプレッシャーはかけなかったウクライナ。そのため、深い位置からのアーリークロスには制限がかからない構造になっていた。

さらに、中盤ラインを5枚にし、最終ラインを4枚にしていたため、SBの脇、WGの背後にはわずかなスペースができる。ここに回り込まれると、相手はフリーでクロスボールにあわせることができる。これに気づいたオランダは左からのアーリークロスを右WBのドゥムフリースに合わせることでチャンスを作っていた。オランダの決勝点はこの形からドゥムフリースが決めたものだった。

 

この特殊な守備方法も、裏とライン間という2つの危険なスペースを消しつつ、自分たちが奪いたいエリアへボールを誘導するというスペース管理の視点から整理できる。さらに、吸収するようにラインを下げていくことで相手を自陣に引きずり込み、カウンターで使うためのスペースを準備するという意図もあったのではないか。

最後の目的が達成されたとは言えなかったが、いずれにしてもシェフチェンコらしくあえて空けておくスペース、人を集めるスペースを明確にしたスタイルであったと思う。

 




 

あとがき

攻守においてスペースをデザインし、管理するサッカー。単なるパスサッカーやポジショナルプレーとは一線を画した、特徴的で魅力あるサッカーを見せていたのが今大会のウクライナだった。

ただ、その特殊性、尖りの鋭さゆえに弱点もあって、魅力と危うさを兼ね備えたチームだったといえる。逆に言えばまだまだ伸びしろが残されているということであり、シェフチェンコのサッカーがここからどう調整され、どこに着地していくのか非常に興味深い。

ウクライナは全体的に若いタレントが多く、これからさらに成熟度は増していくだろう。来年のW杯では台風の目になるかもしれない。また、シェフチェンコ個人に目を向ければ、将来的には古巣ミランの新監督に就任するという話もある。この独特なサッカーをどう成熟させ、完成させていくのか。シェフチェンコの動向から目が離せない。