【変幻自在】イタリアvsベルギー マッチレポ

【変幻自在】イタリアvsベルギー マッチレポ

2021年7月3日 5 投稿者: マツシタ
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EURO2020も佳境に入り、ベスト8の試合が行われている。今回は、その中でも「事実上決勝」などと称された優勝候補同士の一戦、イタリアvsベルギーについてのマッチレポをお届けする。

 

 

スタメン

 

 




 

前半

 

ルカク&デ・ブルイネはおとり

前半開始から15分まではベルギーのペースで試合が進んだ。一体なぜイタリアはうまくいかなかったのか。

イタリアの守備ブロックが混乱した理由を見る前に、イタリアのプレッシングのやり方を見ておきたい。攻撃時3-4-3のベルギーに対し、

  1. 3トップが相手3バックにアタック
  2. インサイドハーフ2人が相手ボランチ2枚にアタック。1⃣と2⃣で中央を消してサイドへボールを追い出す
  3. 狙いどころのWBに対してSBがアタック、ボール奪取を狙う
  4. 残る3枚のDFがスライドしスペースをケア

このプレッシングは試合を通してハマっていて、ベルギーの最終ラインにロングボールを強制することができていた。

 

問題は相手に押し込まれたときだった。基本的にイタリアの捕まえ方は先ほど見たプレッシングと変わらないのだが、陣形を整える余裕ができたベルギーは配置を整え、イタリアのルールを逆手にとって混乱させた

  1. 左WGのドクが斜めに下りてディ・ロレンツォの前に出現。これとクロスするようにアザールがハーフスペースへ。ディ・ロレンツォに対して2対1の数的優位を作って混乱させる。
  2. ジョルジーニョはルカクをダブルチーム気味にケアしていたためディ・ロレンツォのケアに向かえず。同じくヴェッラッティもデ・ブルイネをケアしていたため、
  3. もともと彼がマークを請け負っていたティーレマンスがフリーに。

このように、デ・ブルイネ、ルカクという強烈な個が集まった右サイドをおとりに、数的優位を確保した左サイドから崩していこうというのがベルギーの狙いだった。そして、その狙いに見事にはめられ、イタリアはベルギーのビルドアップに手を焼いたのだ。

 

最終的にはボヌッチがヘルプしたり、ギリギリのタイミングでジョルジーニョ&ヴェッラッティがマークを捨てて対応するなど、瀬戸際の対応が続いていた。失点せずに済むかどうかギリギリの攻防だった。




 

イタリアがカウンターを食らいまくった理由

さらに、序盤戦のイタリアは遅攻だけでなくカウンターからもベルギーにチャンスを作られた。これは一体なぜだったのか。

これを知るには、ベルギーの守備方法について見ておかなければならない。ベルギーは5-2-3の守備ブロックを低めの位置に構築、イタリアの最終ラインに対してはある程度自由にボールを持たせたうえで

  1. 守備時にはルカクと立ち位置と入れ替わったデ・ブルイネが背中でジョルジーニョをケア。ルカク、ドクの3枚も中央をケアし、外へ追い出す。
  2. ダブルボランチはセンターレーンを空けてハーフスペースをケアしていたのが特徴的だった。右のティーレマンスはあらかじめインシーニェが絞ってくるスペースに入っておいて待ち構え、
  3. 左のヴィツェルもバレッラをケア。バレッラはより広範囲を動くため、ドクもバレッラをかなり気にしていた。実質ダブルチーム。

このように、ベルギーはハーフスペースに縦に3人を並べることで四角形を形成、その外にボールを追い出そうとした。

 

この守備方法だと、四角形の中は空いている。戦術眼に優れるジョルジーニョのことだから、それがよくわかっていたはず。だから、ジョルジーニョはデ・ブルイネから離れるように前に出ていってそのスペースを使おうとしていた。四角形の中央をとろうとしていたのだ。

しかし、序盤のイタリアはベルギーに前向きにボールを奪われる場面が多かった。その上、アンカーのジョルジーニョが前に出ていってしまっていたものだから、中盤にフィルターはかからない。こうしてがら空きになった中盤を自由に通過され、ベルギーのカウンターは面白いようにハマったのだ。

そうした場面を防いだのは、ドンナルンマのビッグセーブだった。レベルが高くなってくると、特に序盤に「せーのでドン」と顔を合わせたとき、事前に準備してきた戦術だけではどうしようもない部分が出てくる。そこをねじ伏せられる個の力は大切さだと改めて感じさせられる序盤戦の攻防だった。




 

右から左へ

ベルギーの序盤の攻勢を何とかしのいだイタリアは、徐々にベルギーを押し返していく。イタリアにとっての狙うべきスペースは2つ、ドクの脇のスペース四角形の真ん中の空洞だ。

まずはドクの脇のスペース。ここはディ・ロレンツォに高い位置をとらせることで突いた。ここから持ち運んで相手のファーストラインを突破、そこから空いたセンターレーンの空洞に直接ボールを入れる、もしくはいったん左に揺さぶったうえで空洞にボールを入れるのがイタリアの狙いとなった。

 

右から前進→左へ展開してさらに前進という流れはプレーエリアを見てもよくわかるだろう。こうした左右の揺さぶりは今のアッズーリの真骨頂だ。

 

右からボールを運ばれるベルギーは後手に回る。そうした犯したファウルによって生まれたのがボヌッチの幻の先制点であり、バレッラが決めた真の先制点だった。いずれも右サイドからのフリーキックから決まっている。




 

センターレーン攻略への変化

アッズーリの最終的な狙いはセンターレーンの空洞から相手を突き崩すことだっただろう。結局はそこへ向かう途中段階で得たフリーキックから先制点を奪うわけだが、センターレーンの空洞を狙うための駆け引きがみられたのでそこにスポットライトを当ててみよう。

初期配置の3-2-5のまま直接インモービレにボールを入れても、なかなか崩せなかった。インモービレに連係できる選手がいなかったし、インモービレもボールを抑えるのに苦労した。ベルギーもインモービレにならボールが出てからでも対応できると踏んで大胆にも一番危険なセンターレーンを空けてハーフスペースを抑えに来たのだろうし、その狙い通りに試合が進んでいたのは歯がゆい展開だった。

これを受け、イタリアはビルドアップ時の陣形を変更。3-2-5の「2」の一角を担っていたヴェッラッティを左ハーフスペースへ進出させ、インシーニェをセンターレーンへ送り込んだのだ。陣形でいえば3-1-5-1のような形に変化した。

ヴェッラッティのプレーエリアがこれまでより高かったことはヒートマップにも表れていた。1枚目がオーストリア戦、2枚目がベルギー戦。オーストリア戦ではアチェルビ(15番)のあたりにも色が濃いエリアがあり、最終ライン近い位置で組み立てを補助していたことがわかる。対して、ベルギー戦では自陣に特別色が濃いエリアはなく、ハーフウェイラインからペナルティエリア前までの範囲で色が濃くなっていることがわかる。

 

 

 

これにより、もともとインシーニェのマークを受け持っていたティーレマンスは混乱。ボールタッチが多いヴェッラッティに引き付けられ、インシーニェは完全にフリーになっていることが多かった。さらに、CBのフェルマーレンはインモービレが目の前にいるため前には出てこれない。ヴェッラッティ&インモービレが相手をブロックしたことで、インシーニェはセンターレーンで完全にフリーだった。

このインシーニェに前向きでボールを持たせることがイタリアの狙いだったはずだ。そのためにいったんインモービレに当て、インモービレがレイオフすることでインシーニェにボールを集めようとしていたことはよくわかった。

 

結果的にインシーニェにきれいにボールは入らなかったものの、前線にかける枚数が1枚増えたことはアッズーリのカウンタープレスの圧力を上がるという副次的なメリットも生んでいた。特に高い位置に上がったヴェッラッティは抜群の読みで相手のカウンターをつぶしていた。攻守に非常に効果的な働きぶりだったといえる。

さらに、苦し紛れにルカクに入ってくるロングボールに対してはキエッリーニが問題なく対応。攻め上がりを自粛したジョルジーニョのフォローもあって、ベルギーのカウンターはほとんど見られなくなった。イタリアが一方的に押し込む時間が長くなったことで、右サイドのマークの混乱という問題も解消されていった。解消されたというより、それが出現しない状態にまで持っていったという方が正しいか。

こうして巻き返したイタリアがバレッラのゴールで先制したのが31分のことだった。




 

ベルギーの足並みが乱れる

イタリアは先制後もボールを握って試合を支配していた。これに対し、ベルギーは足並みが乱れる。前線・中盤の5枚が高い位置からプレッシャーをかけようと前進し始めたのに対し、最終ラインはこれに対してついて行くかどうかあいまいな対応に終始した。5枚のうち何人かだけが前に出てしまう場面が多く、最終ラインに段差ができ、穴ができた。

イタリアはこれを見逃さず、空いたスペースに素早くボールを運び始める。縦に速い攻撃を仕掛け始めたのだ。CB陣にスピードが不足していたこともあって、ベルギーの最終ラインは徐々に低い位置にとどまるようになる。それなのに前線の5枚はどんどん前に出ていくものだから、ベルギーの中盤には徐々にスペースができていく。

こうして空いた中盤のスペースをついたのがインシーニェの2点目だった。下の動画の冒頭を見ればわかるように、デ・ブルイネは押し上げてこない最終ラインに文句を言っている。対して、最終ラインは完全に裏のスペースを突かれることにビビってしまっている。それは、どフリーなインシーニェへ前に出て寄せることを躊躇するアルデルワイレルドを見れば明らかだ。

 

序盤は危険な場面を多くつくられたイタリアだったが、徐々に修正して盛り返した。そして遅攻の流れから先制点、相手が前がかリになったところを素早い攻めからついて2点目。相手の出方を見て変幻自在に攻撃の形を変えながら戦った前半だった。

終了間際にPKからルカクに1点を返されてしまったものの、イタリアは2‐1でリードを保ったまま前半を終えることに成功したのだった。




 

 

後半

重厚な駆け引きがあった前半を経て迎えた後半は基本的に前半戦の延長のような展開だったのでさらっとまとめたいと思う。

後半戦もイタリアがボールを握ってボールを支配する展開だった。後半のベルギーははっきりとハイプレスに出ることをチームとして統一し、できるだけ高い位置からイタリアの組み立てを制限しようとしてきた。しかし、アッズーリはこのプレスを冷静に外し、前半同様素早い攻撃でこれをひっくり返した。

その際キーになったのはボヌッチのロングフィードディ・ロレンツォの推進力あふれるドリブルジョルジーニョを軸とした細かいパスワーク。これだけプレッシング回避のためのウェポンがあると、相手からしても的を絞り切れないだろう。

こうしてベルギーのプレッシングをいなすと、60分以降は片側のサイドへのオーバーロードと密集を生かした細かいパス回し、それにサイドチェンジを織り交ぜてベルギーを走らせた。ボールロストすれば前半同様の激しいカウンタープレスでボールを奪回。ベルギーにほとんどボールを触らせなかった。

前回フランスvsスイスのマッチレポで紹介したように、フランスは引くのが早すぎた。残り15分の時点で自陣に引いて守ることを選択し、結果としてスイスに自由を与えてしまった。イタリアがフランスと決定的に違ったのは、85分まで引かなかったこと。しっかりボールを握り、相手がボールを持てばハイプレスをやめなかった。相手の最終ラインまで出ていって圧力をかけ、自由な配球を許さなかったのだ。さらに、前半のベルギーのように前後が分断されることもなかった。前線の選手がプレスに出れば後ろも連動し、勇気をもって押し上げた。チームとしての意思がしっかり統一された、完成されたチームである。

ラスト5分は一転してしっかりブロックを構築し「カテナチオ」も問題なくこなせることも示してくれた。試合通して守備方法、攻撃方法の使い分けが適切で、まさに変幻自在の試合巧者だった。

 

それでも、ピンチがなかったわけではない。左サイドからクロスボールを上げられ2つの決定機がにつながった。60分に左からデ・ブライネがあげたクロスに合わせたルカクのシュートがスピナッツォーラに当たった場面、同じくクロスがルカクの頭をかすめた69分の場面だ。

これらの場面の他にもベルギーはサイドからのクロスボールに活路を見出そうとしていた。スタッツ(左側)を見ればわかるように、ベルギーは1試合通してイタリアの倍近い18本のクロスを放っている。しかしながら、成功したのはわずか2本だけだった。

 

これは、ターゲットになれるプレーヤーがルカクしかいなかったことが大きかったのではないか。シャドーに入っていたデ・ブライネとドクはどちらかというとクロスを上げるプレーヤー。途中から入ってきたシャドリとメルテンスに関してもそうだ。中で競り合いを制してゴールに結びつけられるプレーヤーがいなかったことが災いした形だ。ベルギーにあと一つ足りなかったもの、それは「フェライニ」かもしれない

 

 

あとがき

かくして試合巧者ぶりを発揮したイタリアが2-1で難敵を退けた。これで準決勝進出。優勝が現実味を帯びてきた。

次の対戦相手はスペイン。イタリア同様ボールを大切にするチームであり、ボールを握りたいチーム同士の戦いになる。だが、この試合で見てきた通り、イタリアは状況に応じて攻撃のスタイルを変えられるチーム。スペインが高い位置から出てくれば、それを素早い攻撃でひっくり返して相手ゴールを脅かせるだろう。柔軟な戦い方ができることは、これまでに見てきた通りだ。

引いた相手を配置の妙で崩す攻撃、出てきた相手をひっくり返して偽カウンターで仕留める攻撃。この両方を高い完成度でやれるチームは、そうないだろう。このまま「順当に」優勝できるか、それとも…イタリアの快進撃がどのような決着を迎えるか要注目だ。

 

 

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