【ジャイキリ解説】フランスvsスイス マッチレポ

【ジャイキリ解説】フランスvsスイス マッチレポ

2021年6月30日 1 投稿者: マツシタ
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決勝トーナメントに入ったEURO2020で波乱が相次いでいる。グループリーグを3位で通過した4チームのうちスイス、ウクライナ、チェコの3チームが勝ちぬける一方で1位通過した6チームのうちオランダ、スウェーデン、フランスと半分が姿を消したのだ。

中でも世界を驚かせたのは優勝候補筆頭と目されていたフランスの早期敗退だろう。グループAを3位で通過したスイスは絶対的に不利と見られた中、堂々と渡り合って3‐3の打ち合いに持ち込み、最終的にはPKで相手のエース・ムバッペのPKを止めてベスト8進出を決めた。

今回は試合の流れを追いかけながらこの大金星はなぜ起こったのかを探っていこうと思う。

 

 

スタメン

 

 

 

前半

 

スイスの緻密な左攻め

前半、スイスは1‐0のリードで折り返すことに成功した。

先制点が生まれたのは15分、フリーキックのリスタートの流れからツバーが左サイドからクロス、これをセフェロビッチが頭で押し込んだ。これはスイスが特別素晴らしいことをしたというよりも、フランスの緩さが目立つ失点だった。リスタートの受け手となったジャカの動き出しに対し、フランスは全く反応できていない。ライン間にボールが入ったところへの寄せも、クロスボールが上がってくるところに対する寄せもかなりルーズだった。

そんな先制点ではあったのだが、スイスの左からの攻撃は意図的なものだった。結果的に得点にはつながらなかったものの、一連の流れは緻密に設計されており、フランスを困難に陥れることに成功していた。

矢印の長さに注目すると、スイスが左を中心に攻め込んでいることがわかる。

 

スイスはビルドアップをセットするにあたって

  1. ジャカが左ハーフスペースの低い位置でボールを引き出す
  2. 左HVのリカルド・ロドリゲスを高い位置へ押し上げる
  3. あらかじめ左ワイドにいるツバーを内に絞らせる

の3つを実行。ジャカを起点に左に外枠を作った。

 

その上で、エムボロ&シャキリのふたりをフリーマン的に動き回らせることでフランスの守備を混乱に陥れた。下は2人のヒートマップ。ピッチのいたるところに出現していることがわかる。

 

 

このダブルフリーマン制をとるにあたって、降りてくる順番が決められていたのがおもしろかった。最初に降りてくるのがエムボロだ。

  1. 降りるジャカに対してポグバがアタック
  2. もともとジャカがいたスペースにエムボロが降りることでフリーに、相手のプレスを剥がすキーポイントに

 

これを受けてフランスの守備は混乱に陥る。ポグバ、パヴァールに対してジャカ、リカルド・ロドリゲス、ツバー、エムボロでひし形を形成。それぞれ2対1を突き付けることでマークを曖昧にし、フリーになった方をうまく使ってスムーズに前進していった。

ここで見逃せないのがセフェロビッチだけは大きく動かず、前線中央にとどまっていたこと。裏抜けのそぶりを見せながらラングレの注意を引き付け、最終ラインをピン止めすることでライン間を広げることに一役買っていた。

 

フランスも修正しなかったわけではない。途中からパヴァールがリカルド・ロドリゲスに対してカバーシャドウ(背中でパスコースを消す守備)を行うことで左サイドの数的不利を解消し、スイスを追い込もうとした。

 

ここで現れるのが2人目のフリーマン、シャキリ。彼も左アタックに加勢することでフランスは再び混乱した。あえて最初は逆サイドにいて、エンボロに遅れてシャキリが出てくることがキモだった

 

29分にはシャキリがポグバの隣に出現、ポグバとパヴァールに対してシャキリ、エンボロ、リカルド・ロドリゲスで3vs2の数的優位を作る。これにより空いたリカルド・ロドリゲスのところからツバーへとボールをつなぎ、後手に回ったヴァランにイエローカードを提示させている。スイスのデザインされた左攻めに、フランスは明らかにてこずっていた。

 

ここでひとつ、疑問がある。スイスが左に人数をかけてくるならフランスも左に思い切って人を集めたらいいのではないか?

スイスがそれに対する対抗策をあらかじめ準備していたのが憎いところ。右WBのヴィドマーを思いっきり高い位置に張らせていたのだ。彼に本職のサイドプレーヤーでないラビオの裏を何度も狙わせている。これが気になったラビオは左にスライドしきれず、フランスの陣形圧縮を妨げる一因になっていた。

 

後ほど見るが、フランスも同じように逆サイドにパヴァールを張らせていたのだが、そこにほとんどボールが出てこなかった。一方で、スイスは時折大きなサイドチェンジをヴィドマーまで届けることでフランスに右サイドの意識も植え付けた。それを可能にした司令塔ジャカと右HVリカルド・ロドリゲスの正確かつパワフルな左足フィードは素晴らしかったといえるだろう。

 

 

後ろに重すぎて機能しないフランス

スイスがしっかり設計された攻撃を披露した一方、フランスの攻撃は停滞してしまった。一体なぜなのか。

フランスはビルドアップに過剰に人数をかけすぎてしまったのだ。下のフランスの平均ポジションを見てほしい。5バック+カンテ、ポグバの7人がハーフウェイラインよりも後ろにいるのに対し、敵陣にはグリーズマン、ベンゼマ、ムバッペしかいない。

 

この日のスイスは相手の最終ラインに対してほとんどプレスを掛けず、その先のパスコースを消す守備を徹底して行っていた。そのため、フランスは最終ラインでは自由にボールを持つことができた。だが、3バックに加えてアンカーのカンテ、ボールを触りに引いてくるポグバにラビオの6人をビルドアップにさいたフランス。パスの受け手になる選手がほとんどいなくなったのも必然だった。3人しか前線にいないのなら、スイスからすれば的は絞りやすい。フランスが攻めあぐねたのは当然だった。

もうひとり、低い位置取りになっているパヴァールだが、実はボールがないところでのポジショニングは高い位置を保っていた。しかし、そこにほとんどボールが回ってこなかったために平均ボールタッチポジションがかなり低い位置になっている。

この日のフランスは左サイドから徹底的に攻め込んでいる。逆に言えば、右サイドにほとんどボールが入らなかった。ちょっときつい言い方をすれば、右が死んでしまっていたのだ。

右サイドにほとんどボールが入っていないことはプレーエリアマップからも明らかだ。

 

フランスの問題点を列挙すると、

  1. ポグバがさかんに引いて行ってしまうため、右サイドでパヴァールが孤立してしまっていた。これでは突破力があるわけではないパヴァールにボールが入ってもどうしようもない。実際、パヴァールへのロングボールはほとんどなかった。また、幅をとって広げたスペースを使う人もいなかった
  2. ポグバが引いてくるのはフランスの3バックの配給力不足という側面も。実際、前半にキンペンベやヴァランから効果的な縦パスが入る場面はほとんどなかった。
  3. ポグバのために場所を空けたカンテの役割も不明瞭。左サイドにはけたあと効果的な役割を果たせておらず、カンテも実質ピッチから消えてしまっていた。
  4. 結果としてスイスの守備ブロックの中に3人しか送り込めず、効果的なくさびが入らなかった

これらの要因が連鎖的に作用し、フランスは相手の守備ブロックの外側をなぞるようなパス回しに終始した。もちろんスイスの守備が集中していたことも間違いないが、フランスの攻撃が対処しやすい単調なものであったこともまた事実だろう。

 

逆サイドへの展開がなかったのもスイスとは対照的だ。チームとしてどちらがより綿密に準備されていたか。その差が、スコアとして現れた前半だったように思う。

 

 

後半

 

フランス、息を吹き返す

スイスに押し込まれた前半を経て、フランスのデシャン監督が動く。CBのラングレに替えて左WGのコマンを投入、グリーズマンを右WGに回して4-4-2にシステムを変更したのだ。

ビルドアップ時は両サイドバックを高い位置に押し込んで前線に6枚を並べ、ビルドアップはCB+ダブルボランチに。カンテの立ち位置によって2+2と3+1を使い分けた。これによって後ろに重すぎたバランスの悪さ修正しようとしたのである。

このフランスの変更により試合は動いて行く。

 

実は、最初に出た影響はフランスの変更による弊害の方だった。両サイドバックを攻撃参加させることでフランスの最終ラインはCBのみに。その脇のスペースは空くことになる。スイスがこのスペースを活用してカウンターを仕掛けたのだ。そうして49分のエンボロのクロスボールからの決定機、さらに51分のツバーによるPK奪取へとつなげていく。

 

このPKが決まっていれば試合は全く違う展開になっただろう。だが、ロリスがリカルド・ロドリゲスのPKをセーブ。これがフランスに自信と勢いをもたらしたことは間違いない。試合の流れは一気に傾いた。

それだけでなく、デシャンの修正もきちんと機能していた。

まずは守備の面で効果が出た。スイスの機能的なビルドアップに対し、フランスは誰が誰を見るかを明確にした。

  1. 引いて行くジャカにはカンテが出ていくことでアタック
  2. サイドに広がるリカルド・ロドリゲスに対してはグリーズマンがついて行く
  3. 中に絞ってくるツバーはパヴァールが引き受ける

 

そうしたうえで、カンテが出ていったことで空くスペースにポグバとコマンを絞らせ、エムボロが降りてくるスペースをあらかじめ埋めた。これで一人目のフリーマン、エムボロが消えた。

 

問題になってくるのは2人目のフリーマン、シャキリをどうするかだ。フランスが出した答えは、カンテを走らせることだった。

サイドにボールを誘導したうえで、ジャカにボールが出ることはないと判断したらカンテはすぐさま自陣方向へスプリント、シャキリのところも消してしまったのだ。ここら辺は2人分走れ、なおかつ読みと判断能力もずば抜けているカンテにしかできないプレーだろう。まさに戦術兵器だ。

 

こうして改善された守備が同点弾につながっている。高い位置でスイスの左からのビルドアップをひっかけたことがベンゼマのゴールに直結した。これで勢いづいたフランスは、勢いそのまま3分間で逆転までこぎつけた。

こうなるともうイケイケだ。フランスの守備が整理されたことでスイスはビルドアップがうまくいかず、フランスがボールを保持する時間が長くなっていく。

こうなると攻撃面の修正も効いてくる。前線に6枚を並べて相手を押し込む一方で後方4人のビルドアップで相手を引き付け、中盤を空洞化。この広大なスペースで躍動したのがポグバだ

スイスは

  1. エムボロがラビオを監視
  2. ジャカが前に出てプレッシングに参加

という手順でフランスのビルドアップに高い位置から制限をかけるものの、自由に動き回るポグバを捕まえきれずにプレスを外されまくる。さらに、空洞化した中盤に前線の選手が降りてくることで前半はほとんど見られなかったくさびも入りまくった。パスの出し手はもちろんポグバだ。

 

理論的にはスイスは最終ラインを押し上げて中盤のスペースを消すべきだったが、前線にスピードスターのムバッペとコマンを突き付けられては仕方がないだろう。タレントの暴力によってスイスのライン間を広げ、ポグバが躍動する条件が整ったのだ。

3点目のゴールはもちろん技術的にすばらしいビューティフルゴールだった。だが、セカンドボールがポグバにこぼれてきたのは、ある意味必然だったのかもしれない。

 

試合は決したかに見えたが、スイスはあきらめなかった

ポグバの3点目が入った時点で残り15分。勝負は決まったと、ほとんどの人が思っただろう。だが、スイスはあきらめなかった。

彼らにとって幸運だったのがフランスが逃げ切り体勢に入ってくれたことだ。逃げ切りに意識を持っていかれたフランスは、ずるずると最終ラインを下げていってしまう。2点差なら最悪1点取られてもまだ余裕があるという思いもあったかもしれない。いずれにせよ、精神的に受け身になったことがスイスに有利に働いた

フランスがラインをずるずると下げていくことで中盤にスペースができ、なおかつ最終ラインにもプレッシャーがかからなくなる。自由にボールを持てるようになった司令塔ジャカとテクニックに秀でるアカンジから、2トップのセフェロビッチとガブラノビッチにくさびが入るようになり、スイスがフランスを押し込んでいく。

得点が入った時間もよかった。3点目が決まってからわずか5分。試合終了までは10分+ロスタイムがあった。まだいけるとスイスは勢いづいただろう。こうなるとスイスはさらに前に出てくるし、フランスは逃げ切ろうとさらにベクトルは後ろを向く。そうしてどんどんスイスのペースに飲み込まれていった。

90分に生まれた同点ゴールはその流れを象徴するようなゴールだった。中盤でルーズボールを拾ったポグバはゆったりとボールを持とうとし、視野の外から寄せてくる相手に気づかなかった。こうして中盤でボールをかっさらうと、スイスは一気に4人の選手が猛然と前線へ駆けあがる。この勢いに押され、フランスの選手は全員が一気に後退。ボールホルダー、ジャカに対してプレッシャーがかからない。

さらに、スイスの勢いに押されたフランスはマークも混乱、中央から逃げていくセフェロビッチ、ファスナハトに両CBが釣られてピッチ中央でガブラノビッチをフリーにしてしまう。これをジャカが見逃すはずはなかった。くさびを受けたセフェロビッチはあわてて飛び込んでくるキンペンベを冷静にかわし、ゴール左下へ流し込んだ。

 

フランスのシステム変更の穴をついてチャンスを作ったスイス。PKを獲得するまで、スイスのメンタルは上向いていたはずだ。ところがロリスがPKをセーブ、これでフランスが勢いづいて3分間で一気に逆転。75分にはポグバのスーパーゴールで2点差に。ここまではずっとフランスのメンタルが上昇していく流れだった。

ところが、フランスは3点目を奪ったことでメンタルが後ろ向きに。これにつけ込んだスイスが80分で1点返す。いい時間帯で得点を奪ったスイスは勢いそのまま押し込み、同点にまでこぎつけた。試合の流れと選手たちのメンタルが二転三転したまさに壮絶な45分だった。

 

 

あとがき

延長に入ってからは両者ともに決勝点を狙い積極的に攻め込んだ。カギになったのは途中出場のスイスの右SBムバブ。彼が積極的な攻撃参加でチャンスを作った反面、その裏をコマンに使われてピンチも招いていた。問題点は明らかだったが、交代枠を4枚使ってしまっていたペトコビッチ監督からしたら選手たちを信じるしかなかっただろう。

フランスは延長の30分で多くのチャンスを作った。延長戦のゴール期待値を比較してみると、

  • フランス 0.90
  • スイス  0.15

圧倒的に攻め込んだが、ミスであったり、ゾマーの2つのスーパーセーブでゴールを決めきれなかった。

そのゾマーがムバッペのPKを止め、スイスが史上初のEUROベスト8進出を決めた。

この記事で紹介したように、スイスは素晴らしい攻撃のメカニズムを準備してきた。そして、それに対応したフランスの修正力もさすがだった。でも、結局最後はメンタルと試合の流れ、決定機が決まるかどうかのほんの少しの運で勝敗が分かれた試合だった。

戦術的な要素も大切なのだけれど、サッカーはそれだけでは片づけられない。メンタル、試合の流れ、ひとつのビッグプレー、ほんの少しの運。そうしたものがすべてをひっくり返してしまう、不確定要素が大きいスポーツなのだ。戦術的に試合を見ている身ではあるが、そこをないがしろにしてはいけないなと改めて感じさせるゲームだった。

ことジャイアントキリングを起こすにあたっては、こうした不確定要素の存在がより重要だ。この試合も、スイスは戦術の力で五分のところまでは持っていったが、完全に上回れてはいなかったと思う。どちらが勝ってもおかしくなかった。それでも、力で劣るチームが組織力で、少しの運で力関係をひっくり返してしまえることは、サッカーの真髄だ

残すところあと7試合となったEURO2020。その中でも多くのドラマが起こるはずだ。波乱の大会がどんな結末を迎えるのか、今から楽しみだ。