【RBのエッセンスで】イタリアvsオーストリア マッチレポ

【RBのエッセンスで】イタリアvsオーストリア マッチレポ

2021年6月27日 3 投稿者: マツシタ
Pocket

EURO2020はいよいよ決勝トーナメントに入った。初日に登場した我らがアッズーリはグループCを2位で突破してきたオーストリアと対戦、延長にまでもつれた接戦を2-1で制してベスト8進出を決めた。

今回はその一戦を振り返っていこうと思う。

 

 

スタメン

 

 




 

前半は「檻に閉じ込める」

ブンデスリーガでは、クロップに源流を発するプレッシングサッカーが猛威を振るっている。その思想の教祖的存在であるラングニックは、意図的に選手を密集させてボールロストの瞬間に激しく襲い掛かるアグレッシブなサッカーを確立し、ドイツサッカーに大きな影響を与えた。

そして、オーストリア代表はそのブンデスリーガでプレーする選手たちが主力の大半を占める。この日の先発も最後尾(GK)と最前線(1トップ)の2人以外は全員がブンデスリーガで主力としてプレーしている。密集サッカーには慣れっこなはずだった。

しかし、自ら密集サッカーを仕掛けて主導権を握ったのはイタリアの方だった。

これまでのイタリアは左SBのスピナッツォーラをウイングの位置にまで押し上げる一方、右WBのベラルディにはタッチラインいっぱいまで張らせることでピッチの横幅いっぱいまで幅を確保し、相手を広げるようにボールを動かすことで揺さぶりをかける戦い方をしていた(詳しくはイタリア代表の戦術を参照)。

転じて今日のアッズーリは左サイドに極端に人数を固め、ベラルディをハーフスペース~センターレーンにまで絞らせて来ることで左サイドに密集を構築。サイドチェンジすることなく、執拗に左からの突破を図った。

オーストラリア戦のイタリアのプレーエリア。矢印を見ると、左サイドからの攻撃が多くなっていることがわかる。

 

この攻撃で輝いたのがスピナッツォーラ。相手が密集している中でも突破できる一瞬のスピードは異次元だった。

 

スピナッツォーラが深い位置で失っても、近くにイタリアの選手たちが密集しているのですぐさまボールを囲い込める。そうして即時奪回、再び左から攻め込んではまた即時奪回。オーストリアを左に閉じ込め、ずっとイタリアペースで試合は進んでいった。結果として前半のオーストリアはシュート1本、枠内は0。ゴール期待値は0.06。イタリアが圧倒的に支配した。

 

オーストリアもしっかり対策を立ててきていた。イタリアボールになると右サイドアタッカーのライマーを下げ、SBのライナーと協力してスピナッツォーラ&インシーニェのイタリアの左ユニットを抑えにかかった。ライマーはライプツィヒでSBとしてプレーすることもある選手であり、守備には安定感があった。左CBドラゴビッチ、左インサイドハーフ シュラガー、アンカーのグリリチュのフォローもあり、オーストラリアは最後まで陣形を崩さなかった。

 

イタリアはライナーが下がったことで空く左サイドのスペースにアチェルビを進出させ、攻撃の起点にしていた。

結局得点には結びつかなかったものの、アチェルビを左の高い位置に置くことはむしろ守備面で効果的に機能した。密集の出口にCBであるアチェルビが配置されることでシュラガーやアルナウトビッチとのデュエルに勝ちまくり、ボールを回収しまくったのだ。この試合のアチェルビは空中戦勝率57%(7回中4回勝利)、地上戦では勝率60%(5回中3回勝利)を記録。地空ともに高い勝率だ。

こうしてオーストリアは脱出口を失い、ひたすらボールを回収される負のスパイラルに陥っていった。

 

個人的にはバストーニが起用されていれば攻撃面でもさらに効果的だったと想像するが、何はともあれイタリアにとって重要だったのはボールを左に閉じ込めること。イタリアから見て右サイドには、オーストリア最大の脅威であるダビド・アラバがいたのだ。ボールに触れさせないことで相手の最大のストロングポイントを試合から締め出すことこそが、イタリアが左に密集を作った理由だと思う。

オーストリアはボールが解放された状態では左サイドを起点に攻撃を組み立てようとしてきた。イタリアに執拗に右サイドを攻められていたにもかかわらず、ヒートマップでは左サイドの色が濃くなっている。

 

試合開始後10分あたりまで、オーストリアはイタリアのプレスを回避して自由にボールを運ぶことに成功していた。イタリアはヒンターエッガーにバレッラが出ていく構造になっていて、その背後にはスペースが空く。このジョルジーニョの脇のスペースにザビツァーが入り込んで起点となることで、イタリアの守備陣形の中に侵入することに成功していたのだ。

 

これに対してイタリアがとった対抗策は、再び「密集を作り、檻に閉じ込める」だった。バレッラを前に出したことで空くスペースにはジョルジーニョを思い切ってスライドさせ、さらに逆のインサイドハーフであるヴェッラッティもピッチの半分より右に絞ってくる。右に密集を作り、スペースを消したのだ。

イタリアの対抗策により、オーストリアのビルドアップは機能不全に陥ることになった。

 

オーストリアは空いた逆サイドに展開することをしなかった。狭い中を、それでも何とかして突破しようとしてくれた。ここらへんは、密集の中でテンポの速い攻防が繰り返されるブンデスリーガで染みついた癖みたいなものなのかもしれない。

何はともあれ、イタリアは攻守にオーストリアを檻の中に閉じ込めることで自由を奪い、圧倒して見せた。ラングニックが理想とするようなサッカーだろう。

ラングニックはサッカー開発部門責任者としてRB(レッドブル)グループに自身の思想を根付かせている。レッドブルの本拠はオーストリアだ。そのオーストリアのお株を奪うようなサッカーだった。

 




 

自分たちのサッカーに戻した弊害

しかしながら、前半は相手を崩しきれなかったのも事実。スピナッツォーラが対策されてからは、インモービレのスーパーなミドルくらいしかチャンスがなかった。どう得点を奪うかが後半に向けた課題だった。

これを受け、イタリアは「檻」を解除する。ピッチ中央に絞らせていたベラルディを右サイドに張らせるいつもの形に戻し、相手を揺さぶることで攻略しようと試みたのだ。

しかしながら、この変更は相手にチャンスを与えることになってしまう。選手の密集度が下がったことでイタリアのゲーゲンプレスが効きづらくなり、オーストリアのポジティブトランジションでのボール運びがスムーズになったのだ。それゆえ、カウンターを食らう場面が増えてしまったのである。VARによって取り消されたアルナウトビッチのゴールもカウンターの流れからだった。

結果として後半、イタリアはシュートに関するデータをすべて上回られたのだった。

 

マンチーニの戦術変更は凶と出た…のだろうか。僕はそうは思わない。右サイドからの攻撃回数も増やし、左右の揺さぶりを入れるようになったことで、相手には確実にダメージが蓄積されていたはずだ。

この日のイタリアのパスワークはグループリーグのどの試合よりもテンポがよく、スムーズにボールを動かせていたと思う。オーストリアも集中を切らさず最後まで体を張っていたものの、徐々に疲労は見えてきていた。90分にバウムガルトナーが足をつって交代したのが象徴的だ。

そして、このボール回しによる揺さぶりが延長戦に結実することになる。

 




 

雨垂れ石を穿つ

延長戦に突入しても、イタリアは変わらずどんどんボールを動かしていく。ボヌッチからのサイドチェンジ、アチェルビからの縦パスでオーストリアを走らせる。徐々にプレスは緩くなっていった。

そして94分、ロカテッリの縦パスを受けたスピナッツォーラからのクロスをキエーザがツータッチ挟んで叩き込む。ロカテッリにも、スピナッツォーラにも制限がかからなかった。前半には献身的なプレスバックでイタリアの攻撃を押さえたライマーも、キエーザのところまで戻れなかった。

 

2点目も大きな展開で相手を揺さぶったところから生まれている。コーナーキックのこぼれ球をインシーニェが最後尾のスピナッツォーラへ戻す。これをスピナッツォーラがもう一度インシーニェに振ってクロスにつなげている。

アチェルビにボールが入った時、オーストリアの中盤の選手たちの足は完全に止まっていた。献身的なフォローでイタリアの左サイドアタックを抑えていたグリリチュも、歩いて眺めているだけだった。

 

相手の攻撃を完ぺきに抑えたものの攻撃では思うようにいかなかった前半を経て、 後半から自分たちの形に戻したアッズーリ。結果的にこの変更はオーストリアに勢いを与えてしまったものの、我慢して相手を揺さぶり続けた。それがはっきりと結果に結びついた得点だった。2点とも揺さぶりを入れながら、最終的には左で仕留めている。前半からの蓄積がオーストリアの足を止めることにつながったのだ。雨垂れ石を穿つ1試合通しての流れが素晴らしかったのではないだろうか。

オーストリアのフォーダ監督は、明らかに疲労が見えていたにもかかわらず失点するまで交代カードを切らなかった。これが結局裏目に出たわけだが、果たしてベンチに頼れる選手がいなかったのだろうか。いずれにせよ、負傷したバウムガルトナー以外を替えなかったことはあだとなってしまった。

 




 

冴えわたるマンチーニ采配

対して、マンチーニ監督の采配はさえわたっていた。2点とも途中投入の2人が得点を奪ったのはもちろん、得点以外の場面でもみな効果的な動きを見せていた。

ベラルディが内へのカットインに固執していたのに対し、替わったキエーザは縦へのドリブルで相手に脅威を与えていた。シュートへの積極性、正確さも際立っていた。

ペッシーナは持ち前のオフ・ザ・ボールの動きでオーストリアの守備陣形をかき乱した。2点目を奪ったことはもちろん、1点目の場面でキエーザをフリーにしたおとりの動きも見事だった。さらに、空いたスペースに顔を出して何度もくさびを受け、ビルドアップを円滑にした。バレッラがいたときよりも右からの攻撃は明らかにスムーズになった。

ボールタッチが多かったヴェッラッティに対し、ロカテッリは少ないタッチで積極的に縦パスを入れて攻撃を加速させた。1点目も2点目もロカテッリの縦パスが起点になっている。1点目はスピナッツォーラへ。2点目はボールを奪ったロカテッリが間髪入れず供給した縦パスを受けたベロッティがフリーキックを獲得、インシーニェのシュートがコーナーキックにつながっている。

ベロッティは前線で体を張り、押し込まれるイタリアに時間を与えた。さらに、カウンターを受ける場面では気迫がこもったタックルで味方を鼓舞した。体を張ったプレーはインモービレにはない彼の魅力で、しっかり存在意義を見せた。ベロッティが戦う姿勢を見せたことでチームに与えた影響は計り知れないだろう。

 

このように、各選手がライバルとは違う特徴を存分に見せ、それらが極めて効果的に作用したことが勝利につながった。マンチーニ采配、ずばりだ。

ベンチワーク、選手層の厚み、すべてを含めた総合力でイタリアが上回った。そんな試合だったのではないだろうか。

 




 

あとがき

かくしてイタリアは2点を奪い、オーストリアの反撃をコーナーキックからの1点に抑えて激闘を制した。これでベスト8だ。

無失点記録は途切れたものの、アッズーリ史上最長となる31試合連続無敗を達成。82年ぶりの記録更新だ。現代表が歴代で見ても指折りのチームであることは間違いないだろう。

ただ、次からは相手のレベルも上がる。ベルギーvsポルトガルの勝者とベスト4をかけて戦うことになるが、どちらにもスーパーなタレントがいる。ルカク、デ・ブライネ、ロナウド、ジョッタ、フェリックス、ベルナルド・シウバ、ブルーノ・フェルナンデス…。これまでの対戦相手と比べても、前線のタレントの格は数段上がる。

彼らを抑え込み、ベスト4に進めるだろうか。アッズーリの真価が問われるのはここからだ。

 

 

あわせて読みたい 関連記事

イタリア代表関連の記事一覧はこちらから

 

↓ 前回のイタリア代表マッチレポ

【必要十分。ペッシーナ以外は。】イタリアvsウェールズ マッチレポ

 

↓ 次回のイタリア代表マッチレポ

【変幻自在】イタリアvsベルギー マッチレポ