【ハイプレス?おこしやす】イタリアvsスイス マッチレポ

【ハイプレス?おこしやす】イタリアvsスイス マッチレポ

2021年6月17日 3 投稿者: マツシタ
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大会のダークホース候補との呼び声高いトルコに完勝して迎えたEURO2020グループリーグ第2戦。相手はこのグループで最もFIFAランクがイタリアと近いスイスだった。

結果は3‐0ロカテッリ劇場と言える試合だった。ルーズボールをダイレクトでベラルディへ送ったスーパーなパスとそこからゴール前まで駆け上がって自ら叩き込んだ先制点、名手ゾマーが一歩も動けない見事なミドルシュートで奪った追加点。いずれも正真正銘ワールドクラスだった。と同時に、もはやレジスタ起用ではロカテッリの魅力は最大限引き出せないこと、インサイドハーフに置いてより自由に攻守に絡ませることで最も活きる選手なのだと証明して見せた。

 

ロカテッリが評価を上げ、評価を変えた試合となったわけだが、チームとしてはそれ以上に大きな意味があった試合だったと思う。

トルコ戦、相手は撤退守備を選択しながらも、キーマンであるジョルジーニョとインシーニェの自由を奪おうとする「人への意識が強い撤退守備」でイタリアに応じてきた。これに対し、イタリアは人を動かすことで相手守備陣の中に致命的なスペースを作り出し、内側から崩壊させて見せた(イタリアvsトルコ マッチレポを参照)。

これに対し、スイスは前半は「スペースを意識したプレッシング」を、後半は「マンツーマン気味のハイプレス」を仕掛けてきた。このいずれをも攻略したことで、イタリアはどんな守備方法の相手でも崩すことができることを知らしめたのである。

今回は、相手の守備とそれに対するイタリアのビルドアップというポイントに注目しながら、スイスとの一戦を振り返っていきたい。

 

 

スタメン

 

 




 

静かな攻防

トルコの人を意識した守備では、人を動かされることでスペースを作られる。これを予習してきたスイスは、ゾーンを意識しつつ、イタリアの自由を奪うべく高めの位置から圧力をかけてきた。

イタリアの可変3バックに対し、2トップがワイドに開いてハーフスペースを封鎖。このゾーンをつぶすことを優先し、キエッリーニとディ・ロレンツォにはパスが出たときのみプレスをかけた。中央レーンに配置されたシャキリは、ひとりで2人を見ることを求められていた。そのため、より危険なジョルジーニョをマークすることを優先。ボヌッチが持ち上がってくれば、背中でジョルジーニョへのパスコースを消しながらボヌッチへ寄せていった。

 

これを受けたイタリアは、ロカテッリを左サイドバックの位置に斜めに落として4-1-5の陣形に変更。相手のファーストラインに4vs3の数的優位を生み出し、相手のマークを混乱に陥れようとする。

 

こうして左サイドのエンボロは1人で2人を見なければいけない状態に。イタリアはこの数的優位を生かしながら前進していった。それは、しっかりデータにも表れている。

 

だが、それでもスイスは動じない。イタリアの移動には応戦しなかったのだ。3トップが中央3レーンを封鎖することに注力したため、ロカテッリは相手にされなかった。結果として左からの前進を許したものの、フロイラーが広範囲を動いてカバーしてくれるから問題はなかったのだ。

これを受け、イタリアはボールの動かし方を変える。左に展開するのではなく、ボヌッチから直接中央にくさびを打ち込み始めたのだ。シャキリの優先順位はより自陣ゴールに近い中央ゾーン=ジョルジーニョを消すことなので、ボヌッチへのプレスは遅れる。ゆえにボヌッチは比較的自由にボールを持てたのだ。

最終ラインのレジスタの異名を持つ彼に時間を与えれば、当然いいパスがどんどん出てくる。パスの受け手も素晴らしかった、インモービレ、バレッラ、ベラルディが入れ代わり立ち代わりでパスコースを作り、ボールを引き出した。ボヌッチがフリーな上パスの受け手が3つもあったため、スイスは的を絞ることができず苦労した。

 

さらに、20分にイタリアは再び陣形を変える。左にロカテッリを置いても無意味だと理解し、ロカテッリをジョルジーニョと並べて中央に配置。ボヌッチにさらなるパスコースを提供しようとしたのである。

これに対し、スイスも応戦。左からの前進が無くなったのならばと、フロイラーをロカテッリに当てて対応してきたのだ。自陣に近い中央ゾーンを封鎖するという原則に従った動きである。

だが、フロイラーがいなくなったことで中盤の広大なスペースにジャカひとりになってしまった。そしてスペースが広がった一方でボヌッチには相変わらず時間が与えられていた。だから、ボヌッチからのくさびはさらに加速していった。

 

こうして生まれたのがイタリアの先制点だった。パスの出し手はボヌッチではなくスピナッツォーラだったが、広がった中盤のスペースにボールが入れるプレーが起点となったことに変わりはない。ルーズボールを拾ったロカテッリがベラルディにボールを展開し、そこから疑似カウンターが発動している。

 

こうして、ゾーンを意識したスイスのプレスを打ち崩したイタリア。スイスはボヌッチに自由を与えてしまえばいくらでも展開されることを身をもって思い知っただろう。

 




 

担当を意識しながら局面で数的優位に

前半のスイスのビルドアップvsイタリアのプレスも見ておこう。

スイスは3バック+2ボランチでビルドアップ。トップ下のシャキリにボールを入れることを狙った。これに対し、イタリアは3トップ+3MFでこの6人を徹底監視。配置をかみ合わせて圧力をかけた。中盤に引いて行く2トップは2CBがきっちりつぶした。

 

こうして中央ルートを消されたスイスは、フリーになっているサイド(特に左WBのロドリゲス)に活路を見出そうとしたものの、ディ・ロレンツォの前に手も足も出ず。スイスはGKも含めてボールは持てるものの、危険な場面は作り出せなかった

スイスが後方に人数をかけ、それに応じてイタリアも前に出ていったため、イタリアの中盤にも大きなスペースは空いていた。だが、スイスはそこを有効に活用できなかった。両者の違いは何だったのか。

イタリアはインモービレ、バレッラ、ベラルディが入れ代わり立ち代わりパスを引き出したのに対し、スイスは頼れるターゲットがシャキリしかいなかったという側面もある。だが、それ以上にイタリアの守備の緻密さ、ひとりひとりの守備技術の高さが大きかったと思う。

イタリアはスイスよりもより相手に対して距離を詰めることに成功していた。だから、スイスの面々が自由にパスを供給できる場面はほとんどなかった。それでいてドリブルでかわすこともできない、絶妙な距離感だ。

もしファーストラインを突破されて中盤にボールが入っても、ウイング&インサイドハーフの4枚がすぐさまプレスバック。スペースはすぐになくなった。加えて、イタリアは人を意識しながらも局面局面で自分のマークを捨て、ボールホルダーに対して数的優位を作り出すことに成功していた。この判断が絶妙だった。

かくして運動量、判断、プレーエリアの広さにより、大きなスペースをも管理することに成功していたイタリアを前に、スイスは何度も中盤でボールロストを繰り返してカウンターを食らう羽目になったのである。

イタリアが比較的リスクが高い守備方法をとりながらも10試合連続で無失点を継続できているのは、個人・組織の両面から見て緻密で完成度が高い守備を構築できているからなのだ。

 




 

ハイプレス?おこしやす

前半ビハインドで折り返したスイスは後半に守備のやり方をガラッと変える。イタリアの最終ラインをフリーにしてはだめだと悟り、ピッチの深い位置でさえも自由を与えまいとマンツーマンのハイプレスを仕掛けてきたのだ。

これに対し、イタリアはドンナルンマを使いながら臆することなくつないでいく。ワンタッチ・ツータッチで素早くパスをつなぎ、相手のハイプレスを見事にはがしていった。

下に右サイドからのプレス回避と左サイドからのプレス回避(この流れでロカテッリの2点目が生まれる)の動画を挙げておく。この2つが全く同じパターンであることに気づくだろうか。

 

GKにボールを持たせて相手のプレッシングを誘い、CBを経由してSBへ。この移動の間にジョルジーニョが動いて相手のマークを剥がして逃げどころとなり、さらにその移動の間に空いたスペースにインサイドハーフが飛び出していく。ふたつともこの形だ。

ポイントは二つ。ひとつはGKと平行な位置にCBを並べていること。これにより、相手の陣形を自陣最深部にまで引き込んでいる。それに加え、ウイングの2人をハーフウェイラインいっぱいに張らせることで相手の最終ラインをピン止め。これにより、相手の最前線と最終ラインとの距離をハーフコート分にまで広げた。ハーフコートを中盤2人でカバーすることは到底不可能だ。よって、相手の陣形には大きな空洞が生じる。

この広大なスペースをMF3人が自由に使うことでワンタッチ・ツータッチでのスムーズなパス回しが実現したのである。ハイプレスに来る相手をあえて自陣にまで引きずり込むプレスを怖がるのではなく逆に利用してしまえる。それができるテクニックの高さ、組織としての完成度の高さは目をみはるばかりだ。

 

状況に応じて中盤に引いてくるインモービレの存在も効いていた。空いたスペースに顔を出すのがうまいインモービレはこの試合何度もくさびのパスを呼び込めていたし、かと思えば裏への動き出しで相手の最終ラインをかく乱することもできていた。ダイナミックに動き続けることで相手の最終ラインを乱し、イタリア最大の強みである2列目の選手たちにスペースを提供する。

イタリアにはスタイルに適したFWがいないと紹介していた雑誌があったが、とんでもない。相手に引かれることが多いイタリアにとって、インモービレは敵陣形を乱し突破のための風穴を開ける急先鋒として必要不可欠なのである。

それを端的に物語っているのが、ロカテッリにスペースを提供した2点目の場面なのだ。

 




 

試合巧者ぶりも発揮

こうして2点目を奪った後、マンチーニ監督は両ウイングを下げてキエーザ&トロイを投入。5-3-2にシフトして中央を固め、重心を落としながら相手を引き込む。そうして相手の攻撃を跳ね返せば、キエーザ&インモービレのスピードスター2名でカウンターを狙うという明確なメッセージを送った。

中央をしっかり固めたイタリアの守備は固かった。ここらへんは古き良きイタリアのにおいを感じさせるところだ。だが、3バック化と同時にカウンターマスターのキエーザを投入しているところが何とも憎たらしい。守備に重点を置きつつも、しっかり相手ののど元に刃を突き付けたままにしているのだから、マンチーニの采配には恐れ入った。

こうして相手の攻撃を受け止めつつカウンターを発動、ボールが落ち着けばパス回しで相手をいなした。ビルドアップで中盤に、撤退守備で最終ラインの裏にスペースを作り、そこをつく。イタリアは相手の陣形を動かしながらスペースをコントロールし、試合をもコントロールしていた。まさに試合巧者だった。

こうして時間を進めていき、試合終盤には3点目が生まれる。起点となったのは途中出場のトロイのボール奪取だった。マンチーニ采配、ずばりである。と同時に、アタランタのエッセンスが詰め込まれた、トロイらしいプレーでもあった。

1・2点目はサッスオーロコンビが、3点目はアタランタのトロイがゴールの起点になっている。まさにプロビンチャの力で奪った3ゴール。なんともイタリアらしいと感じるのは私だけだろうか(もはやアタランタにプロビンチャというのは失礼な気がするが)。

 




 

あとがき

かくして2戦連続3‐0の圧勝。攻守に隙が無い盤石の戦いぶりで、最速で決勝トーナメント進出を決めた。10戦連続無失点で10連勝、次戦負けなければ最多無敗記録に並ぶ。歴史的な強さだ。
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トルコ戦はマンツーマン気味の撤退守備に対し、人を動かすことで敵陣内に有効なスペースを作り出して攻略。かといってゾーンを意識しても、ボールを取り上げようとハイプレスを仕掛けてきてもイタリアからボールを取り上げることはできない。スイス戦はこのことを世界に知らしめる試合になった。

異なる守備方法にそれぞれ最適解を提示し、見事に崩壊させる。アッズーリはまさにパスサッカーの教科書のようなチームだ。完成度は全チームの中でも屈指だろう。

まだイタリアに対して試されていない守備方法は完全ゾーンの撤退守備。ウェールズはこのタイプの守備をしてくるチームだ。中央をパワーでこじ開けられるタイプがいないだけに、最も苦戦しそうな予感もするが果たして。

ウェールズにも完勝すれば、イタリアは本当に隙のないチームであることを世界に知らしめることになる。そうなれば、いよいよ欧州王者が見えてくるのではないだろうか。

イタリアの強さが本物かどうか図る上で、次戦は要注目の一戦だ。

 

 

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