【完璧な前哨戦】イタリアvsチェコ マッチレポート

【完璧な前哨戦】イタリアvsチェコ マッチレポート

2021年6月5日 2 投稿者: マツシタ
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1年延期されていた欧州選手権、通称EURO2020の開幕が1週間後に迫ってきた。その開幕戦を戦う我らがアッズーリはきょう未明、本大会前最後の親善試合となるチェコ戦に臨み、4‐0で快勝をおさめた。

今回は、その一戦のマッチレポートをお届けしようと思う。

 

 

 

安定したビルドアップ

現在のアッズーリは自分たちがボールをにぎることで試合を支配して戦うことを目指していることは以前説明した通りだ(詳しくはイタリア代表の戦術まとめを参照)。チェコ戦のボール支配率はイタリアが62%。6割以上のボール支配を達成しており、狙い通りの戦いができていたといえる。

ボール支配の基盤は後方からのビルドアップだ。まずはここについて見ていこう。

結論から言うと、アッズーリのビルドアップは3月シリーズの試合(特にフルメンバーで戦った北アイルランド戦と比較しても)よりも安定していた。それには2つの要因があると思う。

ひとつがジョルジーニョの存在と、それによるビルドアップ時の陣形の変更だ。

負傷によって3月シリーズで招集されなかったジョルジーニョは、イタリアの中でも最もパスワークに長けたプレーヤー。やはり彼のレジスタとしての能力は別格で、彼がいたことがそもそも大きかったことは言うまでもない。

それに加えて、3月シリーズでアンカーに起用されていたロカテッリが左インサイドハーフにスライドしたことが大きかった。これによって、イタリアはダブルレジスタを採用可能になったのだ。

この日のアッズーリはビルドアップ時に左SBのスピナッツォーラをウイングの位置に押し上げ、残された最終ラインの3枚がスライドすることで3バックを形成。この3枚とダブルレジスタの5枚に状況に応じてGKのドンナルンマが加わることでビルドアップを行った。2枚のレジスタが常にサポートに入ることでパスコースが増え、またパスを動かすスピードや精度が上がったことでビルドアップが安定したのだ。

 

 

攻撃の起点としてのドンナルンマ

そしてもうひとつ、ビルドアップ安定の要因となっていたのがGKドンナルンマだ。彼のロングパスによって相手のプレッシングを無効化する場面が何度も見られたのだ。

この試合、チェコは最終ラインの4枚を残すことでイタリアの3トップに対して数的優位を確保していた。この場合、チェコの残るフィールドプレーヤー6人がプレスに出てくることになる。対して、イタリアは残るフィールドプレーヤー7人のうちの一人とGKのドンナルンマがフリーになっていた。時間を与えられたドンナルンマは的確にピッチの状況を把握し、フリーの一人を見つけてそこに正確なパスを供給することで相手のプレッシングを回避していた。

たとえば、前半に何度も見られたのがフリーになっているサイドバックへのふわっとしたパス。中央を優先的に封鎖してくる相手に対し、その外側に正確なボールを供給することでボールを外に持ち出せていた。

 

後半になると、ドンナルンマがサイドバックへパスを出すことを相手のアンカー、クラール(21番)が読み、パスカットへと動いた場面があった。しかし、ドンナルンマはこれを見逃さなかった。クラールが動いたことで空いた中央のスペースにふわりとしたパスを供給し、中盤に引いてきたインモービレにくさびを打つことに成功している。

 

ドンナルンマは確かにキック技術で特別に優れているとは言えない。エデルソンやテア=シュテーゲンと比較すると、明らかに見劣りする。しかし、それを補って余りある視野の広さやピッチの状況を把握するビジョン、それに判断力がある。GKに求められるのはテクニックよりもむしろそういった「司令塔としての資質」だということを教えてくれるGKだ。

 

ドンナルンマの司令塔としての能力はほかの場面でもたびたび見られた。ドンナルンマは相手のクロスボールをキャッチした後、フリーになっている中盤の選手を見つけてすぐさまスローインでボールを供給することでカウンターの起点になっていた。ドンナルンマを起点に発動されたカウンターが、この試合だけで2度3度とあったのだ。

セービング技術はもちろん、攻撃の起点としての能力もハイレベルなドンナルンマは、やっぱりワールドクラスのGKだ。ミラン退団が決定的となった今、彼がどこに動くのかは欧州クラブのパワーバランスを左右するレベルの重大事だといっていいだろう。メルカートでも注目である。

 

右へのオーバーロードと異次元のバレッラ

話をアッズーリに戻そう。マンチーニ率いるイタリア代表は後方でパスを回しながら、縦パスを入れるタイミングをうかがう。何度もサイドチェンジを繰り返すことで横に揺さぶり、相手の陣形を乱すためだ。

このとき、左サイドを起点に攻撃を組み立て、最終的に右で仕留めることが多いということはこれまた以前に説明した通りだ。しかしながら、今日は(とりわけ前半は)この関係性が逆転していた。つまり、右サイドからボールを前進させていく場面が多かった。

これは左サイドの人選が関係している。北アイルランド戦で起用されたエメルソンは連係プレーを得意とするタイプであるのに対し、今日起用されていたスピナッツォーラはサイドの高い位置に置かれてウイング的に機能するプレーヤー。単独突破を得意とする代わりに連係プレーはそこまで得意ではない。実際、右サイドでボールを回して相手を引き寄せることで左ワイドに張ったスピナッツォーラにスペースを与え、そこに一気にサイドチェンジを入れることで彼の突破力を引き出そうとする場面は何度かあった。

また、左インサイドハーフに入ったロカテッリが、北アイルランド戦で起用されたヴェッラッティよりも低めの位置をとることが多かったことも影響しているだろう。左SB、左インサイドハーフの2人が変わったことで、左の連携の核となるインシーニェに対する補佐が甘くなったのだ。

そのため、今日のアッズーリは右を起点に攻撃を組み立てた。WGのベラルディとMFのバレッラがポジションを入れ替えながら連携し、そこにタイミングよくSBのフロレンツィが加勢することでスムーズに攻撃できていた。このトライアングルが崩しの中心となっていたのだ。

 

特に圧巻だったのがバレッラだ。パスコースを提供する的確なポジショニングはもちろん、ボールを受けてからの配球も素晴らしかった。ボールロスト後のプレッシングでも、得意の出足の良さで何度もボールを奪っていた。アッズーリの右サイドは彼を中心に回ていたといっても過言ではない輝きだった。EUROでブレイクすることは間違いなく、大会後にレアル・マドリードなどメガクラブからのオファーが殺到するのではないだろうか。

 

このように、その日の人選次第で左を起点とするか右を起点とするかを変化させられるのが今のアッズーリの強みだ。代表チームでここまで戦術的に完成度が高いチームもなかなかないんじゃないだろうか。

 

なぜ崩せる?キーマンはインモービレ

こうして右から左への流れでチェコの守備ブロックを崩していったアッズーリ。最終的に4得点を奪っている。この試合の前にさかのぼれば、サンマリノ戦で7得点。3月シリーズの3試合ではすべて2得点を挙げていて、2021年の5試合で17点を奪っている。なぜアッズーリは相手を崩せるのか。そのカギを握るのが1トップのインモービレだ。

アッズーリにおいてインモービレに課せられているタスクはほぼ一つだといっていい。それは裏のスペースをめぐって相手DFと90分間駆け引きし続けること。本当にしつこいくらい裏へ動き出している。

最終ラインがボールを動かして横の揺さぶりをかけている間にインモービレが裏に動くことで縦の揺さぶりをプラスする。そうして相手の陣形を前後左右に乱していく。

さらに、インサイドに絞ってきたインシーニェとベラルディはインモービレとは反対に中盤に引いて行く動きをする。こうすることで前後に動かされた相手の守備ブロックはどんどん乱れていき、DFラインと中盤ラインの間のスペースが広がっていく。入ったひびが徐々に拡大していくようにスペースが空いてくるのだ。そうして最終的には音を立てて崩れ落ちてしまうのである。

チェコ戦のアッズーリの先制点もインモービレのランニングが起点だった。彼が裏に走り出すことで相手CB2枚を引き付け、広がったライン間のスペースでインシーニェがボールを受けて前を向いたところが起点になっている。最終的にインモービレにボールがこぼれてきたのは、彼の献身へのご褒美だろう。

 

こうして空いたスペースに侵入したアタッカーの足元に鋭い縦パスを入れることで攻撃を加速させるのがアッズーリの狙い。パスサッカーを志向しているアッズーリだが、スペインのようにDFライン→中盤→ゴール前と順番に前進していくスタイルではない。最終ラインはむしろ中盤を飛ばして一気に前線へ飛ばすパスを虎視眈々と狙っている。そして、狙ったサッカーがスムーズに回っているのは、インモービレが絶え間なく動いてスペースを作り続けているからなのだ。

人が動くことで陣形の隙間を広げ、繰り返されるサイドチェンジと縦へのスピードアップで陣形自体を動かす。引いた相手を崩すためのエッセンスをこれでもかと詰め込んだアッズーリの攻撃を封じるのは至難の業だろう。どんなチームにとっても手本になる、完成度の高い攻撃だ。

 

今のアッズーリの生命線はトランジション

このように、自分たちがボールを保持し、相手を揺さぶることで崩していくことを狙うアッズーリだが、その真骨頂はボールを失ったときに発揮される。アッズーリはボールロストの瞬間(ネガティブトランジション)、即時奪回を目指して猛烈なプレスをかける。そうしてすぐさま奪い返すと(ポジティブトランジション)、素早く相手ゴールを目指して襲い掛かる。このようなある種ドイツ的な要素も兼ね備えているのが今のアッズーリだ。

実際、このトランジションが今のアッズーリの生命線となっている。後ろで引いて守備することがないアッズーリだが、ここ8試合無失点が続いている。これはアッズーリのゲーゲンプレスの完成度が非常に高い証拠だ。カテナチオではなくなったかもしれないが、形を変えて非常に完成度が高い守備を実現するところはイタリアらしいといえるかもしれない。

それだけでなく、攻撃に関してもトランジション(カウンター)はアッズーリの大きな武器。ボール奪取からのカウンターは遅攻以上に破壊力抜群で、今日のチェコ戦でも2点目~4点目はすべてボール奪取後2本のパスでフィニッシュにまでつなげ、ゴールを奪っている。こうしたカウンターアタックこそ今のアッズーリの最大の武器と言えるかもしれない。

 

 

あとがき

立ち上がりにチェコの勢いに押されてバタバタしたものの、前半15分以降は危ない場面がほぼなかった。結果でも内容でも相手を圧倒した完璧な勝利だった。これで無敗記録は27試合に伸びた。さらに直近8試合で無失点。20‐21シーズンに入ってからの13試合で見ても2失点しかしていない。

チーム状態だけでなく、選手のコンディションもよさそうだ。少なくとも、今日試合に出た選手の中に体が重そうな選手は見当たらなかった。ここまで状態がいいアッズーリがあっただろうか。こうなってくると否が応でも本大会での躍進が期待されるところだ。

速攻も遅攻も守備もハイレベルで、代表チームとは思えないレベルに達している現状を見る限り、実力をきちんと発揮できればグループリーグで負けるとは思えない。不測の事態があるとすれば実力が発揮できない何かしらの事件が起こった時だろう。主力が怪我をする、退場者が出るなど、イレギュラーなことが起こった時に冷静に対応できるかどうかがカギを握るだろう。

あるいは先制された場面でどうふるまうかもカギだ。現在アッズーリは昨年9月のボスニア・ヘルツェゴビナ戦以来、実に1103分もの間ビハインドを負っていない。そういう意味で、先制されるというシチュエーションがもはやイレギュラーだと言える。先制されてあわててしまい、リズムを崩すなんていうことにならなければいいのだが。

また、この無敗期間のなかに強豪国との対戦がなかったことも事実。唯一強豪と言えるオランダにしても、フランスやポルトガルといった今大会の優勝候補と比べるとワンランク落ちるだろう。

今のアッズーリはリスクを負って前線に出ていく守備を行っているため、後方には広大なスペースが広がることになる。もしプレスをかいくぐられたとき、CB陣には広いスペースで相手アタッカーとの1対1にさらされることになる。たとえばルカクを、あるいはムバッペをどれだけ個でおさえられるのか。真の強豪を倒して優勝をつかめるかどうかは、ボヌッチ&キエッリーニの老練なユベントスコンビにかかっているといえるだろう。

めちゃくちゃ高い期待値に普通に応えるイタリア代表もいいじゃないか。カテナチオという伝統から脱皮した新星アッズーリには、悪しき伝統からも脱皮して圧倒的な存在として優勝をつかみ取ってほしいところだ。

 

 

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