【ウズベクの至宝】エルドル・ショムロドフのプレースタイルを徹底解剖!

【ウズベクの至宝】エルドル・ショムロドフのプレースタイルを徹底解剖!

2021年5月30日 2 投稿者: マツシタ
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ウズベキスタンという国を知っているだろうか。中央アジアの真ん中に位置する旧ソ連の国で(2か国以上を通らないと海に出られない世界で2つしかないの国のうちの1つらしい)、その地理的条件から多くの民族・文化が交差してきた歴史を持つ多民族国家。国土の大半は乾燥した砂漠気候で、綿花が主要産業。レアメタルにも恵まれているそうだ。

そんなウズベキスタン、おそらく普通の日本人にはそんなになじみがないんじゃないだろうか。「おそらく」と書いたのは、ぼくが例外の側にいるからだ。おそらく、多くのサッカーファンもぼくと同じく例外の側にいるんじゃないだろうか。

というのも、ウズベキスタンはサッカーが最も人気で、アジアの中では強豪国として知られているのだ。日本もウズベキスタン相手に長年苦戦していて、近年の代表では最も成績が良かったザックジャパンがW杯予選の2試合で1敗1分と勝利することができなかった。

直近の対戦は2019年アジアカップのグループリーグ。最終的には2‐1で日本が勝利したものの、先制されて前半をビハインドで折り返す苦しい戦いだった。

そして、その先制点を奪った選手こそ今回の主役、エルドル・ショムロドフだ。

 

地元のクラブであったマシュアル・ムバレクでデビューした ショムロドフは、翌年には国内屈指の強豪ブニョドコルに移籍。2年半で22ゴールを奪う活躍を見せてロシアのロストフに引き抜かれる。

加入後2年間はチームに順応しきれず途中出場が続き、成績も伸びなかったショムロドフ。転機になったのが前述のアジアカップだ。当時まだ準レギュラーだったショムロドフが突如として4試合4ゴールを記録。一気にウズベキスタンのエースに名乗りを上げたのだ。

この勢いを維持したまま臨んだ19-20シーズン。28試合に先発出場してともにリーグ7位である11ゴール6アシストを記録(ゴールとアシストの合計数ではリーグ3位だ)し一気にブレイクしたのだ。

この活躍を受けて各国からオファーが届く。ドイツのシュツットガルトへの移籍が決定間近で破談になるなど紆余曲折があったのち、イタリア・セリエAのジェノアCFCへの移籍が決定。20-21シーズンからウズベキスタン人選手として2人目のセリエA戦士となったのだった。

加入初年度はカルチョへの適応に苦しんだものの、徐々に結果を残していく。シーズン終盤にはスタメン出場の機会を増やすと同時に量産体制に入りラスト6試合で5ゴールを記録したのだった。

上り調子でシーズンを終えたショムロドフ。来季のブレイクは必至だろう。そんなウズベクの至宝は一体どんなプレーヤーなのか。

今回はエルドル・ショムロドフのプレースタイルについて徹底的に掘り下げていこうと思う。




ショムロドフのプレースタイル

 

ダイナミックなセカンドトップ

ショムロドフは190cm82kgという大型FW。その体格からすれば、前線で体を張る典型的な1トップのプレーヤーに見える。だが、それは間違った認識だ。ショムロドフはそうした体を張ったプレーはむしろ苦手にしている。

  • 縦パスレシーブの成功率 51.1%(チームで下から2番目)

というデータを見ても、ショムロドフが相手を背負ってのプレーを苦手としていることは明らかだろう。縦パスを受けた後のプレーの半分を失敗しているのだ。実際、相手に背後から寄せられたときのショムロドフは淡白にボールを失ってしまう印象を受けた。また、

  • 空中戦勝率 34.1%

というデータを見てもわかるように、ショムロドフは長身であるにもかかわらず空中戦の勝率がとても低い。たとえばイブラヒモビッチの同数値は62%、ジェコのそれは63%だ。

このように、ショムロドフは相手を背負って前線中央で基準点になる典型的なセンターフォワード、イブラやジェコのようなタイプのプレーヤーではない。彼は広範囲を動き回ってスペースに入り込みながらプレーするダイナミックな選手なのだ。

これはヒートマップを比較してみればわかる。1枚目がショムロドフの、2枚目がイブラヒモビッチのヒートマップだ。

 

 

イブラヒモビッチはピッチ中央、特にペナルティエリア内で最も色が濃くなっていることがわかる。彼は典型的な基準点型のCFだ。

対して、ショムロドフはピッチ中央がむしろ一番色が薄いエリアになっていて、その周りに円を描くようにして色が濃くなっている。このヒートマップからは、ショムロドフがサイドに流れたり中盤に引いてきてボールに絡んだりしながらプレーする姿が読み取れるだろう。

ショムロドフはセンターフォワードタイプではなく、むしろセンターフォワードタイプの選手とコンビを組んでこそ活きるセカンドトップタイプのプレーヤーであるといえる。




裏への抜け出しを最も得意とする

そんなダイナミックなプレースタイルを持っているショムロドフ。長身ながら機動力を武器としているのだ。

彼が最も得意としている得点パターンはずばり裏への飛び出しだ。ショムロドフは爆発的なスプリント力を持っていて、スピード勝負になればほとんど負けない。そのまま相手を置き去りにし、冷静に流し込んでフィニッシュする。

今シーズンの得点も大半が裏への飛び出しからの1対1を制して奪ったもの。アジアカップ日本戦で奪ったゴールもこの形からだった。

下はショムロドフが最も得意とする典型的な得点パターン。相手ライン裏に中途半端なボールが出たとき、ショムロドフは相手DFの3mほど後ろにいた。しかし、そこから一気に相手DFを抜き去ってしまっている。このスプリント力は尋常ではない。

また、左から抜け出して右足でファーサイドに巻いて決めるパターンは彼の十八番。正確にゴールの隅を射抜く。

このスペツィア戦でのゴール以外にも、アタランタ戦(2点目)、ヴェローナ戦で左斜めからファーサイドに決めている。先ほどのヒートマップを見ても、特に左サイドの色が濃くなっていることがわかる。このエリアは彼が最も得意で、また最も好んで使う場所であり、「ショムロドフゾーン」と言えそうだ。

 

こうしたお決まりのパターンを持っているショムロドフだが、それだけに固執するわけではない。ショムロドフは利き足ではない左足のキック精度も非常に高く、ラツィオ戦とカリアリ戦では左足で豪快なフィニッシュを見せている。

特にカリアリ戦のフィニッシュは圧巻。得意のロングスプリントで裏へ抜け出すと、左足で相手GKの頭上を抜くループシュートを決めた。彼のテクニックレベルの高さが凝縮されたゴールだった。




高い決定力とテクニックを持ち、チャンスメイク力も高い

このように、左右両足に高度なテクニックを装備しているショムロドフ。そのキックは正確で、確実にゴールマウスを捉える。

  • 枠内シュート率 47.4%

というデータからもそのシュート精度の高さはよくわかる。ほとんど2本に1本はシュートを枠内に飛ばしている計算だ。爆発的なダッシュ力はもちろん、シュートテクニックの高さもまた彼がゴールを量産できる秘訣なのだ。結果的に今シーズンチームで2番目に多い8ゴールを決めたのも納得のシュートテクニックだ。

また、そのテクニックはゴールを奪うだけでなくチャンスを作り出すときにも活かされる。ショムロドフが特に得意とするのが前を向いた時のドリブル。大柄でなおかつスピードがあるショムロドフのドリブルは迫力満点で、難しいフェイントこそ使わないものの馬力を活かしてぐいぐい突破していく。

 

さらに、サイドに流れてからのクロスボールも得意とするところ。

  • クロス総数 14

という数字はジェノアのFW陣(パンデフ、スカマッカ、デストロ、ピアツァ)の中で最も多い数字になっている。

ドリブル突破もそうだが、ショムロドフはウイング的なプレーが得意なんだな…と思って調べてみると、若いころはウイングでプレーしていたらしい。その頃の影響もあって、2トップで起用されたときにも頻繁にサイドに流れてくるのだと思う。

裏への抜け出しやドリブル、クロスボールなど、ショムロドフは前向きにボールを持ってこそ持ち味を発揮するプレーヤーだ。だから、フリーで受けられるスペースを求めて動き回るのだ。ウイング時代の経験が、彼のダイナミックなプレースタイルを形作ったのではないだろうか。




守備時の献身性も持っている

ウイング出身なだけあって、ショムロドフは多くのFWと比較しても守備に対して積極的に参加する傾向にある。それは、データにもよく表れている。

  • プレッシャー成功率 27.9% 
  • タックル勝利総数 17

という数字はともにジェノアのFW陣の中でトップの数字になっている。ショムロドフはジェノアのFW中で最も守備面での貢献度が高いFWだといえるだろう。

特に相手のパスやトラップがずれたときには自慢の快足を飛ばして猛然と襲い掛かり、ボールを奪い去ってしまう。アタランタ戦とヴェローナ戦ではプレッシングで奪ったボールをそのままゴールにつなげている。こうした守備時の献身性もショムロドフの魅力だ。

 

このように、

  • 前線を広範囲に動き回りながらボールに絡むダイナミックなセカンドトップで、
  • 爆発的なスプリントを生かした裏への飛び出しを最も得意とし、
  • 左右両足に高いテクニックと高精度のシュートを備え、
  • 左斜めからのカットインシュートというパターンを持ち、
  • ドリブルやクロスなどチャンスメイク力も高く、
  • 守備時の献身性も兼ね備えている

個人的に、ショムロドフはインモービレと非常に近いスタイルを持っているように感じる。インモービレのように、自分を中心に攻撃を構築してもらうことができれば、同じようにシーズン20点以上を量産しうると思う。そういうチーム作りをする価値がある選手だと思うし、それほど高いポテンシャルを秘めているだと感じるのだ。




ショムロドフの伸びしろ

このように、現時点でも非常に高い能力を持っているショムロドフだが、それでもまだポテンシャルをすべて引き出しきれていないといわざるを得ない。いわば彼はいまだ原石の状態。まだまだ磨き足りていない。逆に言えば、まだ多分に伸びしろを残しているともいえる。彼が改善すべき点は何なのか。

先ほどのスペツィア戦のゴールシーン、そしてアタランタ戦のゴールシーンをよく見てみると、ショムロドフはボールが出てくるまで全く準備をしておらず、足が止まっている。ボールが出てきてあわてて動き出しているようなアクションになっているのがわかると思う。

このように、試合中で集中力が切れる場面が何度かあるのが現状。90分通してコンスタントではないのだ。だからこそ、シーズン終盤まで途中出場がメインになっていたのだろう。90分通して集中力を維持し、自ら狙ってアクションを起こせるようになれば、さらに相手にとって厄介なFWになれるはずだ。

 

また、プレーの幅をさらに広げることもできるはずだ。冒頭でショムロドフは相手を背負ってプレーするのが苦手だと書いた。しかし、彼は190cm82kgと体格に恵まれているし、フィジカルコンタクトに極端に弱いわけではない。相手を背負って攻撃の起点になるプレーに関しても、普通にできるはずなんじゃないだろうか。

彼が柔軟なテクニックを持っていることはこれまでに書いてきた通り。であれば、体の入れ方などをを習得してその恵まれた体格を有効に使えるようになれば、相手に後ろから寄せられても問題なくプレーできるようになるはずだ。

いまのショムロドフはコンタクトプレーを避けようとしている。だからピッチ中央ではなくサイドや中盤が主なプレーエリアになっているともいえる。特に気になるのが中盤にあまりにも引いてきすぎること。それによって、肝心のゴールを奪えるエリアにショムロドフがいないことが結構多く見受けられたのだ。

特に、サイドからクロスボールが挙がってくるときにゴール前に入り込めていないことが多い。空中戦の勝率が低いと紹介したショムロドフだが、ヘディングシュートはむしろ得意にしている。下のロシアリーグ時代のゴール集を見てもらうとわかるように、ショムロドフはヘディングでのゴールを数多く決めている。

確かに競り合いには弱いけれど、ショムロドフは競り合わずして頭で合わせられる。つまり、相手DFの間にスペースを見つけ、フリーで飛び込むのがうまい。ヘディングのコントロールもよく、パワーもある。

こうしたプレーができるポテンシャルを持っていながら、それを発揮できていないのはとてももったいないと思う。セリエAではより守備が整備されていてスペースがないという事情もあるかもしれない。それでも、そもそも中に入っていかないのであれば得点は奪えない。意識を改善してゴールが取れるエリアに積極的に入っていけばもっとゴールをとれると思う。

 

それ以上に問題なのがDFがボールを持っているとき。こうした状況では中盤に降りていく一辺倒で、DFラインの裏へ抜け出そうと駆け引きすることがほとんどない。彼が裏へ飛び出せば相手からしても厄介だろうし、それについて行くと陣形が間延びして中盤にスペースを空けてしまう。何より、裏にボールが出てくればショムロドフが最も得意とするスピード勝負に持っていけるのだ。個人的には、もっと前線で駆け引きする頻度を増やしてもいいのではないかと思っている。そうすれば、最も得意な裏への飛び出しを発動し、よりゴールを量産できるのではないだろうか。

 

ここまで指摘してきたものの、シーズン終盤になってこの悪癖が改善傾向にあることにも触れておきたい。中盤に降りていく頻度を減らし、前線で勝負する頻度が高まったからこそ、ラスト6試合で5ゴールのラッシュにつながった。きっとショムロドフは終盤に何かをつかんだ。どうすればゴールを奪えるのかを肌感覚で理解したのだと思う。

であれば期待がかかってくるのが来季の大ブレイクだ。十分に現実味があると思う。いや、そのポテンシャルを考えればシーズン2桁以上は取ってしかるべきだと思う。

いまだ完成形が見えないウズベクの至宝、ショムロドフ。来季は彼のプレーぶりにも注目したい。




あとがき

日本のサッカーファンにとって、ショムロドフはクラブシーンだけでなく代表レベルでも注目すべき存在だ。現在、ウズベキスタンはW杯予選グループDでサウジアラビアと首位争いを展開中。前節までは首位に立っていた。現在はサウジアラビアに逆転されえたとはいえ、勝ち点差は2。直接対決で勝利すればひっくり返る位置にいる。最終予選に進出してくす可能性は十分あり、そうなれば日本と対戦することになるわけだ。

現在のウズベキスタンはU-23アジア選手権で初優勝を飾った「黄金世代」が続々と主力に成長しつつあり、悲願のワールドカップ初出場に向けて期待が高まっている。その黄金世代の筆頭がショムロドフというわけだ。

ショムロドフはすでにウズベキスタン代表で確固たるエースの座を築いており、W杯予選でここまで4試合で6ゴール。これはチーム総得点の半分にあたる。いまや黄金世代の代表格からウズベキスタンを背負うスターにまで到達しているわけだが、彼の本領発揮はここから。まだまだ伸びしろが残っている。年齢的にも現在25歳。これからキャリアの全盛期に入っていくだろう。

彼が持てるポテンシャルのすべてを発揮し始めれば、日本にとって強大な壁となって立ちはだかるはずだ。

クラブシーンでも、代表サッカーでも、ショムロドフの今後の成長に要注目だ。

 

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