【アグレッシブレジスタ】イスマエル・べナセルのプレースタイルを徹底解剖!

【アグレッシブレジスタ】イスマエル・べナセルのプレースタイルを徹底解剖!

2021年5月23日 5 投稿者: マツシタ
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ミランが最後のチャンピオンズリーグに出場してからはや7年がたとうとしている。当時のファンからすれば考えられないことだっただろう。なにせミランは旧チャンピオンズカップ時代を含めて同大会を7回制覇した名門。この数はレアル・マドリードに次いで2番目に多い数字なのだ。

ミランが最後にCLを制したのは14年前、06-07シーズン。この時、中盤に君臨していたのが現ユベントス監督であるアンドレア・ピルロだった。彼は最終ラインのひとつ前の位置からパスを振り分け、攻撃を指揮した。そのプレーぶりから「レジスタ」と呼ばれていたピルロがユベントスに引き抜かれて以降、ミランの中盤にはレジスタタイプの選手がなかなか現れなかった。いまでこそリーグ屈指のレジスタとして名高いロカテッリも、ミランでは花開かなかった。

そんな中、ついにミラン待望のレジスタがやってきたのは昨年のことだった。彼の名はイスマエル・べナセル。アルジェリア代表の23歳だ。

 

フランスで育ったべナセルは、地元クラブだったアルル=アビニョンで育った後、アーセナルの下部組織に引き抜かれる。そして2015年10月27日、17歳にしてトップデビューを飾ったのだった。

前途有望と思われたべナセルはしかし、その後はなかなかチャンスを得られずに苦しむ。転機となったのは当時セリエBを戦っていた育成の名門エンポリへの移籍だった。

初年度から主力に定着してセリエB優勝に貢献すると、翌年にはセリエAで37試合に出場して5アシストを記録。チームは降格してしまったものの、べナセル個人としてはACミランへのステップアップを勝ち取ったのだった。

ミラン初年度となった昨シーズン、いきなり主力に定着したべナセルは31試合に出場して確かな活躍を見せ、オフシーズンにはマンチェスター・シティが獲得に興味を示すほどの選手となった。続く今シーズンも開幕当初は好調を維持していたが負傷により長期離脱。20試合の出場にとどまっているものの、ミランに不可欠な人材であることは間違いないだろう。

待望のレジスタとして中盤に君臨するレジスタとしてべナセル。彼は一体どんなプレーヤーなのか。

今回はイスマエル・べナセルのプレースタイルについて徹底的に掘り下げていこうと思う。




べナセルのプレースタイル

 

長短のパスで攻撃を組み立てる

レジスタ」という言葉が象徴する通り、長短のパスを駆使したゲームメイクがべナセルの最大の持ち味だ。

シーズン通して戦った昨シーズンのものも含めてデータを見てみると、

1試合平均パス回数

  • 今シーズン 41.7(チーム内3位タイ)
  • 昨シーズン 50.2(チーム内2位)

となっていて、べナセルが組み立ての中心としてふるまっていることがわかる。

べナセルの特徴は中央からほとんど離れないこと。最終ラインの前に陣取ってボールを出し入れしつつ、機を見て前を向き、そこからくさびやサイドへのロングフィードを振り分けていく。その様はまさしくピルロを思い起こさせる。

下は今シーズンのべナセルのヒートマップ。基本的にペナルティエリアの幅から出ていないことがわかる。

参考までに、ロカテッリのヒートマップも見てみよう。ロカテッリの場合はピッチ中央に加えて左サイドも色が濃くなっている。彼は中央にとどまっているだけでなく、相手のマークにあえばサイドに流れてそこからゲームメイクしようとする傾向があるのだ。

 

このように、ほかの選手と比較しても中央に陣取ってプレーする傾向が強いべナセル。あまり動かないために相手につかまりやすそうなものだが、パスの成功率は非常に高くなっている。

  • パス成功率 88%(チーム内2位タイ)

べナセルがボールを失うことはほとんどなく、一度ボールを持てば確実に味方につないでくれる。彼のところでボールが滞らないことは、ミランのビルドアップにとって非常に重要になっている。

パス成功率が高いべナセルだが、決して安全な横パスばかりをつないでいるわけではない。彼の最大の持ち味は左足から繰り出される糸を引くようなロングボールにある。

1試合平均ロングパス成功回数

  • 今シーズン 2.6(チーム内4位)
  • 昨シーズン 3.4(チーム内2位)

となっていて、比較的ロングボールを多用するミランの中でも重要な供給源となっていることがわかる。

今のミランは前線のイブラヒモビッチの足元や、その代役となるレビッチやレオンの裏に早い段階でロングボールを入れていく戦術をとることが多くなっている。そのため、正確なロングボールを蹴ることができる選手の存在は非常に重要なのだ。そういう意味で、べナセルがチームに果たす貢献はとても大きいといえるだろう。




もう一つの武器、ドリブル

このように、ピッチの中央に構えてボールを配給していくべナセル。あまり動かないということは、当然相手からすれば捕まえやすくなる。しかしながら、べナセルはそうしてプレッシャーを掛けてきた相手をいなす手段を持っている。それがドリブルだ。

べナセルはドリブル突破を得意としている珍しいタイプのレジスタで、パスの出どころをつぶそうと相手が寄せてくればそれをあっさりとかわしてどんどんドリブルで持ち運んでしまう。

データを見てみると、

1試合平均ドリブル成功数

  • 今シーズン 1.5(チーム内2位)
  • 昨シーズン 2.4(チーム内トップ)

ドリブル成功率

  • 今シーズン 82.4%(セリエA6位)
  • 昨シーズン 80.5%(セリエA9位)

となっていて、1試合に何度もドリブルを行っているだけでなく、その成功率もセリエAトップクラスに高いということがわかる。

プレッシャーが甘ければ自在にボールを散らせるし、かといって前に出ていけばその背後のスペースにドリブルで持ち運ばれる。相手からすれば厄介なことこの上ないだろう。




守備力も高い

このようにゲームを組み立てる能力が高いべナセルだが、守備面に関してはどうなのだろうか。

データを見てみると、

1試合平均タックル数

  • 今シーズン 1.8(チーム内2位)
  • 昨シーズン 2.2(チーム内トップ)

1試合平均インターセプト数

  • 今シーズン 1.0(チーム内7位)
  • 昨シーズン 1.7(チーム内2位)

となっていて、チームでもトップクラスの守備アクションを記録していることがわかる。今季よりもさらにコンディションが上がっていた昨シーズンのデータをさらに見てみると、

  • 19-20シーズンのタックル総数 91(セリエA3位)
  • 19-20シーズンのタックル成功総数 60(セリエA2位)
  • 19-20シーズンのインターセプト成功総数 46(セリエA5位)

となっていて、タックルに関してもインターセプトに関してもセリエAでトップ5に入る数字を記録しているのだ。

これらを見れば明らかなように、べナセルは高水準の守備力も兼ね備えている。175cmとどちらかと言えば小柄な部類に入るべナセルだが、その代わりに機動力がハイレベル。自分が担当するマッチアップ相手にどこまでもついていってタックルを仕掛け、タイトな守備で自由を奪う。

小柄ながら線が細いわけではないためコンタクトプレーにも強い。重心が低く、当たり負けする場面はほとんど見られないのだ。

  • 地上戦勝率 62%

というデータを見ても、べナセルが地上戦を得意としていることがよくわかる。175cmながら勝率6割越えは伊達じゃない。昨シーズンには14枚のイエローカードを頂戴したものの、これもべナセルのアグレッシブな守備の証拠だといえる。

 

このように、

  • 長短のパスで攻撃を組み立てるレジスタで、
  • 特に左足からのロングボールの質が高く、
  • 相手が寄せてくればドリブルでかわして持ち運ぶこともでき、
  • アグレッシブな守備も得意とし、地上戦の勝率が非常に高い

相手に寄せられればドリブル勝負を仕掛け、マッチアップ相手にボールが入ればタイトに寄せてタックルを仕掛けていく。攻守においてアグレッシブな姿勢がべナセルの特徴だといえるだろう。




べナセルの弱点

さて、そんなべナセルの弱点はどこにあるのだろうか。

ひとつ挙げるとするならば、ゴールに絡む回数が少ないことだろうか。

  • 1試合平均キーパス回数 0.3(チーム内17位)

というデータを見ても、べナセルは組み立てには貢献するものの最後の崩しの局面についてはあまり関わることができていないことがわかる。エンポリ時代の2年間で2ゴール8アシストを記録したのに対し、ミランでの2年間では1ゴール2アシスト。今後の改善点を上げるならば、よりゴールに絡むプレーを増やすことだといえるかもしれない。

ただし、これはべナセル個人の問題というよりもチームがとる戦術に左右される側面が大きい。現在のミランではべナセルが低い位置で攻撃を組み立て、ボランチでコンビを組むケシエがどんどん前線に飛び出していく形になっている。これでべナセルまで上がっていってしまうと、中盤ががら空きになってしまう。

また、ミランが縦に速い攻撃を仕掛ける場面が多いという事情もある。べナセルがその攻撃の起点としてロングボールを供給していることは前述の通り。そこからさらにゴール前に入って行けというのも無理はある気。

ちなみに、エンポリ時代のデータを見ると、

  • 1試合平均キーパス数 0.9(18-19シーズン)

となっていて毎試合1本はキーパスを出していたことになる。べナセルはやろうと思えばもっとゴールに直結する仕事ができるだろう。ミランよりも押し込まれる場面が多かったエンポリでできるのだから。今後の起用法次第ではさらなるポテンシャルが引き出されるかもしれない。

 

また、ひとつ言及しておきたいことがある。それが昨シーズンと比較したときのコンディションの悪さだ。

これまでに挙げてきたデータをもう一度見てみてほしい。6つの項目のうち、実に5項目で昨シーズンの方が高い数値を記録している。このことからも、昨季と比較して今季はパフォーマンスが落ちていることが明らかだ。

実際に試合をみていても、自慢のロングボールにミスが少し多かったり、今までならすっと前を向いていた場面でもバックパスで戻してしまったりする場面が多い印象。まだまだやれるのにな、ともったいなさを感じてしまうのだ。

 

原因のひとつに度重なる負傷離脱があるのは間違いないだろう。11月末のパルマ戦で負傷したべナセルは、そこから3か月間の長期離脱を強いられる。さらに、そこから復帰した後も細かい離脱が2度あり、シーズン通してコンスタントにプレーできない状態が続いてきたのだ。

そのためコンディションが上がり切らず、怪我からの復帰後も昨シーズン終盤や今シーズンの序盤戦のような輝きがみられていないというのが現状だ。

だが、それ以上に大きいと個人的に感じているのが相棒ケシエの急成長だ。いままでは攻撃の組み立てはべナセルが一手に引き受け、ケシエは安全なコースにつなぐだけという役割分担になっていたミランのボランチコンビ。だが、べナセルの離脱によって組み立てでも貢献することが求められるようになったケシエはこの役割を見事に消化。水準以上の組み立て能力を手に入れたのだ。

その状態でべナセルが戻ってきたわけだが、今までは自分一人でやっていたことをケシエが分担してくれるようになった。だから、相対的にべナセルの存在感が薄らいでいる印象があるのだ。

これは決して悪いことではない。むしろ歓迎すべきだ。コンビとしての完成度が高まり、どこからでも組み立てられるようになったことで的が絞りづらくなったととらえるべきだろう。

最後のCL制覇時、ミランの中盤はレジスタのピルロとハードワーカーのガットゥーゾというコンビだった。今のミランのボランチコンビ、べナセル&ケシエにこのふたりを思い出すのは私だけだろうか。

いまは調子を落としているべナセルだが、彼はもっとやれる選手だ。それは今までのパフォーマンスが証明している。そして、彼はまだ23歳の若武者。まだまだ伸びしろも残している。さらに、最高の相棒もいる。この環境で輝けずして未来はない。べナセルが本調子を取り戻し、昨シーズンをさらに超えていけるか。ケシエがそうなったように、べナセルもまた本当の意味で替えが効かないプレーヤーに進化することを期待したい。




あとがき

欧州屈指のCL優勝回数を誇るACミラン。7年間CLから遠ざかっているわけだが、率直に言ってミランはCLで戦うべきクラブだと思う。終わった古豪などと言われていいクラブではない。もちろん当事者たちもそれはわかっているはずだし、血がにじむような努力を重ねてきたはずだ。思うような結果が伴わなくても、7年間もがいてきたはずだ。

そして、その「いるべき場所」へ舞い戻るまであと一歩のところまできた。今夜のアタランタ戦に勝てば、文句なしでCL出場が決まる。ピオーリ就任後唯一勝てていない相手かもしれない。だが、ここで勝たなければCLに出場しても無残な結果に終わってしまうだけだろう。

勝って、自分たちがCLにふさわしいチームだと証明してほしい。ミランが戻ってきたんだと高らかに宣言してほしい。

そのカギを握るのは、べナセルだろう。アタランタのハイプレスをロングボールで空転させ、ドリブルでいなし、勝利につながるゴールを演出できるか。今夜の一戦はべナセルに、そしてミランのCL復帰に注目だ。

 

 

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