
【走るレジスタ】マルセロ・ブロゾビッチのプレースタイルを徹底解剖!
インテルが11年ぶりのスクデットを獲得した。9年間も続いたユベントス一強時代に終止符を打ち、新王者となったのだ。
彼らを導いたのは、闘将コンテ。ユベントスの9連覇の端緒を切ったのもまたコンテだった。自分が作り上げたユベントス時代を自らの手で終わらせる。そういう意味では、今のセリエAはコンテ時代なのかもしれない。
コンテは選手たちにとにかくハードワークを強いる。少しでもさぼれば罵声を浴びせて絶対服従を強いる。そんなスパルタ的なスタイルでも内部から不満が出てこないあたり、そのマネジメント能力は突出したものがあるのだろう。だからこそ、全員がハードワークする戦う集団を作り上げることができるのだ。
コンテサッカーの代名詞がハードワークなのだとすれば、マルセロ・ブロゾビッチはそれを最も体現する選手といえるかもしれない。
クロアチア出身のブロゾビッチは母国のフルヴァツキ・ドラゴヴォリャツでプレーした後、ロコモティヴァを経てクロアチア屈指の名門ディナモ・ザグレブへステップアップ。ここで3年間プレーして国内3連覇を達成、クロアチア代表・ワールドカップデビューも経験。着実に声果を高め、2015年1月にイタリア屈指の名門インテルに加入したのだった。
16-17シーズンこそ23試合の出場にとどまったものの、それ以外のシーズンでは主力として30試合以上に出場しているブロゾビッチ。その中でも、特に今シーズンの活躍ぶりは目を見張るものがある。それはすでにキャリアハイの33試合出場を達成していることからも明らか。チームの調子が上向くにつれ、ブロゾビッチもまたどんどんプレーの質を上げていった印象だ。
コンテが求めるハードワークを体現しインテルのスクデットに多大な貢献を果たしたマルセロ・ブロゾビッチ。今回はそのプレースタイルについて徹底的に掘り下げていこうと思う。
ブロゾビッチのプレースタイル
圧倒的な運動量
ブロゾビッチの最大の特徴が豊富な運動量だ。これに関してはデータを見てもらったほうが早い。
- 1試合平均走行距離 11.929km(セリエAトップ)
そう、ブロゾビッチはセリエAの中でもっとも運動量のある選手なのだ。これは今シーズンだけでなく、昨シーズンも一昨シーズンもセリエAで最長の走行距離を記録している。一寸の疑いもなく、ブロゾビッチはセリエA最強のダイナモなのだ。
また、その運動量は世界レベルで見ても圧倒的だ。なにせブロゾビッチはワールドカップの最長走行距離記録保持者でもあるのだ、2018年ワールドカップ準決勝、イングランドvsクロアチアの試合に出場したブロゾビッチは、その試合で16.399㎞という異常な走行距離を記録した。この試合が延長戦まであったとはいえ、1試合に16㎞も走る選手など彼くらいなものだろう。
世界最強クラスの運動量を持つブロゾビッチの走力はインテルでも存分に発揮されている。インテルは3-5-2の3センターを採用しているが、両インサイドハーフがワイドな立ち位置をとることが多い。ヒートマップを見ると、エリクセンは主に左サイド、バレッラは主に右サイドを主戦場としていることがわかる。
対して、ブロゾビッチのヒートマップを見てみると中央エリアを幅広くカバーしていることがわかる。両インサイドハーフがサイドに流れるぶん、空いた中央の広大なエリアを切り盛りしているのがブロゾビッチなのだ。
インサイドハーフがサイドに流れることで数的優位を作れているのは、そのことによって空くスペースをカバーできるブロゾビッチがいるからだ。いや、むしろブロゾビッチの能力を生かすべくあえて中央エリアを空ける設計になっているのかもしれない。
傑出したレジスタとしての能力
どういうことなのか。それは、ブロゾビッチのプレースタイルと関係してくる。
ブロゾビッチはただ運動量が半端ないだけのいわゆる「量」のプレーヤーではない。攻撃の組み立てに関して非常に高い「質」も兼ね備えている。長短のパス精度が非常に高く、なおかつ視野やビジョンもハイレベル。いわゆるレジスタとして攻撃を組み立てる能力が非常に高いのだ。
まずは諸々もデータを見ていこう。
- ボールタッチ総数 2315(チーム内トップ、セリエA6位)
- 1試合平均パス成功回数 59.7(チーム内3位)
- 1試合平均ロングパス成功数 4.3(チーム内2位)
これらのデータを見ると、ブロゾビッチがインテルの攻撃の司令塔である様子が見えてくる。ブロゾビッチは豊富な運動量を活かして多くボールに絡み、パスを散らし、前線の選手に配球していく。
エリクセンがスタメンに定着したことでブロゾビッチの負担はある程度軽減されたが、それでも
- エリクセンの1試合平均パス成功回数 32.2(チーム内6位)
となっていて、ブロゾビッチと比較するとその数値は半分近く。あくまでもインテルの組み立ての中心はブロゾビッチだ。
ブロゾビッチを見ていて目を引くのがパスの正確性。インテルのMF陣のパス成功率を比較してみると、
〈パス成功率〉
〈ロングパス成功率〉
となっていて、ともにブロゾビッチの数値がトップとなっている。出場試合数が少ないセンシやガリアルディーニ、ベシーノの数値が高くなる傾向がある中で最も出場時間が長いブロゾビッチのパス成功率が最も高いというのは彼のプレーの質の高さを如実に物語っているだろう。
- ボールロスト数 10.0(チーム内4位)
というデータを見ても、ボールタッチ数の多さに比してミスが少ないことがよくわかる。
特筆すべきは彼がリスキーだが効果的なパスにも積極的にチャレンジし、成功させていること。安全な横パスをつなぐだけでもパスの成功率は上がるけれど、ブロゾビッチは決して逃げてばかりいるわけではない。むしろ縦パスを積極的に供給している。
- 1試合平均キーパス数 1.4(チーム内2位)
というデータを見ればインテルでも屈指のチャンスメーカーであることがよくわかるし、
- ファイナルサードへのパス成功総数 235(セリエA3位)
というデータを見れば、ファイナルサードにボールを届けるパスがいかに多いかがわかるだろう。難易度の高いプレーを高精度で成功させ続けているのがブロゾビッチなのだ。
下はボローニャ戦でハキミのゴールをアシストした場面。このシーンのような相手の頭の上を通すふわっとしたスルーパスはブロゾビッチの十八番だ。こうしたパスに積極的だからこそ、ブロゾビッチはゲームを組み立てるばかりか自ら決定的なパスを出せる。インテルにきてからの7年間で積み上げてきた33のアシストがそれを物語っている。
ここからは実際に試合を見ていて感じること。
彼のパス精度の高さ、レジスタとしての資質の高さはデータを見るだけでもよくわかる。しかし、レジスタタイプのプレーヤーはほかにも多くいる。そんなその他大勢のレジスタとブロゾビッチの間で決定的に違うのが、動きながら攻撃を組み立てる能力だ。
ブロゾビッチはその豊富なスタミナを活かし、常に足を止めずに動き回る。ボールが動けばそれに合わせて常に立ち位置を変え、ボールを受けられるようパスコースを提供する。
多くのレジスタが基本的に自分のプレーエリアから動かないのとは対照的だ。クロースは左サイドバックの位置に降りてここから攻撃を組み立てることが多い。ロカテッリもしかりだ。一昔前ではピルロが最終ライン手前のエリアに陣取ってロングボールを供給していた。
だが、ブロゾビッチは違う。ブロゾビッチの立ち位置の基準はピッチのエリアではなくボール。だからボールが動けばそれに伴ってブロゾビッチも動く。そうしてボールを受け、散らし、また前へ出ていってボールを受け、さらに散らしていく。自分もボールも前進していくイメージだ。そのままゴール前まで入っていってミドルシュートを決めてしまうことも少なくない。インテルにきてから毎シーズンゴールを奪っていて、すでに公式戦通算25ゴールだ。これほどの得点力を兼ね備えているレジスタはなかなかいないだろう。
こうしたプレーをして行く上で特徴的なのがダイレクトプレーが多いこと。走って味方に寄って行きつつも、その間にすでに周囲を把握している。常に走りながら味方の位置を把握できるプレーヤーは世界中でも数えるほどだろう。ブロゾビッチにはこれができる。だからこそ、ダイレクトでさばいては受けて、またさばきを繰り返せる。
特にルカクの動きはよく見ていて、ブロゾビッチからルカクへの縦パスで攻撃を加速させるのはインテルの遅攻のメインパターンになっている。
ただでさえ動き回るのに、さらに少ないタッチでボールを離されるとなると相手からすればブロゾビッチを捕まえるのは至難の業だ。組み立て能力に運動量が合わさっているからこそブロゾビッチはつぶされることなく攻撃を組み立てられる。彼はただのレジスタではない。走るレジスタなのだ。
彼のこうした資質を活かすためにインサイドハーフがワイドに開いて中央に大きなスペースを空けるというシステムを構築したのではないかというのが一番最初のお話。ブロゾビッチはたくさんボールに絡むことでリズムを生んでいく選手であり、今のインテルにはそれができる環境が整えられている。彼が過去最高の輝きを見せているのは、コンテの助けによるところが大きいのではないだろうか。
守備アクションの多さも魅力
このように豊富な運動量を攻撃に生かしているブロゾビッチだが、守備力も非常に高い。豊富な運動量を活かし、ピッチのあらゆる場所でボールハントを決行している。
- プレッシャー成功総数 154(チーム内トップタイ)
- ブロック総数 48(チーム内トップタイ)
- 1試合平均タックル数 1.6(チーム内トップ)
- タックル勝利総数 36(チーム内2位)
- 1試合平均インターセプト数 1.2(チーム内3位)
- インターセプト成功総数 39(チーム内2位)
このように、ありとあらゆる守備アクションがチーム内屈指の多さだ。
豊富な運動量を誇るブロゾビッチは、自分のマークが引いて行けばしつこくついて行き、プレッシャーを掛ける。一気に距離を詰めてタックルを仕掛け、パスやシュートをブロックする。相手の目線を見てインターセプトを決めてしまうのも得意技だ。
ただ、そうしたひとつひとつの守備アクションよりも優れているのが味方との連携した守備だ。自分の後ろにボールが入ればすぐさまゴール方向へ向けて戻り、味方とともに挟み込む。競り合いのこぼれ球に対していち早く反応し、回収する。こうした味方をサポートする力、守備の局面で数的優位を作る力についてブロゾビッチは非常に優れている。
守備に不安のあるエリクセンのインサイドハーフ起用が成立しているのは、ブロゾビッチのサポートがあることが大きいだろう。
そして、この能力を支えているのもまたブロゾビッチの走力だ。広範囲を動けるからこそ随所で味方をサポートできる。インテルのリーグ最少失点にブロゾビッチが寄与する部分は非常に大きいといえるだろう。
このように、
- 世界最高クラスの運動量を持ち、
- 広範囲を動きながらゲームを組み立てる走るレジスタであり、
- 非常にボールタッチが多いにも限らずミスが少なく、
- ダイレクトの縦パスを積極的に入れて局面を前に進め、
- 味方との連携した守備に長ける
豊富な運動量をもとに攻守にボールに絡みまくる。量と質が両立した素晴らしいMFだ。
ブロゾビッチの弱点
それでは、ブロゾビッチの弱点はどこにあるのだろうか。それはコンタクトプレーということになるだろう。
再びデータを見てみると、
- 地上戦勝率 45%
となっていてその勝率は半分を下回っている。線が細いブロゾビッチはコンタクトプレーを苦手にしているのだ。特にドリブルしている相手に対してタックルを仕掛け、バランスを崩すプレーはあまり得意ではない。ドリブラーに対するタックル成功率をMF陣の中で比較してみると、
〈ドリブラーに対するタックル成功率〉
となっていてブロゾビッチは最下位だ。体に厚みがないため、相手が前向きのパワーを持っているときにそれを抑えきれない印象が強い。イエローカードの数がチームの中で一番多いのも、相手に抜け出されたときに悪質なファウルに頼らざるを得ないことが少なからず関係しているように感じる。
また空中戦についても、
- 空中戦勝率 42%
となっていて勝率は半分を下回っている。身長が低いわけではないのだが、空中でコンタクトされてバランスを崩してしまうことが多く、結果として勝率は低い状態だ。
味方と連携してボールを奪う術に長けているブロゾビッチだが、個人でボールを奪いきる能力に関してはまだ伸びしろがありそうだ。
あとがき
コンテのインテルはすべての選手がそれぞれの持ち味を発揮し合い、それが自然な形で噛み合って一つのチームとして完成されている。中央に広大なスペースを空けてブロゾビッチに管理させているのも、ボールに触りながらリズムを作っていく彼のスタイルを発揮しやすくするためだろう。コンテにとってブロゾビッチが理想的な選手であるように、ブロゾビッチにとってもコンテサッカーは理想郷なのではないだろうか。それくらい相性の良さを感じさせる活躍ぶりだった。
すでにチームとして非常に高い完成度を誇っているインテル。そして、その心臓部がブロゾビッチだ。
来季のインテルが連覇できるか、そしてCLで躍進できるかどうかは、ブロゾビッチの活躍に左右されるだろう。現在27歳とこれからキャリアの最盛期を迎えるであろうブロゾビッチ。彼の活躍に引き続き注目だ。
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[…] 対して、こちらはブロゾビッチのヒートマップ。ピッチのほぼ全範囲に色がついていることがわかる。 […]
[…] ーエリアは右サイドに偏っていることが読み取れる。ブロゾビッチがピッチ全域を広くカバーしているのと比較すると対照的だ(詳しくはブロゾビッチのプレースタイルまとめを参照)。 […]
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