
【王国の未来のDFリーダー】ロジェール・イバニェスのプレースタイルを徹底解剖!
ASローマが今シーズン限りでのパウロ・フォンセカ監督の退任、およびジョゼ・モウリーニョの来季指揮官就任を発表して大きな話題となっている。モウリーニョローマについての話はまた別の機会に譲るとして、今回はフォンセカの話をしたい。
前半戦は一時3位まで順位を上げたものの、結局現在は7位まで順位を落としているローマ。58得点はリーグで7番目の多さだが、リーグで下半分に入る53の失点が響いて16勝7分11敗。国内屈指の強豪としては物足りない結果となってしまい、解任も致し方なしと言ったところだろうか。
とはいえ、フォンセカ体制の2年間がネガティブなものばかりだったわけでは決してない。そもそもけが人が続出してベストメンバーが組めない試合が続いていたのは不運だった。そんな中でELのベスト4にチームを導いたことは評価されるべきだろう。
低い位置でボールを回して相手を引きずり出し、その裏のスペースへ一気に展開して速攻を仕掛けるというアイデアはとても面白かったし、その戦術の中でクリスタンテのレジスタとしての才能を見出し、スピナッツォーラを覚醒に導きリーグ最高のドリブラーとして大成させた。
さらに、けが人が続出した中で若手を積極的に起用し、戦力として計算できるまでに育て上げたのも大きな功績だ。その筆頭格が今回紹介するロジェール・イバニェスだ。
ブラジルとウルグアイのハーフであるイバニェスは、ブラジルの名門フルミネンセでプロデビューを果たす。そこで着実に出場機会を得て早くでもデビュー翌年にはヨーロッパへ上陸。移籍先はイタリア屈指の名門としての地位を築いたアタランタだった。
しかしながら、新天地では出番に恵まれず。出場機会を求めるイバニェスは、同じくイタリア屈指の強豪ASローマへと移籍したのだった。
この移籍がイバニェスの未来を切り開いたといっていい。イバニェスが加入した2020年1月の移籍市場が閉幕してからすぐ、フォンセカはシステムをそれまでの4バックから3バックに変更し、その一角にイバニェスを起用し始めたのだ。
ここからイバニェスは長足の進歩を遂げていく。半年の適応期間を経て迎えた今シーズンは特にその成長はすさまじく、いまや欠かせない主力の一人にまで成長した。ここまでの先発出場数はチーム内で3番目に多いというデータがそれを物語っているだろう。
ローマに現れた新星ロジェール・イバニェスは一体どんなプレースタイルなのか、そしてなぜフォンセカに重用されたのか。徹底的に掘り下げていこうと思う。
イバニェスのプレースタイル
高度なテクニック
ブラジル産のCBだけあって、イバニェスは高度なテクニックを持っている。キック技術が高いだけでなく、目線や体の向きで相手をあざむく狡猾さも持っているのはブラジリアンらしい。自分の狙いをうまく隠しながら、くさびを通していく。両足をそん色なく使いこなせ、3バックのどこでもプレーできるのも大きい。機を見たドリブルでの持ち上がりも秀逸だ。攻撃性能はCBの中でも非常に高いレベルにあるといえる。
下はELアヤックス戦で決めたゴール。胸トラップから強烈なボレーを叩き込んだ。しかも、利き足ではない左足でだ。そのスムーズな動きは本職ストライカーさながらで、彼のテクニックレベルの高さを知るのに十分だろう。
イバニェスはこの卓越したテクニックを活かし、攻撃の組み立てで大きな貢献を果たしている。
- 1試合平均パス成功数 50.1(チーム内2位)
というデータを見ても、イバニェスがローマのビルドアップの起点になっていることがよくわかる。主に左のCBに入るイバニェスは、サイドに開いた位置からウイングバックやシャドーへの縦パス、CB間でのパス交換を駆使しながら攻撃を組み立てていく。
そうしたショートパスももちろんだが、さらに特筆すべきなのがロングパスの精度が非常に高いことだ。
- 1試合平均ロングパス成功数 3.3(チーム内2位)
というデータを見ても、イバニェスが非常に多くのロングパスを通していることがわかる。
なぜロングパスが重要なのか。それは、ローマの戦術と関係してくる。
ローマが後方からビルドアップしつつ、相手を自陣に引き込んでおいてロングパス一本でひっくり返すという戦術を採用していることは先ほど説明した通り。このサッカーを実践するにあたって、CBのビルドアップ能力・ロングパス能力はともに重要だ。相手を引き込むということは、それだけDFには圧力がかかることを意味する。それにも耐えられるだけのテクニックとメンタルがなければフォンセカのサッカーには適応できない。
そうして相手を引き付けつつ、裏のスペースへアタッカーを走らせるロングパスの供給源としての能力もまた大切であることは言うまでもない。だからこそ、フォンセカは本来中盤のクリスタンテをCBにコンバートしてのだろう。
これらの能力を完璧に兼ね備えていたのがイバニェスなのだ。先ほどのデータから見てもそれは明らかで、パス成功数の多さからは組み立て能力の高さが、ロングパス成功数の多さからはフィード力の高さがうかがえる。
フォンセカが理想とするCBのプロフィールを完璧に備えていたイバニェスが重用されたのは必然だといえるだろう。
守備能力も非常に高い
攻撃面での能力が非常に高いイバニェスだが、守備力が劣っているわけでは決してない。いや、むしろ対人守備に関しては非常に高いレベルにあるといえる。
イバニェスの守備力の根底にあるのが身体能力の高さだ。細身で機動力のあるイバニェスはなかなかの俊足で、裏に走られても簡単には振り切られない。アジリティにも優れていて、相手の揺さぶりにもついて行き、鋭いタックルを見舞える。
- 1試合平均タックル数 2.1(チーム内1位)
というデータを見てもわかるように、イバニェスはチームで最もタックルの数が多い。彼が粘り強く相手についていけていることがわかるのではないか。
さらに、185cm73kgと細身ながら当たり負けする場面がほとんどないのも素晴らしい点。体幹がしっかりしているのだろう。
- タックル勝利総数 47(セリエA6位)
- 地上戦勝率 55%
というデータを見ても、彼の地上戦の強さがよくわかる。
他のCBの選手とリーグ戦における地上戦勝率を比較してみても、
〈地上戦勝率〉
となっていて、イバニェスの強さが際立つ。ローマのCB陣の中では屈指のデュエルマスターと言っていいだろう。
また、イバニェスはインターセプトも得意としている。
- 1試合平均インターセプト数 2.3(チーム内1位)
- インターセプト成功総数 56(セリエA8位)
というデータを見ても、イバニェスがリーグでもトップクラスにインターセプトを決めていることがわかる。持ち前の機動力が活きている格好だ。
さらに、最後の最後で体を張れるところもイバニェスの魅力。アジリティとスピードを活かして相手に粘り強くついて行き、最後は体を投げ出して相手のシュートやクロスを跳ね返す。
- ブロック総数 62(セリエA8位)
- シュートブロック総数 21(チーム内1位)
というデータを見ても、それは明らかだ。
ちなみに、タックル勝利総数、インターセプト成功総数、ブロック総数の3つの指標すべてでセリエAのトップ10に入っているのはイバニェスだけだ。タックル、インターセプトの1試合当たりの数値がともにチーム内トップであることを見てもイバニェスの地上戦の強さは際立って高いといっていいのではないだろうか。
まだ細かいミスが散見されはするものの、そのポテンシャルは非常に高い。個人的にはリーグでも5本の指に入るCBに成長しうるだけの資質を持っているんじゃないかと思っている。
地上戦では無類の強さを発揮するイバニェスだが、空中戦に弱いわけでは決してない。
- 空中戦勝率 58%
と、6割近い勝率を誇っている。185cmのイバニェスは、現代CBとしては特別身長が高いわけではない。そんな身長の不足を、イバニェスは驚異的な跳躍力で補っている。
まだ飛ぶタイミングやポジショニングの駆け引きなどに優れているとは言えないが、そうした細かいものがなくてもねじ伏せてしまうほどのジャンプ力は驚異的だ。やはり、彼の守備能力を支えているのは恵まれた身体能力なのだ。
このように、
- 左右両足の高度なテクニックで攻撃を組み立て、
- ロングボールの精度も高く、
- 身体能力の高さを活かして地上戦で無双し、
- 空中戦の強さも持ち、
- CBなら左右中央どこでもプレーできる
テクニックに優れている現代的なCBであるイバニェスはしかし、対人守備力でもすでにリーグトップクラスにものを持っている。その身体能力は圧巻だ。将来的にはセリエAはもちろん、世界をも代表するCBになっていてもおかしくないだけの資質を持っているといえるだろう。
イバニェスの弱点
そんなイバニェスの弱点はどこにあるのだろうか。
個人的に挙げたいのが戦術的な感覚の欠如だ。個人で守る能力に関してはすでにトップクラスのものを持っていることはここまで見てきた通り。これらは、良くも悪くも身体能力に支えられた「強さ」であり、頭の部分、いわゆる「賢さ」はまだまだ磨くべき領域だ。
たとえば、先日のマンチェスター・ユナイテッドとの1stレグ。2失点目の場面では、クリスタンテが前に出てポグバをつぶしに行ったことで空いたスペースを使われたところが起点となっている。
このとき、イバニェスはランニングてくるラッシュフォードのマークについていて、スペースを埋めることができなかった。このように、人への意識が強いあまりにスペースの管理をおろそかにしてしまう場面は散見されている。
しかし、先ほど挙げたマンU戦の失点シーンに限って言えば、イバニェスの判断は悪いとは言えない。スモーリングの外側にはだれも相手選手がいなかったため、どちらかと言えばスモーリングがクリスタンテが空けたスペースを埋めるのが最適な解決策だっただろう。
とはいえ、体の向きから考えてイバニェスはスペースが空いたことを認知していたはず。スモーリングに声をかけ、彼を動かすことでスペースを埋めることもできたはずだ。こうしたコーチングや統率力は今後身に着けていくべき部分だろう。もし自分のマークに気を取られて空いたスペースが認知できていないのなら、それは戦術的インテリジェンスに磨きをかける必要がある。
こうしたカバーリングやコーチングといった周囲との連携、いわゆる「チームで守る」能力に関してイバニェスはまだまだ未熟だ。逆に言えば、周りを動かせるだけのリーダーシップ、周囲の状況を認知する力が備わってくれば、チームとしての守備をワンランクアップさせられる真のDFリーダーになれるはずだ。
あとがき
22歳のイバニェスはまだ粗い原石の状態である。だが、磨けば素晴らしい輝きを放つだろう一級品の原石だ。身体能力の高さからくる守備力とブラジル人らしい攻撃センスの高さは、その才能の大きさを感じさせる。問題はどこまで磨きをかけられるかだ。
イバニェスは同法の先輩チアゴ・シウバにあこがれているという。たしかに、対人守備の強さと高度なテクニックを兼ね備えるチアゴ・シウバはイバニェスとタイプ的に近い。そこまで身長に恵まれていない点も同じだ。
そして、そのチアゴ・シウバの後継者として完全にワールドクラスへと成長したのが、パリ・サンジェルマンのマルキーニョスだ。彼もまたチアゴ・シウバとイバニェスに似たタイプで、イタリアからフランスへと渡って大成した経歴も同じ。そのイタリア時代の所属クラブこそASローマである。
チアゴ・シウバからマルキーニョスへと引き継がれてきた王国ブラジルのDFリーダーの系譜。それに連なるのは、イバニェスなのではないだろうか。それだけの才能をイバニェスは持っているように感じる。先輩と同様に、個人能力の高さに戦術の国イタリアのエッセンスを加えることで世界レベルに到達できるはずだ。
若手の育成に定評のあるガスペリーニでさえ見いだせなかったその才能を引き出したのはフォンセカだった。イバニェスを主力に据えた彼の決断は、数年後振り返った時に偉大なものとして記憶されることになるかもしれない。
ローマの、そしてブラジルのDFリーダーとしてプレーするイバニェスを見てみたいものだ。これからも彼の成長を見守っていきたい。
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