
【早熟の万能MF】ブライアン・クリスタンテのプレースタイルを徹底解剖!
若くから将来を期待されながら、そのプレッシャーに押しつぶされて消えていく「元逸材」は数多い。現在ヘタフェで苦戦中の久保建英もそうならないかとても心配だ。
しかし、希望はまだある。一度消えかかって再び復活してくる選手も存在しているのだ。現在ローマでプレーするブライアン・クリスタンテがそうした選手の一人だ。
ミランのプリマヴェーラで育ったクリスタンテは、2011年に弱冠16歳にしてトップデビューを果たす。しかも、この試合でミランのクラブ史上最年少CLデビュー記録を塗り替えたのだ。
当然将来を嘱望されたが、その後は出番に恵まれなかった。ベンフィカへのレンタル移籍も失敗に終わったクリスタンテはミランに見限られてしまい、その後はパレルモやペスカーラといったプロビンチャへレンタル移籍で放出されてしまう。しかも、将来呼び戻すことを前提としているなら付けないであろう買い取りオプションを付けてだ。ミランがクリスタンテを戦力としてみなしていないことは明白だった。
しかし、そのプロビンチャでも活躍できずに買取オプションすら行使してもらえない始末。彼の将来は完全に閉ざされたかに見えた。
しかし、ある監督との出会いがクリスタンテの将来を変えた。ジャン・ピエロ・ガスペリーニだ。アタランタをイタリア屈指の強豪に押し上げた名将は、クリスタンテも大きく飛躍させた。彼の指導を受けつつアタランタで2年間プレーしたクリスタンテは48試合12ゴール4アシストと復調を果たしたのだった。この活躍が評価され、ASローマへのステップアップを実現して現在に至る。
一度は挫折したものの、再びキャリアを軌道に乗せたクリスタンテ。彼は一体どんなプレーヤーなのか。
今回はブライアン・クリスタンテのプレースタイルについて徹底的に掘り下げていこうと思う。
目次
クリスタンテのプレースタイル
正確無比のロングボールで攻撃の起点に
デビュー当初からセントラルMFを本職としてきたクリスタンテ。しかし、今シーズンのクリスタンテは新しいポジションでプレーしている。それがセンターバックだ。
スモーリングやクンブッラなど、CBを本職とする選手たちが相次いで長期離脱。この緊急事態を受け、フォンセカ監督はセントラルMFとして序列を下げていたクリスタンテをCBとして起用することを決断したのだった。
CB起用されたことによって際立った彼の武器が正確なロングボールだ。
- ロングパス成功数 4.0(チーム内1位)
という数字を見ても、クリスタンテが多くのロングボールを配球して攻撃に貢献していることがわかる。
また、成功率を他のCBと比較してみても
〈ロングパス成功率〉
となっていて精度の面で見てもクリスタンテはトップに立っている。
今シーズンのローマは、自陣から丁寧にビルドアップしつつ相手を引きずり出し、空いたDFライン裏のスペースにロングボールを入れて一気にひっくり返すという戦術を採用している。そのロングボールの供給源として、クリスタンテは欠かせない存在となっているのだ。
下の動画はそのイメージがわかる場面。クリスタンテはこんなロングパスを何度も見せている。
こうした50~60mクラスのロングパスを高精度で蹴れる選手はなかなかない。CBの選手ともなればなおさらだ。そういう意味で、クリスタンテのタッチダウンパスは突出した武器だといえる。
360°からプレッシャーを受けるMFよりも、前向きでボールを受けやすいCBでプレーするほうがロングパスを供給しやすいだろう。実際、ミッド起用時よりもロングボールの供給数は増えている。クリスタンテのCB起用は彼の新たな武器を引き出したといえるだろう。
アタランタ時代のクリスタンテ
このように、最終ラインのレジスタという新たなプレースタイルを手にした今季のクリスタンテ。しかし、彼の本職はあくまでもセントラルMFだ。それでは、中盤で起用されたときのクリスタンテはどのようなプレーを見せるのか。アタランタ時代の17-18シーズンのデータから探ってみよう。
17-18シーズン、クリスタンテはアタランタの全選手の中で最多の36試合に出場し、9ゴール2アシストを記録した。ボランチとして9ゴールはかなり高い数値だ。
データを見てみると
- 1試合平均シュート数 2.2(チーム内3位)
となっていて、非常に積極的にシュートを打っていることがわかる。
彼の得点パターンは主にふたつある。ひとつが強烈なミドルシュート。これは今季再三見せているロングパスにも通ずるところだが、彼の右足はパワーと精度を兼ね備えているため遠距離からでも十分ゴールチャンスを作り出せる。先日の試合でも、クリスタンテは見事なミドルシュートを決めている。
もうひとつが前線への飛び出し。3列目から積極的に相手DFラインの背後にランニングしてスルーパスを受け、冷静に流し込むのだ。大まかにこの二つのパターンからゴールを量産したのが17-18シーズンのクリスタンテだった。
前線への飛び出しを積極的に行っていたことからもわかるように、クリスタンテは非常に運動量豊富なMFだ。186cm80kgと大柄ながら機動力は十分で、広範囲をカバーできる。
この運動量はそのまま守備に転用されていた。
- プレッシング数 834(セリエ3位)
というデータが示す通り、アタランタ時代のクリスタンテは広範囲を動き回っては相手にプレッシャーを掛け続けていた。
また、単にプレッシャーを掛けるだけでなく、タックルを仕掛けてボールを奪い取る能力にも優れている。ボールホルダーに対して素早く寄せ、恵まれた体格でデュエルを制し、確実にボールを奪う。
- タックル総数 69(チーム内3位)
- タックル勝利数 51(チーム内3位)
- タックル成功率 74%
というデータを見ても、クリスタンテのタックル数が多く、またその勝率も高かったことがわかる。
一方で、ビルドアップ面での貢献度はそこまで高くはなかったようだ。
- 1試合平均パス成功回数 34.1(チーム内8位)
と、中盤の選手としては少ない数字になっている。
同シーズンにクリスタンテとコンビを組んだフロイラーやデローンと比較してみても、
- フロイラーの1試合平均パス成功回数 54.6(チーム内1位)
- デローンの1試合平均パス成功回数 41.6(チーム内3位)
となっている。クリスタンテがそこまでビルドアップに積極的に関与していなかったことは明白なのではないだろうか。
これらをまとめると、中盤起用された場合のクリスタンテはボールに多くかかわりながら攻撃を組み立てていくタイプではなく、豊富な運動量を活かしてゴール前に飛び出して得点力を発揮しつつ、守備時にも走ってボールハントを敢行しまくる質より量タイプのMFだとまとめられる。ボールに絡むより、ボールがないところでピッチをかき回すことでチームに貢献する選手だといえるだろう。
リーダーシップも兼ね備える
そしてもうひとつ、クリスタンテについて特筆すべきなのがリーダーシップだ。最終ラインに下がってからのクリスタンテは今まで以上に周囲に指示を与え、チームを鼓舞しようとする場面が増えたように思う。チームの主軸としての自覚が芽生えてきた印象だ。
現在、ジェコもペッレグリーニもいない試合でローマのキャプテンマークを巻くのはクリスタンテだ。これが、彼が周囲から得ている信頼を物語っているのではないだろうか。
まとめると、
- 正確なロングフィードで攻撃の起点となり、
- 強烈なミドルシュートを兼ね備え、
- 中盤起用時には豊富な運動量で前線へ飛び出し、
- プレッシングやタックルを献身的にこなし、
- リーダーシップも兼ね備える
フィジカル的な資質に恵まれていて、自己犠牲のメンタリティーも持つクリスタンテはどのポジションでもそつなくこなせてしまう。だからこそCBという不馴れなポジションでもプレーできているのだろう。
クリスタンテの弱点
クリスタンテの弱点については、やはりCB起用時の守備面だろう。
クリスタンテは最終ラインから積極的に前に出ていって相手にプレッシャーを掛けようとする。しかしながら、前に出ていったときに中途半端な対応に終始し、相手に自由を与えてしまっている場面は目立つ。
- 1試合平均タックル数 0.6(チーム内11位)
という数字が示す通り、中盤起用時にはあんなに多かったタックルの数がとても少なくなっているのは印象的。前に出るもののボールにチャレンジできず、背後にあけたスペースにいるFWをただただフリーにしてしまっている場面は残念ながら目立っている状況だ。
ユナイテッド戦でもこれを象徴するような場面があった。同点に追いつかれたこの場面では、クリスタンテはポグバに対してプレッシャーを掛けようとしたものの中途半端になってしまい、ポグバは涼しい顔でカバーニにパスを通している。クリスタンテが前に出たことで空いたスペースをうまく使われた格好だ。
カバーニの身体の使い方、動き出し、シュート全部完璧じゃない? pic.twitter.com/MGxcurnduX
— tomi+×🇯🇵 (@tomi__1031) April 29, 2021
普段ならマンチーニがクリスタンテの裏のスペースを完璧にカバーしてくれるのだが、この試合ではマンチーニが累積警告により出場停止だった。そのため、何度もクリスタンテの裏を使われていた。個人的にはクリスタンテをCBで起用するのならマンチーニとセットでなければ成り立たないと思う。
このカバーニのポジショニングとマーカーの剥がし方よ。
しっかりマーカー剥がしながら予想してポジション取ってんじゃん。
天晴れ!
マルシャルに喝!!!!
— ブランドン・ゼットン大佐 (@5BuraBurandon3) April 29, 2021
また、クロスボールへの対応にも不安がある。クロスが上がってくるタイミングでポジショニングを調整できていなかったり、コースがずれたときの反応が遅かったりと、経験値の不足が露呈してしまう場面が多くみられている。
このように、いくら器用なクリスタンテと言えど守備面では本職のCBたちと比較すると大きく見劣りするというのが正直なところ。しかし一方で、クリスタンテのCB起用が高精度のロングパスという彼の新たな武器を引き出したこともまた事実だ。
これらを考えると、スタートは中盤で起用しつつビルドアップ時には最終ラインに降りて前向きにボールを持たせるという形にすれば彼の持ち味を最大限引き出せるのではないだろうか。
ヴェレトゥにビジャール、ディアワラとライバルは数多いが、彼らとの競争に勝って中盤で定位置をつかみ取ってほしいものだ。
あとがき
デビュー当時に脚光を浴び、一時はプロビンチャに落ち着きかけたものの再び国内屈指の強豪に上り詰めたクリスタンテ。しかしながら、本職の中盤での定位置争いで後れを取り、CBでの緊急登用がもはやメインとなっている現状は決して満足いく状態ではないだろう。
過去にはトップ下でのプレー経験もあり、多くのポジションをこなせるクリスタンテ。彼の器用さがなせる業だが、できることが多いゆえに器用貧乏に陥っている感は否めない。今後はどういう方向性を目指していくのかを明確にしていく必要がありそうだ。
幸い、貫禄ある姿からは想定外だが彼はまだ26歳になったばかり。まだ伸びしろは残されている。ここでもう一つ殻を破れば一花咲かせるチャンスが十分にあるはずだ。先ほども言ったように、個人的には中盤で勝負してほしいところだ。
潜在能力はイタリア代表で主力の一人としてプレーできるレベルのものを持っていると思う。それを活かすも殺すも自分次第だ。クリスタンテがもうひと伸びしたときに新しい記事が書けることを願って筆をおくこととしたい。
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