【スクデットへのラストピース】クリスティアン・エリクセンのプレースタイルを徹底解剖!

【スクデットへのラストピース】クリスティアン・エリクセンのプレースタイルを徹底解剖!

2021年5月1日 8 投稿者: マツシタ
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圧倒的な強さで首位を独走し、スクデットが間近に迫ってきたインテル。早ければ今節にも11年ぶりのリーグ制覇が決まる。

特に目立ったのが無敗で駆け抜けた後半戦の安定感だ。12勝2分、27得点に失点はわずか6。王者にふさわしい戦いぶりだ。

そして、その後半戦からスタメンを奪取し、安定した戦いを演出した立役者がいる。それがクリスティアン・エリクセンだ。

 

アヤックスでデビューしたエリクセンは、トッテナムに移籍し絶対的な中心選手として君臨。スパーズをリーグ屈指の強豪に押し上げ、クラブ史上初のCL決勝進出の立役者となった。

しかしながら、モウリーニョ就任後はベンチ要員に降格してしまい、出場機会を求めて2020年の冬にインテルへ移籍する運びとなる。

いまでこそ不可欠な主力となったエリクセンだが、加入当初はカルチョに適応できず苦しんだ。今季に入ってコンテはエリクセンをトップ下に据えた3-4-1-2を試したものの手ごたえは得られず挫折。その後はロスタイムに少しプレーするだけという冷遇が続き、冬の退団は確実と報じられていた。

しかし、エリクセンは結果を残して状況を変えて見せた。コッパ・イタリア準々決勝のミラノダービー、いつものように88分に投入されたエリクセンはしかし、ロスタイムに劇的な決勝フリーキックを叩き込み、チームに勝利をもたらしたのだ。

この活躍を受け、コンテ監督はエリクセンをレジスタに抜擢。そして、エリクセンは見事これに応えたのだ。以後、エリクセンはスタメンに定着。それとともにチームも安定感を手に入れた。エリクセンがレジスタとしてスタメンを飾った最初の試合は、後半戦最初の試合であるべネベント戦だったのだ。インテルの後半戦の快進撃は、エリクセンの主力定着とともに始まったのだ。

「失敗補強」から「スクデットへのラストピース」となったエリクセン。かれは中盤という新境地でインテルに何をもたらしたのだろうか。

今回はクリスティアン・エリクセンのプレースタイルについて徹底的に掘り下げていこうと思う。




エリクセンのプレースタイル

 

高精度の右足とプレービジョン

エリクセンの最大の武器、それは左右両足の高精度のキックだ。この武器をピッチの至る場所で発揮し、違いを作り出していく。

ここでトッテナム時代のエリクセンについてみてみると、公式戦合計で

  • 14-15 12ゴール4アシスト
  • 15-16 8ゴール14アシスト
  • 16-17 12ゴール20アシスト
  • 17-18 14ゴール12アシスト
  • 18-19 10ゴール16アシスト

と、ほぼ毎シーズンゴール・アシストともに2桁を記録してきた。ここまでコンスタントにゴールに絡める選手はなかなかいない。彼がプレミアリーグでも屈指のトップ下だったことがわかる。

トッテナム時代のエリクセンは典型的な10番の選手だった。2列目のスペースに潜り込み、ボールをさばきつつ前を向いて決定的なスルーパスを供給する。キック精度の高さと視野の広さ、卓越したプレービジョンがなせる業だ。

そしていま、エリクセンはその能力をひとつ低い位置で、ゲームの組み立てに活用している。インテルにおいてエリクセンの主戦場はインサイドハーフ。トップ下よりもプレッシャーを受けにくく前を向きやすいこの位置で、攻撃のタクトをふるっている。

崩しのフェーズから組み立てのフェーズに軸足を移しただけで、パスを受けてはさばくという基本的なプレーはトッテナム時代から大きくは変わっていない。

 

また、エリクセンは組み立て能力だけでなく得点力も兼ね備えている。それはプレミアリーグ時代にほぼ毎シーズン2桁得点を挙げてきたことからも明らかだ。

彼の得点力の源泉となっているのが、強烈かつ正確なミドルシュートだ。しかも、両足でこれを繰り出すのだから恐ろしい。この武器はすでにインテルでも発揮し始めていて、

  • 1試合平均シュート数 1.1(チーム内3位)

と積極的にシュートを放っていることが見て取れる。

しかしながら、ここまではシュートが得点に結びつく場面が少ないこともまた事実。枠内シュート率をトッテナム時代と比較してみると、

〈枠内シュート率〉

  • トッテナム時代の平均 36.8%
  • 今シーズン 28.0%

となっていて、10%近く落ちていることがわかる。まだ本調子にまで戻り切っていないのだろう。今後以前のレベルの決定力が戻ってくるようだと、インテルの新たな得点源になりうるかもしれない。それくらいのポテンシャルがあるはずだ。

実際、31節ナポリ戦では強烈なミドルシュートを叩き込み、チームに勝ち点1をもたらしている。こうした場面をどんどん増やしていきたいところだ。

 

また、彼のキック精度の高さはプレースキックでも発揮される。フリーキックからも、コーナーキックからも危険な場面を作り出せるのだ。

特に直接フリーキックの精度は目を見張るものがあり、プレミア屈指のフリーキッカーと呼ばれていたほど。これまでのところエリクセンの右足が火を吹いたのはコッパイタリアのミラン戦だけだが、今後直接フリーキックのチャンスがあれば彼の華麗なゴールがみられるはずだ。




ブロゾビッチとのダブルレジスタ

得意のキックとプレービジョンを活かしてレジスタ的なふるまいを見せているエリクセン。同タイプのブロゾビッチと並び立つダブルレジスタシステムはいまやインテルの代名詞となった。彼がスタメンに定着したことによって何がもたらされたのか。

下はエリクセンのヒートマップだ。青い線で囲ったエリア、最終ラインと左サイドを中心に色がついていることがわかる。

 

対して、こちらはブロゾビッチのヒートマップ。ピッチのほぼ全範囲に色がついていることがわかる。

 

ブロゾビッチは現在セリエAの中で最も1試合平均の走行距離が多い選手となっている。このことから、ブロゾビッチはピルロのような静的なレジスタではなく、ピッチ全域を常に動き回りながらボールに絡んでゲームを作っていくムービング型の司令塔であることがわかる。

こうした彼の特徴を引き出しているのがエリクセンとのダブルレジスタシステムだ。

インテルはビルドアップ時、3バックの両サイドが開いてサイドバック化し、中央にMFが降りてくることで4バック化するメカニズムを採用している。いままでは、この最終ラインに降りる役割もブロゾビッチがこなしていた。そして、そこから前に出ていってもう一度ボールに絡むという場面が多かった。

しかし、エリクセンの定着後は最終ラインへ降りてビルドアップを安定させる役割はエリクセンが主に担当している。これはヒートマップでも確認した通りだ。そのため、ブロゾビッチは今まで以上に高い位置でボールを触れるようになり、効果的なボールを通す場面は増えている。

一方のエリクセンはそこまで運動量があるタイプではない。そのため、最終ラインのサポートと右サイドの中継が主な役割になっている。ダブルレジスタと言ってもエリクセンは脇にはけて中継役となりつつ、広範囲を動き回りたいブロゾビッチのために広いスペースを提供するという役割分担になっているのだ。

エリクセンのパス精度と視野の広さが卓越しているといっても、やはり本職のブロゾビッチの方がゲームメイク力は高い。だから、基本的にはブロゾビッチを活かすためのシステムだといっていいだろう。

 

しかしながら、エリクセンがただの脇役というわけではない。ブロゾビッチがマークされたら脇からすっと出てきて中継できるし、高精度のサイドチェンジはビダルやガリアルディーニにはない魅力だ。彼らライバルと比較すると、エリクセンがいる試合ではビルドアップが格段にスムーズなのは間違いない。

ブロゾビッチにしても、役割を分担してくれるエリクセンがいたほうがより自分が得意とするプレーに集中できるだろう。実際、エリクセンと併用されてからのブロゾビッチはパフォーマンスをもう一段上げたように感じる。

エリクセンがこれから経験を積んでブロゾビッチと同程度のレベルにまでレジスタとしての完成度を高めれば、インテルのビルドアップをつぶすことは不可能に近くなるだろう。それが可能なだけの資質があることはこれまでに紹介してきた通りだ。

そのためには、より積極的にくさびの縦パスを通す、ダイレクトプレーを増やす、前線へ飛び出す頻度を増やすなどが課題になりそうだ。




エリクセンの弱点

それでは、エリクセンの弱点はどこなのか。

やはり、MFとしての守備力の不足が弱点ということになるだろう。

エリクセンはそこまで守備での貢献度が求められない2列目でプレーしてきたため、中盤の真ん中でボールを奪い取るための守備技術や経験値は明らかに不足している。

データを見てみても、

  • 1試合平均タックル数 0.5(チーム内14位)
  • 1試合平均インターセプト数 0.4(チーム内12位)

となっていてインサイドハーフとしては明らかに少ない数字になっている。マークやタックルなどの守備技術だけでなく、前に出ていくかどうかの判断や寄せる角度など全面的に改善が必要だろう。

また、エリクセンはコンタクトプレーに弱い。

  • 地上戦勝率 38%

というデータを見ても、エリクセンがデュエルを得意としていないことは明らかだ。だからこそ、コンテ監督はアタランタ戦でエリクセンを外してビダルを先発で起用したのだろう。

 

こうした守備の弱みは、インサイドハーフとして起用するためには致命的に思える。しかし、今のインテルではエリクセンの守備の弱みが露呈することはほとんどない。それは、インテルの戦術のたまものだ。

守備時、インテルは下の図のような5-3-2の守備ブロックを構える。エリクセンは中盤ラインの左に入る。ここでカギになってくるのがラウタロとペリシッチだ。FWながら献身性と非常に高度な守備スキルを持つラウタロが横に幅広く動いて相手の侵入をプロテクトすれば、縦のレーン全域をカバーするペリシッチもここに加勢する。

こうして、前をラウタロ、横をペリシッチがかためることで、エリクセンがさらされる場面を極めて少なくすることに成功している。

 

また、インテルはエリクセンの主力定着とともに守備ブロックの重心を下げ、堅守速攻にシフトしている(詳しくは過去の記事を参照)。やみくもに前から奪いに行ってエリクセンがさらされることをさけるため、まずは自陣に守備ブロックを構え、エリクセンの脇を固めることを優先したのだ。エリクセンの守備アクションが極めて少ないことは紹介した通りだが、それだけチームメイトが奮闘している証拠だともいえる。

また、この戦術変更はエリクセンの守備の不安を解消してダブルレジスタを成立させただけにとどまらず、ルカクの突進やハキミのスピードといった右サイドの速攻と適性があるアタッカーの強みをも引き出すことに成功している。攻守両面で効果てきめんだったこの決断が後半戦の快進撃をもたらしたのは必然だったといえる。

単にエリクセンを活用するためにこのシステムを採用したのか、そもそもすべてが計算通されていたのかはわからない。確かなのは、各選手の個性が噛み合い、チームとしてのインテルが完成されたということだ。今季のインテルを語る上でコンテの決断とエリクセンの定着は欠かせない。それほど彼がインテルにもたらしたものは大きかったのだ。




あとがき

かくしてスクデットへのラストピースとなったエリクセン。もちろんコンテの英断は称賛されてしかるべしだが、もとはといえばエリクセンがミラン戦の数分で結果を出し、その後のレジスタという不慣れなポジションに適応し、期待に応えたことが引き金だった。コンテはエリクセンに適したチーム作りに失敗したが、エリクセンがコンテ式に適応した格好だ。古巣トッテナムに戻るという選択肢があった中で、安易な道に逃げずに自らの手で居場所を作り出したエリクセンの努力と適応力に賛辞を贈りたい

今後さらに経験を積んでいくことで、エリクセンはゲームメーカーとしての完成度を高めていけるはずだ。トップ下からレジスタへ転向して成功した選手は意外と多く、ピルロはその代表例だ。現ユベントス監督がそうだったように、このポジション変更が彼の全盛期を引き延ばすかもしれない。

彼が継続して活躍すれば、今季のスクデットはもちろん、来季以降の連覇やCLでの躍進も見えてくるはずだ。

トッテナムをトップクラブに引き上げたように、今度はインテルを欧州トップの舞台に導けるか。今後もエリクセンの活躍から目が離せない。

 

 

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