
【サッスオーロの心臓】マヌエル・ロカテッリのプレースタイルを徹底解剖!
今シーズンの前半戦で台風の目となったのが、人口4万の小都市を本拠地とする(いわゆるプロビンチャ)サッスオーロだ。
「イタリアのペップ」ことデゼルビが率いるチームはボール保持を軸としたモダンで攻撃的なサッカーを披露。強豪とも堂々と渡り合い、一時CL圏内にも入るなどサプライズとなった。現在は8位まで後退したものの、先日もミランに逆転勝利を収めるなどビッグクラブでも侮れない曲者としてリーグを盛り上げている。
そんなサッスオーロのパスサッカーの心臓ともいえるのが、マヌエル・ロカテッリである。
ロカテッリは11歳からミランでプレーし、18歳でトップデビューを果たす。翌シーズンにはユベントス相手に決勝ゴールを奪うなど一時はレギュラーに定着し、クラブ期待の生え抜きとして注目を集めることになった。
しかし、その後は徐々に出番を減らしていってベンチが定位置に。ミランの選手層の厚さに阻まれてしう形となった。
これを受け、出番を求めるロカテッリは愛するミランを離れることを決断。自身がプロ初ゴールを決めた相手であるサッスオーロへ移籍したのだった。
これが転機だった。以降のロカテッリはデゼルビの薫陶を受けて急成長。いまやチームに欠かせない中心選手となり、イタリア代表でも主力格に。都落ちで腐ることなく、むしろそれをステップにして今やイタリア屈指のMFに成長したロカテッリはイタリアの未来を背負って立つ存在だ。
すでにビッグクラブから強い関心を示されており、今夏のステップアップが濃厚なロカテッリ。彼は一体どのような選手なのか。
今回はサッスオーロの中盤に君臨するマヌエル・ロカテッリのプレースタイルを徹底的に解剖していこうと思う。
目次
ロカテッリのプレースタイル
正確な長短のパス
ロカテッリのプレースタイルをひとことで表すならレジスタだ。長短の正確なパスで攻撃を組み立てるのである。
後方から丁寧にビルドアップしていくサッスオーロにおいて、ロカテッリの存在は欠かせない。彼が最終ラインを助けることによってスムーズな組み立てが実現している。
- 1試合平均パス数 68.4(セリエA2位)
となっている通り、彼はセリエAの中でも屈指のパス数を誇る司令塔だ。
ちなみに、セリエAの平均パス数のランキングは1~4位をサッスオーロの選手が独占している。サッスオーロというチーム自体がパスサッカーによるボール支配を極めて重視していることがよくわかるんじゃないかと思う。
そんなサッスオーロの中でもロカテッリが特別なのは、サイドチェンジのパスが多いことだ。
- ロングパス成功数 4.8(チーム内トップ)
という数字を見ればわかるように、ロカテッリはただショートパスをつなぐだけでなくロングパスで展開を変えるプレーを多く見せている。ちなみに、この数字はセリエA全体で見ても9位に入る。ロカテッリはイタリア屈指のロングパサーなのだ。
実際に試合を見ていても、サッスオーロは基本的にショートパスで攻撃を組み立てていく。こうした戦術の中でロングパスを許されているのは基本的にCBのフェラーリとロカテッリだけだ。
サッスオーロは左サイドを中心に攻めることが多い。そこで攻撃が詰まった時、ロカテッリがボールを引き出して逆サイドで待つベラルディへ一気にサイドチェンジのボールを入れる。このパスがひっかけられると一気にカウンターを受ける可能性があるが、ロカテッリのサイドチェンジは非常に正確なのでその心配はない。
あえて孤立しているベラルディはオープンスペースでボールを受けることで広いスペースを使って崩していくことができる。いわゆるアイソレーションというやつだ。ちなみに、この戦術はイタリア代表にも転用されている。
このように、ロカテッリはただボール回しを円滑にするだけの存在ではなく、積極的に局面を進めようとする。その結果、
- ファイナルサードへのパス数 216(セリエA1位)
となっていて、今季のイタリアで最もパスによってファイナルサードにボールを進めている選手になっている。
彼がただの潤滑油ではなく、攻撃を指揮しデザインするレジスタであることがよくわかる。
相手につかまらないポジショニング
これほど攻撃面で貢献度が高いロカテッリなので、相手は当然警戒してくる。ロカテッリに自由にさせまいとマークについてくるチームがほとんどだ。
こうしたとき、ロカテッリは左サイドに逃げる。元いた中盤の位置からサイドバックのような立ち位置を取り、かわりにサイドバックが1列前方へ移動、サイドハーフが中に絞ってくる。この3人がぐるりと循環することでロカテッリが自由にボールを触れるようになっている。
もともと中央にいるロカテッリのマークにつくのは、当然中盤の選手だ。しかし、ロカテッリにサイドいっぱいに開かれると、ついて行くかどうか迷ってしまう。自分が出ていけば中央がぽっかりと空いてしまうからだ。それゆえ、中盤の選手が斜め後ろに降りるこの動きは中盤のキーマンをフリーにするうえで有効な手段だ。ロカテッリのほかにはレアル・マドリードのクロースもこの動きを得意としている。
ロカテッリはちょうどそのクロースにあこがれていて、手本にしているという。まだ彼のレベルに到達しているとはいいがたいが、着実に近づいていることは確かだ。パス精度に視野の広さなど素質は確かで、しかもロカテッリはまだ23歳だ。今後の成長次第では、クロース並みの司令塔に成長してもおかしくはないだろう。
推進力や運動量も兼備
現時点ではクロースほどの司令塔ではないロカテッリだが、運動量や推進力といった面ではすでにクロースを上回っている。
- 1試合平均走行距離 11.009km(チーム内1位)
というデータを見ればわかるように、ロカテッリは静的な司令塔ではなく、広範囲を動きながらボールに絡める動的な司令塔だ。
下は今シーズンのロカテッリのヒートマップ。左サイドを起点にしながらも、右のハーフスペースにかけてもヒートマップが広がっていることがわかる。また縦幅を見ても、自陣と敵陣のペナルティエリア間のほぼ全域に広がっていてそのカバー範囲は幅広い。
対して、こちらはクロースの今シーズンのヒートマップ。かなり左サイドに偏っていることがわかる。チームのレベルや戦術に左右される側面があるため一概に比較はできないが、このヒートマップを見ればロカテッリの方が運動量やカバー範囲の広さで優れているとみることはできる。
さらに、ロカテッリは推進力も備えていてドリブルによる持ち上がりも得意とするところ。昨シーズンのデータを見てみると、
- 1試合平均ドリブル数 1.5(チーム内2位)
- ドリブル成功率 77%
となっていて、ロカテッリが頻繁にドリブルによる持ち運びで局面を打開していたことがわかる。しかも、その成功率が8割近いのは驚異的だ。
今シーズンの1試合平均ドリブル数は0.8に半減しているものの、その成功率は78%と高水準を維持。ほとんどボールを失うことなくドリブルで持ち上がることに成功している。パスだけでなくドリブルの質も非常に高いところがロカテッリの優れた点だといえるだろう。
ファイナルサードでの仕事の質も高い
先ほど、ロカテッリのプレーエリアは敵陣にも広く分布していると書いた。ロカテッリはその豊富な運動量を活かして前線に出ていき、崩しの局面にも積極的に関与する。
ここまでロカテッリは3ゴール1アシスト。この3ゴールというのはすでに彼のキャリアハイだ。先月末に代表でも1ゴールを決めていて、その得点力は急速に成長しているといえるだろう。
- 1試合平均シュート数 1.3(チーム内4位)
という数字を見ても、中盤低めで攻撃を組み立てることを主とするレジスタタイプのプレーヤーとしては積極的にシュートを打っていることがわかる。たとえばべナセルの同数値は0.7、ブロゾビッチは0.8だ。
特に高精度なのがミドルシュートで、右足で巻いて上隅を射抜くコントロールショットは絶品だ。
相手が押し込まれることによってできる敵陣形前のスペースに入ってくるタイミングもよく、すっと顔を出してボールを受け、ミドルシュートを狙うのが得意のパターンになっている。
また、敵陣でのロカテッリの選択肢はミドルシュートだけではない。得意の高精度のパスによって味方にチャンスを提供するのもお得意のプレーだ。
DFラインの前でロカテッリが前を向いたら前線のアタッカーたちは必ずといっていいほど裏へ動き出す。ロカテッリから正確なパスが出てくることがわかっているからだろう。
- 1試合平均キーパス数 1.0(チーム内3位)
というデータを見ても、彼がチームの中で屈指のチャンスメーカーであることがわかる。
ここまでアシスト数は1しかないロカテッリだが、期待値を見てみると
- アシスト期待値 2.9
となっていて、実際に数字になっているよりも3倍も質が高いチャンスを作り出していることが示されている。味方の決定力の問題でアシストはついていないが、彼の高質なパスは崩しの局面でも威力を発揮しているといっていいのではないだろうか。
守備面も日に日に向上
このように、攻撃の全局面に関与して絶大な影響力を発揮しているロカテッリだが、守備力が低いわけでは決してない。お手本とするクロースと比較しても、むしろ上回っているといっていいのではないだろうか。
持ち前の運動量で広範囲をカバーし積極的にタックルを仕掛けるロカテッリは、サッスオーロに移籍してから球際の強さを身につけた印象。ただタックルが多いだけでなく、勝率も高いのが彼の特徴だ。
実際にデータを見てみると、
- 1試合平均タックル数 2.4(セリエA2位)
- タックル勝利総数 43(セリエA7位)
- 地上戦勝率 55%
となっている。1試合平均のタックル数はミランのカラブリアに次ぐ第2位となっていて、イタリア屈指のつぶし屋だという事実が見えてくる。またタックル勝利数でもセリエA全体でトップ10入りを果たしていて、地上戦勝率が55%であることを見てもデュエルに強いことが見えてくる。
特に得意なのがスライディングタックルで、イーブンボールをスライディングによって刈り取るプレーは彼の得意技だ。
また、ロカテッリはインターセプトでボールを奪うことも得意としていて
- 1試合平均インターセプト数 1.6(チーム内2位)
とここでもチームトップクラスの数字を記録している。
さらに、身長185cmと長身のロカテッリは空中戦にも一定強さがあり、
- 空中戦勝率 52%
と半分以上で勝利していることがわかる。地上戦だけでなく空中戦でも相手の攻撃を跳ね返す能力があるのだ。
ちなみに、昨シーズンの同勝率は43%だった。長身という武器を活かしきれていなかったロカテッリだが、今シーズンになって明確に改善されたことがわかるだろう。
このように、
- サッスオーロのパスサッカーの中心としてボール回しを円滑にしつつ、
- 正確なサイドチェンジで攻撃を加速させ、
- 左斜めに下りることで相手のマークを剝がし、
- 豊富な運動量と推進力あふれるドリブルを兼備し、
- 強烈なミドルシュートやラストパスも得意とし、
- 広範囲を動いて相手の攻撃の起点をつぶし、
- インターセプトや空中戦も得意とする
中盤の選手に必要な能力を非常に高い水準で兼備しているのがロカテッリという選手だ。イタリア代表で中心的な存在となっているのも納得だろう。
ロカテッリの弱点
それでは、ロカテッリの弱点は何だろうか。ふたつほど指摘してみたい。
①スピード不足
ひとつは足の遅さだ。これは、後方で相手のカウンターの芽を摘むときに致命的な弱点となる。
運動量の多さゆえにカバー範囲は広いロカテッリだが、カウンター時には相手がスピードに乗って向かってくるため、運動量よりもスプリント能力の方が重要になってくる。ここに弱さがあるロカテッリは、たとえばファビーニョやカゼミーロのように背後から追いついてクリーンにボールを奪い取るようなプレーはできない。
それゆえ、相手に完全に入れ替わられそうになった段階でファウルで止めることが多く、ここまで
- イエローカード 8枚(チーム内トップ)
とチームトップのカードを頂戴している。
ただし、これはサッスオーロの戦術の問題でもあった。というのも、シーズン序盤のサッスオーロはトップ下的なプレースタイルを持つマキシム・ロペスをロカテッリとともにボランチで起用していた。攻撃時にはさかんにロペスが攻め上がるため、サッスオーロがカウンターを食らうときには後方にCB2人とロカテッリしかいない場面が多くなってしまっていた。
結果として中盤の広大なスペースを一人で管理することを要求されたロカテッリはファウルで相手のカウンターを止める場面が多くなってしまったのだ。
これを受けてデゼルビ監督はロカテッリの相棒を変更。特に強豪相手の試合では、よりバランス型のオビアングを起用するようになったのだ。これによってロカテッリにかかっていた過剰な負荷を軽減することに成功している。
実際、ロカテッリはイエローカード8枚のうち6枚を最初の13試合で頂戴している。ほぼ2試合に1枚のペースだ。これが、中盤戦以降は劇的に減っていて、負荷の軽減は明確に表れている。
このことから、ロカテッリはアンカーとして広範囲をひとりで守れるようなタイプではないことがわかる。彼のスピード不足という弱点を補うためには、豊富な運動量でロカテッリを補佐できるMFと組ませてやることが必要だろう。
②決め打ちの多さ
また、ロカテッリは意外と決め打ちのパスが多い。相手の動きなどを見て判断をキャンセルすることが少ないのだ。単に相手が見えていないのか、それとも強引に通そうとしているのかはわからないが、相手にパスカットを狙われているにもかかわらず普通にパスを出して普通にパスをカットされるという場面はちょくちょくみられる。ダイレクトパスを出す場面では、この傾向が強く出る。
特に代表選ではそれが顕著に表れていた。北アイルランド戦ではロカテッリのパスミスから相手に決定的なチャンスを与えている。
これはサッスオーロがチームとしてしっかりと立ち位置を整理していて、ちゃんと見ていなくても味方がどこにいるかが感覚レベルで把握できているということの裏返しなのではないかと思う。
ただ、彼のレベルの高さからあえて厳しめの指摘をすれば、しっかりと相手の動きを見ながら判断を変え、裏を突くような意外性のあるプレーが必要なのではないだろうか。現状のロカテッリはひとつひとつのプレーが正確だが、実直で意外性には乏しい。だから、読みやすさはあると思う。
相手の動きを見て判断を変えたり、裏をかくプレーを見せて相手を迷わせるようなことができれば、さらにワンランク上のレベルに行けるはずだ。
ワールドクラスになれる素質は十分にあるだけに、もうひと皮むけてほしいところだ。
あとがき
最後には少し厳しめの指摘をしたが、彼が攻守において大きな穴のない選手であることは紛れもない事実だ。すでにイタリアでも屈指のMFとしての地位を確立していて、今夏にはビッグクラブへのステップアップが既定路線とされている。
国内ではユベントスが強い関心を示しているという報道が根強いが、国外のマンチェスター・シティやレアル・マドリードなどからの関心も伝わってくる。ここにきてアーセナルも争奪戦に参戦したようだ。国内ではユベントスくらいしか手が出せないほどに移籍金が高騰していて、本人も海外挑戦に前向きなコメントを残しているが…
イタリア国内でプレーを続けるのか、国外移籍を決断するか。プレーはもちろん、彼の移籍先に要注目だ。
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