【イニエスタなしで完成⁉】ヴィッセル神戸の戦術を徹底解剖!

【イニエスタなしで完成⁉】ヴィッセル神戸の戦術を徹底解剖!

2021年4月16日 3 投稿者: マツシタ
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イニエスタ、ビジャ、フェルマーレン、サンペールと元バルサの選手を次々と獲得し、あのグアルディオラが師として仰いだリージョを監督に迎えてバルサ化路線を目指してきたヴィッセル神戸。天皇杯を制覇してクラブ史上初のタイトルを獲得したもののリーグ戦では結果を残せず、昨シーズンは14位。ビジャとリージョが去り、このままバルサ化路線を進むのか、それとも新たな道を進むのか、今シーズンはその分岐点となるタイミングだった。

三浦監督が出した答えは、新しい路線への方向転換だった。イニエスタの長期離脱が路線転換を後押しした、いや、そうせざるを得ない状況にした側面もある。しかし、この方向転換はここまで順調に進んでいて、現在5勝3分1敗で3位。シーズン開幕からイニエスタを欠き、開幕後にフェルマーレンとドウグラスすらも離脱した状況を考えれば、望外の躍進といえる。

主力選手が離脱した分を組織力で埋め、順調なスタートを切った神戸。彼らの新しいスタイルとはどのようなものなのか。

今回はヴィッセル神戸の戦術について徹底的に掘り下げていこうと思う。




データでつかむヴィッセル神戸の全体像

細かい部分を見ていく前に、まずは全体像をざっくりとつかんでいきたい。

バルサ化路線から舵を切った神戸だが、ボール保持を捨てたわけでは決してない。

  • 平均ボール支配率 54.9%(リーグ5位)
  • 1試合平均パス回数 465(リーグ3位)

となっている通り、いまだリーグでも上位のボール支配率とパス回数を誇っている。自分たちのボールを大切に戦っていく方針自体が否定されたわけではないのだ。

 

 

ただし、昨シーズンのデータをみてみると、

  • 昨シーズンの平均ボール支配率 58.2%
  • 昨シーズンの1試合平均パス回数 512

となっていて、いずれも今シーズンよりも高い数値になっている。こうして比較してみると、徐々にではあるが神戸がボール支配にこだわらなくなってきていることがわかる。

ボールを持って遅攻する割合を下げた神戸がどうやってゴールに迫っているかと言われれば、速攻しかない。今シーズンの神戸が最も進化したのはここで、ボールを奪ってから素早く攻め切る回数がとても多くなっている

この速攻を繰り出すためには、ひとつ前のアクション、すなわち守備が重要になってくる。

守備に関するデータを見てみると、

  • 1試合平均タックル数 17.8(リーグ4位)
  • 1試合平均インターセプト数 19.3(リーグ1位)

となっていて、いずれもリーグトップクラスの数字になっている。

 

 

昨シーズンの神戸のタックル数はリーグの11位にすぎなかった。それを考えれば、今シーズンは守備アクションの数が飛躍的に増えていることがわかる。

一方で神戸がボールを持っている時間が長いことは説明した通り。つまり、守備時間が短いにも関わらず守備のアクションが増えているのだ。ということは、ボールを失ってから短時間の間に多くの守備アクションが行われているということになる相手ボールになった瞬間からアグレッシブにボールを奪いに行っていることがよくわかる。

ここで注目すべきがファウルが少ないこと。

  • 1試合平均ファウル数 9.6(リーグ12位タイ)

となっていて、守備アクションの数がリーグトップクラスな割にファウルの回数は非常に少なくなっていることがわかる。

 

これはとても大切なことだ。守備をカウンターにつなげるためには激しプレッシャーで相手をつぶすだけでは十分ではなく、インターセプトや正当なタックルによって完全に自分たちのボールにしてしまう必要がある。そういう意味で、神戸がファウルなく正当な守備アクションによってボールを奪えていることは、ハイプレスから速攻へという流れが機能していることの裏付けと言っていいのではないだろうか。

そして、ここまでで注目したいことがもうひとつある。ここまで紹介してきたすべてのランキングで、川崎フロンターレがヴィッセル神戸と近い順位にいることに気づいただろうか。どのランキングでも、神戸と川崎の順位は2つ以上離れていない。つまり、神戸は「川崎化」してきているといえるのだ。

以前の記事で川崎フロンターレもまたボール保持重視から速攻も織り交ぜるスタイルへと転換してきていることを紹介した。ヴィッセル神戸もまた同じ路線を歩んでいるのだ。

それでは、神戸と川崎との間で違う点は何なのか。

ひとつはロングボールやクロスボールを多用することだ。データを見てみると、

  • 1試合平均ロングパス成功数 27.7(リーグ3位)
  • 1試合平均クロス成功率 4.4(リーグ7位タイ)

となっている。ロングパスに関しては順位上は川崎と大きくは離れていないが、実際の数値を見れば5本以上の差がある。クロスに関しては川崎は13位となっている。

これらを見れば、神戸は川崎同様自陣から丁寧につないでいきつつも、状況に応じてロングパスで一気に前線へとボールを運んだり、多少アバウトでもサイドからのクロスボールを多く使って攻撃していることがわかる。

 

 

もうひとつ違うのがシュートの数だ。

  • 1試合平均シュート数 7.0(リーグ11位)

となっていて、神戸はトップ10に入っていない。川崎がリーグ2位のシュート数を誇っているのとは対照的だ。速攻と遅攻を織り交ぜるスタイルへと転換していきつつも、まだフィニッシュに至る形を多く作れていないことが見えてくる。

新スタイルへ転換して早くも結果が出始めている神戸だが、まだまだ発展途上なのだ。

 

このように、フィニッシュを目指す形に違いはあれど、大枠では川崎と同じようなスタイルを志向する神戸。そして、シュートに至るまでの形を作ることに関して課題が残っていることも見えてきた。

それでは、これらを踏まえた上で神戸の現状についてさらに細かい部分をクローズアップしてみていこう。




ヴィッセル神戸の戦術

 

ハイプレスとそこからの速攻

今シーズンのヴィッセル神戸が最も力を入れて取り組んでいるのがハイプレスの整備だ。

今季の神戸は低い位置で構えて守るような場面がほとんどなく、相手が低い位置でボールを持てば非常にアグレッシブにプレッシャーをかけている。ヴィッセルのタックル数、インターセプト数がリーグトップクラスで多いのはそれだけアグレッシブにボールを奪いに行っている証拠だ。

神戸はいったん4-4-2でピッチの中ほどに構える。そして、陣形が整ったらハイプレスを開始する。

ここでスイッチ役になっているのが古橋。彼がボールホルダーに対して全速力でプレスをかけ、それに周囲が呼応する形で次々とマークをつかんでいく。

キーマンは古橋のほかではダブルボランチとセンターバックだ。特に、ボランチには高度な判断力が求められている

アタッカーが降りてきたりサイドの選手が絞ったりで、相手の中盤には3人の選手がいることが多い。一方、神戸はボランチのふたりだけ。そのため、どの選手を捨ててどの選手をつかみに行くのかを一瞬で判断する必要がある。これを90分間やり続けるのは体も頭も相当疲れるはずだ。

 

また、ボランチが捨てた選手をだれが引き受けるかも重要。2トップの片方が降りてきて埋めることもあるが、基本的にはセンターバックが前に出ていって埋めることが多い。背後にスペースを空けるリスクを引き受けてでもセンターバックは降りていく相手アタッカーについて行き、攻撃の起点を作らせない。フィールドプレーヤー全員が敵陣に入ることも多く、非常にアグレッシブだ。

まだ川崎レベルまで成熟していないとはいえ、このプレッシングはすでに多くのチームを苦しめている。その完成度は川崎を除けばトップクラスにあるといっていい。短期間でここまで完成度を引き上げた三浦監督の手腕は称賛されてしかるべきだろう。

そうしてプレッシングでボールを奪えば素早くゴールを目指す。いわゆるカウンターだ。

そのカウンターでほとんどの割合を占めているのが古橋へのロングボール。神戸の選手たちは常に古橋の動きを見ているし、古橋もまたボールを奪った瞬間に裏への飛び出しを狙っている。

純粋な速さだけでなくラインを破る駆け引きの巧みさも兼ね備えている古橋を裏へ走らせる形は、シンプルだが破壊力は抜群だ。

 

このハイプレス+古橋へのロングボールによる速攻が今季の神戸の特徴的なプレーになっている。スペイン的なパスワークにドイツの的なアグレッシブさを混ぜ合わせ、新たなスタイルへと脱皮しようとしているのが現在の神戸の姿なのである。




左サイド中心のビルドアップ

とはいえ、神戸がボール保持を捨てたわけではないことは前述の通りだ。続いては後方からの組み立て、ビルドアップについても見てみよう。

神戸は基本フォーメーションは4-4-2だが、ビルドアップ時には陣形を3-2-5へと変形する。

 

上の図に示したのはあくまでも一例で、山口が右斜めに下りて3バックの一角に入り、そこに井上が引いてきてビルドアップに絡むパターンはよくみられる。

 

また逆パターンもあり、サンペールが3バックのサイドに入ってそこに郷家が引いてくることもある。

 

いすれにしても3-2-5の形は決まっているが、それぞれの場所に誰が入るかはとても流動的。誰かが動けば、空いた場所にほかの選手が入ってくることで埋め合わせる。この動きが徹底されているので、チームとしてバランスを崩すことなく戦えている。プレッシングもそうだが、こうした組織としての完成度の高さが今の神戸の強みだ。

こうして3-2-5の陣形を作ってパスを回していく神戸だが、特に左サイドからの組み立てが多くなっている

下に示したのはここまでの選手別の1試合平均パス回数のランキング。左サイドでプレーする選手(フェルマーレン、小林、山口、酒井、井上)が上位8人中5人を占めている。

 

左サイドの3人、酒井、山口、井上はとても流動的に動く。山口が低めの位置にひいて酒井を押し上げることもあれば、井上が引いてくることもある。酒井が偽サイドバック的に中央に絞っていくことも多い。

いずれにしても3人はピッチ中央でもタッチライン際でもプレーできるテクニックとビジョンを持っているので、パス回しはとてもスムーズ。彼ら3人が人とボールをどんどん動かして相手の陣形を乱し、場合によってはCBのフェルマーレンや小林が加わってサポートしながらボールを前進させていくのが神戸の主な狙いにいなっている。




サンペールの存在と逃げどころとしての山川

そして、左サイド中心のビルドアップに変化をつけるのがサンペールだ。ずっと左でパスを回していると、当然相手も左に寄ってくる。そうすると、右サイドが空いてくる。そこへ効果的にサイドチェンジを入れて相手を揺さぶるのがサンペールの役割なのだ。

下は直近の2試合の神戸のプレーエリアを示したもの。左サイドの色が濃くなりつつも、逆サイドの色もまずまず濃くなっていることがわかる。この二つのエリアをつなぐ役割を果たしているのがサンペールなのだ。

 

サンペールの存在の大きさを知るには前節清水戦を見るだけで十分だろう。サンペールをけがで欠いたこの試合、それまでと比べると明らかにボールが動かなかった。清水のハイプレスが素晴らしかったのもあるが、そのプレスからボールを逃がせるサンペールがいなかったのが何よりも大きかった。

ボールを大切にする神戸だが、フェルマーレン以外のCB陣はビルドアップがうまいとは言えない。そのため、清水戦のようにサンペールがいなかったり、相手がマンツーマンでサンペールを消して来たらボール循環が滞ってしまう傾向にある。

それを受けた三浦監督は、チームに逃げどころを用意している。それが右サイドバックで起用されている山川だ。彼は本職はCBの選手で、身長186cmの長身。ここまでの空中戦の勝率は64%と非常に高くなっている。

ふつうサイドハーフに空中戦に強い選手を起用してくることは稀なので、ここと山川が競り合えばほぼ確実に勝てる。そのため、ビルドアップがスムーズにいかなければ、いったんGKの前川に下げ、そこから山川めがけてロングボールを送り込んで状況を打開する形は頻繁に見られている。

 

山川をサイドバックで起用する理由は他にもあるのだろうが、ビルドアップの逃げどころにするというのが主な目的なのではないだろうか。




古橋へのロングボールとサイド攻撃

さて、左サイドを起点としつつサンペールや前川の左右への配球で相手を揺さぶるヴィッセル神戸。そこからどのようにして相手ゴールに迫っているのだろうか。

これまでのところ、ヴィッセルのチャンスのほとんどは古橋へのロングパス1本によって生まれている

後方でのパス回しは相手を崩すというよりも、古橋が動き出すための時間やタイミングを稼ぐものとして機能している印象。相手のブロックを連携で崩したり、ドリブルなどの個人技で突破したりといったパターンは少なく、後ろでタイミングをうかがいつつ古橋の裏へ一発を狙うのが神戸の主なパターンになっている。

つまり、カウンターであろうがなかろうが、神戸の攻撃の狙いは変わらないということだ。質の高いオフザボールの動き出しと爆発的なスプリント力を兼ね備える古橋に裏で勝負させることが神戸の最大の狙いになっている。冒頭で神戸のロングボールが多いと紹介したのはこういう理由なのだ。特にドウグラスが離脱してからは、古橋への依存度はさらに高まっている。

大分戦のゴールはこれまでに説明してきた形が集約されたゴールだった。右サイドでボールを回し、サンペールが左へサイドチェンジ。その間にゴール前に入っていった古橋の裏へ山口がロングボールを入れ、ゴールにつなげている。これが神戸が理想とする形だろう。

 

課題は相手に引かれて背後のスペースを消されたときだ。こうなってしまうと、相手を崩すアイデアが無くなってしまうのが今の神戸。冒頭にボール保持率が高いわりにシュートが少ないと紹介したが、それは相手に引かれたときに怖さがないボール回しに終始してしまい、守備ブロックを崩せないからだ。

このような場面で点を取っているパターンは左サイドからのクロスボール。ここで大きな役割を担っているのが途中投入される初瀬だ。高精度のキックを持つ彼にサイドからクロスボールを放り込ませることで状況を打開するというのがここまでの唯一の解決策になっている。

また、中央でターゲットになる菊池の存在も大きい。彼を攻めあがらせ、頭めがけて初瀬がクロスボールを入れる。これが神戸の緊急時の打開策だ。菊池はセットプレーでもターゲットになっていて、ここまで頭だけで3ゴール。貴重な得点源となっている。

 

左サイドからはクロスボールからゴールが決まっている一方で、右サイドからはあまりチャンスが生まれていない印象。実際、右からゴールにつながったのは札幌戦の1点のみだ。本職CBの山川がサイドバックを務めている関係もあって、右サイドハーフには単独で局面を打開する能力が求められている。ここは、東京五輪世代のブラジル代表で主力を務めるリンコンの合流が待たれるところだ。




失点のほとんどがカウンターから

相手に引かれて攻めあぐねることは、失点にもつながってしまっている。これまでのところ、神戸のほとんどの失点がカウンターからのものになっている。攻めあぐねてボールを回している間にボールを奪われ、カウンターを食らうという悪循環が起こっているのだ。

フィニッシュで追われていないことも問題だが、カウンターを食らったときに食い止められていないのもまた問題。相手を押し込んでいるときのバランスが良くなく、簡単に相手にスペースを与えてしまっている場面が多い。また、相手のドリブルに対して最終ラインの選手がずるずると下がってしまうのも気になるところだ。

 

自分たちがボールを握るということは、当然カウンターを食らうことが想定できる。それに対する対策が不十分なのは、あまりいいことではないだろう。今後の改善点のひとつだといえそうだ。

攻撃をシュートで終わらせる、攻め込んでいるときのポジショニングを見直すなどが具体的な解決策になるだろう。




あとがき ~今後の展望~

これまでのパスワークに加えてハイプレスとそこからのショートカウンターという新たな武器に磨きをかけて躍進しているヴィッセル神戸。こうなってくると、気になるのがイニエスタの処遇だ。

来月に37歳となるイニエスタにハイプレス戦術に適応できるだけのスタミナや強度があるのか。ないのだとすれば、彼をどこでどのように使うのか。ここまでの課題である遅攻のアイデア不足を一気に解決しうるタレントだけにうまく取り込みたいところだが、失敗すればここまで積み上げてきたハイプレスという新たな武器が失われかねない。果たして三浦監督はイニエスタを現チームにどう組み込むのか。

また、取り込むべき戦力はイニエスタだけではない。新加入のマシカとリンコンの扱いについても注目だ。ここまでは左サイドに偏っている神戸の攻撃だが、右サイドに彼らがフィットすればプラス効果は非常に大きい。彼らをチームに組み込めればさらなる進化が期待できる。

CB陣の中で最もテクニックに優れるフェルマーレン、クロスボールのターゲットになれるドウグラスの負傷離脱組も含めて、強烈な個がまだまだ控えている。今の神戸の強みである組織力に彼らのような個性をうまく加えることができれば、さらに完成度が高いサッカーを見せてくれるはずだ。

まだまだ伸びしろを感じさせてくれるヴィッセル神戸。そのスタイルがどのように調整され、完成されていくのか。注目してみていきたい。

 

 

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