【ローマのジャックナイフ】レオナルド・スピナッツォーラのプレースタイルを徹底解剖!

【ローマのジャックナイフ】レオナルド・スピナッツォーラのプレースタイルを徹底解剖!

2021年4月2日 6 投稿者: マツシタ
Pocket

シャチは海の生態系の頂点にいる。どう猛さだけでなく賢さも備えるシャチは、集団で狩りをしながらありとあらゆる海の生き物たちを食らいつくす。

しかし、そんな彼らも陸上で生きていくことはできない。シャチを陸に上げてもせいぜいのたうち回るのが精一杯で、すべての生き物におそれられる海での姿は見る影もなくなってしまうだろう。「海の王者」も、海という最適な環境のもとでなければその能力を十分に発揮することはできないのだ。

サッカー界にも同じことは言える。ユース年代までにサッカーをプレイする選手は星の数ほどいる。その中から選ばれてプロになるくらいだから、どの選手にも優れたポイントがあるのは間違いない。その中でも活躍できる選手とそうでない選手がいるのは、自分に最適な環境に身を置くことができていないことが原因であることが多いのだ。

レオナルド・スピナッツォーラはその環境を見つけるのに長い間苦労してきた選手だ。

彼は様々なクラブを転々としながらプレーしてきた選手で、セリエBでプレーしていた期間も長い。23歳の時に一度ブレイクしたものの度重なるケガでフォームを落としてしまい、現在につながる本格ブレイクを果たした時にはすでに27歳になっていた。

まずはスピナッツォーラの簡単な来歴を振り返ってみよう。




スピナッツォーラの来歴

ユベントスユース出身の彼は、プロデビュー後はシーズンが変わるごとに違うクラブに移りながらレンタルに出されてきた。エンポリ、ランチャーノ、シエナ、アタランタ、ヴィチェンツァ、ペルージャ…。セリエBのクラブを中心にレンタルでたらいまわしにされるような状況だった。

レンタル生活も5年目を迎えた16-17シーズン、スピナッツォーラは2度目のアタランタ挑戦でようやくブレイク。ガスペリーニ監督に見いだされてレギュラーに定着、チームの4位躍進に貢献したのだ。

アタランタで2シーズンプレーした後、25歳にしてようやくユベントスに復帰したのが18-19シーズン。あこがれの舞台に戻ってきたスピナッツォーラは今度こそはという思いに燃えていたはずだ。しかし、不運にもケガにたたられて満足に出場機会を得ることができず、リーグ戦は10試合の出場にとどまる。失意のスピナッツォーラはユベントスから完全移籍で退団することを決断。ローマへ加わるのだった。

加入当初のスピナッツォーラは不慣れな右のサイドバックで定位置をつかみかけたものの度重なる負傷離脱もあって出番を失う。シーズン中盤にはベンチが定位置になっていた。

 

潮目が変わったのはコロナウイルスの流行によるリーグ戦中断が空けた6月。再開後の2連敗を受けたフォンセカ監督は、それまでの4-2-3-1から3-4-2-1へシステムを変更。その左ウイングバックにスピナッツォーラを抜擢したのである。

これが見事に的中し、ローマは息を吹き返す。新システム初戦となったナポリ戦こそ敗れたものの、以降の7試合を6勝1分無敗という圧倒的なパフォーマンスで駆け抜けてヨーロッパリーグ出場圏内に滑り込んだ。

今シーズンもローマは3-4-2-1を継続。その左ウイングバックの定位置はスピナッツォーラががっちりとつかんでいる。ここまでリーグ戦25試合に出場しており、この出場試合数はチーム内で2位タイ。彼が完全に主力の座をつかんでいることがわかる。

左ウイングバック。そこは、スピナッツォーラがアタランタ時代にブレイクを果たしたポジションと同じなのだ。スピナッツォーラにとっての「海」が左ウイングバックだったのである。

それでは、なぜスピナッツォーラは左ウイングバックに置かれなければその力を発揮できないのだろうか。それは、彼のプレースタイルを詳しくみることで見えてくる。




スピナッツォーラのプレースタイル

 

切れ味抜群のドリブル

スピナッツォーラの最大の武器が切れ味鋭いドリブル突破だ。

彼のすごさを理解してもらうには今シーズンのドリブルに関するスタッツを見てもらったほうが早いだろう。ドリブルに関するすべてのスタッツでセリエAトップ10入りを果たしている。

  • 1試合当たりドリブル成功数 2.0(チーム内トップ)

もちろんドリブル突破の成功数はチーム内トップ。この数字はセリエAでも9位に入る数字だ。それでは、スピナッツォーラはどのようなドリブルを得意としてkるのか。

  • ドリブル突破総数 58
  • ドリブルによってボールを運んだ回数 218
  • ドリブルによってボールを運んだ距離 5139m

これらのスタッツはいずれもセリエA5位。このデータから対面の相手をかわすいわゆるドリブル突破はもちろんのこと、長距離を持ち上がって局面を進めるいわゆる運ぶドリブルも得意としていることがわかる。

さらに、

  • ドリブルによるペナルティエリアへの侵入数 47(セリエAトップ)

となっている。スピナッツォーラはイタリアで最もドリブルでペナルティエリアに侵入している選手なのだ。これだけでも彼がいかに危険な選手なのかがわかる。

このように、運ぶドリブルも突破するドリブルも両方できて、単独で、何度もペナルティエリアに侵入していくことができる。スピナッツォーラはイタリア屈指のドリブラーと言っていいだろう。

 

このようにスピナッツォーラの圧倒的なパフォーマンスはデータにもよく表れている。実際にプレーを見ていると、スピナッツォーラは内よりも縦へ突破する傾向が非常に強い

スピナッツォーラは右利きで左サイドに置かれている。普通、こうした選手はカットインして内に切り込むことを好むものだ。しかし、スピナッツォーラは常識破りで、右利きなのに左で縦に突破する。

なぜそんなに縦に突破できるのかと言えば、それは圧倒的なスピードによるものだ。

もちろんトップスピードも速いのだが、それ以上に目を引くのが初速の速さ。一歩目からトップスピードに乗って瞬時に相手を置き去りにしてしまう。とにかく加速力がえげつない

相手からしてもスピナッツォーラが縦に突破してくることはわかり切っているはず。それでも、瞬間的なスピードがあまりにも早すぎて止められない。わかっていても止められないとはこのことだ。

スピナッツォーラは、この特別な加速力を最大限に生かすべく、難しいフェイントは一切使わずスピードの緩急だけで突破する。いったんスピードを落として相手の足を止めてしまえば、彼の急加速について行くことがDFはまずいない。

一度スピードを落とし、急加速で振り切る。これがスピナッツォーラのお決まりのパターンだ。




突破からのクロスでアシストを量産

さらに、縦に突破した後は中央へクロスボールを供給してチャンスを作り出す。

  • 1試合当たりキーパス数 1.3(チーム内3位)
  • アシスト期待値 4.8(チーム内3位)

となっており、チームの中でも多くのチャンスを作り出していることがわかる。

ここまでキャリアハイタイの4アシストを記録しているスピナッツォーラだが期待値上ではさらに高い数字が出ており、実際の数字以上に質が高いチャンスを作り出していることがわかる。

特に注目すべきなのがペナルティエリア外からのクロスで、

  • ペナルティエリア外からのクロス数 20(セリエA2位)

とリーグの中でも2番目に多くペナルティエリア外からクロスを供給している。

これは、彼のプレーエリアと関係している。

ここで、今シーズンのスピナッツォーラのヒートマップを見てみよう。

このように、大外のレーンでのプレーが大半を占めていることがわかる。

ここを縦に突破し、クロスを折り返すのがスピナッツォーラのお決まりのパターンなのだ。

しかし、より注目すべきなのはプレーエリアがペナルティエリア内にまで広がっていることだろう。先ほども見た通り、スピナッツォーラはセリエAで最もドリブルでペナルティエリア内に侵入している選手なのだ。

また、スピナッツォーラは長距離を持ち運ぶことができる選手だということもみてきたとおり。タッチライン際を縦に持ち運び、最終的にはペナルティエリア内へ斜めに侵入。そこからクロスボールを折り返してチャンスを量産する。これがスピナッツォーラのプレーなのだ。

 

このプレーを引き出すためには、スピナッツォーラに高い位置でボールを持たせてやる必要がある。それを助けているのがローマのメカニズムだ。

現在のローマの基本ポジションは3-4-2-1。そこから、攻撃時には3バックの一角にボランチが下りてサイドのCBがサイドバック化、4バックを形成。ウイングバックのスピナッツォーラとカルスドルプをウイングのような位置に張らせて5トップ気味になる。いわば4-1-5のような形をとるのだ。

 

こうすることでスピナッツォーラに高い位置でボールを持たせ、得意のドリブル突破を仕掛けさせることができるのだ。

サイドバックだとどうしてもドリブルという持ち味は活かしづらい。だから、より攻撃的にふるまうことが許される左のウイングバックで高い位置をとらせることが必要なのだ。これがスピナッツォーラが左ウイングバックで最も輝く理由である。




スピナッツォーラの弱点

スピナッツォーラがポジションを選ぶということは来歴で見てきた通り。本来スピナッツォーラは左右のサイドバックにウイングバック、サイドハーフもこなすユーティリティーなプレーヤーで、ローマ加入当初は右のサイドバックで起用されている。しかし、器用貧乏な印象がぬぐえなかった。

やはり、スピナッツォーラは左ウイングバックに固定してやるのがいいだろう。

実はあまり多くのポジションをこなすには向いていなかったスピナッツォーラ。これは裏を返せば彼があまり器用ではない、弱点も多い選手だということができる。

まず、スピナッツォーラは守備での貢献度があまり高くない。

ローマのウイングバックの主力3選手のデータを見てみると、

90分あたりインターセプト数

  1. ブルーノ・ペレス 1.7
  2. カルスドルプ   1.1
  3. スピナッツォーラ 1.0

90分あたりタックル数

  1. ブルーノ・ペレス 1.5
  2. カルスドルプ   1.2
  3. スピナッツォーラ 0.5

となっていて、いずれもスピナッツォーラが最下位になっている。これは、スピナッツォーラが攻撃時に高い位置をとっていることが原因になっている側面もある。しかし、実際に試合を見ているとスピナッツォーラは攻守の切り替えが早くなく、帰陣が遅い印象はある。スプリント力は爆発的だが、持久力はあまりないのだ。

ウイングバックと比べて、サイドバックはより一人一人の守備能力が求められる。だから、スピナッツォーラにとってサイドバックはより苦手項目と向き合わなければならないポジションだということができるだろう。

 

事実、先日のヨーロッパ予選リトアニア戦に左サイドバックとして途中出場したスピナッツォーラは相手に決定機を与える起点になってしまっていた。スピナッツォーラがマークしていた相手に前を向かれたところから背後にボールを流され、そのクロスボールがあわやゴールかというシュートにつながった。

いただけなかったのはスピナッツォーラがマークしていた相手が背中を向けていたにもかかわらず簡単に前を向かせてしまったこと。この時のプレスの角度がよくなくて、中央から寄せていれば相手をタッチライン際に追い込めたのに中央を空ける形でプレスしてしまっていた。結果として内側にターンされて前を向かれ、スピナッツォーラが前に出た分空いたスペースを使われてしまった。

 

このあとまた別の場面でもクリアすべきボールの処理を誤ってピンチに絡んでいて、スピナッツォーラは守備が苦手なんだな、と改めて感じた。マンチーニ監督もそれをわかっているからこそ、チェルシーで出番がほとんどないエメルソンを重用しているのだろう。

 

また、スピナッツォーラはパスがあまりうまくない

再びウイングバックの選手のデータを比較すると、

パス成功率

  1. ブルーノ・ペレス 88%
  2. カルスドルプ   83%
  3. スピナッツォーラ 81%

となっており、スピナッツォーラが最も成功率が低い。

実際に試合を見ていても、パスが雑になる場面が散見される

スルーパス1本通せばチャンスになるという場面で、スピナッツォーラのパスが長くなりすぎてチャンスを逃してしまう場面は頻繁にみられる。

クロスボールはうまいけど、低い位置からパスを供給するための視野の広さや繊細さ、タイミングの感覚などに優れているようには見えない。そういう点から見ても、こうしたプレーが多くなるサイドバックではスピナッツォーラがあまりうまく見えないのも当然だろう。

また、前を向けば強いスピナッツォーラだが、相手に背中を向けて背負った状態ではパスの精度がガクンと落ちる印象がある。だから、スピナッツォーラにはできるだけいい状態でパスを渡してやる必要があるのだ。

単独突破が強烈な反面、周囲との連係プレーは得意とは言えないスピナッツォーラ。現在のイタリア代表の左サイドバックには左ウイングに入るインシーニェをサポートすることが求められていて、この点もエメルソンから定位置を奪えないでいる理由なのかもしれない。

 

再びローマでのデータを見ても、

  • ボールロスト数 14.8(チーム内トップ)

という数字を見ても、スピナッツォーラのボールロスト数が多いことがわかる。

ただし、これはそれだけスピナッツォーラがボールに絡んでいるという見方ができる。実際にローマの試合を見ていても、右サイドよりも左サイドからの攻撃が圧倒的に多い。その中心にいるのがスピナッツォーラだ。結局はスピナッツォーラにボールを預け、そこから突破してもらってチャンスにつなげる場面は多くなっている。いまやスピナッツォーラはローマに欠かせない攻撃の中心だ。




あとがき

ここまでみてきたように、スピナッツォーラは苦手なプレーも多く、持ち味を最大限に発揮するために様々な条件が必要な選手といえそうだ。

しかし、前向きでボールを持たせてやりさえすればほとんど目の前の相手を突破し、1試合に2つ3つはチャンスを作り出してくれる。こんなに有能なチャンスメーカーもそういない。

こうした選手を活かせるかどうかは、監督の力量によるところが大きい。その選手の適性を見抜き、長所を発揮させながら短所をカバーする選手起用をできるかどうか。監督が選手の成功に寄与する度合いは、やっぱり相当に高いのだ。

そういう意味で、一番最初にスピナッツォーラをブレイクさせたガスペリーニ監督はやはり名将だ。もちろん、システム変更によってチームを立て直し、完全覚醒へと導いたフォンセカ監督もだ。

長い苦悩の時期を経てイタリア屈指のドリブラーとしての才能を開花させたスピナッツォーラ。ローマを見るときは、彼のドリブルに注目してほしい。

 

 

あわせて読みたい関連記事

ローマの戦術はこちらから

【ローマの新エースへ】ボルハ・マジョラルのプレースタイルを徹底解剖!

【王国の未来のDFリーダー】ロジェール・イバニェスのプレースタイルを徹底解剖!

【早熟の万能MF】ブライアン・クリスタンテのプレースタイルを徹底解剖!

【ローマのDFリーダー】ジャンルカ・マンチーニのプレースタイルを徹底解剖!

【ローマの新たなバンディエラ】ロレンツォ・ペッレグリーニのプレースタイルを徹底解剖!

【魅力的で危うい攻撃サッカー】ASローマの戦術を徹底解剖!