【ピルロの秘蔵っ子】ダニーロのプレースタイルを徹底解剖!

【ピルロの秘蔵っ子】ダニーロのプレースタイルを徹底解剖!

2021年3月30日 5 投稿者: マツシタ
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多くの監督には自分の戦術を完全に理解し、チームに浸透させるのを助けてくれる「秘蔵っ子」がいる。

マウリツィオ・サッリにとってのジョルジーニョがその典型だ。サッリがチェルシーの監督に就任したとき、一緒にジョルジーニョも連れてって「サッリ・ボール」と呼ばれる特殊なスタイルを浸透させるための補佐役として重用した。現在ナポリへの復帰が噂に上がっているサッリだが、一緒にジョルジーニョもナポリに帰ってくるのではないかとささやかれている。

日本代表監督の森保一にとってのそれは佐々木翔だろう。森保ジャパンのほぼすべての活動に召集されている佐々木は森保氏のサンフレッチェ広島監督時代から師弟関係を築いている。3バックにも4バックにも対応するユーティリティー性を考えても、今後も代表に呼ばれ続けるのではないだろうか。

そして、現在ユベントスで指揮を執っているアンドレア・ピルロ監督にとってのそれはダニーロだろう。

 

母国ブラジルのアメリカ・ミネイロでデビューしたダニーロは、その後サントスを経てポルト、レアル・マドリード、マンチェスター・シティ、ユベントスと各国の強豪を渡り歩いてきた。そのキャリアの中でポルトガル、スペイン、イングランド、イタリアのすべての国内リーグを制しており、通算6つの国内タイトルを掲げてきた輝かしい経歴を持つ。

しかし、レアル・マドリードへ移籍した15-16シーズン以降のダニーロは主役として優勝をつかみ取ったわけではなかった。両サイドバックをこなせるダニーロはあくまで利便性の高い優秀なバックアッパーという位置づけで、毎シーズン20試合そこそこに出場するけれども絶対的な主力ではないというのが基本だった。

ユベントスへの移籍初年度となった昨シーズンもそれは変わらず、リーグ戦では22試合の出場にとどまった。

しかし、ピルロが指揮官に就任した今シーズン、状況は一変する。局面に応じて複雑にシステムを変化させる戦術をとるピルロにとって不可欠な存在となったダニーロは、ここまでですでに昨シーズンを上回るリーグ戦25試合に出場。これは、クリスティアーノ・ロナウドをも上回ってチーム最多の出場試合数だ。自身としても、レアル・マドリードに移籍した15-16シーズン以来で最多の出場試合数をすでに更新している。

29歳にしてキャリア最高の輝きを放っているダニーロ。彼はどのような武器を持ち、なぜピルロの信頼をつかみ取ったのか。そして、ピルロにどのような役割を任されているのだろうか。

今回はダニーロのプレースタイルについて徹底的に掘り下げていこうと思う。




ダニーロのプレースタイル

 

高い守備力

ダニーロは守備力が高いサイドバックだ。

184cm78kgとサイドバックとしては恵まれた体格をしていて、地空問わず対人守備に強みを持つ。

  • 1試合平均タックル数 1.8(チーム内4位)
  • 地上戦勝率 60%
  • 空中戦勝率 63%

と、地上戦・空中戦ともに勝率60%超えの高い数字を残している。この数字はレアル時代、シティ時代からも大差なく、常に安定した守備を見せてきたことが示されている。

 

ダニーロは決して脳筋な選手ではなくクレバーさも持っていて、読みと出足の鋭さを活かしたインターセプトを得意としている。

  • 1試合平均インターセプト数 2.3(チーム内トップ)

となっていて、チームで最もインターセプトを決めているのだ。肉弾戦の強さに頼り切っているわけではなく、むしろ肉弾戦に持ち込むまでもなくボールを奪える選手であることがわかる。




組み立て能力の高さ

このように、もともと安定した守備力を売りにしていたダニーロ。これに加えて今シーズンに飛躍的な成長を見せたのが攻撃での貢献度だ。

特に目を見張るのがその組み立て能力。ダニーロは完全にユベントスのビルドアップの中心になっている。

  • 1試合平均パス成功数 63.4(チーム内トップ)
  • ボールタッチ数 2130(セリエA3位)
  • パス成功総数 1600(セリエA3位)
  • パス成功率90%

このように、セリエAでも屈指のボールタッチ数とパス成功数を記録しているのだ。けが人が続出したラツィオ戦でボランチで起用されたことからも、ピルロが彼のパスセンスを高く評価しているのがわかる。

特筆すべきなのは局面を前に進めるパスが多いこと。

  • パスによるファイナルサードへの侵入数 175(セリエA4位)
  • ロングパス成功数 3.7(チーム内2位)

となっており、ユベントスはダニーロのところから前進していることがわかる。低い位置からでも正確に味方の足元にボールを届けられるキックの精度とパワー、そして視野の広さがあってのことだ。

 

さらに、ダニーロがボールを前進させる手段はパスだけにとどまらない。相手が攻撃の起点になるダニーロをつぶそうと寄せてくれば、それをドリブルでかわして持ち運ぶこともできるのだ。

  • ドリブル成功率 90%(チーム内トップ)
  • ドリブル成功距離 4006m(セリエA9位)

ドリブル成功率90%というのは驚異的な数字で、セリエA全体で見ても2位に入る。しかもひとつひとつのドリブルで持ち運ぶ距離が長いのだからすごい。長い距離をほぼ失うことなく持ち運ぶダニーロはドリブルの達人と言っていいかもしれない。持ち前のパワーとスピード、そして判断力がなせる業だ。

組み立て能力を武器にボールを前進させ、それを警戒されればドリブルでも敵陣にボールを運べる。これほど厄介な選手もいないだろう。総合的に見れば、ダニーロはイタリアで最もビルドアップ能力に秀でたサイドバックだといっていいだろう。




ピルロが求める「ダニーロロール」とは?

ここまで、ダニーロをサイドバックだといってきた。

下は昨シーズンのダニーロのヒートマップで、ほぼ右のタッチライン際でのみプレーしていることがわかる。このように、ダニーロは元来タッチライン際を上下動する純粋なサイドバックとしてプレーしてきた。

しかし、今シーズンのダニーロが担っている役割は従来のサイドバックのそれとは大きく異なる。サイドバック兼センターバック兼ボランチとでも言うべき、非常に複雑な役割を担っているのだ。

今シーズンのヒートマップと昨シーズンのそれを比較すればその複雑さは一目瞭然。右サイドを起点としながらも非常に広範囲でボールを触っていることがわかる。

 

この役割を仮に「ダニーロロール」と名付けよう。果たしてダニーロロールとはどのようなものなのだろうか。

ユベントスは守備時には4-4-2の陣形でブロックを組む。ダニーロは最初の「4」の右、つまり右サイドバックに入る。ここまでは従来と変わらない役割だ。

変わっているのはここからだ。ユベントスは攻撃になると、3バックに可変する。ダニーロが後方に残り、逆のサイドバック(下の図ではフラボッタ)を高い位置へ押し上げる形になる。こうなったとき、ダニーロは3バックの右CBということになる。

 

この位置から、持ち前の組み立て能力を発揮する。2CBの中央だと相手FWからのプレッシャーを受けやすく、4バックのサイドバックだとタッチラインが近くて角度が無くなってパスの選択肢が狭まる。

対して3バックのサイドはその中間的な立ち位置となり、組み立て能力を活かすにはちょうどいい立ち位置。ここにダニーロを配することでピルロは彼の組み立て能力を最大限引き出すことに成功したのだ。

とはいっても、ダニーロは3バックのサイドにずっと縛られているわけではない。相手にパスコースを切られればタッチライン際に開いたり、逆に斜め前に上がっていって中盤の位置でボールを受けたりなど柔軟なポジショニングの調整ができる。それは先ほど見た今シーズンのヒートマップをもう一度見てもらえればわかるはずだ。インテリジェンスの高さがうかがえる。

もちろんその能力を引き出したピルロの采配も素晴らしかった。今シーズンのダニーロのパス成功数は63.4でチーム内トップ、セリエA全体でも3位。一方、昨シーズンの同数値は43.4でしかなかった。ダニーロをよりボールに絡める中央寄りのポジションに移し、そこから動き回る自由を与えたことでビルドアップ能力を最大限引き出したピルロは慧眼だといえるだろう。

そしてボールが前進した後、ダニーロは斜め前に向かってランニングしていく。ハーフスペースに入っていくのだ。

これがよくわかるのがブラジル代表でのダニーロのヒートマップ。4バックの右サイドバックの位置から、敵陣に向かってプレーエリアが中央に広がる三角形のようなヒートマップになっている。

 

ダニーロの基本的な役割を示したのが下の図だ。

 

タッチライン際に張るウインガーと中盤の間に入ってきて(オレンジの矢印)ボールを受けたダニーロは、そこから持ち前の組み立て能力を一つ高い位置でも発揮する(黄色い矢印)。くさびを入れたりアーリークロスを供給するのが基本だが、相手サイドバックが食いついてきたらウインガーをシンプルに使う。さらにこの位置からのミドルシュートも武器で、サッスオーロ戦では見事な一発を決めている。

さらに、パスを出した後のサポートランも的確で、ハーフスペースを縦に走り抜けたりオーバーラップでタッチライン際を追い越したりと走るコースを使い分ける(赤い矢印)。サイドチェンジのボールが直接ウイング(下図の44番)に入れば抜群のタイミングでサポートしてくる。

このように、ただ走力があるだけでなく、その走力を賢く的確に使い分けられるところにダニーロの特殊性があるのだ。

さらにさらに、ダニーロはこの役割を左右両サイドでこなすことができる。ピルロは守備時4-4-2のサイドバックと攻撃時のウインガを兼任する選手を必ず起用していて、この役割を担う選手の逆にダニーロを置くことでチームのバランスをとっている

左が得意なアレックス・サンドロやベルナルデスキ、フラボッタを起用するときはダニーロを右に、右が得意なクアドラードを起用するときはダニーロを左に動かすのだ。

これがダニーロロールの正体だ。すべての能力がまんべんなく高いダニーロだからこそできる役割で、今のユーベにダニーロの代役はいない。そして、今のユベントスの戦術を成立させるうえでダニーロロールは必要不可欠だ。だからこそダニーロはチームで最も出場機会を得ているのだ。

 

このように、

  • 地上戦でも空中戦でも対人守備に強く、
  • インターセプトも得意で、
  • パスによる組み立て能力が卓越しており、
  • ドリブルでミスなく長距離を持ち運び、
  • 柔軟なポジショニングとサポートランの選択ができ、
  • それらを両サイドでハイレベルにこなせ、
  • 緊急時にはボランチもこなせる

ここまで何でもできる選手はなかなかいないだろう。逆になぜ今までどのクラブでも主力になれなかったのか不思議なくらいだ。




ダニーロの弱点

攻守に万能なダニーロだが、彼に弱点はあるのだろうか。

ダニーロは非常に能力が高いので、あえて厳しめの基準で見てみたい。

守備面でいうとゴール前での競り合いだろう。先ほど触れたように、ダニーロの今シーズンの空中戦勝率は63%と高い数値になっている。しかし、プレミアリーグ時代(17-18シーズン)の73%、ラ・リーガ時代(15-16シーズン)の67%と比較すると若干勝率が低くなっているのだ。

というのも、ビルドアップ時に3バックになるユベントスは、高い位置でボールを奪われるとダニーロが中央を守らなければならなくなる。そのため、以前よりもクロスボールに対してダニーロが競り合う場面が増えているのだ。

ロングボールが自分の正面から飛んでくるのと、自分の横からクロスボールが上がってくるのでは競り合い方が全く異なってくる。クロスに対しての守備では、純粋な空中戦の強さだけでなくポジショニングのセンスや体の当て方などが求められる。

これに慣れていないダニーロは、ことクロスボールに対しての競り合いでは弱さを露呈する場面がある。0-2で敗れたリーグ戦でのイタリアダービー、相手に許した先制点はダニーロがビダルに競り負けて頭で決められたものだった。

クロスに対する守備対応はダニーロの数少ない課題といえるかもしれない。

 

また攻撃面でいえば決定力だろうか。もはやサイドバックに要求する能力ではないのだが、それくらいしかないのだと受け取ってほしい。

ダニーロは運動量豊富で攻撃参加のタイミングも的確。そのため、しばしばゴール前に出現してシュートを狙う。しかし、そのシュートの精度が若干低い。

直近のべネベント戦にもゴール前でダニーロがシュートを放つ場面が2つあった。両方とも決定機と言っていい場面だったが決めきれず、チームは0-1でまさかの敗戦を喫している。ダニーロがどれか1つでも決めていれば…といいたいが、彼はサイドバックなので仕方がない面もある。

本当にこれくらいしか挙げることがない。昨シーズンはパッとしなかったダニーロだが、今シーズンにピルロのもとで覚醒した。いまやセリエA屈指のユーティリティープレーヤーに成長したといっても過言ではないだろう。




あとがき

非常に高い能力値を持っていたにもかかわらず、これまでそのポテンシャルを見出してもらうことができず、バックアッパーとしてキャリアを送ってきたダニーロ。自分の長所を見出し、それを最大限発揮できる戦術的文脈においてくれたピルロは恩師だろう。

ピルロにとってもまた、ダニーロは自身のサッカー哲学を実践する上で欠かせない存在だ。いまやダニーロはユベントスの戦術上のキーマンと言って良い。今後もほとんどの試合で起用されるだろう。

両者はまさにWin-Winの関係だ。

 

実は、ダニーロとほぼ同じ役割をボローニャで担っているのが冨安健洋だ。詳しくは冨安の記事に書いたのでそちらを参照にしてみてほしいが、冨安がユベントスに加入すれば即中心選手として活躍できると思う。複雑なダニーロロールをこなせる選手は世界的で見ても貴重。ピルロはすぐに冨安を気に入るはずだ。

冨安のプレースタイル徹底解剖はこちら

 

話をダニーロに戻そう。

まえがきでも触れたように、ダニーロはこれまでスペイン、イングランド、イタリアでタイトルを獲得してきた。しかし、主力として活躍してそのタイトルを勝ち取ったわけではない。

今シーズンになってようやくピルロにその能力を見出されたダニーロだが、実はピルロよりも前にダニーロの能力を見抜いていた人物がいた。クリスティアーノ・ロナウドだ。レアル・マドリード時代にチームメイトだったロナウドがダニーロの獲得を進言したことでカンセロとのトレード移籍が成立したという経緯がある。やはり一流選手は他の選手を見る目も違うようだ。

そんなこんなで今シーズンはダニーロが初めて5大リーグで主力として戦うシーズンになるだろう。しかし、残念ながら今シーズンはスクデットの獲得の望みが薄くなってきてしまっている。まだ10試合が残されており決着はついていないものの、もしタイトルを逃すことになれば何とも皮肉なことだ。個人的には何とか報われてほしいと思っている。

29歳にして花開いた遅咲き、ダニーロ。なんでもこなせる超万能な彼は間違いなくセリエA屈指のタレントだ。彼にはぜひ主力としてタイトルを獲得してほしい。

 

 

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