【強豪国の共通点】『ワールドカップ タクティカルレポート』雑感

【強豪国の共通点】『ワールドカップ タクティカルレポート』雑感

2021年3月27日 1 投稿者: マツシタ
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代表サッカーは「じゃんけん」

代表サッカーには、クラブチームとはまた違った難しさがあり、面白さがある。

代表サッカーとクラブチームで大きく違うのが、補強ができないことだ。基本的には自分たちの国籍を持つ選手たちの中から選手を選んで戦うしかない。

同じ国で育った選手たちは、体格的に非常に似通ってくる。北欧なら長身頑健な選手が多く、日本なら小柄で俊敏な選手が多い。加えて、それぞれの国の文化的な背景の影響も大きい。南米なら非常に自由な気風で、日本人なら組織と規律を重んじる。そうした文化的な背景が代表チームのプレーにも表れてくるから面白い。

だから、各国ごとに「自分たちのサッカー」が明確に生まれてくる。日本なら組織的なパスサッカーで、韓国なら球際のバトルを重視した激しいサッカー。イランやオーストラリアなど体格に恵まれているチームはロングボールを多用してフィジカルを前面に押し出す。中東や東南アジア勢、中央アジア勢にもそれぞれの色があり、同じアジアでも目指すサッカーはこんなにも多様だ。

こうした「自分たちのサッカー」を追求し、先鋭化していくのが代表サッカーの基本的な路線だ。各国のスタイルは明確で、ひとつにまとまった好チームを作りやすい。しかし一方で、スタイルが明確ということは弱点が明確ということでもある。サッカーに完全無欠はなく、長所は転じて短所になる。

たとえば、俊敏でパスワークに優れる日本は、大柄なイランやオーストラリアを持ち前の敏捷性で翻弄する。2019年のアジアカップでイランに3-0と完勝したのは記憶に新しい。オーストラリアに対しても、直近10年間は4勝3分で一度も負けていない。

一方、日本人は小柄で体格には恵まれていないため韓国に球際でバチバチ来られると弱い。先日の日韓戦は韓国らしい激しさがみられず3-0で完勝したが、国内組で戦う東アジアE-1選手権で日本が韓国に勝利したのはもう8年も前だ。日本の方がプロ化が遅かったという事情もあるが、日韓戦の通算成績は日本の15勝23分42敗で大きく負け越し。ちなみに、Jリーグ創設後の戦績でも8勝10分10敗と負け越している。

 

一方、韓国はイランやオーストラリアなど大柄なチームに弱い。自分たちよりもフィジカルで優れているチームに肉弾戦を挑んでも分が悪いからだ。韓国は直近10年間のオーストラリア戦の戦績が1勝3分2敗と1回しか勝てていない。さらに苦手としているのがイランで、直近5試合で1分け4敗。最後に勝ったのは10年前のアジアカップだ。

このように、日本はイランやオーストラリアに強く、イランやオーストラリアは韓国に強く、韓国は日本に強い。まるでグー、チョキ、パーのように三角形のような強弱関係になっている。だから、自分たちが苦手とするスタイルの相手と当たってしまうとどうしても勝ち進むのが難しいのだ。




「自分たちのサッカー」に見え始めた限界

それでも、ある時期までは「自分たちのサッカー」を究極まで磨き上げ、先鋭化させたチームが勝っていた。その最高峰にあったのが無敵艦隊と呼ばれたデル・ボスケ時代のスペインだ。シャビ、イニエスタ、シルバら小柄なボールマジシャンを並べ、ティキ・タカによるパスサッカーで世界を席巻。2008EURO、2010W杯、2012EUROを連覇している。

 

しかし、その後のスペイン代表は国際大会での戦績が振るわない。2014W杯はグループリーグ敗退、2016EUROはベスト16敗退、2018W杯もベスト16敗退。自分たちがボールを握ることを重視するスタイルは全く変わっていないのに勝てなくなってしまった。

「自分たちのサッカー」を明確に持っている国のひとつにメキシコがあげられる。彼らも日本と似た小柄で俊敏な選手が多く、パスワークとアグレッシブな守備を武器として常に完成度が高いチームに仕上がっている。

日本がメキシコに勝ったのは25年前にさかのぼり、以後4回対戦したがいずれも負けている。昨年11月にオ―ストリアで完敗した試合(0-2)が記憶に新しい。北中米チャンピオンを決めるゴールドカップでも過去13回のうち半分以上の7回優勝。W杯でも1998年から7大会連続でベスト16まで進出しており、日本と同系統のチームの中ではトップランナーだと言っていい(これが「日本はメキシコを手本にすべし」といわれるゆえんである)。

 

しかし、逆に言えば俊敏性と技術の高さを活かしたサッカーの最高峰であっても30年以上ベスト8に進めていないのだ。日本がまだまだ遠いメキシコのレベルに到達したとしても、ベスト8の壁を破ることは難しいのである。

先ほども書いたように、スタイルが明確であるほど弱点も明確で、足りない要素がはっきりしているほどそこをつかれたときにもろい。特に、近年の分析技術の進歩によってその弱点はより発見されやすくなっている。2018年のW杯でベルギーに勝ちかけた日本だったが、フェライニの高さという単純な、しかし最も苦手な攻撃に簡単に崩壊させられた。

代表サッカーでは各チームのスタイルが明確になりやすいのに、スタイルが明確なほど負けやすいという矛盾。これを解消するにはどうすればいいのか。




ヒントはメンバー構成にあり?

2014年W杯を制したドイツは、パスワークを基本としたスタイルだった。というのも、当時グアルディオラが指揮していたバイエルンの影響を強く受けていたのだ。決勝のスタメンのうち半分以上の6人がバイエルンの選手(ノイアー、ボアテング、ラーム、シュバインシュタイガー、クロース、ミュラー)で、途中出場から決勝点を決めたゲッツェもバイエルン。当時のチームはバイエルンをそのまま移植したようなチームになっていて、足りない部分だけをほかのチームから補っていた。

ちなみに4年前に優勝したスペイン代表もグアルディオラのバルサをそのまま持ってきたようなチームで、決勝のスタメンのうちこれまた6人(ピケ、プジョル、ブスケッツ、シャビ、イニエスタ、ペドロ)がバルセロナだ。

単にグアルディオラが偉大過ぎた可能性もあるけど、これはヒントになるんじゃなかろうか。つまり、国内でうまくいっているクラブチームのスタイルをそのまま代表チームに持ってきてしまうのだ。

クラブチームと違って活動期間が短い代表チームは、クラブチームほど戦術面を詰めて熟成させることが難しい。それならば、国内屈指の強豪から戦術をそのまま移植してしまおうというのである。そうすれば、組織力や戦術の完成度で他国に優位に立てる。

日本でいえばそれは川崎フロンターレだ。多分、いまの川崎はもっとも「日本らしいサッカー」をしている。みんなが見たいスタイルを体現できる代表チームになるような気がする。私はかねてから一度だけでいいから川崎を軸にした代表を見てみたいと思っている。




たどり着いた先は「ブラジル」だった

しかし、このままではスタイルが明確ゆえに弱点も明確という課題は解決されていない。やはり、弱点を覆い隠すには様々な局面に対応できる全方位型のチームを作るしかないだろう。

実は、2014年のドイツ代表はその要素を持っていた。4年前に似たスタイルで優勝したスペインは小柄なチームだったが、ドイツは本来フィジカルに優れた国だ。フィジカル的な強さ、無尽蔵のスタミナ、不屈の闘争心といったところが伝統的なドイツの強みで、そこに不足していたテクニックが加わった。だから、パスワークを軸としながらもいざとなればパワープレーもできた。

準々決勝のフランス戦では13分にコーナーキックからフンメルスがゴールを奪うと、フランスにボールを持たせて早々に守備を固め、試合を塩漬けにして逃げきっている。状況に応じて柔軟な戦い方ができる、全方位型に近いチームだった。

そのドイツに敗れたフランスが4年後に世界を制覇することになる。彼らは出場32チームの中で最も多様性があるチームだった。先発はほぼ固定されていたのだが、そのうち半分以上の6人が黒人系選手(ヴァラン、ウンティティ、カンテ、ポグバ、マテュイディ、ムバッペ)。ドイツ系のグリーズマン、スペイン系のリュカを合わせれば、純フランス人の方が少数派だ。

かつてのフランスは華麗なパスワークを武器にしていて「シャンパンフットボール」と呼ばれた。ここに黒人系の移民が入ってきたことでフィジカルの要素が加わり、何でもできるようになった。

この多様な陣容を活かした柔軟な戦いが2018年のフランスの強みだった。ボールを持つことも、しっかり守ってカウンターを打つこともできる。これといった特徴がないチームだったが、それだけ何でもできるチームだった。

 

同大会では準優勝のクロアチアが4年前のドイツの路線。大柄な選手の中にテクニックがあるモドリッチとラキティッチが入り、全員がハードワークできてどんな局面にも対応できた。

3位のベルギーは主力の中ではルカクとコンパニが黒人系、フェライニとシャドリがモロッコ系、ヴィツェルがカリブ海のマルティニーク系。ベンチにはデンベレ、バチュアイ、ティーレマンス、ボヤタと黒人系が多くいた。

4位のイングランドもデレ・アリ、ラッシュフォードにはアフリカ系の、スターリング、ヤング、ウォーカー、リンガードらにはカリブ海系の血が入っている。大会後に出てきたサンチョやサカといった期待の若手もこぞって黒人系である。

このように、代表チームに多様性を生んでいるのが移民である。特に、黒人系の取り込みは欧州サッカーにとって転換点だったといっていい。ただし、黒人に絶対の優位性があるわけではないことに注意が必要だ。もしそうだとしたら、ワールドカップは常にアフリカのチームが優勝しているはずだ。あくまでもキーワードは多様性である。

偏ったスタイルのチームが多い代表レベルの大会において、多様性があることは強い。相手に応じて的確に弱点をつけるからだ。先ほどの例でいえば、じゃんけんでグーもチョキもパーもだせるようになった状態だ。

思えば、ブラジルがずっと強かったのはもとから多様性がある国だったからだろう。白人系、黒人系、それらの混血(メスチソ、ムラート)がいりまじり、国民自体が実に多様だ。だからこそ、ブラジルは昔からずっと強いのだろう。そういう意味で、世界は「ブラジル化」しているといえる。




日本の未来は…

代表サッカーで最強なのが「ブラジル」だとすれば、日本はどうすればいいのだろう。

メディアや協会がゴリ押しする「自分たちのサッカー」を追求するだけではだめで、強みを伸ばすとともに弱みを埋める作業も必要だろう。しかし、日本人はとても閉鎖的で排他的だ。日本の弱点を埋めるという作業に取り組んだハリルホジッチを大会直前で追い出し、西野監督を据えて「自分たちのサッカー」に回帰していることからもそれは明らかだ。

日本でも少しずつ黒人系のアスリートが増えてきているとはいえ、ヨーロッパレベルまで多様性が出てくるにはまだまだ時間がかかりそうだ。そもそも日本は移民に対して排斥的なので、他民族を取り込むスピードはさらに遅いだろう。

世界が多様性へ向かう中、自国民だけで閉鎖的な日本。これは社会の様子そのものにも当てはまる。やっぱり代表チームはその国の文化的な背景を映し出すのだ。

日本という国自体が変わっていかない限り、日本サッカーが本当の意味で世界屈指の強豪になる日はやってこないのかもしれない。

それでも、現状日本の目標はベスト8に入ること。そこまでなら、「自分たちのサッカー」でもなんとかなるかもしれない。事実、長身頑健な選手を集めたロシアとスウェーデンが2018年にベスト8まで進んでいる。

多様性の取り込みに関しても希望が無くなったわけではない。成功例はラグビー日本代表だ。帰化選手を多く取り込んで初のW杯ベスト8進出を達成している。当初は批判の声もあったが、勝ち進んでいく中で国民全体が「ワンチーム」となっていった。成功事例があることで国民も多少は寛容になっているはずだ。

現代サッカーではフィジカルが重視される傾向が強まっており、日本が世界標準路線に乗っかるのなら多様性を取り込むしか道はないだろう。

多様性vs自分たちのサッカー。日本は果たしてどちらの路線を歩んでいくのだろうか。この選択は、今後の日本サッカーを左右する重要なものになるだろう。

 

 

今回の参考図書

 

『ワールドカップ タクティカルレポート』

  • 西部謙司 著
  • 学研プラス 出版
  • 第1刷 2018年9月11日
  • ¥1650(税込)

 

 

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