
【ナポリの司令塔】ファビアン・ルイスのプレースタイルを徹底解剖!
スペインと言えばティキ・タカのイメージが強い。イニエスタ、シャビ、ダビド・シルバ、ブスケッツなどを軸にした華麗なパスワークでEURO連覇・ワールドカップを制覇した「無敵艦隊」は、精密なパスワークで相手を翻弄し、華麗に勝利を重ねていった。
2008~2012年の黄金期を支えた名手が続々と代表を退き、近年は目立った成績を残せていないスペイン代表。現在は再建途上にある。
そんなスペイン代表で主力を張る、ティキ・タカの精神を受け継いだMFがいる。ファビアン・ルイスだ。
ファビアンは母国のベティスでデビューし、4シーズンを戦った後、18-19シーズンからイタリアの強豪SSCナポリに加入した。
移籍初年度からまずまずの出場機会を得て7ゴール5アシストを記録。さらに、シーズン終了後のU21欧州選手権では見事に優勝。個人としては大会最優秀選手賞を受賞するなど大暴れし、翌シーズンには完全にナポリの主力に定着している。
今シーズンはここまで2ゴール1アシストと結果こそ残せていないが、完全に中盤の大黒柱として君臨。いまやバルサやレアル、リバプールなど各国のメガクラブから熱視線を集める存在にまで成長した。
なぜ、ファビアンはそこまで注目を集めるのか。
今回はファビアン・ルイスのプレースタイルについて徹底的に掘り下げていこうと思う。
ファビアンのプレースタイル
正確なパスでゲームを組み立てる
ファビアンのプレースタイルをひとことで言い表してしまえば「レジスタ」だ。左足から繰り出す長短の正確なパスを駆使して攻撃を組み立てる。
- 1試合平均パス成功数 53.8(チーム内2位)
- パス成功率 90%
というデータを見るだけでも、ファビアンがナポリの組み立ての中心になっていることがわかる。ちなみに、ファビアンは昨シーズンのセリエAで最もパスを成功させた選手でもあった。リーグ全体でみても屈指の司令塔だといっていいだろう。
特筆すべきはただパスの回数が多いだけではないことだ。無難に横パスをつないでいるだけで成功率も成功数も増えていくが、ファビアンは局面を前に進めるパス、そして決定的なチャンスを作り出すパスにも積極的。そしてなおかつ、その成功率が非常に高い。
〈敵陣でのパス成功率(カッコ内は1試合平均成功数)〉
〈浮き球のパス成功率(カッコ内は1試合平均成功数)〉
ナポリの中盤の選手のスタッツを並べてみたが、回数・成功率のいずれもファビアンがトップだ。ここまでハイレベルに質と量を両立できる選手はなかなかいない。
実際に試合を見ていて感じるのはボールを散らすテンポの良さだ。ワンタッチ・ツータッチでシンプルに散らして動き直し、またボールを受けては少ないタッチでボールを離す。だから相手につかまらない。ナポリの中盤の選手の中でもひとりだけリズムが違う印象だ。
そうやってチームのパスワークにリズムを生み出しつつ、味方の動き出しが視野に入れば決定的なスルーパスも出せる。ミドルレンジのパスでもぴたりと足元に合わせる繊細なボールは芸術品だ。相手にパスコースを切られても浮き球で通せるのも大きい。相手からしたら厄介なことこの上ないだろう。
ここまでは1アシストしか記録していないファビアンだが、
- 1試合平均キーパス数は1.3(チーム内5位)
を記録している。毎試合必ずシュートチャンスを作り出している計算だ。実際のアシスト数はファビアンが作り出すチャンスの数に対して不当に少ないと考えていいのではないだろうか。
さらに、特筆すべきがロングパスだ。
- 1試合平均ロングパス成功数 4.7(チーム内1位)
ちなみに、このデータではチーム内でトップなだけでなくリーグ全体でも10位にランクしている。
成功率に関しても、
〈ロングパス成功率〉
となっており、やはりミスが少ない。ファビアンの左足の正確性が際立つばかりだ。
実際に試合を見ていると、ナポリのサイドチェンジはほとんどファビアンが担当している。
下に示したのは直近のローマ戦におけるナポリのプレーエリアだ。
右サイドの低い位置と左サイドの高い位置の色が濃くなっている。
この両サイドをつなぐ役割を果たしているのがファビアンだ。中盤の右側を担当することが多いファビアンは、低めの位置にサポートに入ってボールを受け、逆サイドへロングボールを送る。そこで待っているのは、ナポリの崩しの切り札インシーニェだ。
右のファビアンから、左のインシーニェへ。これがナポリのビルドアップの基本的な狙いだ。これを成立させるうえで、ファビアンの高精度なロングボールは欠かせないのである。
このように、ショートパス、ロングパス、浮き球のパスと、ありとあらゆるパスの精度が高いのがファビアンという選手だ。
キープ力と運動量も十分
ファビアンはただボールをつなぐだけの選手ではない。足元のテクニックを備えるファビアンは相手をはがすドリブルが得意だ。
- ドリブル成功率 80%
と中盤の選手としては高い数字を残している。デンメのそれが58%であることを考えれば、ファビアンがほとんど失うことなくボールを前進させていることがわかるだろう。
この記事を書くためにベティス時代のプレーもチェックしたのだが、今よりも積極的にドリブル突破を仕掛けていて驚いた。多少強引にでも自分で突破してやろうという積極性にあふれていた。スペイン時代のファビアンは若さ溢れるイケイケなスタイルだったようだ。
実際、ベティス最終年となった17-18シーズンには1試合平均ドリブル成功数が2.0だった。これは、今のナポリにそのまま当てはめればチームトップタイになる。
そこからナポリに移籍し、年を重ねることにその数字は1.3→1.0→0.7とどんどん減って今ではスペイン時代の半分以下だ。ファビアンはイタリアにきてから少ないタッチでシンプルにパスを散らすレジスタに変貌したといえる。
おそらく、ファビアンは今でもドリブルで仕掛けようと思えばできるのだろう。でも、あえてやっていない。シンプルに味方を使ったほうがチームのためになるからそうしている。この適応力の高さもファビアンの武器だ。
さらに、ファビアンは豊富な運動量も武器としている。
- 1試合平均走行距離 11.2km(チーム内1位)
となっており、この数字はリーグ全体で見ても10位に入る。
ファビアンがたくさんのパスを成功させられるのは、ただ左足のキックがうまいからだけではない。パスをさばいてはまた動き、味方にパスコースを作り出す。そして受けては散らし、チャンスを作り出す。この動き直しを常に繰り返せる運動量を備えているからこそたくさんボールに絡めるのだ。
ファビアンはただパスをさばく繊細な司令塔ではない。ドリブルで持ち運んだり、中盤のスペースに走りこんだりといったプレーもできるダイナミックな司令塔なのだ。
このことから、ファビアンが今シーズン数字を残せていない原因も見えてくる。
7ゴール5アシストを記録した一昨シーズン、ファビアンは4-4-2の左サイドハーフで主にプレーしていた。当時のナポリは左サイドバックのマリオ・ルイが上がり、ファビアンを中央に送り込むメカニズムを採用していたため、攻撃時には実質3センターの左インサイドハーフだった。
昨シーズンはそもそもの基本フォーメーションが4-3-3。ファビアンはその右インサイドハーフを務めていた。
一方、今シーズンのナポリは4-2-3-1を基本フォーメーションとしており、ファビアンはその2セントラルMFの右が定位置だ。
基本的に、中盤が3枚だとアンカーが後方に残るので、両脇のインサイドハーフは自由に上下動できる。一方、2セントラルMFだとふたりでバランスを取る必要があり、一方が上がればもう一方が後方に残るのが基本。だから、3セントラルのインサイドハーフと比べて攻め上がりが制限される。
実際に今シーズンと昨シーズンのヒートマップを比較してみよう。1枚目が今シーズン、2枚目が昨シーズンだ。

今シーズン

昨シーズン
全体的に今シーズンの方が重心が低くなっていることがわかると思う。今シーズンの方が10メートルほどプレーエリアが低い。
つまり、ファビアンのゴールに関与する回数が少なくなっているのはそもそもゴールに近い位置でプレーする頻度が減ったからなのだ。
このことを考えれば、ファビアンの最適なポジションはインサイドハーフだといえるだろう。
一定の守備力も兼備
さらに、ファビアンは守備面での貢献度も高い。
- 1試合平均タックル数 1.5(チーム内4位)
- 地上戦デュエル勝率 54%
やはりここでも豊富な運動量が活きている印象だ。広範囲に動けるファビアンは守れる範囲も広く、最終ラインの前を広範囲に動きながらボール奪取を狙っている。また189cmの長身を活かしてボールをつつくことができ、体を入れれば長い手足でボールを守れる。細身な見た目とは裏腹に、デュエルでは半分以上で勝利している。
さらに得意なのがインターセプトで、
〈1試合平均インターセプト数〉
と中盤の面々の中では最も高い数値を記録している。試合を見ていて感じるのは、豊富な運動量や長い足を前に出せること以上に相手の狙いを察知する予測力の素晴らしさ。インターセプトもそうだし、相手のパスコースを読んでいるからプレッシャーが速い。守備時にインテリジェンスの高さを感じさせてくれる、希少な選手だ。
そして、ファビアンは長身であるために空中戦にも強い。
- 空中戦勝率 65%
という数字はナポリのMF陣の中では群を抜いて高くなっている。
このように、ファビアンは
- 正確なパスで攻撃を組み立てる
- 豊富な運動量とキープ力
- 守備力も高い
と攻守に目立った穴がない万能なMFだ。
ファビアンの弱点
それでは、ファビアンの弱点をふたつほど紹介しよう。
①足の遅さ
ひとつめが足の遅さだ。運動量が非常に豊富なファビアンだが、残念ながらスプリント力は持ち合わせていない。だから、長距離をドリブルで持ち運んだり、前向きの相手について行ってタックルを見舞ったりといったプレーは得意としていない。
個人的には、テンポが速いプレミアリーグでは苦労しそうな気がする。もし移籍するのなら、スペイン2強がいいだろう。もちろんずっとイタリアにいてほしいけど。
②決定力
もうひとつが決定力が若干低いことだ。前述したように、今シーズンのファビアンは昨シーズンよりもプレーエリアを下げており、シュート数も減ってはいる。しかし、それでも1試合平均シュート数は1.1となっており、毎試合1本は必ずシュートを打っている計算になる。その中で得点数が1というのは、そのほかの能力の高さから考えると物足りない印象はある。
ここまで見てきた通り、ファビアンはすべての能力を高次元で兼ね備えた万能なMF。将来的に超ワールドクラスのMFになってもおかしくない。その領域に到達するために足りないのがゴールだと思うのだ。
ここで、シュートに関するデータを同じスペイン国籍のMFルイス・アルベルトと比較してみよう。
ラツィオでプレーするルイス・アルベルトは、正確なパスで攻撃を組み立てるプレースタイルがファビアンと非常によく似ている。ともにスペイン人MFらしい司令塔タイプだ。足がそこまで速くないことも共通している。
シュートを打った場所のゴールからの距離の平均値も
- ファビアン :20.3m
- ルイス・アルベルト:20.8m
とほぼ同じだ。そんな中で、ファビアンのゴール数が1なのに対し、ルイス・アルベルトはここまで8ゴールを記録している。細かいデータを見てみても、
〈枠内シュート率〉
- ファビアン :26.7%
- ルイス・アルベルト:44.2%
〈シュート1本あたり得点数〉
- ファビアン :0.03
- ルイス・アルベルト:0.15
と、やはりファビアンの方が大きく劣っている。リーグ戦だけで5ゴールをたたき出した18-19シーズンも
- 枠内シュート率 28.3%
- シュート1本あたり足り得点数 0.09
となっていて、MFとしてはセリエAトップクラスの得点力をもつルイス・アルベルトのレベルからすると、やはりファビアンの決定力はまだ数段低いところにあるといえるのではないだろうか。
実際に試合を見ていて気になるのがDFにブロックされるシュートの多さ。足の遅さともつながってくるが、ファビアンは全体的にモーションがスローで、シュートを狙っても相手がギリギリ間に合ってブロックされてしまうケースが多い。
得点数を増やすにはシュートの精度を高めることに加えて、よりフリーに近い状態でボールを受けるなりフェイントで相手の動きを止めるなりの工夫が必要だろう。
ここがファビアンが真のトップクラスに上り詰めるために唯一足りない要素だと思う。時折見せるスーパーなミドルシュートは間違いなくワールドクラスなだけに、これをより高い頻度で見せられるようになればおのずと得点数は伸びていくはずだ。
そうなってくれば、いよいよファビアンはスペインの中盤を牛耳るレベルのMFとして大成していくのではないだろうか。
あとがき
2021年3月のスペイン代表にもしっかり召集されたファビアン。大きな怪我がなければ今年6月に開催されるEUROのメンバーに選出されることは間違いないだろう。スペイン代表はグループEでスウェーデン、ポーランド、スロバキアと対戦することが決まっている。おそらくスペインがこのグループで敗退することはないだろう。スペイン代表が狙っているのは、8年ぶりの王座奪還だ。
2年前、U21代表が欧州制覇したスペイン。この黄金世代がA代表でも主力として定着してきつつあり、その筆頭といえるのがファビアンだ。
パスワークを身上とするスペイン代表にとって、中盤のタレントは生命線。そして、ファビアンはその中盤で中心的な役割を果たしうるタレントだ。自らのプレーでスペインに再びタイトルをもたらせるか。ファビアンとスペイン代表のプレーに注目だ。
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