
【ヴェローナの万能アタッカー】アントニン・バラクのプレースタイルを徹底解剖
かつてミランでプレーしたレジェンドのひとりにカカがいる。圧巻のスピードとフィジカルを活かした推進力あふれるドリブルを武器としたカカ。彼は、それまで華麗で柔らかいというトップ下に対するイメージを覆し、フィジカルなトップ下として一世を風靡した。
そして今、ミランが再びフィジカルの強さを武器とする攻撃的MFの獲得を狙うのではないかという情報が入ってきた。ヴェローナでプレーするアントニン・バラクだ。
母国チェコのプリブラムでデビューしたバラクは国内屈指の強豪スラビア・プラハに移籍。すると、16-17シーズンのリーグ制覇に貢献して17-18シーズンからイタリアのウディネーゼに加入する。
すると、当時22歳だったバラクは移籍初年度から7ゴール3アシストを記録してブレイク。将来性豊かな若手アタッカーとして一気に注目を集めたのだった。
ここまでは順風満帆なキャリアを歩んできたバラクだったが、翌シーズンから激しい腰痛に苦しまされてしまう。思うようにプレーできない期間が続いたバラクは、ブレイクから1年半後の2020年1月にレッチェへレンタルされた。
すると、半年の間に16試合出場して2ゴール1アシストと孤軍奮闘。レッチェは降格してしまったものの、個人としての活躍を評価される形でヴェローナに加入して現在に至る。
そして迎えた今シーズン、バラクは加入初年度ながらここまでリーグ戦24試合に出場して6ゴール2アシストを記録。3年前に記録したキャリアハイを上回るペースで得点とアシストを量産しており、いまやヴェローナに欠かせない中心選手だ。
そんなバラクはいったいどのようなプレーヤーなのか。
今回はアントニン・バラクのプレースタイルについて徹底的に掘り下げていこうと思う。
バラクのプレースタイル
恵まれたフィジカル能力
バラクの最大の特徴がフィジカル能力の高さだ。
バラクは190cmの長身で、体重も86kgとがっしりとしている。簡単には当たり負けしない。
- タックル成功率 78%
となっており、ほとんどのタックルを成功させている。このことからもバラクがコンタクトプレーに非常に強いことがわかる。
また、攻撃時にもその強靭な体は活かされる。バラクがボールをキープして前線で起点になるプレーはヴェローナにとって欠かせない武器のひとつだ。
さらに、前を向けば迫力あるドリブルで局面を打開することもできる。
ここで、ヴェローナのシャドーでプレーする選手のドリブル成功率について比較してみよう。
〈1試合平均ドリブル成功率〉
- バラク :78%
- ザッカーニ:59%
- コリー :56%
このように、バラクが群を抜いている。攻撃的MFの位置でドリブル成功率が8割近いのは驚異的だ。これだけ大柄な選手が推進力を持って突進してくれば、止めるのは困難なのだ。
バラクのドリブルは緩急とタイミングの変化でかわしていく直線的なものだ。難しいフェイントは使わず、するすると抜けていく。バラクの場合スピードはあまりないとはいえ、その様子はカカを彷彿とさせる。
持ち前のフィジカルに加えて足元のテクニックも安定しているバラクは、ドリブルしているときにタッチが乱れることがほとんどない。常に自分の足元にボールを置いているからこそ、相手の動きを見ながらタイミングをずらすことができるのだ。
そもそもバラクは走力に優れるプレイヤーで、運動量が多い。だから何度も長距離を持ち運んで局面を打開できるのだ。
- 1試合平均走行距離 11.18km(チーム内トップ、セリエA全体の10位)
このように、バラクはリーグ屈指のダイナモなのだ。
さらに、バラクはただ走れるだけではない。クレバーに走れる選手だ。ビルドアップが詰まっていたら中盤に降りてきてサポートし、ウイングバックにボールが入ったら縦にインナーラップしてサポートする。どこに走れば効果的かを常に意識してランニングコースを選択できている印象だ。ただランニングの量が多いだけでなく、質も伴っているのがバラクだ。
そして、空中戦の強さもバラクの武器だ。
長身な上に跳躍力も驚異的なバラクは空中戦に絶対の自信を持っている。ここまでヘディングで2つのゴールを挙げているおり、いずれもファーサイドで待ち構えて相手DFの上から叩き込んだものだ。
ゴールを決めたときの写真を見てみても、どちらも頭一つ抜け出ている。バラクの頭に合わせられると止めるのは困難を極めるだろう。
得点能力の高さ
この2ゴールを含めバラクはここまでチームトップの6ゴールを記録しており、得点能力も高い。
得点力の秘密のひとつは前述のヘディングの強さ。もうひとつが左足から繰り出す強烈かつ正確なミドルシュートだ。
キャリアハイの7ゴールを決めた17-18シーズンには
- 17-18シーズンの枠内シュート率 55%(セリエA6位)
を記録しており、半分以上を枠内に収めるという高数値をたたき出した。今季はそれほどではないものの、可能性を感じさせるシュートを随所で見せている。
精度が高いだけでなくパワーもあるのがバラクの左足で、ここでも恵まれたフィジカル能力が活かされている。
- 1試合平均シュート数 1.4(チーム内2位)
と積極的にシュートを打っているのも、シュートレンジが広いからこそだろう。
テクニックも兼備
ここまでは「使われる側」の話をしてきたが、バラクは味方を「使う側」としても優秀だ。
トップ下の選手らしく足元のテクニックも安定しており、ボールコントロールとパスの精度が高い。
- 1試合平均キーパス数 1.0(チーム内3位)
と、ドリブルだけでなくパスでもチャンスを演出していることがわかる。
- アシスト期待値 2.4
というデータを見ても、実際の数字以上に質が高いチャンスを提供していることがわかるだろう。
バラクはパスの精度が高いだけでなく、自分でボールをキープしながら味方のタイミングを待てる。フィジカルと細かいボールタッチで相手に飛び込ませないようにしながら、パスコースが空くのを待つことができるのだ。もちろん、味方の動きを見逃さない視野の広さとタイミングの感覚も素晴らしい。そのため、バラクはパスの成功率が高くなっている。
再びシャドーの選手で比較してみると、
〈敵陣でのパス成功率〉
- バラク :74%
- ザッカーニ:66%
- コリー :70%
となっている。やっぱりバラクはパスミスが少ない。シュートの精度の高さも含め、ひとつひとつのプレーの質が高い選手だといえるだろう。
ユーティリティー性も武器
さらに、バラクはユーティリティー性も持ち合わせている。
現在は右のシャドーで定位置をつかんでいるバラクだが、2020年内はボランチや右のウイングバックで起用された試合もあった。もともと持っているフィジカル能力とテクニックの高さがあるからこそどのポジションでも高いパフォーマンスを発揮できるのだろう。
まとめると、
- 強くて走れてヘディングに強い
- 豪快なドリブル突破は強力
- 得点能力が高い
- チャンスメイク力も高い
- 複数のポジションをこなせる
すべてのプレーの平均値が高い万能な選手だといえるだろう。
バラクの弱点
それでは、バラクの弱点は何だろうか。
私はスピードの不足だと思う。
運動量があり走れるバラクだが、純粋なスピードはそこまでないのだ。運動量を活かして前線でのプレッシング、相手に前進されてからのプレスバックに献身的であるものの、スピードの不足のために相手に対して守備アクションを起こすところにまではいけていない。
〈90分あたりタックル数〉
- バラク :1.2
- ザッカーニ:1.4
〈1試合平均インターセプト数〉
- バラク :0.3
- ザッカーニ:0.8
となっており、いずれもザッカーニに負けている。
また、シンプルに走り負ける場面も見られる。直近のサッスオーロ戦の2失点目もバラクがキリアコプーロスに走り負けて裏を取られたところから始まっている。
ただし、この弱点はヴェローナの戦術上の特性から目立ってしまっている印象もある。ヴェローナはマンツーマンを基本とする守備を採用しており、ひとりひとりがマッチアップ相手に負けないこと、しつこくついて行くことを要求されている。だからこそ1対1の走り合いが増えてバラクのスピード不足が目立っている印象だ。
バラクが守備に対する献身性を持っていることは説明した通り。通常のチームのゾーンディフェンスにおいてなら、問題ないレベルで機能するはずだ。
あとがき
ウディネーゼでのブレイク後、怪我によって一時はキャリアが下降しかけたバラク。しかし、今シーズンは復活を印象付けるパフォーマンスを見せ、もともと持っていた能力の高さを証明して見せている。
現在のレベルのパフォーマンスを見れば、国内のビッグクラブが目をつけるのも当然だろう。ミランのほか、恩師ユリッチの指揮官就任が噂されるナポリがもろとも獲得する可能性も取り沙汰されている。
昨年12月に26歳になったバラクはここからキャリアの絶頂期を迎えるだろう。そのタイミングでビッグクラブで腕を試すという選択は理想的に思える。
個人的には、どのクラブに入っても一定の活躍を見込めると思う。それだけ能力の高い選手だ。
今シーズンはおそらくキャリアハイのゴール数・アシスト数を更新するだろう。その数字はどこまで伸びるだろうか。そして、その実績を引っ提げて来季はどこでプレーするのだろうか。チェコが生んだ新たなフィジカル系攻撃的MFに注目だ。
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