
【セリエ屈指の攻撃的左WB】フェデリコ・ディマルコのプレースタイルまとめ
今シーズン、イタリアでにわかに注目を集めているプロビンチャがエラス・ヴェローナだ。
昇格初年度となった昨シーズンにいきなり9位と一桁フィニッシュを達成すると、今シーズンはここまで8位。アタランタをコピーしたような戦術ですっかり「イタリア第2勢力」としての地位を確立した感がある。
特に目を引くのが新セブン・シスターズに対する強さだ。ここまで9試合戦って3勝4分3敗。王者ユベントスに2度とも引き分けている。前半戦に限って言えば3勝3分1敗で、ヴェローナに勝てたのはインテルだけだったのだ。
そのインテルからヴェローナへレンタルされているのがフェデリコ・ディマルコだ。
ユースからインテルに在籍していたディマルコは16歳でセリエAデビューを果たして注目を集めたものの、その後は出番に恵まれなかった。出場機会を求めてレンタル移籍を繰り返しては、レンタル先でも絶対的なポジションを確保できないシーズンを繰り返して気づけば23歳となっていた。
その今シーズン、ディマルコは第24節終了時点でリーグ戦1743分に出場している。これはヴェローナのフィールドプレーヤーとしては最も長い出場時間だ。チーム内で絶対的な地位を確立していることがわかる。ついにディマルコは才能を開花させ、ブレイクを遂げたのだ。
そんなディマルコのプレースタイルとはどのようなものなのか。徹底的に掘り下げていきたい。
ディマルコのプレースタイル
ディマルコは「ロベルト・カルロスとジョルディ・アルバがアイドル」と語る。この言葉に彼のプレースタイルが凝縮されている。
どういうことなのか。詳しくみていこう。
高精度の左足
ディマルコの最大の武器が高精度の左足キックだ。
これは「ロベルト・カルロス」のほうで、往年の名手ほどのパワーはないものの精度は決して劣らない。タッチライン際から供給するクロスは正確で、その精度を買われてプレースキックのキッカーも務めている。
ここまでディマルコは
- 1試合平均のキーパス数でリーグ4位の2.3
を記録している。もちろんチーム内では1位だ。これを見るだけでもディマルコの左足から多くのチャンスが生まれていることがわかる。
さらに、キーパス数がディマルコよりも上位の選手を見てみるとチャルハノール(ミラン)、イリチッチ(アタランタ)、デ・パウル(ウディネーゼ)といずれもピッチ中央でプレーする選手ばかりなのだ。
つまり、セリエAで最もサイドからチャンスを作り出しているのはディマルコだといえる。「セリエA最高のクロッサー」と言っていいだろう。
特筆すべきは大外からのクロスも、ペナルティエリア内に侵入してからの折り返しも両方がハイレベルであること。ファーサイドのバラクにふわっと合わせるボール、GKとDFラインの間に入れる鋭いボール、マイナスの位置でフリーになっている味方の足元に届けるボールを蹴り分けるバリエーションの豊富さが素晴らしい。
アシスト数は3にとどまっているじゃないかと言われそうだが、実際にアシストの数字がつくかどうかは味方が決めきれるかどうかに依存する。だから、本当にディマルコが作り出しているチャンスの質を見るためには、実際の数字ではなく期待値によってみるのが妥当だろう。
- ディマルコのアシスト期待値は 4.7
いかがだろう。ディマルコが数字以上にチャンスを生み出していることがわかるのではないだろうか。
ちなみに、ディマルコのアシスト期待値4.7というのは、現在アシストランキングでトップタイ(8アシスト)のアルバロ・モラタの同数値3.9を1点近く上回っている。
このことからみても、実際のアシスト数は味方の質に依存していることがわかる。より確実に味方がシュートを決めてくれるであろうビッグクラブに移籍すれば、ディマルコのアシスト数はグンと上がる可能性が高いといえるだろう。
さらに、ディマルコの左足は味方にチャンスを提供するだけにとどまらない。自らの得点能力も高く、第16節から4試合で3ゴール。得点能力にも磨きをかけつつある。
しかも、特筆すべきは難易度の高いゴールが多いことだ。それはデータにも表れている。
- ディマルコのゴール期待値は1.5
と実際のゴール数の半分でしかないのだ。彼の高い技術力があってこそ難しいボールもゴールに結びつけることができるのだろう。
後方からの浮き球をボレーで叩き込んだトリノ戦での得点、アウトサイドで流し込んだクロトーネ戦の得点はビューティフルゴールだった。ぜひ検索してみてみてほしい。
オフ・ザ・ボールの動き出し
ディマルコが得点を奪える理由は正確な左足だけが理由ではない。オフ・ザ・ボールの動き出しが秀逸なのだ。これが「ジョルディ・アルバ」のほうだ。
ディマルコとともに左サイドを務めるのがシャドーのマッティア・ザッカーニ。彼とディマルコの連携が抜群で、ディマルコの飛び出しに正確に合わせるザッカーニという関係はまさにバルセロナでのジョルディ・アルバとメッシの関係を思い起こさせるものだ。
特に多くみられるのがザッカーニがアウトサイドに流れ(1⃣)、空いたハーフスペースをディマルコが駆け上がる(2⃣)という連携だ。
ディマルコがゴールめがけて駆け上がることにより彼の左足をよりゴールに近い位置で生かせる。この連係プレーの完成度が高まったことでディマルコの得点能力が開眼したのだ。
逆にザッカーニが中に絞っていればディマルコは外側からオーバーラップしてザッカーニをサポートする。このランニングの使い分けの的確さ、サポートに入るタイミングの良さ、そしてそれを90分通して続けられるスタミナも素晴らしい。
このように、ディマルコは
- ボールの受け手としてだけでなくボールの出し手としても優秀で、
- ゴールに近い位置からでも大外からでも正確なクロスでチャンスを演出でき、
- 自らゴールも奪える
まさにロベルト・カルロスの左足とジョルディ・アルバのオフ・ザ・ボールが融合したようなプレイヤーとして完成されつつあるのだ。
ディマルコはすでに攻撃性能ではセリエAの中でも屈指の完成度を誇ると評価していいだろう。彼の存在がヴェローナの躍進を支えていることは明白だ。
ディマルコの弱点
攻撃面ではすでに高い能力値を持っているディマルコ。課題はやはり守備面にありそうだ。
175cm75kgと屈強なフィジカルを持つディマルコは地上戦でのデュエルには強い。
- 地上でのデュエル勝率 57%
と高い数値を記録している。
特にヴェローナはマンツーマンディフェンスを基本とした戦術を採用しており、前向きに勢いを持ってプレスを仕掛ける場面が多い。チームが採用する戦術との相性の良さも相まって、地上戦の強さが際立っている格好だ。
しかし、空中戦に目を向けると、
- 空中戦勝率 39%
と低い数値となっている。ディマルコはあまりジャンプ力がなく、空中戦の競り合いには弱いのだ。
3バックの一角で起用された試合もあったディマルコだが、その試合では落下地点を読み間違えてボールを背後に落としてしまう場面も見られた。やはり頭でボールを処理するのは苦手な印象だ。ユリッチ監督もディマルコの守備面での不安定さを読み取ったのだろう。数試合でディマルコをCBで起用する試みは挫折している。
また、全体としては地上戦での勝率が高いディマルコだが、相手に前を向かれると一気にもろさを見せる。どこでタックルを仕掛けるべきかのタイミングの感覚が未熟で、対峙するアタッカーに対して自由を与えてしまう傾向がみられるのだ。
先日のユベントス戦ではキエーザに前を向かれ、簡単にペナルティエリア内に侵入されるという場面が見られた。エリア外で止めてしまうのが守備のセオリーだが、ディマルコは何もできずにただ後退するだけだった。結局、そのままシュートを打たれている。
さらに、イエローカードも5枚と比較的多く、クリーンにボールを奪う技術の習得も必要だ。
このようなディマルコの現状を考えると、比較的攻撃的にふるまうことが許されるウイングバックで起用されれば、すでにビッグクラブでも活躍していけるレベルにあるといえるだろう。だが、より一人一人の守備力が求められる4バックのサイドバックで起用されると、守備の弱さが露呈して苦しむことになるように見える。
イタリア代表でレギュラーを張るようなプレイヤーになるためには、守備面について全体的に向上させていく必要があるのではないだろうか。
あとがき
ディマルコの保有権は今も古巣のインテルにある。そのため、インテルへの復帰待望論が持ち上がっているようだ。
しかし、今回のレンタル契約ではヴェローナに対して1000万€での買取オプションが付与されているようだ。さらに、インテル側には買戻しオプションがないという。きっとインテル側からしてもディマルコのブレイクは想定外だったのだろう。昨シーズンまでどのクラブでも絶対的な地位を築けていなかった流れを見れば、それも致し方なしといったところだろうか。
今シーズンに急速に台頭したディマルコは、守備面に課題を残すものの攻撃力でいえばリーグでも屈指のサイドプレイヤーだといって間違いない。彼を欲しがるクラブはインテル以外にもあるはずだ。果たして来期はどこでプレーするのだろうか。
まだ23歳のディマルコは伸びしろも十分。今後順調に成長していけば、アッズーリ入りも実現するはずだ。
ディマルコの今後の活躍に注目していきたい。
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