【イタリアーノの緻密な攻撃サッカー】スペツィア・カルチョの戦術を徹底解剖!

【イタリアーノの緻密な攻撃サッカー】スペツィア・カルチョの戦術を徹底解剖!

2021年3月2日 4 投稿者: マツシタ
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この記事は後編になっています。前回の記事は下のリンクからどうぞ!

【創設115年目のドリーム】スペツィア・カルチョのメンバーを徹底解剖!

 

 

攻撃

 

丁寧なビルドアップ

スペツィアは昇格チームらしからぬ攻撃的な戦術を採用している。

ビルドアップは後方から丁寧につないでいく。これを可能にしているのがバランスが取れたポジショニングだ。

スペツィアはビルドアップ時に4-3-3をほとんど崩さないままピッチ全体に広げたようなポジショニングをとる。こうすることで、ピッチ内にいくつものトライアングルを作り出す。

パスを回すためには三角形が重要だよ、というサッカーの基本に忠実なスタイルだ。

ここ最近は攻撃と守備で陣形を大きく変える可変システムがトレンドだが、スペツィアではこれを採用していない。おそらく、スカッドに限界があるからだろう。難しいことはせず、システムにある程度忠実にすることで選手から無駄な思考を排除し、チームとして機能しやすくしている印象だ。

この基本となるポジションから少しずれることで常に味方にパスコースを提供する。それぞれの立ち位置が被らないこと、選手間の距離がいいこともパスが回る秘訣だ。ここら辺はしっかりと訓練されている印象を受ける。

スペツィアがボールを大切にしていること、攻撃的なサッカーを志向していることはCBのふるまいを見ればすぐにわかる。スペツィアの両CBは前方にスペースがあれば積極的にドリブルで持ち運び、前方の選手と距離を近くしてからパスを出そうとする。こうすることで、よりパスの成功率が高まっている印象だ。




右サイドからの前進

スペツィアのビルドアップは右サイドが中心になる。右SBのヴィニャーリ、右インサイドハーフのエステベス、右WGのギャシの三角形が中心となり、ここに最前線のアグデロも寄ってきて絡む。

この4人が連携しながらボールを前に運び、崩していこうとするのがスペツィアの特徴だ。

この3人は流れの中から比較的流動的にポジションを入れ替えている印象で、特に多くみられるのが下の図のような循環。

ヴィニャーリが高い位置をとってギャシが内に絞り、後方にエステベスが引くことで相手のマークを混乱させるのだ。ギャシが内に絞ることはアグデロとの連携プレーも引き出している。

最もうまくいっていたミラン戦の平均ポジションを見てみれば、この狙いは一目瞭然。69(ヴィニャーリ)、24(エステベス)、11(ギャシ)、80(アグデロ)が右サイドに密集して連携していることがわかる。

逆に、うまくいかずに0-3で完敗したフィオレンティーナ戦ではヴィニャーリに対して左WBのビラーギがかなり厳しく制限をかけていた。これによって右サイドからの前進が機能不全に陥っていたのだ。

右サイドがスペツィアのビルドアップの中心であることはおわかりいただけるだろう。




リッチのサイドチェンジ

そしてもうひとつ、先ほどの図から読み取れることがわかる。それは逆サイドにも密集ができていることだ。23(サポナーラ)、20(バストーニ)、25(マッジョーレ)の3人もまた非常に近い立ち位置を取っている。

この二つの密集をつなぐ役割を果たすのが、アンカーで起用されるマッテオ・リッチ。右サイドでの攻撃が詰まったら、リッチが中央でボールを引き出し、そこから高精度のサイドチェンジを左WGのサポナーラへ届ける。

  • リッチの1試合当たりロングパス成功数はセリエA全体の3位

このデータを見るだけでも彼がいかに優れたレジスタであるかがわかるだろう。

このリッチのロングボールが攻撃を加速させるスイッチだ。サポナーラへボールが移動している間にマッジョーレとバストーニが一気に駆けあがってサポナーラのパスを引き出し、サイドを崩してクロスを狙う。

バストーニがチーム最多タイの4アシストを記録しているのはこういうメカニズムがあるからなのだ。

  • 右サイドの連携
  • リッチのサイドチェンジから左サイドの素早い崩し

これがスペツィアの攻撃の二本柱だ。




守備

 

外切りが特徴的なプレッシング

スペツィアの守備は試合によって調整が施される。イタリアーノ監督は自分たちが特定のスタイルを持つというよりも、相手の良さを消そうというアプローチを見せてくる印象だ。

たとえばミラン戦ではギャシに対してテオ・エルナンデスへのマンマークを命じ、ミランの主要な前進手段のひとつを消した。そしてギャシ以外のFW・インサイドハーフに厳しいプレッシャーを敢行させてロングボールを蹴らせ、最終ラインとアンカーに回収させることでミランの攻撃を機能不全に陥れた。

また直近のパルマ戦ではあえて前線からはプレスに行かず、カウンターが得意なパルマにボールを持たせることでスピードに乗った攻撃をさせないようなアプローチをとっていた。

イタリアーノ監督はよく相手を研究しているし、その微調整を忠実に実行させる指導力も素晴らしいものがある。イタリアーノはすでにセリエAでも指折りの戦術家だといっていいのではないだろうか。

その中でもひとつ共通点を上げるとすれば、それはウイングが外を切りながら寄せていくプレッシングだ。

この守り方はリバプールや川崎フロンターレをはじめ多くのクラブで採用され始めている守り方で、トレンドのひとつといえる。

世界のサッカーの流れについての造詣の深さがうかがえる。




スペツィアの弱点3つ

それでは、スペツィアに共通してみられる弱点を3つほど紹介しようと思う。

 

最終ラインの背後

まず、最終ラインの裏への飛び出しに対する弱さだ。

以前までのスペツィアはより高い位置からハイプレスを仕掛けていた。それにともない、最終ラインもハーフウェーライン付近にまで高く押し上げていた。

そして、2020年に主力を務めていたテルツィとシャボーにスピードがないこともあり、裏に飛び出す相手に対してはついていくのではなく、オフサイドトラップをかけて対処しようとしていた

しかし、セリエAレベルになるとこれだけではさすがに対処しきれなかった。ともに4失点した1/29のナポリ戦と1/23のローマ戦、さらには昨年11/1のユベントス戦では高い最終ラインの裏をあっさりと破られて大量失点を食らってしまったのだ。

これを受けてイタリアーノ監督はCBコンビをよりスピードのあるイスマイリとエルリッチにチェンジ。さらに、プレスの開始地点を少しだけ下げて裏のスペースをカバーしようとしたのだ。

これによって裏を取られることは少なくなったものの、今度は新しい問題が発生してしまった。

それがリッチの守備力不足問題である。

 

リッチの守備力不足

スペツィアはハイプレスを行う場面では3トップに加えてインサイドハーフの二人も前に出ていって守備をする。そのため、リッチには広大なスペースを管理することが求められる。

しかし、リッチはこと守備面に関しては能力が不足している印象なのだ。ポジショニングをはじめ、どのパスコースを切るべきか、今出ていっていいのかの状況判断なども未熟。単純にデュエルに負けて突破されてしまう場面も見られる。

完敗したフィオレンティーナ戦は、まさしく中盤のスペースを自由に使われて負けた試合だった。

イタリアーノ監督はリッチの攻撃面を評価して起用し続けているのだろう。彼の出場時間はフィールドプレーヤーとしては2番目の長さだ。そして、彼の両脇を埋めさせるためにインサイドハーフにハードワーカータイプのふたりを起用しているのだろう。しかし、今のところその弱点は埋め切れていない。

どう修正していくのか、イタリアーノ監督の手腕が問われている。

 

セットプレーの守備のもろさ

そしてもうひとつの弱点がセットプレーでの守備だ。基本的にはマンツーマンで守るのだが、あまりにも簡単に相手をフリーにしすぎている。直近のパルマ戦での2失点目もとてもあっさりとしたものだった。

セットプレーに関しては攻撃面でも得点数が少なくなっており、攻守ともに今後に向けた改善点だといえそうだ。




トランジション

 

ポジティブトランジション

ポジティブトランジションでは、カウンターではなくボール保持の確立を優先している印象。素早く攻め込むよりも、自分たちのボール保持を確立して整った陣形を維持し、そこから丁寧に攻撃を組み立てていくことが狙いだろう。

プレッシングの開始地点を低めに設定したことから、ボールの奪取地点が低くなっていることも関係しているはずだ。

 

ネガティブトランジション

ネガティブトランジションでは即時奪回を目指してプレッシングをかける。しかし、ボール奪還の成功率は高くないのが実情だ。

簡単にプレスを空転させられて中盤の広大なスペースを使われてしまい、そこを起点にカウンターを仕掛けられる場面が多くなっている。

先ほど言ったリッチの守備力問題が露呈するのは、多くの場合被カウンター時なのだ。




あとがき

攻撃的なパスサッカー、若手中心のスカッド。序文では18-19シーズンのアヤックスに似ていると書いた。しかし、セリエAの中でいえばサッスオーロに近いような気がする。

サッスオーロもまたクラブ初の昇格以降セリエAに残留し続けて定着、いまや攻撃的なスタイルを代名詞にセリエA第二集団としての地位を確立した印象がある。

サッスオーロが強くなったのはピッチ外の充実による部分も大きい。親会社マペイの潤沢な資金力はもちろん、金で有名選手を買い漁るのではなくクラブ施設を充実させて若手を安く買い、自前で育てて高値で売却することでさらなる資金を生むという経営のうまさはイタリアのプロビンチャとは思えないものだ。

アチェルビペッレグリーニデミラル、センシ…。クラブから巣立った若手は数多い。

スペツィアにも同じ雰囲気を感じるのだ。若手主体の攻撃サッカーというのはもちろんのこと、つい先日(2021年2月11日)アメリカ資本によって買収されて新たなサイクルが始まった。

このアメリカ人資本家の資金力と経営手腕が確かなら、今のように若手を獲得しては育て、ポジティブなサイクルを回して成長していけるのではないだろうか。そのモデルロールがサッスオーロなのだ。

今回見てきた通り、スペツィアは戦術的には非常に完成されている。そして、それが十分通用することはすでに今シーズンのパフォーマンスが証明している。

その戦術を構成するタレントの質が上がっていけば、自然と順位を上げていくのではないだろうか。将来的には、今のサッスオーロのようにEL出場権争いに絡む格のチームになっていてもおかしくはないとみている。

今見ておくべき、いや、将来にわたっても注目してみていくべきクラブだ。

 

 

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