【ピルロのサッカー観を解き明かす】ユベントスの戦術を徹底解剖!

【ピルロのサッカー観を解き明かす】ユベントスの戦術を徹底解剖!

2021年2月9日 9 投稿者: マツシタ
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セリエAの絶対王者、ユベントス。現在9連覇中で、イタリアは一強リーグのような状態になっていた。

しかし、今シーズンは全く様子が違う。首位争いを演じているのはミラノ勢で、前半戦終わった時点でユベントスは4位。勝ち点9差の中に「新セブン・シスターズ」と呼ばれる強豪7チームがひしめき、群雄割拠の様相を呈している。

そもそも、セリエAは本来このようなリーグだったのだ。かつては「セブン・シスターズ」と呼ばれるチームに世界的なスターが所属し熾烈な優勝争いを展開していた。ユベントスの天下はここ10年間の話に過ぎない。今シーズンはセリエAのあるべき姿が戻ってきた、そんな予感がある。

ただし、ひとつ言っておかなければいけないことがある。この状態はユーベ以外のチームが軒並みレベルを上げてきたことによってもたらされたものであって、ユベントスのレベルが落ちたわけでは決してないということだ。

今シーズン、ユベントスはマウリツィオ・サッリを解任してクラブOBのアンドレア・ピルロを招聘。ユースチームですら率いたことがない新米監督の大抜擢に世界中が驚いた。

前半戦に思うように勝ち点を稼げなかったのはある意味で仕方がないことだ。ただでさえピルロは監督としてのキャリアがこれで初めてな上、今シーズンは毎週2試合をこなす超過密なスケジュールが敷かれていてトレーニングで戦術をじっくり浸透させる時間がない。

ピルロは「試合を重ねる中で最適解を見つけるしかない」という言葉通り、序盤戦は多くの選手を起用しながら最適解を模索していった。

そう考えれば、下位相手に引き分けが目立つという「らしくなさ」があったとはいえ前半戦をわずか1敗で切り抜けたことは合格点といえるだろう。

ピルロの先進的な戦術は着実に浸透してきており、それにつれてチームの安定感はどんどん増している。後半に怒涛の追い上げを見せることは間違いないだろう。

今回は、そんなユベントスの難解な戦術を徹底的に掘り下げていこうと思う。

これまでの中で最も長い記事になったが、それだけ今のユベントスは難解で複雑。ひとことで語ることは難しかったのだ。ぜひ読みたい項から順に読んでみてほしい。




基本フォーメーション

基本フォーメーションは3-4-3とも4-4-2とも表記され、試合中に選手の立ち位置がどんどん変わるため従来のフォーメーションという考え方では今シーズンのユベントスを理解することは難しい。

さらに、各ポジションに2人の選手がそろい、またマッケニーやキエーザなどは複数のポジションをこなせるため試合によって布陣は変わる。

だから、画像を上げてしまって何なのだがフォーメーションを決めることは意味をなさないと思う。

おそらく、ピルロ監督はポジションではなくタスクで起用する選手を考えているのではないだろうか。

「タスク」とは下のように分けられていて、各選手をどのタスクに分類されるか割り振り、それぞれの中から一人をセレクトして出場させている、という感じだ。

  • GK…シュチェスニー、ブッフォン
  • CB2人…ボヌッチ、デリフト、デミラル、キエッリーニ
  • 攻撃時サイドCB、守備時サイドバックダニーロ(、アレックス・サンドロ?)
  • 攻撃時ウイング、守備時サイドバッククアドラード、フラボッタ(、アレックス・サンドロ)
  • レジスタ…ベンタンクール、アルトゥール
  • ボックス・トゥ・ボックスラビオ、ベンタンクール
  • バランサー…マッケニー、ラムジー
  • ウイング型ウイングバックキエーザ、ベルナルデスキ、クルゼフスキ
  • リンクマン…モラタ、ディバラ、クルゼフスキ
  • フリーマン…ロナウド

もっとも替えが利かないのがダニーロだ。攻撃時3バック、守備時4バックの可変システムを採用するにあたって両サイドをこなせるダニーロはチームのバランスを保つうえで必要不可欠なバランサーなのだ。

守備時に逆のサイドバックに入る「攻撃時ウイング、守備時サイドバック」タスクの選手に分類されるのは右が得意なクアドラードと左が得意なフラボッタ(とアレックス・サンドロ)。ピルロ監督は彼らとは逆のサイドにダニーロを置く(クアドラード起用時は左、フラボッタ起用時は右)ことでチームのバランスを担保している。

結果としてここまでチームで最も長い出場機会を得ていることも納得だ。

 

もうひとり、チーム最多の18試合に出場しているのがロドリゴ・ベンタンクール。かれは「レジスタ」と「ボックス・トゥ・ボックス」両方のタスクをこなせるため、アルトゥール起用時には「ボックス・トゥ・ボックス」として、ラビオ起用時は「レジスタ」としてふるまわせて中盤のバランスを調整している。

前線では、ロナウドは完全なる「フリーマン」。ピッチ全域を自由に動き回る。

加えて、「リンクマン」 の選手も頻繁に動いてボールに絡もうとする。モラタはよりストライカー的に中央にとどまる傾向があるが、ディバラやクルゼフスキが起用された場合はさかんに中盤にひくため、前線に誰もいない場面が多い。

このぽっかりと空いた最前線のスペースをアタックするのが「バランサー」タスクのマッケニーでありラムジーだ。

この形はペップが「私にとってのセンターフォワードはスペースだ」と言っていたことを思い起こさせる。

と同時に、バスケットボールのペイントエリアも思い起こさせる。ペイントエリアとはバスケットボールのゴール下周辺のエリアのことで、ここには攻撃の選手が3秒以上とどまってはいけないという3秒ルールが存在している。だから、バスケではここぞというときにペイントエリアに侵入しなければならないのだ。

ピルロの頭の中にあるイメージはこれなのではないだろうか。あえて中央にスペースを空けつつその他の局面で数的優位を作ってボール保持を安定させる。

そしてゴール前のスペースはだれでも使えるゾーンとして空けておき、後方から勢いを持って飛び込ませることで攻撃に迫力を出す。これがピルロの狙いなのではないだろうか。




戦術の概要

ピルロはポジションではなくタスクで選手の配置を考えていると書いた。おそらく、戦術も同じなのではないだろうか

ここまでのユベントスを見る限り、守備時にアグレッシブなプレッシングを行うという軸はあるものの攻撃に関しては決まった形がない。丁寧にビルドアップする場面もあれば、シンプルにロナウドを裏へ走らせることもある。特定の方法に固執している様子はなく、その場その場で選手が臨機応変に対応している印象だ。

おそらく、ピルロ監督が選手に与えているのは「オープンスペースを素早くアタックする」というタスクただひとつなのだと思う。この目的が達成されれば手段は何でもいいのだろう。

まさに「タスクで考える時代」を象徴するチームに仕上がりつつあるユベントス。以下ではもう少し具体的に見ていこう。




攻撃

 

ビルドアップには形がない

ユベントスのビルドアップには特定の形がない。ひとつ言えるのはポジションの流動性が非常に高いということだ。

ダニーロはサイドバックのような位置から偽サイドバック的に中に絞ることも多いし、CBのボヌッチが1列前に移動することもある。レジスタのベンタンクールが低い位置にひいてくることも多い。

主な動き方を示した。

おそらく、パスコースを提供するためなら手段は問わないのだろう。その結果、各選手がそれぞれの判断で動き、流動的にポジションを入れ替える。それでも陣形のバランスが崩れないところはさすがユベントスの選手たちだ。

前線の選手へボールを送る形にも縛りはない。基本的に丁寧にパスをつなぐのだが、いきなり相手DFライン裏へロングボールを送ることもある。かと思えば前線の選手たちに鋭いくさびを供給することもできるし、とにかく形に縛られない。

おそらく、ピルロ監督が選手に求めているのは「オープンスペースを素早くアタックする」というタスクただひとつだろう。

ロングボールで相手DFライン裏をとるかたちは、このタスクを達成するもっとも単純かつ効果的な形。だから、後方で丁寧につないでいてもFWの動き出しとタイミングが合えば躊躇なくロングボールを蹴る。

それを警戒して相手がDFラインを下げたら鋭いくさびをFWの足元に入れる。これも前方に広がるライン間のスペースをアタックする形だ。

また、後方で丁寧にボールをつなぐのは相手DFライン裏にアタックするためのスペースを作り出すという目的も兼ねているのかもしれない。Jリーグで大分トリニータが取り入れた「偽カウンター」の考え方だ。

すなわち、低い位置でボールを回すことで相手を自陣におびき出し、敵陣にできたスペースをカウンターのように素早く攻略するのだ。相手のプレスを誘ってそれをかわしてチャンスまでもっていく。クオリティが高いユベントスの選手たちだからできる芸当だろう。

事実、ユベントスのチャンスの多くが偽カウンターや敵陣へのロングボール一発のようにスピードに乗った攻撃から生まれている。「オープンスペースを素早くアタックする」というタスクが実現されている証拠だ。




フィニッシュも選手の裁量次第

ビルドアップには特定の形を持たないユベントスだが、フィニッシュに至る局面でも特定の形を作っていない。最終的にはロナウドにボールが集まる傾向はあるものの、クロスで合わせるのかスルーパスを供給するのか足元で勝負させるのかは全く縛られていない。

ここまでロナウドが16ゴールを挙げており、そのほかではキエーザの打開と強烈なシュート、後ろから飛び込んでくるラムジーやマッケニーが主な得点源になっている。それでも全得点の40%はロナウドであり、フィニッシュの局面で彼への依存度が高いという見方もできる。

あえてひとつ形を上げるのならサイドからのクロスボールだろうか。ポジションの項で触れたように、ユベントスの2トップは流動的に動いて中央を空ける。「センターフォワードはスペース」の状態だ。ここに後ろから2トップやMFが勢いを持ってゴール前に殺到し、そこにクロスを合わせるという形は比較的多くみられている。

これもピルロが与えるタスク「オープンスペースを素早くアタックする」に合致するものだ。

とはいえ、ビルドアップの局面と比べてフィニッシュに至る局面ではより自由が与えられている印象。「オープンスペース」がなくなるからだ。

悪い言い方をすれば「個人技頼み」ともとれる。その結果として最も個人技に優れたロナウド、それに次ぐキエーザで得点の半数を稼ぎ出している現状がそれを物語っている。




タスクという最低限の縛りにとどめ、各選手のクオリティーを最大限引き出した

ただ、ピルロが個人技頼みの攻撃を作っているのはわざとだと思う。クオリティーが高い選手たちを戦術で縛っては本来持っているタレントが十分発揮されない可能性がある。それで失敗したのが前任者のサッリだった。

だからこそピルロは「オープンスペースを素早くアタックする」という最低限の目的だけを与え、それを達成する手段は選手にゆだねたのだろう。

事実、戦術の縛りから解放されたおかげでボヌッチのレジスタとしての能力が復活し、ロナウドはレアル時代と同様に素早いアタックの中で得点を量産している。これはロナウド頼みともとれるが、ロナウドの得点力を最大限引き出しているともとれる。

ピルロの狙いはトップタレントたちを戦術の縛りから解放し、本来持っているクオリティを最大限発揮させることが狙いなのではないだろうか。

セリエAで最も選手の質に恵まれたユベントスの監督としては、彼らの個人能力を引き出すことに焦点を当てるというアプローチは決して間違っていないはずだ。

このアプローチの仕方を見ているとミラン時代の恩師カルロ・アンチェロッティ監督の影響は確実にあるのだろう。アンチェロッティにトップ下からレジスタにコンバートされたことで才能が開花したピルロにとって、彼の影響が大きいことは想像に難くない。




守備

 

前線からの激しいプレッシングを志向

ここからは守備面についてみていこう。

ユベントスの基本的な守備に対する姿勢は高い位置からのハイプレスだ。

最初から低い位置に構えるようなことはしない。陣形を高く押し上げ、マンツーマン気味に相手のパスコースを消しながら圧力をかけていく。ボールホルダーに対してはボールを奪う守備を敢行。遅らせるために前に立つような守り方はしない。相手がGKまでバックパスしても追いかけていく。

ユベントスはセリエAの中でも最もアグレッシブな守備をするチームだといっていい。




ロナウドという限界

ただし、そのハイプレスをかわされて後方に広がる広大なスペースをアタックされる場面が少なくないのも事実。相手にとってプレッシングの突破口となっているのがロナウドだ。

ピルロ監督の要求により、今までの水準と比べれば格段に守備に参加するようになったロナウドだが、やはり長年守備を免除されてきたため守備の戦術センスは低い。ファーストディフェンダーとしてのプレッシングは精力的にこなしているのだが、そのあとの動きが続かない。

ロナウドが守備をサボったことによってフリーになった選手にボールを入れられ、プレッシングを無効化されてしまうというシーンは相手が強豪になればなるほど増えている。

おそらく、ピルロ監督の理想はフィールドプレーヤー全員がハードなプレッシングを行い限界まで相手からスペースと自由を奪うというものだろう。その観点から見ればロナウドがいる間は彼の理想像を体現できないのかもしれない。




撤退守備のクオリティーも高い

ハイプレスを回避されたユベントスは自陣に撤退、4-4(-2)の守備ブロックを構築する。ダニーロがいるのと逆のサイドにいるWB・シャドーを1列ずつおろす形だ。

ハイプレスをかわされてしまう場面が多いユベントスだが、プレッシングをかわされてカウンターを受けるような場面でもCBとシュチェスニーは個人の力で解決できてしまう。彼らが粘っている間にMFの選手たちが全速力で帰陣し陣形を整える。

こうなってしまえばそう簡単には崩されない。撤退守備のクオリティーが非常に高いのだ。やはりこれだけの選手たちが自陣にしっかり構えてしまえばそう簡単には失点しない。

ここまでのリーグ戦20試合で失点数は18。1試合平均は1失点を下回っており、ここまでリーグ最少失点。特に直近6試合中5試合をクリーンシートに抑えており、さすがの守備の堅さだ。

ただし、そのまま自陣に引きこもっていることは少ない。自分たちの態勢が整えばそこからもう一度プレッシングを仕掛けに前に出ていく。

ゴール前に「バスを停めて」相手の攻撃を待ち、跳ね返すような消極的な姿勢をピルロは望んでいない。あくまで自分たちがアクションを起こし、相手に圧力をかけるアグレッシブな守備がピルロの理想なのだ。

自陣への撤退は前方へのエネルギーを出すために助走をとっているようなものなのかもしれない。

ハイプレス→かわされれば撤退→もう一度そこから前に出てプレッシング→かわされれば撤退。このサイクルを繰り返すというのがユベントスの守備の一連の流れだ。




トランジション

 

ポジティブトランジション時はカウンター最優先

ピルロが求めるタスクが「オープンスペースを素早くアタックする」だということはしつこく触れてきた。カウンター攻撃は、これを実現するもっとも代表的な手段だといえる。

ビルドアップ時にも「偽カウンター」を狙う場面が多いように、ピルロのユーベはスピードを持った攻撃を志向している。

よって、ポジティブトランジション時には素早くボールを敵陣に運び、フィニッシュまでもっていこうという傾向が強い

ロナウドをはじめ、モラタ、キエーザ、クアドラードなどスピードと持久力を併せ持つ選手は多い。ラビオとベンタンクールは中盤から長距離を持ち運ぶ推進力を持っている。チームのスカッドもカウンターとの親和性は高い。

勢いを持った攻撃から多くの得点が生まれていることは前述の通りだ。




ネガティブトランジション時は即時奪回を狙うも被カウンターは多め

ユベントスがセリエAで最もアグレッシブな守備を見せるチームだということはここまでに触れてきた通り。ネガティブトランジション時にもその意識はよく表れていて、ボールを失った瞬間に極めて強度の高いプレッシングを行い、即座にボールを奪い返すことを狙う

ただ、このプレスを外されてカウンターを受ける場面が少なくないこともまた守備の項で触れた通り。アグレッシブゆえのリスクなのである程度は許容範囲だろう。

最終ラインの選手たちには広いスペースでの個人解決能力が求められるが、それを苦にしないあたりはさすがだ。最終ラインとGKが連携しながらピンチを何とか守るという場面は多い。




あとがき

格下との試合で勝ちきれない時期が続き、一時は6位にまで沈んでいたユベントス。ピルロ監督に対する懐疑の声も上がっていたが、徐々にチームに戦術が浸透して安定した戦いができるようになってきた。

特に転換点になったのが第16節のミラン戦だろう。ミランが主力の大半を欠いていたとはいえ、首位チームに内容の伴う勝利を得たことはユベントスに自信をもたらしたはず。負ければ優勝が大きく遠のく試合でもあっただけに、この勝利はシーズンを振り返る上で欠かせないものになるだろう。

それまでは引き分けが多く、勝ちきれない試合が続いていたユベントスだったが、ミラン戦での勝利を機にチームは白星を重ねている。

直近6試合中4試合が2-0での勝利。大量得点差をつけて勝っているわけではないのだが、早めの時間帯に先制し、相手が出てきた終盤にカウンターで2点目を奪って守り切るという流れで勝利を重ねている。まさしく試合巧者。サッリ時代に失われていた「ユベントスらしさ」をピルロが取り戻したのだ。

こうなってくるとセリエA10連覇も射程圏内だ。と同時に、チャンピオンズリーグでの躍進にも期待がかかる。試行錯誤の前半戦を経て、強いユベントスが戻ってきた。そう印象付ける後半戦になることを期待したい。

 

 

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