
【コンテが追求する攻撃サッカー】インテルの戦術を徹底解剖!
近年はユベントスの連覇が続いていたセリエAだが、今シーズンはミラノ勢が優勝争いをリードしている。
10年前を知るファンにとっては、セリエAの「あるべき姿」が久々に戻ってきたといった感じだろう。
現在首位ミランの背中を追うのが同じ町のライバルクラブであるインテルだ。
ここ3シーズンは4位、4位、2位とCL出場権を確保しながら徐々に順位を上げてきており、いよいよ足りないのはスクデットだけだ。その悲願を昨シーズンまで低迷していたライバルにさらわれるなど屈辱以外の何物でもないだろう。後半戦での逆転を是が非でも達成したいはずだ。
インテルが展開しているのはセリエA最多得点を誇る攻撃的サッカーだ。就任2年目のコンテ監督のもと、明確な戦術的アイデンティティを確立して戦っている印象だ。
今回は、そんなインテルの戦術について徹底的に掘り下げていこうと思う。
目次
基本フォーメーション
今シーズンはビダルやハキミ、ダルミアン、コラロフなどが新たに加入し、ペリシッチとナインゴランがレンタルバック(ナインゴランは再びカリアリへ放出された)。活用が進んでいなかったエリクセンも含め、序盤は試行錯誤を続けていた印象だった。
そうしているうちにチャンピオンズリーグで敗退してしまったのは痛手だったが、ここ最近はほぼこの形でスタメンが固まって安定した戦いが披露できている。18節のイタリアダービーはその頂点ともいうべき完勝だった。
上記の11人に両ウイングバックで機能する守備的なダルミアン、攻撃力が売りのペリシッチ、ビダルが離脱した穴を埋めたガリアルディーニ、2トップ貴重な控えアレクシス・サンチェスを含めた15人の中でレギュラーが構成される試合がほとんどになっている。
攻撃
ビルドアップは3バック+2
インテルは後方からの丁寧なビルドアップを志向している。
3バック+バレッラを除いた中盤の2枚に場合によってはハンダノビッチも含めた6人で相手のプレッシャーを外し、クリーンな形で前方の5人にボールを届けることを狙いとしている。
最初の3-2の形から、ボランチの1枚がCBの位置に降りてサイドCBを押し出し、4バックを形成して4-1のユニットに可変することが多い。ここはコンテ監督就任当初から見られる形だ。
中盤の片方が低い位置まで下がることでレジスタのブロゾビッチに広いスペースを提供することができ、なおかつサイドCBで起用されるバストーニとシュクリニアルの高い攻撃性能を引き出すことも可能だ。各選手の特性に合ったメカニズムだといえる。
前を4から5に変えたことでビルドアップの質がアップ
後方の3+2でビルドアップする形はコンテ監督が就任した昨シーズンから変わっていないのだが、前方の「レシーバー」たちの配置は今シーズン途中に変更されている。
シーズン序盤までは両ウイングバック+2トップの4枚が前線に並び、4トップのような形になっていた。この時に右のハーフスペースに陣取るのがロメル・ルカクだ。規格外のフィジカルを持つルカクは雑なボールでも収めて攻撃の起点になってくれるし、そこから強引に前を向いて仕掛けることもできる。
そのため、ビルドアップの早い段階からルカクにロングボールを放り込む場面が多くみられた。
自分たちの形を整えるよりも相手の陣形が整う前にルカクに預けて打開しようとする傾向が強く、今よりも縦に素早く持ち運ぼうとしていた。
それが、シーズン途中からバレッラを右のシャドーの位置に置いて5トップ化し、5レーンを埋める形に変更された。
この変更がインテルのビルドアップの質を向上させている。多少雑にでもルカクに放り込んでいたところを、より後方から丁寧につないでいく形に変更したのだ。
このことにより、ビルドアップの出口がルカクではなくバレッラになった。バレッラはルカクよりもフィジカルは劣るが、展開力はルカクよりも上。ボールを受けたバレッラはハキミやブロゾビッチを操り、ルカクと連携しながら崩しの中心を担うようになった。
それと同時に、ルカクのフィジカルをよりゴールに近い場所で発揮させられるようになった。組み立て、崩しの両面で効果てきめんな変更だったといえるだろう。
右サイドが崩しのキモ
インテルの攻撃は右サイドに偏っている。
前述のように、5トップへの変更でバレッラが攻撃の中心を担うようになったわけだが、それだけが原因ではない。ともに崩しの局面で重要な働きを見せているのが超攻撃的WBアクラフ・ハキミの存在も大きい。
ハキミとバレッラの連携がインテルの崩しの生命線になっているのだ。
特に多くみられるのがハキミにボールが入ったときにバレッラがインナーラップを仕掛ける場面。いわゆるチャンネルランだ。これによって相手DFがつられて空いたスペースにハキミがカットインしていくのがお決まりのパターンになっている。
もともと快足を活かした縦への突破が得意だったハキミだが、インテルに加入してからはこのメカニズムの助けを受けて中へ仕掛けられるようにもなった。イタリアにきてプレーの幅を広げている印象である。
一方、相手が中央を警戒してきた場合にはそのまま裏へ抜け出したバレッラにボールを渡してクロスを上げさせる場面が多い。バレッラのクロスはかなり精度が高く、ここまで全コンペティションで8アシストを記録していることがそれを物語る。
クロスの受け手として重要な役割を果たしているのがアルトゥーロ・ビダルだ。巨漢のルカクにマークが集中していれば、すかさずその背後から飛び込んでくる。この形がきれいに決まったのがセリエA第18節ユベントス戦での先制点だった。
驚異的な跳躍力があるビダルは空中戦に極めて強く、クロスに合わせてヘディングでゴールを奪う形はもはやお決まりのパターンになっている。
左サイドは単純なクロス
一方、左サイドにボールが入った時にはシンプルなクロスボールが主な崩しの手段だ。
左のウイングバックで起用されるアシュリー・ヤング、イバン・ペリシッチが主なクロッサー。ヤングは切り返して右足でゴールに向かうボールを上げることが多く、ペリシッチは縦にえぐってから左足でマイナス気味に折り返すのがお決まりのパターンだ。
中央で待つのはルカクとラウタロの2トップで、ここに合わせることが多い。
時折アクセントになっているのが逆のウイングバックであるハキミで、ルカクに釣られた相手DFの背後から飛び出して危険なシーンを演出している。自ら突破するだけでなくパスの受け手としても優秀なハキミは、ここまで6ゴールを挙げている。
2トップのパターンプレー
もうひとつ、コンテ監督が率いるチームに共通する崩しの形が2トップのパターンプレーだ。
パスの出し手の準備が整ったら2トップが近い距離を保ってセット。パスは奥側のルカクに入れ、手前のラウタロはさらに回り込んでダイレクトのパスを引き出し、一気に突破する。
コンテ監督はキャリアを通じて2トップを好んで用いており、どのチームでもこうした2トップのパターンプレーからの崩しをチームに落とし込んでいる。
現在は前線を5トップ気味にしているため見られる頻度は少なくなったものの、このパターンプレーもインテルの崩しの形の一つとして紹介しておきたい。
守備
特殊な5-3-2ブロック
インテルの守備時の姿勢はリトリート&ミドルプレス。基本的には前からはプレッシャーをかけず、少し低めの位置に5-3-2のブロックを構えてそこから前に出て相手を捕まえるような守備をする。
この時に重要なのがインサイドハーフの働きだ。
インテルは2トップが基本的には中央にとどまる。その代わり、インサイドハーフが斜め前に出ていって相手のサイドプレイヤーに圧力をかけるのだ。残り2枚の中盤がスライドし、中央を埋める。
そのため、極端に言えば下の図のように2トップ、インサイドハーフ、ウイングバックで斜めに守備ラインを敷き、ボールを外へ外へ追い出そうとするのだ。
左側のラウタロ・マルティネスは守備範囲が広く、相手サイドバックまでプレッシャーを行う場面も多いのだが、右側のルカクに関しては基本中央から動かない。そのため、右サイドはバレッラが前に出ていってカバーする。
その結果、インテルの5-3-2の守備ブロックは下の図のようないびつな形になる。バレッラが右FWと右インサイドハーフ兼任の1.5列目と言ってよく、左サイドはヤングが前に出ることが多いため左MFと左SBを兼任する2.5列目といえる。
このメカニズムでは中盤の3枚、特にインサイドハーフに相当な運動量が求められる。これを機能させているビダル、バレッラの2人は世界中を見ても屈指のハードワーカーだといっていい。
昨年夏にインテルに加入したアルトゥーロ・ビダルだが、コンテ就任初年度となった一昨年から獲得のうわさは流れていた。
コンテ監督がしつこくビダルを要求したのも、このメカニズムを機能させるためには彼レベルの異常な運動量が必要だとわかっているからだろう。すでにチームに欠かせないキーマンになっている。
プレッシング強度が高くないという改善点
基本的にはリトリートして守備をするインテル。そのため、リトリートしたときの守備は一定の強度を誇る反面、ハイプレスに出たときの完成度はあまり高くない印象。
負けている場面など、できるだけ高い位置からボールを奪いたいときにはプレッシャーの開始地点を上げてボールを奪いに行くインテル。しかし、そのプレッシングを回避されて逆にピンチを招くシーンが多いのだ。
特に多いのが前線から引いて行ったアタッカーに中盤と最終ラインの間のスペースでボールを受けられて起点を作られてしまう形。CBがもっとタイトについていって攻撃の芽を摘むべきだろう。
なぜプレッシングの強度が高まらないのか。理由はベースポジションから縦方向に移動することで前方にいる相手を捕まえるという独特のメカニズムを採用していることだろう。
自分の最も近くにいる選手に対してプレッシャーをかけるのが通常のプレッシングの原則だが、コンテ監督はピッチを縦に分割して同じレーンにいる選手とマッチアップすることを要求している。
例えば、下の図で行くと通常のチームなら2トップのどちらかにアンカーの7番を監視させる、もしくはインサイドハーフのどちらかを前に出すことで対応するが、インテルはアンカーのブロゾビッチが縦に上がることで相手のアンカーを捕まえる。
アンカーが前に出るメカニズムを採用しているチームは少なく、インテル独特の形だといえる。
このメカニズムでは前にいる選手をマークすればいいので各選手の担当がわかりやすくずれが生じにくいというメリットがある反面、相手との距離が遠くなる場合があり(図でいうとウイングバックのヤングとハキミの移動量が非常に長くなっている)、ここの遅れからプレッシャーを回避される場面は少なくない印象だ。
それが如実に出たのがCLでのレアル戦だった。レアルのようにすべてのポジションにテクニックが高い選手を擁するチームであれば、その一瞬のズレからでもきれいにパスを回され、プレスは空転してしまう。それを思い知らされた試合だったのではないだろうか。
今シーズンはすでにヨーロッパでのコンペティションで敗退しているインテル。セリエAでなら、このやり方でも大方通用するだろう。この弱点が見えないまま来シーズンを迎え、またCLで同じ失敗を繰り返す…そんなことにならなければいいのだが。
トランジション
ポジティブトランジションではカウンター最優先
守備時にはいったん低めの位置に構えるインテル。そのため、カウンターはロングカウンターが多くなる。
しかし、このロングカウンターはインテルにとって大きな攻撃手段の一つとなっている。
カウンターの場面でも中心は右サイドだ。強靭なフィジカルに加えスピードも兼備するルカクがカウンターの第一の矢となり、ここに豊富な運動量を誇るバレッラが絡み、スピードスター・ハキミがさらに後方から追い越していく。
この3人はロングスプリントも苦にしない走力とそれを90分間継続できる持久力を併せ持ち、ロングカウンターとの親和性が高い。
最終的には右サイドから縦へ持ち運んでクロスを折り返し、逆サイドで待つラウタロが駆け引きを制して流し込むという形が多くなっている。
ネガティブトランジションではプレッシング優先
ネガティブトランジション時はボールに近い選手がプレスをかける。
ただし、このプレスの強度はあまり高いわけではなく、奪い返すというよりも相手の前進を阻もうというアプローチに見える。
以前まではもっとアグレッシブに奪いに行っていたのだが、前述の完敗したレアル戦を境にしてより慎重になった印象だ。
あとがき
前半戦を2位で折り返したインテルは首位ミランと勝ち点3差。十分にスクデットが狙える位置につけている。CLで最下位に終わりヨーロッパレベルの大会がなくなってしまったのは残念だが、国内のタイトルに専念できるのはむしろプラスに働くかもしれない。
リーグ最多49得点を誇る爆発的な攻撃力を誇る一方、プレッシングの強度不足や左サイドの攻撃がやや単調な点など、まだ改善できそうな点はある。
伸びしろという点で後半戦に注目していくべきなのがクリスティアン・エリクセンの起用法だ。コンテ監督はもともと攻撃的なポジションを務めていた彼をレジスタとして起用するアイデアを見せている。
活躍が期待されながら冷遇されていたエリクセンだが、パスセンスや視野の広さはプレミアで証明済みだ。このコンバートが成功すればインテルはワンランク上の組み立て・崩しのクオリティーを手に入れられるだろう。
初めて実戦でエリクセンがアンカーの位置に入った第20節べネベント戦では4-0の快勝。上々の出来だった。
守備面での懸念を払しょくできれば、今後はエリクセンがアンカーのファーストチョイスになる可能性はあるだろう。ブロゾビッチとのダブルレジスタや、彼らを共存させるための4バックの採用なども考えられるかもしれない。
一時はCL敗退とマンネリ化から解任論も上がったコンテ監督だが、エリクセンの組み込みを機にチームを進化させられるか、そして逆転でのスクデット獲得に導けるか注目だ。
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